大会イラスト(自転車に乗るヒトとニホンザル、骨格)
第42回 日本霊長類学会大会
第80回 日本人類学会大会
第88回 日本生理人類学会大会

連合大会

講 演 要 旨 集
2026年9月10日(木)〜 9月13日(日)
東京大学 駒場キャンパス
表紙イラスト:松尾 花(東京大学大学院総合文化研究科)
第2版 2026年9月2日
大会本部・クローク・企業ブース・大会受付の場所が、第1版から変わりました。
他、詳細変更は、以下のとおりです
【この印刷物についてのご案内】ブラウザの印刷機能で作成したPDFでは、発表番号をクリックして要旨に移動する機能は使えません(ブラウザの仕様によるものです)。リンクをそのまま使えるPDFを別に用意していますので、クリックで移動できるものが必要な場合は、そちらをご利用ください。
なお本書は、日程表・一覧と要旨のどちらにも同じ発表番号(A-01、P-01 など)を印刷しています。紙面では番号を手がかりにお探しください。
  • 一般口演・若手発表賞口演・一般ポスター・若手発表賞ポスターの要旨を収録しています。
  • 3学会合同シンポジウム/公開シンポジウム/独自企画(F1-1〜F5-3)/特別企画/中高生ポスター発表の要旨も収録しています。
  • このページは1つのファイルにまとまっています。パソコンに保存しておけば、インターネットにつながっていなくてもそのまま開いてご利用いただけます(会場での通信状況にかかわらずご覧になれます)。
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  • 日程表・一覧の発表番号をクリックすると、該当する要旨に移動します。要旨側の「一覧へ戻る」で戻れます。
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  • 大会イラスト:松尾 花(東京大学大学院総合文化研究科)/福原 瑶子(総合研究大学院大学先端学術院統合進化科学コース)

目次

大会長挨拶

多様な人類学の展開と異分野協創の促進に向けて

今年の日本霊長類学会、日本人類学会、日本生理人類学会(以降、「日本」を省略)は、これら3学会の連合大会として行うことになりました。これら3学会による連合大会は初めてのことです。霊長類学会と人類学会との連合大会は2001年と2022年にいずれも京都で行われました。私は両方とも参加しました。私自身はこれら2つの学会の会員で、普段なら人類学会で発表する内容を霊長類学会の会員の皆さんに聞いていただけ、逆に普段なら霊長類学会で発表する内容を人類学会の会員の皆さんに聞いていただけて、普段と異なるフィードバックを得られて新鮮でした。21年ぶりに開催された直近の連合大会の記憶は鮮明で、両学会の会員に大変好評であったという強い印象を持っています。

3学会の概要に少し触れてみます。生理人類学会はヒト(Homo sapiens)を、人類学会はヒト亜族(Hominina)[ヒトとチンパンジーの共通祖先からヒト側に連なる、化石種を含む系統群(いわゆる「人類」)]を、霊長類学会はヒト亜族以外の霊長類を主な研究対象としています。生理人類学会はヒトの生理特性の理解・人間生活の質の向上、人類学会は人類の特質・多様性・進化の理解、霊長類学会はヒト亜族以外の霊長類に関する広範な理解・保全福祉の向上について、研究と教育の推進・普及を主な活動内容としています。学会の始まりは人類学会が最も古く1884年、生理人類学会が1978年、霊長類学会が最も新しく1985年です。このように、スコープや設立の経緯はそれぞれに独自であり、異なります。一方で、このように対象生物は極めて近縁であり、あるいは重なっており、最も古株の人類学会と設立においても関連があり、それぞれの学会は他のこれらの学会の活動内容と無縁ではありえず、お互いを意識せざるを得ません。大きな視点でみれば、分業的、相補的関係ともいえます。

3学会はそれぞれ会員数1000人を割るいわゆる「小規模」学会に該当します。学会の数が多いことを問題視する意見が学術行政側にあると聞いて久しくなりました。小規模学会は存立の危機感を共有しているともいえます。ただ、上記のようにそれぞれの学会の独自性・専門性を考慮すれば、融合・合併による「大規模」学会化ではなく、学会連合による組織的な協創・協奏体を目指すのが現実的かつ生産的・発展的と思われます。連合大会はこれに向けた具体的な一歩を捉えることができます。本大会のスローガンである「多様な人類学の展開と異分野協創の促進に向けて」はそのような趣旨から掲げました。

本大会は、初日では、各学会がこれまでそれぞれに行っている学術集会(霊長類学会の自由集会、人類学会の分科会、生理人類学会の研究部会)を各学会が行い、最終日では、公開シンポジウムを、人類学関連学会協議会(日本人類学会、日本生理人類学会、日本文化人類学会、日本民俗学会、日本霊長類学会の5学会によって構成される組織)の今年度当番学会である日本人類学会が企画しますが、それら以外の一般発表、中高生ポスター発表、学術シンポジウム等はすべて3学会が合同で企画し運営しています。

3学会の連合大会ともなると通常の単独大会より、長い日程と多くの会場の確保が必要となります。大会日程を研究発表にできるだけ充てるため、各学会の会員総会や代議員会は大会とは別日程で行います。東京大学の駒場キャンパスは、9月は秋の学期が始まる前であり多くの教室を確保することができました。また、井の頭線を介して渋谷に近く、渋谷にはJR、私鉄各線が乗り入れ、交通の要衝です。飲食店が豊富なのは言うに及びません。下北沢、吉祥寺なども井の頭線ですぐに行ける近さです。会場外でも議論・親睦が深まることを期待しています。

本大会が実りの多いものとなりますよう。

2026年2月12日
第42回日本霊長類学会大会・第80回日本人類学会大会・第88回日本生理人類学会大会 連合大会
大会長 河村 正二

会場アクセスと会場案内

会場アクセス

会場東京大学 駒場Iキャンパス(東京都目黒区駒場3-8-1)
最寄駅京王井の頭線「駒場東大前」駅 下車徒歩0分
東口に正門、西口に坂下門があります。
主要駅から渋谷駅(JR山手線ほか)から京王井の頭線(吉祥寺方面行)で約2〜3分、「駒場東大前」駅下車
下北沢駅(小田急線)・明大前駅(京王線)から京王井の頭線(渋谷方面行)で「駒場東大前」駅下車
空港から成田空港:京成成田(京成本線)〜日暮里(JR山手線)〜渋谷(井の頭線)〜駒場東大前
羽田空港:羽田空港第3ターミナル(京急空港線)〜京急蒲田(京急本線)〜品川(JR山手線)〜渋谷(井の頭線)〜駒場東大前
自転車駐輪場をご利用ください。場所は決まりしだい大会ウェブサイトでご案内します。
自動車構内への車両の乗り入れ及び駐車は原則として禁止です。
入退構について
  • 本大会では、施設利用の条件により、構内への入退構は原則として正門から行ってください。
  • 正門は駒場東大前駅の東口を出てすぐ、坂下門は西口を出てすぐです。
  • 門の開門時間は、決まりしだい大会ウェブサイトでご案内します。

【参考】東京大学 公式ページ
駒場地区アクセスマップ https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/map02_02.html
駒場地区キャンパスマップ https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/map02_01.html

会場配置図

周辺路線図
駒場地区キャンパス 周辺路線図

図をクリックすると拡大表示します。

※ 東京大学「駒場地区キャンパス(周辺路線図)」を、許諾を得てそのまま掲載しています。駒場キャンパスは京王井の頭線「駒場東大前」駅の目の前です(青い丸の位置)。
キャンパス案内図
東京大学 駒場Iキャンパス 建物配置図

