運動制御と学習
順天堂大学医学部 彦坂 興秀

 学習は私たちの行動にとって重要な意味をもっています。例えば、ある人に200ページほどの本を読んでもらい、そのときの読むスピードを測定してみましょう。ただし、その本は普通とは違い、文字が反転して書かれているとします。そのような文章を初めてみたとき、すらすらと読むことはとてもできません。ところが、最初の1ページ目を読むのに10分以上かかっていても、200ページ目に近くなると二分以内で読めるようになります。これは練習の法則(low of practice)と呼ばれている現象です。練習することにより、それまでできないようなことができるようになることを技能(skill)といいますが、獲得された技能は、脳のどこかに長期的な記憶として蓄えられていると推定されます。それを記憶というのか、と皆さんは首をかしげるかもしれません。
 記憶には大きくわけて宣言的記憶と手続き的記憶の二種類があるといわれています(表1)。宣言的記憶とは、昨日、どこで、誰と会って、何をしたといったものです。それに対して、例えばコンピュータを自在に操るといったものは手続き的記憶に含まれます。宣言的記憶の場合、その内容は心の中に具体的な情景として呼び起こされるのに対し、手続き的記憶は、何かをしたり、運動することによって表現されるため、多くの場合、無意識に行われます。