脳研究に期待する
立花 隆

 本日、多数の脳研究を専門とする先生方の前で、私のようなものが脳について語ることは気恥ずかしい感じがします。いま外山先生から紹介していただきましたように、私はいま『科学朝日』で「脳研究最前線を歩く」という連載ルポを書いています。その第1回に、理化学研究所の伊藤正男先生からいろいろお話を伺いました。そのとき先生は、日本の脳研究と海外の脳研究の間にある落差をたいへん強調しておられました。日本の脳研究はこのままではどうなるのだという強い危機意識をおもちで、その振興を図るためにも本シンポジウムのような場を設けてぜひともアピールしていきたいとおっしゃっていました。
 実際、海外と日本の脳研究の間では大きな差がつきつつあります。『科学朝日』の連載の第1回にも書きましたが、例えば予算だけをとっても、アメリカと比べて20分の1。研究者の数では10分の1くらいです。日米のGNP比が2分の1程度であることを考えると、考えられないような大きな差がついているわけです。
 日本の研究の質的水準そのものはけっしてアメリカに負けてはいません。しかし、10倍、20倍という量の圧倒的な差によって、トータルとしてみた研究水準に大きなへだたりがでてきています。