生体リズムと睡眠
国立精神神経センター武蔵病院 高橋 清久

 生体リズム(サーカディアンリズム)の基礎には、生物時計(別名、体内時計)があります。この生物時計はあらゆる生物に備わっており、昆虫や植物に関しては古くから研究されてきましたが、哺乳動物において生物時計が同定された歴史はそれほど古いものではありません。そして、生体リズムに関連した睡眠障害をはじめとする種々の異常状態に臨床家が目を向けたのはごく最近のことです。
 生体リズムは健康を守り、健康を増進する上できわめて重要な役割を果たしています。高齢化社会が進み、また生活スタイルが多様化する現代においては非常に重要になっています。21世紀に向けた重要なテーマの一つです。ここでは生体リズム、生体時計について基礎的な事柄について説明したあとで、その障害について触れることにします。

ラットのもつ生物時計の周期

 ラットの行動を3カ月間という長期にわたって計測すると、図一に示すような一定のリズムがあることがわかります。その図では、横軸に1日目と2日目を書いたあと、次の行の最初に2日目を、続いて3日目を書いています。これはリズムの変化を見やすくするための表示方法でダブルプロット法と呼ばれています。そして、LDとは12時間明、12時間暗という条件を表しています。その状態です、ラットは夜行性であるため暗の時期に活動量が多くなっています。次に、DDという24時間暗という条件にすると、光による時刻の変化をラットは知ることができなくなります。温度や湿度、音などの時刻を知る手がかりをいっさい与えない状態にしても、それまでと同じようなリズムを長期間にわたって認めることができます。このことから、ラットが体内に時計をもっていると考えることができます。
 ここで興味深い点は、活動期の始まりや終わりが日を追って遅れていくことです。つまり、ラットのもっている生物時計は24時間周期ではなく、それよりも長いわけです。その周期を、活動の終わる時刻を直線で結んでその傾斜から計算すると、24・24時間、すなわち24時間15分ほどになります。