人工知能はどこまで脳に迫れるか
電子技術総合研究所情報科学部 中島 秀之

 人工知能を研究している関係で、まず、知能をどのようにとらえているかについて簡単に説明します。次に、最近話題になっている複雑系と知能の関係について述べ、後半で人間と計算機を比較してみます。内容は、コンピュータで知能をつくるというソフトウエアが中心になりますが、最初に少しだけハードウエアについて比較することにします。

人工知能とは

 基本的にコンピュータと脳は違います(表1)。もっとも大きな違いは、複雑さです。コンピュータ1台と脳1個を比べることはできません。コンピュータ1台と神経細胞1個を比べても、神経細胞のほうが複雑かもしれません。人間の脳を現在の計算機で実現しようと、世界中の計算機をすべてもってきて、それをつないだ地球規模のネットワークを構築しても、人間1人分の知能をのせることができるかどうかというほどです。その意味で、世界中の計算機をすべてかき集め、すべての研究者がかかりっきりになって何らかのプロジェクトを組織すれば脳に少しは迫れるかもしれませんが、計算機10台や20台をつないだネットワーク程度では、とても脳には太刀打ちできません。
 そのような世界で、人工知能として何を研究するのかが問題になります。この人工知能について、よくいわれる定義が2つあります。1つは、知能とは何かということを研究する分野であるというものです。もう1つは、コンピュータに知的処理を行わせる分野であるというものです。しいていうなら、前者は科学的興味、後者は工学的興味に近いわけですが、知能や知的振舞いをつくることにおいて、両者は車の両輪のような関係です。例えば、知能の仕組みを解明するような立場をとるときにも、計算機があって初めて生まれてくる分野が、人工知能です。