図をクリックすると拡大表示します。

駒場東大前駅(京王井の頭線)東口を出てすぐが正門です。3号館=大会本部(113教室)・Primates 編集会議(114教室)/13号館=口頭発表・大会受付(9/11〜)・クローク(9/11〜)・休憩室/21 KOMCEE East=独自企画/21 KOMCEE West=ポスター発表・企業ブース・大会受付(9/10)/生協食堂 駒場食堂(駒場コミュニケーション・プラザ南館)=昼食・懇親会/ATM(三井住友銀行・ゆうちょ銀行)=正門を入ってすぐ左手(構内のATMはここだけです)。
■ 図中の矢印は、13号館から大会本部(3号館 113教室)への道すじです。13号館の北側の道をキャンパスの奥へ進み、3号館の南東側の入口から入って1階を左手に曲がってください。113教室(大会本部)と 114教室(Primates 編集会議)が並んでいます。 ※ 東京大学「駒場地区キャンパス(建物配置図)」(令和8年4月版)に、本大会で使用する建物の色と名前を追記したものです。東京大学の許諾を得て掲載しています。番号は原図の凡例に対応しています。
会場配置図 13号館
13号館 1〜4階 平面図

図をクリックすると拡大表示します。

会場A=1313教室(1階)/会場B=1323教室(2階)/会場C=1331教室(3階)。1311教室=休憩室、1312教室=クローク(9月11日(金)以降・いずれも1階)。9月11日(金)以降の大会受付は、1階の休憩室前・クロークのとなりに設けます。トイレ(WC)と階段の位置を図中に示しています。
会場配置図 21 KOMCEE East
21 KOMCEE East 各階平面図

図をクリックすると拡大表示します。

2階 K211=会場1/K212=会場2/K213=会場3/K214=会場4、1階 K114=会場5。エントランス西側の自動扉から入館できます(利用時間中は継続開錠)。
会場配置図 21 KOMCEE West
21 KOMCEE West 各階平面図

図をクリックすると拡大表示します。

B1階 K003(MMホール)=ポスター発表会場・企業ブース。3階 K301=クローク(9月10日(木))/9月11日(金)以降は休憩室として開放します(簡単な打ち合わせ・会議にもお使いいただけます)。9月10日(木)の大会受付は B1階の MMホール前 です。大会本部は 3号館 113教室 です。B1階と3階の間は、各階の同じ位置にあるエレベーター(EV)でも移動できます。1階・2階・4階・5階は大会では使用しませんが、館内の位置関係の目印として掲載しています。

会場一覧

セッション会場(クリックすると会場図へ)
独自企画(自由集会・分科会・研究部会) F1-1〜F5-321 KOMCEE East 2階 K211・K212・K213・K214(会場1〜4)/1階 K114(会場5)
特別企画(人類学ドルメン) SP-113号館 1313教室(会場A)
若手発表賞対象 口頭発表 YA・YB・YC13号館 1313教室(会場A)/1323教室(会場B)/1331教室(会場C)
一般口演 A・B・C13号館 1313教室(会場A)/1323教室(会場B)/1331教室(会場C)
ポスター発表(一般・若手発表賞・中高生)21 KOMCEE West B1階 K003(MMホール)
3学会合同シンポジウム S-01〜S-0313号館 1323教室(会場B)
学会賞表彰・受賞記念講演13号館 1323教室(会場B)
公開シンポジウム(CARA 9学会合同シンポジウム)13号館 1323教室(会場B)
大会本部3号館 113教室(1階・全日程) ※ 13号館の北側の道を進み、3号館の南東側の入口から入って1階を左手へ
クローク9月10日(木)=21 KOMCEE West 3階 K301/9月11日(金)〜13日(日)=13号館 1312教室(1階)
託児室ご利用の方に、お預けの方法を事前に個別にご連絡します
休憩室13号館 1311教室(1階)/9月11日(金)以降は 21 KOMCEE West 3階 K301 も開放(打ち合わせ・会議にも)
企業ブース21 KOMCEE West B1階 K003(MMホール/ポスター会場内)
Primates 編集会議3号館 114教室(113教室のとなり)
懇親会生協食堂(駒場コミュニケーション・プラザ南館)

参加者の皆様へ

受付・参加費・クローク・昼食・インターネット接続・託児室 など
大会受付は、1日目は 21 KOMCEE West B1階(MMホール前)、2日目以降は 13号館 1階(休憩室 1311教室の前)に設けます。大会本部は 3号館 113教室 です。全日程、こちらで承ります。

大会受付

  • 9月10日(木)12:00〜18:00 21 KOMCEE West B1階(MMホール前)
  • 9月11日(金)8:00〜18:00 13号館 1階(休憩室 1311教室の前)
  • 9月12日(土)8:00〜18:00 13号館 1階(休憩室 1311教室の前)
  • 9月13日(日)8:00〜12:30 13号館 1階(休憩室 1311教室の前)

事前に参加登録をお済ませの方

受付にて名札をお受け取りください。会場内では必ず名札をお付けください。

当日に参加費をお支払いの方

当日の現金でのお支払いは承っておりません。駒場キャンパスでは、現金の直接の受け渡しが禁止されているためです。受付で担当者が対応いたしますので、その場で口座振込または PayPal でのお支払いをお願いいたします。ご希望により、後日、請求書をお送りしてお支払いいただくこともできます。この場合、領収書のお渡しも後日となります。

キャンパス内のATM

正門(東大口)を入ってすぐ左手の建物に、三井住友銀行とゆうちょ銀行のATMがあります。構内で現金をご用意いただけるのは、ここだけです。

ご利用時間は各行の掲示をご確認ください。キャンパス案内図にも場所を示しています。

参加費・懇親会費

  • 参加費(前納)   通常会員 8,000円/学生(会員・非会員)4,000円/非会員 9,000円
  • 参加費(後納・当日)通常会員 9,000円/学生(会員・非会員)5,000円/非会員 10,000円
  • 懇親会費(前納)  通常会員 7,000円/学生(会員・非会員)4,000円/非会員 7,000円
  • 懇親会費(後納)  通常会員 8,000円/学生(会員・非会員)5,000円/非会員 8,000円(当日受付はいたしません)

学生は学部学生・大学院生を含みます。中高生ポスター発表者、日本人類学会 次世代教育会員、日本霊長類学会 次世代教育メンバー/ユースメンバーは、事前登録により参加費は無料です。

領収書・名札

領収書は、大会当日の受付時に、名札とあわせてお渡しいたします。ただし、請求書による後日のお支払いをご希望の場合は、領収書も後日のお渡しとなります。

ポスターの掲示・撤去

ポスターは、9月11日(金)正午までに所定の位置へ掲示してください。9月12日(土)17:00 までに撤去をお願いいたします。それ以降に残っているポスターは、大会実行委員会で取り外し、処分いたします。

掲示できる時間やパネルの大きさなど、詳しくは「ポスター発表者の方へ」をご覧ください。

ゴミはお持ち帰りください

大学の規定により、大会で出たゴミはすべて主催者・参加者で持ち帰ることとなっております。このため、会場にゴミ箱は設置いたしません。館内のゴミ箱も期間中は閉鎖いたします。

