宇宙究極の謎− 暗黒物質、暗黒エネルギー、暗黒時代 −

シンポジウム全般に関する質問

Q1: (1)ダークエネルギーの時間変化は測定できないのでしょうか(変化しているのか)。(2)ダークマターの時間変化は測定できないのでしょうか(一定なのか)。
Q2: 暗黒エネルギーに関してもう少し数式で理解を深めたい(ことはできないと思いますが…)と考えております。関連参考書(いわゆる科学の読み物)、リンク等ありましたら教えてください。また、学会に入らなくても天文学、物理学の論文を見ることはできるでしょうか(国会図書館?)。宜しくお願いします。貴重なお話ありがとうございました。
Q3: (1)暗黒物質はブラックホールに含まれていますか。(2)地球には暗黒物質はどの位の量ありますか。
Q4: (1)宇宙の膨張速度に空間的なゆらぎはあるのでしょうか。(2)銀河は回転していますが、宇宙大規模構造のレベルでも回転運動を行っているのでしょうか?
Q5: 理論の展開が総て欧米の先駆者の仮説、理論によりその追試を聴いている様に思えますが、自分達の主張をどうして前面に出して説明をしないのか?ダークマターという発想は日本人の中では、考えられていなかったのか?
Q6: (1)4Dシミュレーションで青いものがダークマターで、白いものが水素ガスなのでしょうか?(2)月形成シミュレーションでぶつかったあと、地球の赤道のまわりを粒子がまわって月になりますが、地上でも赤道付近には、月と同じ割合の成分があるのでしょうか。

Q1:
(1)ダークエネルギーの時間変化は測定できないのでしょうか(変化しているのか)。
(2)ダークマターの時間変化は測定できないのでしょうか(一定なのか)。

A1:
ダークエネルギーの時間変化の測定は、観測の次の大目標です。ダークエネルギーが宇宙の膨張速度を支配しているので、膨張速度の詳細な時間進化を測定する(つまり遠方の天体までの距離を測定する)ことで、ダークエネルギーの時間変化を測定できるのです。これはダークエネルギーの正体に迫る今のところ唯一の方法であると考えられています。一方、ダークマターは、正体は不明だけれども通常の物質なので、時間進化が、バリオン(元素)と同じと考えられます。そのため、ダークエネルギーほど、その時間進化を測ろうという試みは盛んではありません。ダークマターの時間進化を測ることができるとすれば、ダークマターが宇宙の膨張を支配していた時代を見なければいけません。それは、宇宙誕生後60億年よりも前、つまり80億光年以上遠方の天体までの距離を測定しなければいけません。それは非常にむずかしいことですが、超新星を使った観測結果として、ダークマターは普通の物質と同様の時間進化をしていると思って矛盾がないことはわかってきました。 (回答:杉山先生)

Q2:
暗黒エネルギーに関してもう少し数式で理解を深めたい(ことはできないと思いますが…)と考えております。関連参考書(いわゆる科学の読み物)、リンク等ありましたら教えてください。また、学会に入らなくても天文学、物理学の論文を見ることはできるでしょうか(国会図書館?)。宜しくお願いします。貴重なお話ありがとうございました。

A2:
数式はそれほど難しいものではありません。例えば、最近出版された、天文学会が編纂した教科書、宇宙論 2 (2) (シリーズ現代の天文学 第 3巻、日本評論社)がよい教科書だと思います。科学読み物であれば、拙著「宇宙 その始まりから終わりへ」や「狂騒する宇宙―ダークマター、ダークエネルギー、エネルギッシュな天文学者 」ロバート・P. キルシュナー (著) などがおもしろいかもしれません。論文については、英文の論文であれば、専門家は、http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/というアドレスにあるastrophysicsに、論文を必ず投稿します。ですので、この中からおもしろいものを見つけるのですが、それ自身非常に大変な作業かもしれません。日本語であれば、天文学会の天文月報、物理学会の物理学科誌は確かに、専門家が非専門家に説明をする、というスタイルですので、興味あるものを見つければよいかと思います。天文月報については、過去の記事はすべてpdf化してあり、自由に読めるはずです。http://www.asj.or.jp/geppou/を参照ください。物理学会誌については、2年以上まえのものは無料で読めます。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/butsuri/index-j.htmlを参照ください。もちろんこれらは、図書館にも入っていることが多いので近くの図書館から調べられるとよろしいかと思います。 (回答:杉山先生)

