発達障害児のキュアとケア
鳥取大学医学部脳神経小児科 竹下 研三

 私たちが対象としている発達障害への医療は、ほかの「脳を守る」疾患と大きく異なる点があります。それは発達障害児が障害をもって生まれてくるということであります。正常から落ち込んでいく疾患での脳を守るのではなく、脳障害をもつ子どもたちをどう守り、どう育てていくのかが私どもに課せられた使命であります。このような場合、私どもはしばしばそのうしろにある社会的な事情と強く連動して医療を行わねばなりません。キュアに対して積極的に行動する必要があるとともに、その子をめぐる社会・環境的な中でのケアにも働きかけが要求されています。
 ここでは、1)周産期医療の進歩と脳性麻痺の減少、2)先天性脳障害への挑戦、3)発達障害療育思想の変遷、という3つのテーマでお話します。

周産期医療の進歩と脳性麻痺の減少

 図1は、1853年イギリスの医師リットルが初めて報告した脳性麻痺児の姿勢です。かつて、リットル病といわれてきたこのような痙性両麻痺児は、今日ほとんどみることができません。非常に重症であるか非常に軽症であるかのどちらかであります。かつての脳性麻痺の脳病理は、仮死や黄疸による核黄疸や比較的限局した壊死巣でした。それらが解決し、未熟児脳障害の時代に移りますと、図2のように脳室周囲の壊死と脳室内出血となりました。そして最近では、周産期の呼吸・循環管理と新生児期に生じるさまざまな低酸素症と代謝異常によって、脳障害は多発・複雑の壊死巣を示したり、局所的な脳循環障害による局在病変となっています。