  • お弁当の容器・ペットボトル・包装などは、お手元の袋に入れてお持ち帰りください。
  • ご来場の際に、ゴミを入れる袋をご持参いただけますと安心です。

休憩室

9月11日(金)〜13日(日)は 13号館 1311教室(1階)をご利用いただけます。同じ期間、21 KOMCEE West 3階 K301 も休憩室として開放します。こちらは机と椅子がありますので、簡単な打ち合わせや会議にもお使いいただけます。9月10日(木)は、21 KOMCEE West B1階のカフェテリア「KOMOREBI」とオープンスペースアリーナをご利用ください。

クローク

お預かりしたお荷物は、その日のうちに必ずお受け取りください。日をまたいでのお預かりはできません。クロークは日によって場所が変わりますので、翌日にお越しいただいても、前日のお荷物はございません。

貴重品・濡れた傘などはお預かりできませんので、あらかじめご了承ください。

大会本部への行きかた

大会本部は 3号館 113教室 です。全日程、こちらで承ります。13号館の北側の道を、キャンパスの奥(北)へ向かって進むと、右手に3号館があります。南東側の入口から入り、1階を左手に曲がってください。突きあたりの手前に 113教室(大会本部)と 114教室(Primates 編集会議)が並んでいます。3号館には館内図の掲示がありませんので、迷われた場合はスタッフにお声がけください。

昼食

会場周辺の飲食店はかぎられており、土曜・日曜は休むお店もあります。9月10日(木)・11日(金)は、生協「駒場食堂」(駒場コミュニケーション・プラザ南館 1階)が 11:00〜14:00 に営業しています。12日(土)・13日(日)は営業していません。生協食堂の隣のカフェ「ビゴーレ」は土曜・日曜も営業しています。キャンパスの外にはフレッシュネスバーガー(富ヶ谷店)があり、こちらもおすすめです。混み合うことも予想されますので、コンビニエンスストア等でご用意いただくのも確実です。

懇親会

9月12日(土)18:00〜20:00、生協「駒場食堂」2階ホール(駒場コミュニケーション・プラザ南館)で行います。当日受付はいたしませんので、事前にお申し込みください。

一般公開シンポジウム

9月13日(日)13:00〜16:30、13号館 1323教室(会場B)で行います。「人間の「集団」とは何か ── 人類学・人間科学関連9学会からの視点」。参加費は無料、対面でのご参加はお申し込み不要です。どなたでもご参加いただけます。

インターネット接続

東京大学駒場キャンパス内では、eduroam によるインターネット接続サービスをご利用いただけます。eduroam をお使いになれない方は、UTokyo-Guest をご利用ください。

  • eduroam … 所属機関のアカウントで接続できます。
  • UTokyo-Guest … ソフトバンク社の「FREE Wi-Fi PASSPORT」を用いたサービスです。接続方法は同社のページをご覧ください(大学として利用方法のサポートは行っておりません)。なお、学外扱いのネットワークに接続されるため、データベース・電子ジャーナル・電子ブック等はご利用いただけません。

接続に問題がある場合、大会期間中は大会受付までお問い合わせください。大会前は、大会運営事務局(psj-asn-jspa-2026@kuba.jp)までお問い合わせください。

託児室

本大会期間中、託児室を設置いたします。お子さまの安全のため、託児室の場所は公開しておりません。ご利用の方には、お預けの方法を事前に個別にご連絡いたします。当日ご不明な点がありましたら、大会受付または大会本部までお問い合わせください。お申し込みは2026年7月10日をもって締め切りました。

  • 当日、託児室で所定の申込用紙にご記入いただきます。あわせて、運営会社より利用規約のご説明があります。
  • お迎えは、お預けになったご本人がお願いいたします。安全確認のため、ご家族であっても別の方はお引き取りいただけません。
  • お預かりの対象は、0歳から12歳の健康なお子さまです。

緊急時の連絡先

大会受付、または大会本部(3号館 113教室)までお越しいただくか、スタッフにお声がけください。急を要する場合は、キャンパス守衛所(03-5454-6666)へご連絡ください。

会場での注意事項

  • [喫煙]東京大学は、屋外を含めてキャンパス内を原則禁煙としています。近隣にお住まいの方へのご迷惑や受動喫煙を防ぐため、キャンパス周辺の公道等での喫煙もお控えください。
  • [取材・撮影]駒場Iキャンパス構内(正門前等を含みます)で取材・撮影をご希望の場合は、事前に申請し、大学(総合文化研究科・教養学部広報室)の許可を得る必要があります。手続きには日数を要し、通常は撮影日の1週間前までの申請が必要です。詳しくは大会運営事務局までお問い合わせください。

お問い合わせ

大会期間中は大会本部(3号館 113教室)、大会前は大会運営事務局(psj-asn-jspa-2026@kuba.jp)までお願いいたします。

  • 大会公式サイト:https://www.kuba.co.jp/psj-asn-jspa-2026/
  • メール:psj-asn-jspa-2026@kuba.jp

口頭発表者の方へ

発表時間・発表データの提出・使用機材・座長の方へ
口頭発表は 13号館 1313教室(会場A)・1323教室(会場B)・1331教室(会場C)で行います。発表日時は「大会日程・発表一覧」をご確認ください。

発表時間

  • 1件15分です。口演12分・質疑2分・交代1分としてください。

発表データのご提出

発表データは、事前にご提出いただきます。アップロード期間は 2026年9月1日(火)から9月8日(火)23:59 までです(9月9日(水)0:00 に締め切ります)。会場での準備の都合上、期間の厳守をお願いいたします。提出先は、ご自身の発表日・会場ごとに分かれています。8月27日にお送りしたご案内に記載のリンクからご提出ください。スライドデータのご準備にあたっては、以下の点にご留意ください。

  • ファイル名は「演題番号_氏名.pptx」としてください(例:YA-01_駒場太郎.pptx)。演題番号は本要旨集の「大会日程・発表一覧」でご確認いただけます。
  • ファイルサイズは500MB程度を上限の目安としてご準備ください。動画を含む場合は容量が大きくなりやすいため、とくにご注意ください。
  • 発表は各会場に用意する Windows PC で行います。持ち込みPCでの発表はお受けできません。会場のPCでの表示のご確認方法については、当日までに別途ご案内します。
  • 会場の PC に搭載されていないフォントは正しく表示されません。標準的なフォント(游ゴシック、メイリオ、Arial など)をお使いいただくか、PowerPoint の「フォントの埋め込み」を設定してください。
  • 動画・音声を使用される場合は、ファイル内に埋め込んだ状態でご提出ください。外部ファイルへのリンクとして貼り付けられている場合、会場では再生できません。

ご提出いただいた発表用ファイルは、大会終了後、実行委員会が責任をもって消去いたします。

使用機材

各会場に Windows PC(PowerPoint と PDF が表示できる標準的なもの)を用意する予定です。

Mac で作成されたファイルについて

Mac で作成されたファイルは、会場の Windows PC で開いた際に、フォントやレイアウト、動画・アニメーションの動作が変わることがあります。上記の点にくわえ、通常の注意事項を守ってご準備ください。

若手発表賞(口頭発表)の審査

審査の対象は YA-01〜16、YB-01〜16、YC-01〜15 の47件です。表彰式は、9月12日(土)18:00 からの懇親会(生協「駒場食堂」2階ホール)のなかで行います。

座長の方へのお願い

  • 発表者の発表タイトルと発表者名をご紹介いただき、発表時間が終わるまで発表の進行を行ってください。
  • 円滑な発表運営となりますよう、ご協力をお願いいたします。

