治る神経疾患多発神経炎(ニューロパチー)を中心に
名古屋大学医学部神経内科 祖父江 元

 神経疾患は治らないという印象が強いようですが、最近では治る神経疾患もふえてきています。治る可能性をもった神経疾患の実例をあげながら話を進めていきます。神経疾患に対する治療法の開発が最近さかんに行われるようになっていますが、その背景には、神経科学の進歩による病態理解が急速に進歩したことがあります。その中でも今回は、末梢神経障害のいくつかにみられる多発神経炎(ニューロパチー)について紹介します。

ニューロパチーの発生頻度

 私どもが所属する名古屋大学附属病院と、900床ほどの典型的な名古屋市内の総合病院での神経内科外来の内訳をみると、脳血管障害が圧倒的に多いものの、問題のニューロパチーはいずれの施設でも10%ほどと、その割合は単一疾患としての運動ニューロン疾患や脊髄小脳変性症、あるいは多発性硬化症などに比べても高くなっています。頻度からだけで論ずることはできませんが、神経内科の疾患の中ではかなり重要な疾患群であるといえます。このニューロパチーに、どのような疾患が、どれぐらいの頻度でみられるかを末梢神経伝導検査の頻度からみてみると、私どもの施設では1997年には817例のニューロパチーの伝導検査を行っていますが、もっとも多かったのは糖尿病性ニューロパチーでした。その次が、脱随性の後天的ニューロパチーであるCIDP、あるいはギランバレー症候群で10%前後です。そのほか、血管炎にともなうニューロパチーが3.2%、遺伝性ニューロパチーが1.7%と続きます。遺伝性ニューロパチーは頻度は低いものの重要な疾患が含まれています。
 このように、ニューロパチーは単一疾患ではなく、いくつかの疾患がまざりあって生じる疾患群であり、原因は多様です。その中から、糖尿病性ニューロパチー、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、慢性炎症性脱髄性ニューロパチー(CIDP)に絞って紹介します。いずれも慢性の進行経過をとりますが、最近になって新たな治療法がそれぞれ開発されてきました。