日瑞テラヘルツ国際シンポジウム『20世紀サイエンスの一大発展−光と電波をつなぐ−』

テラヘルツとナノテクノロジー

ステファン・ベンクトソン
シャルマシュ工科大学副学長
ナノテクノロジーの進歩が、エレクトロニクス、光通信、材料、生命科学分野の急速な発展をもたらしている。テラヘルツ波あるいはサブミリ波(300GHz〜10THz)と呼ばれる周波数領域の電磁波発生および検出技術の開発はその好例である。マイクロ波と光の中間に存在する「ギャップ」領域の開拓は、新しい光源や検出器といったデバイスの開発と密接に関連しており、多くはナノテクノロジー技術の進歩に依存している。1-40meVのエネルギーに相当するテラヘルツ波は、原子振動ではなく分子内振動と相互作用する。これによって他の周波数領域では実現できない、テラヘルツ周波数領域に特徴的なイメージング測定やスペクトル測定が実現する。室温動作が可能で強固な要素デバイスが開発されれば、テラヘルツ技術は新しい局面に入り、例えば、暮らしの安全と安心を守るサブミリ波イメージングシステムが実現するであろう。可視光では透過性が低く、X線ではコントラストが低いために苦手としている霧や雨中のもの、あるいは誘電体中のものを撮像することも、テラヘルツ波では可能である。また、別の例としては、テラヘルツ波のエネルギーが液体や固体の分子振動モードと一致するので、指紋領域として用いることが出来ることから、生物学や医学に数多くの応用がある。
シャルマシュ大学には オンサラ宇宙観測所(シャルマシュ大学が主催する国家施設)に関連して、電波天文学のための高感度高周波検出器開発の長い歴史がある。ここ数十年の間にも多くの成果が上がっており、例えば、世界最先端技術であるテラヘルツ波検出用低雑音ホットエレクトロンボロメータ(HEB)や、300GHz以上で動作する完全集積化された超伝導回路を世界で初めて報告した例などがある。最近では、人工衛星に搭載したハーシェル望遠鏡用のHEBシステムをESA(European Space Agency)に納めた実績を持つ。また、HEMT (High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)やHBV(Heterostructure Barrier Varactor:ヘテロ障壁型バラクタダイオード)、RTD(Resonant Tunneling Diode:共鳴トンネルダイオード)、UTC-PD(Uni-Travelling-Carrier PhotoDiode:単一走行キャリア・フォトダイオード)、TED(Transferred Electron Device)、ショットキーダイオードなどの半導体デバイスについても、国際的に評価の高い多くの研究成果を得ている。
発表では、テラヘルツ技術のためのナノテクノロジーについて概観するとともに、情報技術、安全、セキュリティ、電波天文学、およびバイオサイエンスへの応用を目指した新しいテラヘルツ波光源や検出器に関連した最近のシャルマシュ大学の研究成果に焦点をあてる。シャルマシュ大学およびシャルマシュ財団は、今まで、そしてこれからもナノサイエンス/ナノテクノロジーとバイオサイエンスの分野で、大規模な戦略的展開を続けて行く。

ステファン・ベンクトソン
シャルマシュ工科大学副学長

ステファン・ベンクトソン 1961年スウェーデン生、1992年シャルマシュ工科大学博士修了、現在シャルマシュ工科大学副学長として活躍中。
主に、シリコンデバイスと構造について研究を重ね、シリコンCMOS技術の構築に貢献している。“シリコンのみによる技術”を超えて“More-than-Moore”をモットーに幅広く学際的な国際共同研究などを展開中。カーボンナノチューブなどを取り入れたシリコン上のNEMS (nano-electro-mechanical systems)の実現に挑戦している。
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