神経難病の根絶に向けて
自治医科大学 吉田 充男
私は臨床の立場から、脳に関するここ2〜3年の出来事をまとめてみることにします。最初に老化、いわゆるボケの研究がどの程度まで進んでいるかについて紹介し、次にパーキンソン病や脊髄の変性症、小脳の病気、また筋肉の病気などの難病に関しても、最近の考え方を紹介したいと思います。また、がんに関しては遺伝子治療も検討されているようですが、そのような動きが神経難病についても検討されています。そのことについても触れることにします。
ヒトは120歳まで生きられる
ところで、人間はいったい何歳くらいまで生き、頭も元気でいられるのでしょうか。
ゲーテ(1749〜1832)は73歳のときにマリアンバートに避暑にでかけ、そこで17歳のレーヴッツォーという少女に恋をして、その経験を立派な詩にしています。そして、86歳で『ファウスト』を最終的に完成させました。また、数年前に90歳近くで亡くなった画家のサルバドール・ダリは、亡くなる寸前まで創作活動を続け若々しい作品を残しています。私どもの大学の学長は83歳の現在もたいへんお元気で、第一線にたってご活躍されています。
人間の寿命に関して、スタンフォード大学の教授でアメリカ老年学会の会長であるウォルター・ボルツ先生は、著書のなかで「人間は理論的には120歳まで生きられる」と書いています(図一)。多数の臨床例に基づいて、がん、脳卒中、心臓病などのいわゆる成人病は原理的には予防できるものであり、これらの病気を乗り越えることができれば、人間は120歳まで生きられるとしています。そして、ボルツ先生は、人間の一生の区分けをもう一度見直すことが必要で、40歳までを青年期、40〜80歳までを中年期、80〜120歳までを老年期として、それぞれを前期と後期とにわけることを提唱しています。
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