ポスター発表者の方へ

ポスターの大きさ・掲示時間・コアタイム・審査
ポスター発表は、21 KOMCEE West B1階 K003MMホール)で行います。21 KOMCEE には East と West の2棟がありますので、West にお越しください。発表日時は「ポスター演題一覧」および「大会日程・発表一覧」をご確認ください。中高生ポスター(HP-1〜HP-6)の方も、会場・掲示の要領は同じです。

ポスターパネルの大きさと演題番号

ポスターの大きさは、高さ180cm・幅90cm 以内としてください(A0判を縦向きでお使いいただく場合は、この範囲に収まります)。ポスターパネルの最上部左側に演題番号を表示していますので、ご自身の演題番号が表示されたパネルをご利用ください。

ポスターの貼り付け

ポスターの貼り付けには、会場に備え付けのもののみをご使用ください。ご用意するものは、当日会場でご案内いたします。

掲示できる時間と撤去

ポスターは、9月11日(金)9:00 から掲示していただけます。正午までに掲示してください。9月12日(土)17:00 までに、ご自身で撤去してください。9月13日(日)午前の時点で残っているポスターは、大会実行委員会で取り外し、処分いたします。あらかじめご了承ください。

9月12日(土)17:00 の時点で残っているポスターは、大会実行委員会で取り外し、処分いたします。あらかじめご了承ください。

コアタイム

発表者の方は、下記のコアタイムには必ずポスターの前で待機し、ご説明をお願いいたします。

  • 2日目 9月11日(金) 一般ポスター(P-01〜P-59) 14:10〜14:40 奇数番号/14:40〜15:10 偶数番号
  • 3日目 9月12日(土) 若手発表賞対象ポスター(YP-01〜YP-32)・中高生ポスター(HP-1〜HP-6) 12:35〜13:20 若手の奇数番号と中高生/13:20〜14:05 若手の偶数番号

若手発表賞(ポスター)の審査

審査の対象は YP-01〜YP-32 の32件です。表彰式は、9月12日(土)18:00 からの懇親会(生協「駒場食堂」2階ホール)のなかで行います。

中高生ポスターの表彰

表彰式は、9月12日(土)14:05〜14:15 に、ポスター会場(21 KOMCEE West B1階 K003)で行います。

独自企画・特別企画にご参加の皆様へ

会場でのお願い
独自企画・特別企画は、各企画の責任者が進行と準備を行います。ご不明な点は、各企画の責任者にお尋ねください。企画の責任者の皆様には、8月29日に会場のご案内を別途お送りしています。

独自企画

2026年9月10日(木)13:00〜18:00、21 KOMCEE EastK211K212K213K214(会場1〜4)および K114(会場5)で行います。どの企画がどの会場かは、「大会日程・発表一覧」および大会ホームページのプログラムをご確認ください。建物にお入りいただけるのは 11:00〜19:00 です。

  • 進行・準備・時間の管理は、すべて各企画の責任者が行います。実行委員会からの会場係は配置しておりません。
  • 発表用のパソコンは会場に用意しておりません。企画側でご用意いただくか、発表者ご本人のパソコンをお使いください(HDMI ケーブルは大会本部でお渡しします)。
  • 21 KOMCEE の教室では、飲食はできません。お食事は 13号館、または 21 KOMCEE West B1階のカフェテリア「KOMOREBI」・オープンスペースアリーナをご利用ください。

独自企画の責任者の皆様へ

準備に必要な機材一式(機材管理ボックスの鍵、HDMI ケーブル、マイクなど)と手順書は、大会本部(3号館 113教室)でお渡しします。お渡しは 9月10日(木)12:00 以降です。企画の開始前に、余裕をもってお越しください。

特別企画 人類学ドルメン

2026年9月13日(日)11:45〜13:00、13号館 1313教室(会場A)で行います。同じ教室では、直前まで一般口頭発表を行っております。入れ替えの時間が10分ほどしかありませんので、下記のとおりといたします。

  • 立ち上げは会場係がお手伝いします。口頭発表からそのまま教室に残り、開始までの準備をお手伝いしたのち退出いたします。その後の進行は、企画の責任者が行います。
  • 発表用のパソコンは、午前の口頭発表で使用している大会のパソコンをそのままお使いいただけます。ご自身のパソコンをお使いいただいても構いません。
  • 昼食は各自ご持参ください。企画側からの昼食のご用意はありません。13号館の教室では飲食いただけます。
  • 後片づけは、企画の責任者にお願いいたします。13:00 に会場係が教室の撤収に参りますので、係の案内にご協力ください。この教室は同日14:00で使用が終わるため、時間を延ばすことはできません。

共通のお願い

  • 机や椅子の配置を変えられた場合は、終了時に元に戻してください(大学の規定によるものです)。
  • 会場にゴミ箱はありません。大学の規定により、大会で出たゴミはすべてお持ち帰りいただいております。ご参加の皆様にもお伝えいただけますと助かります。
  • Wi-Fi は eduroam がご利用いただけます。

大会日程・発表一覧

1日目:9月10日(木) 各学会 独自企画21 KOMCEE East

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2日目:9月11日(金)【午前】発表賞対象 口頭発表13号館

