うつ病の臨床と病態
昭和大学藤が丘病院精神神経科 樋口 輝彦
うつ病の臨床
最初に教科書的なことを簡単に説明したうえで病態研究の現状について紹介します。
うつ病の疫学的な調査は、わが国では十分に行われていませんが、感情病患者が人口1万人あたり100〜400人、すなわち1〜4%います。この感情病の方がすべて精神科を受診されるわけではありません。主に精神科を受診されるのは重症のうつ病患者で、その数は1万人あたり10〜40人ほどです。そして、もっとも問題になる自殺を図るうつ病患者は、1万人に対して一\15人くらいいるものと推定されています。
このうつ病の臨床症状と経過をまとめると、次のようになります。気分が非常にふさぎこみ、悲哀感や苦悶、焦燥、不安などをともないます。これらの気分や感情に関する基本症状と同時に、思考面や行動面でもさまざまな症状が現れます。例えば、考えがうまく進まなくなる思考抑制や、自分を卑下したり、悪いことをしたのではないかという罪悪感にかられたりする微小妄想、まったく外にでられなくなるというようなことです。さらには、しびれや発汗といった身体症状や、不眠や食欲不振などの自律神経症状がでることも特徴です。
一方、躁とうつの両方を繰り返す躁うつタイプでは、躁病相ではうつ病相とは本質において正反対といってもよいような症状を示します。躁病では、気分が爽快で絶好調であったり、どんなに動いても疲れず、思考行動面でもどんどん考えが浮かんできたり、観念奔逸を示します。しかし、場合によっては暴力的になったりすることもあります。身体症状として不眠は共通ですが、食欲亢進、性欲亢進などをともなうことが躁病の特徴です。
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