科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 朝日新聞社 NHK 総合研究大学院大学

加藤晃一先生の講演に関する質問


Q1:
大変興味深い発表ありがとうございました。真核生物、タンパク質の50%程が糖鎖修飾をうけているという事実には驚きました。ペプチドでも核酸でも脂質でもなく、例えば、免疫グロブリンの構造維持になぜ糖が都合がよかったのか、といった問題から、生体内での糖の役割はこうだ!というような答えに関しては、どのようなお考えをお持ちでしょうか?

A1:
これは大変難しい質問で、私たちも同じ疑問につき動かされて糖鎖の構造生物学研究を行っています。糖鎖は一定の構造をしておらず、例えば細胞の中では3本の枝に分岐した糖鎖が酵素によって段々と刈り込まれていき、その過程で生じる様々な構造の糖鎖がタンパク質の折りたたみ・輸送・分解などの運命を決定する標識になることが明らかとなりつつあります。また、完成された糖タンパク質といっても、それは糖鎖構造が微妙に異なった不均一な集団であることが普通です。これによりタンパク質の性状や機能が幅をもち、しかも状況に応じた調節を受けることが可能になるのかもしれません。こういった仮説を実証していくことは糖鎖生物学の重要な課題であり、それを実行するための基盤がようやく整ってきたところと言ってよいでしょう。

Q2:
糖鎖の構造はゲノムでなく、環境のみで決まるのか?ゲノムで決まるとしたらどこまで?

A2:
糖鎖は様々な酵素(糖をつないでいく酵素や刈り込む酵素)の働きによってかたちづくられています。これらの酵素はもちろんゲノムにコードされているのですが、その作用によって出来上がってくる糖鎖の最終的な構造は、完成度の違いなどを反映して不揃いなものになってしまいます。また、酵素の細胞内における量や分布や活性は生理的状態などに依存して変動するため、その結果、糖鎖の発現パターンも変化するものと考えられます。その意味では、糖鎖の構造は環境的な要因によって規定されることになります。

Q3:
理科の教員をしています。理学部出身ですが、NMRは学生のときに学びました。生物化学、分子生物学を専攻していましたので、今日のお話はとても興味深く聴かせていただきました。システム生物学、構造生物学はゲノム解析後の最先端ですよね。グロブリンの生成や働きは利根川さんの研究で解明されてきましたが、可変部のantigenに対する適応の多様性について参考書籍等御教示下さい。

A3:
薬学部の学生に向けた教科書ですが、「薬系免疫学」(南江堂、植田正、前仲勝実著)は、免疫学と構造生物学の関連などについても書かれています。