ニューロン信号の伝達とGタンパク質共役型受容体
東京大学医学部生化学分子生物学 清水 孝雄

信号伝達と受容体

 神経細胞にかぎったことではありませんが、細胞間では互いに信号伝達を行っています。単細胞生物ではなくて多細胞生物が統一的に生きていくための根本的な仕組みの一つです(図1)。ある一個の細胞Aが細胞Bに情報を送ろうとしたとき、細胞Aから何らかの物質(リガンドと呼ぶ)が放出され、それが血中あるいはシナプス間隙を運搬され、最適な細胞Bに達します。そうすると、細胞Bは受容体でリガンドを認識し、その結果、細胞Aで発せられた信号が伝達され、細胞Bの細胞応答というかたちとなって現れます。この無数の信号伝達が人間の生命全体で起こっています。
 リガンドをうけとめる受容体は大別すると二種類になります(図2)。細胞膜に存在する細胞膜受容体と、細胞の核内に存在する核内受容体です。細胞膜はリン脂質という疎水性の物質でできており、細胞外の水と細胞内の水とをうまく分離して独立した空間をつくりあげているため、油に溶けない分子が細胞にある刺激(情報)を伝える場合、伝達しようとする細胞の細胞膜受容体に結合せざるを得ません。一方、油に溶けやすい分子であれば、脂質の膜を突き抜けて、直接、細胞内にはいりこみ、核内に働いて遺伝子発現を起こすことで信号を伝えることができます。この核内受容体の場合、リガンドが結合することによってある遺伝子が発現するようになりますが、細胞膜受容体の場合、リガンドはあくまで細胞内にははいれないため、細胞内に次の信号をつくりだす必要があります。その細胞内の信号をセカンドメッセンジャーと呼んでいます。