科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 朝日新聞社 NHK 総合研究大学院大学

工藤佳久先生の講演に関する質問


Q1:
発光性分子の付加は細胞の視覚化のためと理解しますが、だとして、発光のスペクトル、時間応答などの観測からに何か情報が得られるのではないでしょうか。

A1:
GFPを用いて特定の遺伝子を発現する細胞だけを視覚化する方法が2008年のノーベル賞を受賞しています。これは非常に有用なのですが、私達が細胞内カルシウム濃度の計測使っている蛍光試薬は、細胞の存在を視覚化するものではありません。ご指摘のようにカルシウムイオン濃度に依存した蛍光スペクトルの変化を利用することによって活動している細胞内のカルシウムイオン濃度変化を視覚化することができるのです。

Q2:
(CA2+はシナプス部位でのセカンドメッセンジャーやミオシンの活性化として、働いていることは授業でも教えています。)                                                        理科の教員をしている者ですが、高校生の時にグリアセルのことをブルーバックス等で知り、興味を持ちました。そのときは、実は脂質であるニューロンの間隙を埋めているグリアが、実は重要な働きをしていると書いてありました。星状グリア等3種類のグリアの働きについての参考書籍等があれば御教示下さい。(何だか、グリアの立場は、ジャンクDNAと似てますね)

A2:
高等学校の生物の教科書にも確かにグリア細胞の存在については述べられており、グリア細胞の一種であるオリゴデンドログリアが神経軸索に巻き付いて、有髄神経を形成し、神経信号の伝導速度を高めることについては解説されています。しかし、星状グリア(アストログリア)や小グリア(ミクログリア)についてはほとんど機能は解説されていません。実はこれらの細胞が血管からニューロンへの栄養補給に関わったり、脳で使われた神経伝達物質を取り除いたり、損傷を受けた神経回路を修復したり、その他にも驚くほど重要な機能を果たしていることはこれまでにもよく知られています。しかし、これらの細胞に認められていたのは脳機能をサポートする機能だけでした。ところが、これらの細胞はこれまでニューロンだけが関わっている考えられていた脳の情報処理機能にも積極的に関わっていることが明らかにされてきたのです。参考文献:工藤佳久 グリア研究の新しい展開 Brain and Nerve 「神経研究の進歩」59巻7号「特集 情報処理におけるグリアの機能と異常」P655-668(2007) (医学書院)