Q3:
(1)暗黒物質はブラックホールに含まれていますか。
(2)地球には暗黒物質はどの位の量ありますか。

A3:
ブラックホールにも含まれているかもしれませんが、中は見えませんのでわかりません。もっとも、ブラックホールは、重たい星の終末段階で、自分自身の質量を支えきれなくなってできると考えいます。つまり、星ですので、ほとんどの質量は元素から来ています。できてしまったブラックホールが暗黒物質を吸い込むことはあるでしょう。そう考えると、ブラックホールの質量の大部分は通常の物質、ごくわずかが暗黒物質ということになります。2番目の質問ですが、地球にも暗黒物質は絶えず降り注いできています。1平方cmあたり、一秒に10万個ほども降り注いでいるのです。これはあなたの体を毎秒1億個以上も貫いていることになります。 (回答:杉山先生)

Q4:
(1)宇宙の膨張速度に空間的なゆらぎはあるのでしょうか。
(2)銀河は回転していますが、宇宙大規模構造のレベルでも回転運動を行っているのでしょうか?

A4:
これまでは、膨張速度に空間的なゆらぎはほとんどないと考えられてきました。しかし、暗黒エネルギーを説明するためもあり、空間のある部分は速く、ある部分は遅く膨張するようなモデルを考える研究者が増えてきました。物質の量の多少により、膨張の速度が変わるために、巨大な穴(差し渡し10億光年?)が宇宙に存在して入れば、膨張速度の空間的なゆらぎができるのです。2番目の質問ですが、大規模構造のレベルでも部分部分は回転はしています。ただ、宇宙全体では回転はないので(あれば、宇宙マイクロ波背景放射の温度パターンに現れます)巨大な構造になればなるほど、回転運動は小さくなっていきます。 (回答:杉山先生)

Q5:
理論の展開が総て欧米の先駆者の仮説、理論によりその追試を聴いている様に思えますが、自分達の主張をどうして前面に出して説明をしないのか?ダークマターという発想は日本人の中では、考えられていなかったのか?

A5:
厳しいご指摘、しっかりと受け止めさせていただきます。暗黒物質については、1930年代にはすでに米欧で必要であることが観測的に認識され始めていました。そのころの日本の天文学は、全く後進でした。日本が世界と戦える望遠鏡を手に入れたのは、1999年に完成したすばる望遠鏡になってからなのです。ただし、電波望遠鏡をつかって、暗黒物質の存在を欧米に続いてではありますが、確認した先駆的研究は日本にもありました。また、理論的研究については、日本の佐藤勝彦・小林(ノーベル賞受賞者)が正体に関する先駆的研究を欧米と同時期に行っています。つぎに、暗黒エネルギーについては、じつは1990年代初頭に複数の日本人研究者が観測的・理論的にその存在について提唱をしていました。残念ながら、観測の不定性、また国際的な主張の弱さから、90年代後半の米欧の超新星探査計画によってその手柄を完全に取られてしまったのは大変残念だと思っています。 (回答:杉山先生)

Q6:
(1)4Dシミュレーションで青いものがダークマターで、白いものが水素ガスなのでしょうか?
(2)月形成シミュレーションでぶつかったあと、地球の赤道のまわりを粒子がまわって月になりますが、地上でも赤道付近には、月と同じ割合の成分があるのでしょうか。

A6:
4D2Uの渦巻銀河シミュレーションでは、青がガスで白がガスから生まれた星です。暗黒物質は計算にはもちろん入っていますが表示はされていません(ガスの分布に近いです)。詳しくはhttp://4d2u.nao.ac.jp/t/var/download/index.php?id=spiral2をご覧ください。 (回答:児玉先生)
宇宙大規模構造のシミュレーションでは、青がダークマターで、白いものが「銀河」です。実際には銀河の形成の計算はしていませんので、ダークマターの密度の特に高い部分が銀河になったと考えて色をつけています。 (回答:杉山先生)