形状視のメカニズム
理化学研究所 田中 啓治
物体の視覚像から、その物体が何であるかを認識する、視覚的物体認識に関する脳のメカニズムについて紹介します。
サルや人間などの霊長類の視覚的物体認識はたいへん柔軟です。下等な動物でも視覚的な物体認識を行っていますが、入力を記憶と対比させ、同じ像ならば同じ物体であり、違えば違うというテンプレートマッチングの域をほとんど超えていません。しかし、ある物体をながめたとき、物体と観察者との角度により網膜に映る像は大きく異なります。それでも私たちは同じ物体を同じだと認識します。また、観察角度が同じでも照明条件が異なると、網膜に映る像は大きく違ったものとなりますが、私たちは同じ物体だと認識します。
さらに、私たちの視覚的物体認識は、一般化の性質を備えています。それまでみたことのない物体が現れても、よく似た物体についての過去の経験から、その行動や性質、自分にとっての意味などを類推します。例えば、シマウマがでてくれば、ウマに対する経験から、乗れるとか乗れないといったことがわかります。このような柔軟な性質が、どのような脳のメカニズムで生じているのかを明らかにすることが、高等動物の認識を研究するときの重要なポイントであり、私どもの研究テーマです。
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