神経難病の遺伝子解析
東京大学医学部 金澤 一郎

 私のお話しする題には「神経難病」と「遺伝子」という難しいキーワードがありますが、このキーワードを説明したのちに神経難病の代表として3種類の病気について触れることにします。

遺伝子と情報発現流れ

 グレゴール・メンデル(1822〜84)は19世紀の中頃、現在のチェコスロバキアのモラビアで活躍した今でいう遺伝学者です。彼がエンドウを用いて非常に重要な法則、すなわち「遺伝が一定の法則にしたがっている」ことを発見したことはご承知の通りです。例えば、植物の種子の丸い、しわがよっているといった形状や、何色であるかといった形質が、ある一定の法則にしたがって分離され、ひとつひとつの形質が独立していて優劣があるといった遺伝の法則はメンデルによって確立されました。
 現在のわれわれは、親から子へ伝わる形質の担い手が遺伝子であり、その本体がデオキシリボ核酸(DNA)であることを知っています。DNAあるいは遺伝子は染色体の上にのっていますが、われわれヒトは、22対の常染色体と2本の性染色体から成り立っています。そして、遺伝する病気であるからには、この染色体群のどこかに異常な部分があるということになります。
 23対の染色体のそれぞれは、ワトソンとクリックにより明らかにされたように、いわゆる二重らせん構造(ダブルヘリックス)をもったDNAからできています。このDNAはチミン(T)、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)という4種類の塩基の組み合わせからいろいろな情報が成り立っています。