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時間会場A13号館 1313教室会場B13号館 1323教室会場C13号館 1331教室
08:00 - 09:00受付
09:00 - 09:15
熱帯乾燥林におけるコクレルシファカの採食戦略:雨季と乾季の季節間比較
佐川 そのみ(京都大) 他
縄文時代人の体格における変異:緯度・地方・遺跡の比較
鬼木 そら(東京大)
ニホンザルにおける選好注視法を用いたアカンボウの歩行動画への視覚的選好の検討
齊藤 葵(大阪大) 他
09:15 - 09:30
Identification of “anomalous” trichromats in neolithic humans supporting ancient prevalence of human color vision diversity
王 逸臻(東京大) 他
縄文時代人の下肢骨断面形態における性差
白神 明日香(東京大)
若年成人における神経症傾向と主観的感覚意識の関連性-嗅覚への気づきに着目して-
石田 恵梨(小松大) 他
09:30 - 09:45
嵐山集団のニホンザルにおける20カ月間の毛づくろい行動の一貫した個体差の検討
片山 洸彰(大阪大) 他
糞石からの古代寄生虫DNA検出のための抽出法およびin silico解析法の最適化
坂田 彩音(東京大) 他
HBVのジェノタイプから探る縄文後期〜弥生にかけてのヒトの移動
深澤 眞楠(新潟大) 他
09:45 - 10:00
歯の咬耗を「失われた量」として捉える―未咬耗時エナメル質体積推定による咬耗評価―
中村 凱(東京大) 他
解剖学的筋骨格モデルに基づくヒト母指筋の指先力生成機能の解析
石橋 咲(東京大) 他
比較筋骨格シミュレーションが示すヒトに特異的な中殿筋と小殿筋の筋内領域間機能分化
設樂 哲弥(大阪大) 他
10:00 - 10:15
高齢者施設の木造化、内装木質化が職員に与える影響
前田 健志(東京大) 他
機能的単位に基づく筋腱経路オントロジーの構築と比較解剖学への応用
田原-新井 悠也(理研) 他
霊長類に共通する骨盤の性的二型パターンの進化
坂井 明日風(京都大) 他
10:15 - 10:30
3次元身体力学モデルによるゴリラナックルウォークの順動力学シミュレーション
嶋根 裕太(東京大) 他
身体能力関連遺伝子における機能検証候補の絞り込みを目的とした選択圧解析
服部 桜(日本体育大) 他
日本人集団特異的MNVの網羅的解析と機能的影響の評価
安田 千七(理研) 他
10:30 - 10:35休憩
10:35 - 10:50
石器製作における手の生体力学解析のための計測系構築
田中 理暉(東京大) 他
ヒストタフォノミーからみた縄文時代後期の土器棺再葬墓の葬送プロセス −骨組織観察と放射性炭素年代測定による検討−
逢坂 暖(東京大) 他
ToMMoコホートデータをもちいた縄文人由来ゲノムが表現型へ及ぼす影響の検証
中村 友香(東京大) 他
10:50 - 11:05
チンパンジーのメスにおける加齢に伴う行動変化―活動時間配分と空間利用に着目して
Kim Jaock(京都大)
Investigating the molecular basis of coat color melanism in Macaca nigra
YAN XIAOCHAN(北海道大) 他
ヒト成人四足歩行からみた霊長類ダイアゴナルシークエンス歩行の力学的意義
藤原 歩(東京大) 他
11:05 - 11:20
現代日本人下顎骨形態と性差の時代変化
臼井 詩織(東京大) 他
拡散テンソル画像に基づくヒトとマカクの白質線維走行の発達過程の比較
高木 蔵之助(東京大) 他
ニホンザルにおける発達による他個体との距離の取り方の変化
榊原 未桜(京都大) 他
11:20 - 11:35
視覚入力および支持面条件の変化に伴う立位姿勢制御の身体分節間協調-位相同期値を用いた探索的検討-
近 裕介(久我山病院、杏林大) 他
脛骨遠位部の形態から推定されるナチョラピテクスの移動様式
渡辺 宗憲(京都大) 他
近世江戸集団における口腔衛生状態の階層差
蓮田 賀子(九州大)
11:35 - 11:50
齧歯類の齧痕が示唆する後期更新世白保竿根田原洞穴遺跡での風葬の可能性
永島 萌(慶應義塾大) 他
誰が先に飲む?:サバンナの水場におけるパタスモンキーの個体戦略と集団リスク低減
半沢 真帆(東京大)
ネアンデルタール人の運動能力の特徴を示唆する可能性のある候補変異の探索
奥 大河(総研大) 他
11:50 - 12:05
東南アジア大陸部の少数民族ゲノムに観察された祖先モザイク構造
吉田 光希(東京大) 他
不眠症を含む多因子疾患リスクからみた現生人類の適応進化
濱元 祥子(九州大) 他
GHOST:要約統計量のみを用いた参照パネル未収載集団における集団特異的連鎖不平衡構造の再構築
KIM JONGHYUN(東京大) 他
12:05 - 12:10休憩
12:10 - 12:25
野生ニホンザルの湿度と関連した行動性体温調節:半日陰の意義
田伏 良幸(中央大)
糞由来DNAのメチル化を指標としたニホンザルの年齢推定精度の向上
池上 知乃新(京都大) 他
縄文時代の頭骨における外傷について~東日本を中心に~
平野 力也(沖縄県博)
12:25 - 12:40
ニホンザルにおける水平梯子上の四足歩行の時系列分析
安富 祐人(大阪大) 他
世界規模の比較メタゲノム解析が明らかにしたサハラ以南アフリカ集団が保持する祖先的腸内シアノバクテリア系統
村井 皓太郎(東京大) 他
島嶼化は脳サイズと体サイズをどのように変えるのか:ニホンジカ集団間変異と化石種リュウキュウジカからの示唆
豊田 直人(東京大) 他
12:40 - 12:55
郡遺跡・倍賀遺跡出土人骨の歯エナメルプロテオーム解析による弥生時代中期集団の性別推定
福原 瑶子(総研大) 他
冷涼環境下における正弦波歩行時の呼吸・体温調節の相互連関
藤田 真子(同志社大) 他
現代人女性CTデータを用いた耳状面前溝の成因に関するマクロ形態学的検討
中村 謙伸(聖マリアンナ医科大) 他
12:55 - 13:10
古代ミトコンドリアゲノムから明らかになったボリビア・チチカカ湖周辺における時代を通じた遺伝的連続性
片岡 梨沙子(東京大) 他
地表面温度がニホンザルの休息時姿勢選択に与える影響:接触面積を介した熱伝導の調整
神 未来(信州大) 他

2日目【午後】一般ポスター・3学会合同シンポジウム Part 1 & 2

3日目:9月12日(土)【午前】一般発表13号館

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時間会場A13号館 1313教室会場B13号館 1323教室会場C13号館 1331教室
09:00 - 09:15
骨盤形態変形と順動力学解析による直立二足歩行生成の仮想進化シミュレーション
伊藤 幸太(産総研) 他
タイ・ワットタキアップ沿岸のカニクイザルにおけるヤドカリ捕食と道具を用いない殻処理行動
豊田 有(京都大) 他
心拍同時計測型ナイトブラ式深部温デバイスを用いた性周期評価とPMSの関係
横山 結(神奈川工科大) 他
09:15 - 09:30
トルコ南部ウチャーズリII洞窟における発掘調査の結果
森本 直記(京都大) 他
ボノボのオスの順位に関連する交尾パターン:全体の交尾頻度の順位に依らない同等性と受胎可能なメスへの交尾機会における順位バイアス
戸田 和弥(総研大) 他
サルは“説明”を探索するか?
壹岐 朔巳(京都大) 他
09:30 - 09:45
トルコ南部ウチャーズリII洞窟出土の歯化石の解析
森田 航(国立科学博物館) 他
近年の研究成果にもとづくボノボの進化に関する性的受容性長期化仮説の検討
古市 剛史(椙山女学園大)
飼育ニシゴリラの利き手を評価するための新課題の開発:野生下の行動を再現したシロアリ課題
田村 大也(京都大) 他
09:45 - 10:00
弥生時代人骨にみられる渡来的形質の多様性と展開
米元 史織(九州大)
野生チンパンジーにおける排泄行動の社会的文脈と空間的特徴
松本 卓也(信州大)
書字課題における認知的負荷と運動的負荷が運動制御・筋活動・脳波活動に及ぼす影響
渥美 結月(杏林大) 他
10:00 - 10:15
後期旧石器時代から新石器時代にかけてのユーラシアにおける人類集団の拡散二層モデル:頭骨3次元形状解析による検証
松村 博文(札幌医科大) 他
母親による死児への世話と生存活動の両立―野生ヤクシマザルの事例―
Lee Boyun(総研大) 他
ニホンザルの血縁個体間の顔は似ているか?
上野 将敬(近畿大) 他
10:15 - 10:20休憩
10:20 - 10:35
縄文人脛骨の頑丈性と扁平性は成長過程のいつ現れるのか:断面形状解析による現代日本人との比較
水嶋 崇一郎(聖マリアンナ医大)
展示環境や来園者数が天王寺動物園のチンパンジーの行動に与える影響
永井 亮輔(大阪大) 他
暴言ばく露下における情動情報処理と個人差の検討
西村 悠貴(労働安全衛生総合研究 大) 他
10:35 - 10:50
縄文時代と弥生時代の人口構造―年齢構成と出生率―
五十嵐 由里子(日本大) 他
ガーナ・モレ国立公園のパタスモンキーにおけるロストコールとそのアヌビスヒヒからの戦術的隠蔽
中川 尚史(京都大) 他
偏光光干渉断層計を用いた網膜・脈絡膜構造およびメラニン関連指標と対光反射後持続性縮瞳反応(PIPR)の民族差解析 ―東アジア人とヨーロッパ人の比較―
久瀬 真奈美(久瀬医院) 他
10:50 - 11:05
広田遺跡出土人骨の年代測定-Sr同位体比分析個体を中心に-
高椋 浩史(土井ヶ浜ミュージアム) 他
勝山ニホンザル集団において子ザル養育中でない経産メスが孤児となって1カ月以上経過した生後5カ月と12カ月の子ザルを養子とした事例
中道 正之(大阪大) 他
協和・不協和音に基づく音楽の聴取が脳・自律神経活動に及ぼす影響
波多 航輝(立命館大) 他
11:05 - 11:20
創傷を有す吉野口遺跡(吉備津)出土伝妹尾太郎兼康頭蓋骨
富岡 直人(岡山理科大) 他
秋田市大森山動物園の飼育チンパンジーによるカエル捕食の事例報告
村松 明穂(秋田県立大)
入眠期における色の経験の現象学および神経基盤
平松 千尋(九州大) 他
11:20 - 11:35
人骨のタフォノミーにみる土器棺再葬墓の多様性-環状列石出現期の葬墓制の検討-
永瀬 史人(新潟県立歴史博物館) 他
人類の肉食行動の進化再考
五百部 裕(椙山女学園大)
成人男女の夏季の低山登山時における感情に係る指標変化
髙木 祐介(小松大) 他

