会員からの情報

「日本ゲノム微生物学会・若手の会」報告

日本ゲノム微生物学会・若手の会

法政大学 山本兼良

 第一回目の“若手の会”が、平成19年10月22日、23日に東京の八王子で行われた。会場である八王子セミナーハウスは1962年に国立、公立、私立の垣根を越えた大学の交流の場として設立され、東京の緑あふれる多摩丘陵に立地している。真面目な勉強会が行われるには、申し分の無い環境であった。 今回は第一回目でもあり、若手の会の骨子を確認、確立することを大きな目的においていたために、広く広報活動に力を注がなかったにもかかわらずに、総勢 40名近く参加者となった。
 さて、その勉強会の内容であるが、環境に見合った充実する内容であったと率直に感じる。今回は若手研究の集まりであることを活かして、ゲノム微生物学の“現場“の情報交換の場とされた。背景には、最近のゲノム科学の進展がある。昨今の目覚しい科学技術の進展は驚くべきものだが、中でも“ゲノム”は、極めて急速に発展している領域の一つであることは間違いない。実際、多様な展開を示している。現在までにゲノム解読された生物種は500種類以上にも及び、最近では生態環境を対象としたメタゲノムにまで展開している。これが、インフルエンザ菌ゲノムが1995年に生物ゲノムとして初めて明らかにされてから、僅かに10年あまりの出来事である。このことからも、大量の情報が、高度に凝集されていることが容易に想像される。この莫大な情報を用いた解析も、ゲノム科学研究の醍醐味の一つであろうが、実際には、多量でかつ多様な情報であるために、十分に若手研究者や大学院生、学部生に理解され、利用されているとは言い難い。その隙間を丁寧に埋めることが今回の若手の会のコンセプトとされた。
 それぞれの講演は、発表内容に応じた時間を取り、若手研究者ならではの実際の実験現場における工夫や調整の具体例などを多く含めた丁寧な内容で行なわれた。また、講演の構成を、研究レビュー(17題)と方法論(7題)の2部構成とし、それぞれを独立させずに6テーマ(細菌生理機能、微生物多様性、ゲノム機能1、ゲノム機能2、代謝工学、比較ゲノム)にまとめた。これにより、各テーマでの最前線の研究を水平的に理解出来るとともに、方法論により技術的アプローチの詳細な解説が補われ、垂直的な理解を深めることを狙った。結果として、非常に過密なタイムスケジュールではあったが、比較的に活発な議論が行われ、肩肘は張らないが緊張感のある充実した内容となった。例えば、DNAマイクロアレイを用いた実験では、醸造酵母のトランスクリプトーム解析や病原性大腸菌ゲノムの多様性を比較する解析、タイリングアレイを用いたタンパク質のゲノム分布解析など最先端の利用法に加え、メタゲノム解析や高いGC含量の放線菌ゲノムのDNAアレイの設計、さらにデータ解析のソフトウェア開発の講演があり、DNAアレイが持つ多様な応用性と現場での現実的な諸問題について理解でき、実際に講演間の内容を横断するような議論が展開された。また、放線菌のもつ多様な二次代謝産物生産能を、ゲノム解析からそれらの代謝に係わる酵素の発現特性を理解し、効率的な有用物質の生産への応用を図る新しいゲノム情報の活用など、興味を引く講演が行われた。
 会の最後に、来年度以降も開催することが確認された。今回の経験をふまえて、多くの研究者や学生に年会では体感できないゲノム微生物学を感じることが出来る会を目指し、様々な工夫を凝らす必要があると思われる。そのためにも、多くの会員からのご意見やコメントを頂戴して、若手研究者が自然と集える特色のある集まりとなることを期待したい。

若手の会

[ 08.02.07 ]


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