科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 科学的発見とは何か−「泥沼」から突然「見晴らし台」へ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 朝日新聞社 NHK 総合研究大学院大学

山森哲雄先生の講演に関する質問


Q1:
霊長類で視覚野発現遺伝子が特異的だということは、霊長類と他の生物では見えているものがちがうということか。大脳皮質連合野の中で、あるいは霊長類の脳機能として視覚の占める役割に特別なものがあるのではないか?

A1:
そのように考えています。例えば、最近私たちは、セロトニン受容体(14種類知られている)のうち、2種類が霊長類の視覚野で非常に多く発現していることを見いだしました。これらの受容体のサブタイプに特異的に作用しその働きを増強する薬物(アゴニスト)を霊長類視覚野に局所的に投与すると、視覚刺激に応答する一次視覚野の神経細胞にノイズが低減したり、コントラストが強調されたりすることがわかりました(Watakabe et al., Cerebral Cortex, Dec. 04, 2008, Epub)。マウス(げっ歯類)では、このセロトニン受容体サブタイプの視覚野特異的発現はみられませんので、マウスと霊長類では、同じ対象(もの)を見ていても一次視覚野での視覚情報処理が異なる(結果として違うようにみえている)と考えられます。このような,高次な視覚機能は,霊長類の視覚進化の過程で獲得されてきたものと考えています。

Q2:
精神というものは脳の産物であると考えていますか?精神は肉体を超越した所にあるという考え方をどう思いますか?研究者は本質的に探求者であるべきだと思いますか?

A2:
狭義の精神は、脳の産物と考えています。2番目の質問は、人によって精神の定義がかなり違うので、回答が難しいところがあります。例えば、小説、絵画、音楽等の芸術は、人間の脳の所産ですが、人間個体の外にあり、個人を超えて継承されます。しかし、継承された芸術を理解することも、結局のところヒトの脳活動の所産です。最後の質問ですが、私は、研究者は本質的に探求者だと思います。

Q3:
理科の教員をしていますが、学生の頃、heat shock proteinについて知り、興味を持ちました。Chaperone protein等ユニークなbehaviorの分子もあり、とても興味深いものだと思っています。現在の研究は、今日のお話に収集されていますか?参考書籍等あれば御教示下さい。

A3:
ご指摘のように、ヒートショック蛋白質の主要なものは、新生蛋白質に結合し折りたたみ(フォールデング)を制御することがわかりました。おそらく、このことにより、高温での熱エネルギーにより蛋白の折りたたみに異常が起きないように制御していると考えられています。但し、これらの発見は,全て私が1982年に神経科学に転じて以降、他の人によって発見されたことですので、現在の私の研究と最近のヒートショック研究との直接的関係はありません。