3日目【午後】ポスター・受賞講演・合同シンポジウム Part 3

4日目:9月13日(日)【午前】一般発表13号館

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時間会場A13号館 1313教室会場B13号館 1323教室会場C13号館 1331教室
09:00 - 09:15
最古のジャワ原人化石の出土層位:サンギランにおける新たな野外調査からの推察
海部 陽介(東京大) 他
大分県川原田洞穴の再検討Ⅱ
遠部 慎(中央大) 他
マダガスカル,ベレンティ保護区におけるワオキツネザルの30年間にわたる個体群動態
市野 進一郎(国立民族学博物館) 他
09:15 - 09:30
後方歩行における脊柱起立筋および腹直筋の活動様式
岡 健司(和泉大) 他
弥生時代における貝採取季節と集落構造に関する一試案
畑山 智史(中央大)
新潟県妙高市笹ヶ峰地域のニホンザル個体群の系統的位置づけと成立過程
田中 洋之(京都大) 他
09:30 - 09:45
片脚立位における体節間協調―位相同期の方向・周波数特異性による探索的検討
跡見 友章(杏林大) 他
ビルマカニクイザルの全ゲノム解析
松平 一成(琉球大) 他
新たに確認された被害形態:ニホンザルによる木材への食害
大谷 洋介(大阪大) 他
09:45 - 10:00
テナガザルの発声機構と機能形態
西村 剛(大阪大) 他
ネパール高地集団におけるエピゲノムワイドDNAメチル化解析による高地環境応答の分子基盤の探索
安河内 彦輝(関西医科大) 他
糞プロテオミクスによる野生チンパンジーの離乳パターン推定
蔦谷 匠(九州大) 他
10:00 - 10:15
マカクザルとイエネコにおける脊椎の3軸方向の柔軟性と身体運動との関連
日暮 泰男(山口大) 他
米国先住民族における大規模集団ゲノム学解析:トライバル主権を尊重した倫理的枠組みの構築
一色 真理子(東京大) 他
野生ボノボにおける閉経後の長い寿命について
橋本 千絵(京都大) 他
10:15 - 10:30休憩
10:30 - 10:45
身体性×多時間スケール×動的安定性によるレジリエンス基盤の創成
跡見 順子(電気通信大) 他
韓半島南部古人骨のゲノムからみた先史・古代人集団の遺伝的特徴
金 亨哲(国立加耶文化遺産研究所) 他
コモンマーモセットにおけるプロリン型オキシトシン特異的ELISAの評価
毛利 惠子(京都大) 他
10:45 - 11:00
足底腱膜がヒト二足歩行時の鉛直軸周りの回旋特性に与える影響
松本 優佳(神戶大) 他
近世日本のヒト口腔内細菌叢の解析:集団間多様性について
荒川 明(東邦大) 他
重層社会の適応的意義を探る:テングザルにおける腸内細菌叢と寄生虫感染の統合解析
松田 一希(京都大) 他
11:00 - 11:15
直立姿勢・歩行における体幹分節間同期の周波数帯域依存性
田中 和哉(帝京科学大) 他
ニホンザル(Macaca fuscata)における生殖系列 de novo 突然変異の発生率と変異パターン
劉 子嘉(北海道大) 他
腸内細菌叢の発酵能力の評価:ヒトと飼育下の類人猿における比較研究
Wanyi Lee(筑波大) 他
11:15 - 11:30
解剖学的相同変換に基づくヒト脳形態の個体発達および系統発生的変化の統合分析
天野 英輝(東京大) 他
アイヌ民族を対象とした遺伝学的研究の歴史的検討
佐藤 桃子(理研)
マハレにおけるメスチンパンジー白骨遺体の発見と死後過程の復元
島田 将喜(帝京科学大) 他
11:30 - 11:45
アルコール摂取後の主観的酩酊感と注意機能の変化:ALDH2遺伝子型および飲酒傾向との関連
本井 碧(九州大) 他
落下の解剖学:骨資料から復元した若いメスチンパンジーの死亡過程
矢野 航(防衛医科大) 他

4日目【午後】公開シンポジウム

ポスター演題一覧

2日目(9月11日) 一般ポスター21 KOMCEE West B1階 K003(MMホール)

