宇宙究極の謎− 暗黒物質、暗黒エネルギー、暗黒時代 −

土居守先生の講演に関する質問

Q1: 赤方偏移の説明で、一般相対論によればシフト量は宇宙膨張や距離とは関係なく、単にその光の発した位置でのポテンシャルを表していたと思います(by Diracの教科書、日本図書館協会推薦)が、理論的飛躍のないように解説をお願い致します。
Q2: 明るさで距離を決めるとき、間にある物質などの吸収で光が暗くなったりしないのでしょうか。
Q3: (1)ダークエネルギーの密度は宇宙の初期から今日まで一定と考えるべきなのですか。(2)ダークエネルギーの密度と宇宙項の大きさとの関係はどうなっているのですか。(3)宇宙項は方程式のなかで定数のような存在なのですか。
Q4: 1000万年単位でみると、超新星爆発で、地球が明るく照らされたことはあるのでしょうか?つまり、地球に近い超新星爆発はどのくらい明るいのでしょうか?
Q5: 宇宙膨張が減速から加速にかわった時点で、何があったのでしょうか?(どの時期に対応しているか)
Q6: 宇宙膨張が加速していることの根拠について話がよく追えなかったのですが、赤方偏移(z)からの観測と超新星観測の明るさからの距離測定の差異からわかるというように理解しましたが、よろしいでしょうか?
Q7: 観測で得られた暗黒エネルギーと実験室で得られた真空エネルギーとが120ケタ違うということを話されたと思いますが、後者はカシミール効果による実験値でしょうか? 120ケタも違うということを説明できる理論、仮説は現在どうなっているでしょうか?

Q1:
赤方偏移の説明で、一般相対論によればシフト量は宇宙膨張や距離とは関係なく、単にその光の発した位置でのポテンシャルを表していたと思います(by Diracの教科書、日本図書館協会推薦)が、理論的飛躍のないように解説をお願い致します。

A1:
ご指摘の通り、赤方偏移は非常に強い重力場があっても観測可能な量となり一般相対論で計算を行うことになります。ただ、銀河のスペクトルで通常観測される赤方偏移は特殊相対性理論の範囲で説明できる赤方偏移で、講演でご説明したように宇宙膨張によるものが大部分になり、ポテンシャル(重力)による効果はほとんど無視できます。この他に個々の銀河が運動していることによる赤方偏移(あるいは青方偏移)も近傍の銀河では大きな要素になっています。

Q2:
明るさで距離を決めるとき、間にある物質などの吸収で光が暗くなったりしないのでしょうか。

A2:
講演では時間の都合で省略をいたしましたが、ご指摘の通り、銀河や超新星の周りに存在する塵(固体微粒子)による散乱の影響が問題になっています。この塵の影響をいかに精密に測り、とり除いていくかが現在の重要な観測テーマの1つで、我々も研究をすすめています。

Q3:
(1)ダークエネルギーの密度は宇宙の初期から今日まで一定と考えるべきなのですか。
(2)ダークエネルギーの密度と宇宙項の大きさとの関係はどうなっているのですか。
(3)宇宙項は方程式のなかで定数のような存在なのですか。

A3:
ダークエネルギーの密度が一定かどうかが、まさに大きな研究テーマとなっておりますが、現状ではまだデータが不足して、おおまかには宇宙初期(宇宙背景放射)から現在まで一定と思ってよい、という程度のことしかわかっていません。ダークエネルギーは、宇宙項を含む概念として使われており、ダークエネルギーの密度が時間によらず一定であれば、その大小によらず、宇宙項と数学的取り扱いは同じになります。宇宙項は方程式のなかでは定数だと思っていただいてよいです。一方、ダークエネルギーは言葉の概念としては、わずかに密度が変化していく場合も含んでいます。

Q4:
1000万年単位でみると、超新星爆発で、地球が明るく照らされたことはあるのでしょうか?つまり、地球に近い超新星爆発はどのくらい明るいのでしょうか?

A4:
超新星は我々の銀河系程度だとおおまかに言って100年に1個出現します。したがって1000年の単位でみると、超新星はいくつも記録が残っており、例えば日本では藤原定家の明月記にも記されています。1572年に出現したチコブラーエが記録を残している超新星は、-4等級から-4.5等級で輝いたと記録があるそうで、金星程度の明るさということになります。もっと遡ればより明るい超新星も爆発したと考えられます。1000万年単位での確かな記録はありませんが、仮にごく近く、例えば10パーセク(32.6光年)で爆発したときには、-19等級程度の明るさになるので、満月よりも100倍以上明るく輝くことになります。ただし太陽に比べると数千分の1の明るさです。

Q5:
宇宙膨張が減速から加速にかわった時点で、何があったのでしょうか?(どの時期に対応しているか)

A5:
現在のデータではまだ誤差が大きいのですが、約50-60億年くらい前に宇宙膨張は減速から加速にかわった計算になります。ただ、かわった瞬間は特別な意味はもちません。ボールを投げ上げたとき、一番高くあがった時点が、特別な意味を持たない(ボールに固定された系ではその前も後も自由落下状態)ということと同じと思っていただければよいと思います。

Q6:
宇宙膨張が加速していることの根拠について話がよく追えなかったのですが、赤方偏移(z)からの観測と超新星観測の明るさからの距離測定の差異からわかるというように理解しましたが、よろしいでしょうか?

A6:
書かれている通り、赤方偏移によって超新星爆発当時の宇宙の「大きさ」(=スケール・・例えば銀河と銀河の平均距離)を測り、また超新星観測の明るさから距離すなわち何年前かという時刻を測ることで宇宙膨張を測ります。ちがった距離(時刻)に出現した多くの超新星を測ることで、時々刻々宇宙の大きさが測れ、最近では「大きさ」が加速的に膨張している等がわかってきます。

Q7:
観測で得られた暗黒エネルギーと実験室で得られた真空エネルギーとが120ケタ違うということを話されたと思いますが、後者はカシミール効果による実験値でしょうか? 120ケタも違うということを説明できる理論、仮説は現在どうなっているでしょうか?

A7:
約120桁の食い違いは、おそらく、真空のエネルギーの絶対値を扱う理論ができていないためだろうと思われます。真空中に量子場があるとして簡単な調和振動子モデルでエネルギーを無限小スケールまで計算すると無限大に発散します。仮にプランクの量子スケールでうちきっても、まだ120桁近く高いエネルギー密度を予測してあわない、という例を紹介しました。多くの場合、エネルギーは差だけが物理的に意味のある量で、絶対値は問題としないで扱います。そこをあえて絶対値を計算しようとするとこのようなことになってしまいます。この問題はダークエネルギーの理解の根底にある大きな課題の1つです。カシミール効果の実験は身近な限定されたスケール・条件での真空の量子電磁気学的エネルギーの測定と理論の比較をしていて、そこでは(多少議論があるものの)おおまかにはあっているという状況で、単純にはダークエネルギーとは比べられません。まだまだ観測・実験・理論がいずれも進んでいく必要があると思われます。