番号演題発表者(所属)
P-01相世界7地域の現代人頭蓋の左右差について谷尻 豊寿(株式会社メディックエンジニアリング) 他
P-02相同モデル解析によるヒト胎児骨盤性差の三次元形態統合の解明金橋 徹(京都大) 他
P-03アッサムモンキーのオトナメスが集団内のメス達から受けた執拗な威嚇や攻撃と死亡の報告吉川 翠(神奈川県博) 他
P-04霊長類におけるMICOS13プロセスト偽遺伝子の多重複挿入竹中 晃子(元 名古屋文理大) 他
P-05ボルネオオランウータンのフランジオスとアンフランジオスによる塩場利用齋藤 智志(東京農業大) 他
P-06ケニア北部コンギア地域から産出した後期中新世動物化石辻川 寛(東北文化学園大) 他
P-07ニシパタスモンキーの飼育および野生集団の遺伝解析Kayang Boniface(University of Ghana) 他
P-08東アフリカ・ケニア北部のコンギア地域における発掘調査報告菊池 泰弘(佐賀大) 他
P-09野生ニホンザルにおける infant handling のアカンボウ選択とその決定要因関澤 麻伊沙(防衛医科大) 他
P-10縄文土偶の性的美しさ:ウエスト/ヒップ比の三次元データ解析森田 理仁(滋賀大) 他
P-11時系列古代ゲノムを用いた琉球列島の人口動態の追跡松波 雅俊(琉球大) 他
P-12仙台市における小学6年生の体格(身長・体重)の90年間にわたる長期経年変動に関する研究黒川 修行(宮城教育大) 他
P-13ニホンザルにおける寛容性の地域間変異と顔面形態に関する予備的検証貝ヶ石 優(奈良女子大) 他
P-14足部運動における視点の違いが脳波活動および主観評価に及ぼす影響―運動観察・運動イメージ・運動実行課題を用いた検討―花房 京佑(杏林大) 他
P-15AIを用いた縫合による人骨の死亡時年齢推定3清水 大輔(中部学院大) 他
P-16高宕山自然動物園の再生状況:動物園再開後4年間の人口動態と繁殖丸橋 珠樹(高宕山のサル観察クラブ) 他
P-17体格分類に基づく身体成熟度の差異に関する検証武山 祐樹(愛知工業大) 他
P-18成体コモンマーモセットにおける顔幅高比(fWHR)と性格の関連横山 ちひろ(奈良女子大) 他
P-19コモンマーモセットにおけるオキシトシン受容体遺伝子のメチル化と性格との関連の検討堀 裕亮(京都大) 他
P-20ヒトの自己認知における多様性の理解に向けたメダカの鏡像認知行動解析秋山 辰穂(北里大) 他
P-21チャンドマン遺跡出土人骨における仙椎遠位の形態的特徴―乗馬習慣に関連する外傷の可能性についての検討―藤澤 珠織(⻘森中央学院大) 他
P-22下本山岩陰遺跡出土の2号女性人骨における四肢骨の計測的特徴長谷川 廉(岡山理科大)
P-23ニホンザルのコンタクトコール鳴き交わしにおける応答の有無に応じた音響的特徴の変化勝 野吏子(大阪大) 他
P-24日本列島人の熱産生多様性は二重構造説で説明できるか石田 悠華(東京大) 他
P-25スマトラオランウータン浅・深指屈筋に見られた新たな形態的所見江村 健児(四條畷学園大) 他
P-26高宕山自然動物園における学会エクスカーションおよび観察会の開催報告白井 啓(野生動物保護管理事務所) 他
P-27ヒト乳幼児を対象とした自己鏡像認識課題の再検討:マークテストにおける評価指標の細分化兪 リラ(立教大) 他
P-28ヒト大腿骨における皮質骨多孔性と骨幹部マクロ形態の関連性弦本 敏行(⻑崎大) 他
P-29バヤン・ボラク城址出土の漢・匈奴期人骨にみられる殺傷痕に関する考古・法科学的分析岡崎 健治(鳥取大) 他
P-30床反力モーメント成分と歩行速度が代謝に及ぼす影響安陪 大治郎(九州産業大) 他
P-31四肢の運び順に注目した支持基底面サイズの比較:霊長類と非霊長類の予備的報告後藤 遼佑(群馬パース大) 他
P-32東アジア集団における食事誘発性熱産生の個人差に影響する要因の探索金 艶妍(東京大) 他
P-33入浴による体温上昇度の違いが入浴後の深部体温および末梢からの放熱指標の推移に与える影響古賀 弘子(株式会社ノーリツ) 他
P-34五島列島浜郷遺跡出土弥生人女性個体にみられた距骨骨折と踵骨病変久保 大輔(北海道大) 他
P-35なぜ祖先の遺骨は収集され,「研究資料」とされたのか―アイヌ・琉球の人びとの問いに人類学はどう答えるのか瀬口 典子(九州大)
P-36浜郷遺跡より出土した西北九州弥生人の大腿骨のCT画像を用いた形態解析と男女間比較遠藤 大輔(⻑崎大) 他
P-37成熟相対体重指数(MRWI)の提唱:成熟年齢を加えた幼児期の肥痩識別早川 健太郎(名古屋経済大) 他
P-38腰椎前弯角の変化が腰椎椎体の応力分布に及ぼす影響 ―有限要素解析による検討―西 啓太(⻑崎大) 他
P-39ヒトの形態特性と暑熱・寒冷環境下における体温調節反応との関連名倉 尭哉(九州大) 他
P-40医療的ケア児の訪問看護に関する興味・自信の構造と心理的要因の検討:医療的ケア児訪問看護未経験の訪問看護師向け,教材開発における事前調査より山本 直子(⻑崎県立大) 他
P-41色覚・世代の違いおよび照明環境を考慮したフロアマップ配色の視認性評価福田 裕美(北九州市立大) 他
P-42沖永良部島イクサィヨー洞穴遺跡第7次発掘調査速報竹中 正巳(志學館大) 他
P-43個別中立気温を基準とした暑熱・高湿度環境における体温調節応答およびその個人差の検討堀内 扇流(九州大) 他
P-44縄文時代から江戸時代にかけた距骨形態の集団差萩原 康雄(新潟医療福祉大) 他
P-45エピジェネティッククロックを用いたモンゴル人集団における生物学的老化機構の探索稲葉 勇太(東京大) 他
P-46夜のアルコール摂取が行動抑制課題時の脳活動に与える影響安田 幸太郎(九州大) 他
P-47近年における幼児の世界的身長分布と環境要因との関係構図可兒 勇樹(大阪成蹊大) 他
P-48色覚マイノリティのニシチンパンジーはどこから来たのか?早川 卓志(北海道大) 他
P-49ニホンザル(Macaca fuscata)に対する動物観の多様性~高校生と高齢者の比較から~赤見 理恵(日本モンキーセンター) 他
P-50世界9地域における思春期発育スパート発現様式の比較-グローバルデータを用いた発育速度曲線解析-田中 望(東海学園大) 他
P-51沖縄県具志川島遺跡群出土の焼人骨について屋比久 大翔(沖縄県立埋蔵文化財センター) 他
P-52二重構造モデルを背景とした近代日本人地域集団の顔面骨格形態変異:三次元幾何学的形態測定による予備的検討大野 憲五(佐賀大) 他
P-53新潟県長岡市本行寺に安置されている南北朝頭蓋の復顔川久保 善智(佐賀大) 他
P-54モンゴル高原人骨の安定同位体分析による帝国の興亡が食習慣に与えた影響の考察板橋 悠(筑波大) 他
P-55日本モンキーセンターにおける学校連携の20年 ~霊長類学・人類学の裾野を広げる取り組み~高野 智(日本モンキーセンター) 他
P-56小学校における「人類の出現から旧石器時代」に関する歴史学習の必修化を求める声明日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会
P-57小学校学習指導要領(社会科)の改訂に対する要望日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会
P-58小学校教科書における旧石器時代の記載の変遷と学習指導要領日本旧石器学会
P-59小・中・高における人類進化の歴史に関する学習の段階的文理融合構想:人類学普及委員会の活動と提言人類学普及委員会(日本人類学会)

3日目(9月12日) 若手発表賞ポスター同上

番号演題発表者(所属)
YP-01マレーシア・サバ州キナバタンガン下地域におけるテングザルの個体群存続と生息地の分断化:20年間の個体群調査とGIS評価Fitri-Suhaimi Muhammad Nur(Kyoto University) 他
YP-02ベトナム・ヴァンソン寺院におけるコンソンカニクイザル (Macaca fascicularis condorensis) の個体の社会特性が人間ーマカクザル相互作用に及ぼす影響Chua Amos(京都大) 他
YP-03霊長類進化における骨化タイミングの異時性とモジュラリティ富澤 佑真(中山大) 他
YP-04機械学習に基づいた3Dヒト顔面形態からの年齢・性別・体重・身長の予測宮崎 晴雅(琉球大) 他
YP-05首里城から出土した糞石の古代プロテオーム解析佐藤 萌加(総研大) 他
YP-06木材精油のニオイが中学生の生理面に与える影響:ニオイ知覚の有無に着目した実験的検討坂口 大和(森林総研) 他
YP-07千葉市動物公園のニホンザルにおける食物洗い行動の至近要因吉田 彩乃(東邦大) 他
YP-08仏像とヒトの顔貌の地域間多様性に関する学際的研究西川 有理(東海大) 他
YP-09起立時の重力ストレスに対する咀嚼運動の循環補償作用堀田 駿(九州大) 他
YP-10飼育霊長類の水分摂取量について安達 希(京都大) 他
YP-11古代人ゲノムに向けたハプログループ推定法の確立および大規模Y染色体データによる日本列島父系集団の遺伝学的解析小林 龍世(北海道大) 他
YP-12交雑個体を含む混群の社会関係―セピロクのカニクイザル・ミナミブタオザル交雑群の事例―金原 蓮太朗(京都大) 他
YP-13脳血流調節における因果推定について金城 仁(千葉大) 他
YP-14野生ニホンザル(Macaca fuscata)における糞中コルチゾール濃度の季節変動Nabilla Rizky Fitriana(奈良女子大) 他
YP-15離合集散を模した飼育形態を利用した,離別時間がチンパンジーの挨拶行動に与える影響の検討水野 慧(中央大) 他
YP-16山形県北町遺跡における古代堆積物ゲノム解析の試み柿沼 恒熙(東京大) 他
YP-17霊長類における栄養吸収機能の種間比較に向けた、小腸オルガノイド単層培養系の構築石村 有沙(京都大) 他
YP-18動画再生速度の違いが映像視聴中の瞬目同期に及ぼす影響安藤 裕暉(玉川大) 他
YP-19嵐山ニホンザルにおける口使用毛づくろいの広まり柴田 尚輝(京都大)
YP-20狩猟採集民の食餌幅と人口動態の数理モデル:食糧生産民との関係性河西 幸子(東京大) 他
YP-21古代ゲノムからみる 日本列島のイノシシ属の利用の歴史糸井 梨香子(総研大) 他
YP-22人骨表面のタフォノミー痕跡からみた中世日本の埋葬行為皆川 真莉母(東京都立大)
YP-23ニホンザル嵐山群のオトナオスによる他個体同士の喧嘩への介入行動が起こる条件奥田 雪乃(京都大)
YP-24野生二ホンザルにおける視線依存行動とコルチゾール値との季節特異的関連村松 祐莉(奈良女子大) 他
YP-25古代ゲノム解析による保美貝塚盤状集積埋葬人骨の血縁解析脇山 由基(東京大) 他
YP-26縄文人型のFADS1ハプロタイプは狩猟採集民にみられる遺伝子発現量低下と相関する鈴木 飛翔(京都大) 他
YP-27高齢者における日常生活習慣が暑熱曝露時の体温調節反応に及ぼす影響松井 純平(九州大) 他
YP-28中等度の冷水負荷におけるCIVD反応とその個人差に関する研究大神 仁美(九州大) 他
YP-29ヒトにおける歩行姿勢による歩行と呼吸リズムの同期の変化南 円香(大阪大) 他
YP-30若年者における連続的な入浴介入が暑熱曝露時の生理反応に及ぼす影響瀧 亮太(九州大) 他
YP-31交尾期のニホンザル雄における陰茎勃起の動態油目 直己(京都大)
YP-32東南アジアの多様な生業形態を示す集団における比較トランスクリプトーム解析木曽 菜穂(東京大) 他

3日目(9月12日) 中高生ポスター同上

番号演題発表者(所属)
HP-1子を含むチンパンジーの群れにおけるコミュニケーション行動戸泉 衣織(熊本大学教育学部附属中学校)
HP-2公益財団法人日本モンキーセンターでの科学研究実践活動大井 咲歩(南山中学校女子部)他
HP-3血縁のない若齢ゴリラの雌雄関係はどのように変化するのか −アニーとゲンタロウの場合−岡部 啓梧(桐朋高等学校)
HP-4カタカナ略語において子音が形成に及ぼす影響渡辺 彩里(国分寺高等学校)
HP-5ヒト椎骨における上関節突起の連続的変化小西 祐翔(大宮国際中等教育学校)
HP-6下太田貝塚の埋葬から見る縄文人の集団構造川口 絢士(成田高校)

3学会合同シンポジウム

S-01〜S-03 東京大学駒場キャンパス 13号館1323教室(会場B)

S-01 Part 1 9月11日(金)15:25~17:05
『「適応」とは何か:遺伝・進化・生理からみた人類の多様性』
世話人:太田博樹(日本人類学会、東京大学)

日本霊長類学会・日本人類学会・日本生理人類学会は、それぞれが研究対象としてきた時間スケール、時代、生息・生活環境などが異なることが多く、「適応」という語に込める意味も必ずしも同一ではない。日本人類学会と日本霊長類学会は、人類および霊長類の進化過程における環境との関係を重要なテーマの1つとしてきた。これに対し、日本生理人類学会は、高度に技術化された現代社会の生活環境の中で、ヒトが示す生理的反応やその多様性を中心に扱ってきた。そのため、生理人類学における「適応」は、進化的適応というよりも、「順応」あるいは「馴化」に近い意味を帯びることが多い。

一方、進化研究においても、生態学、形態学、遺伝学のアプローチの違いにより、「適応」が指す現象や時間スケールには微妙な差異がありそうだ。たとえば、遺伝学的研究では、生存にとって有利な変異が世代をこえ集団中に急速に広まる現象を「適応」と考える。すなわち「世代をこえる」ことが重要な前提となるが、生態学や形態学では機能的に有利であることを適応的と表現することがある。過去3年にわたり日本人類学会大会で継続的に開催してきたシンポジウム「環境適応とその多様性」での議論では、こうした違いが明らかになる一方で、環境に対する人類の多様な応答を理解しようとする共通の関心も確認されてきた。

本シンポジウムでは、ゲノム進化、二足歩行に関わる形態・運動機能、光環境と概日リズム、霊長類の生態、集団ゲノム、生理機能からみた適応戦略を横断し、環境と人類の関係を多面的に議論する。3学会が集う本大会は、近接しながらも異なる視点をもつ分野が互いの言葉を照らし合わせる貴重な機会である。本シンポジウムでは、「適応」という語の多義性を分断や混乱としてではなく、人類学的研究を広げるための契機として捉える。異分野をつなぐ対話を通じて、人類の多様性を理解するための新たな共通基盤を探りたい。

講演者

氏名学会所属演題
颯田葉子日本霊長類学会総合研究大学院大学『自然選択と「適応」』
荻原直道日本人類学会東京大学『二足歩行における「適応」』
樋口重和日本生理人類学会九州大学『ヒトの生理反応からみた「適応」の捉え方』

コメンテーター

氏名学会所属
香田啓貴日本霊長類学会東京大学
渡部裕介日本人類学会東京大学
安河内朗日本生理人類学会九州大学

講演要旨

自然選択と「適応」―類人猿におけるUOX偽遺伝子化に伴う適応と進化―
颯田葉子(日本霊長類学会) 総合研究大学院大学・統合進化科学研究センター

ウリカーゼ(UOX)はプリン体の最終代謝産物である尿酸をアラントインに分解する酵素であるが、ヒトを含む類人猿ではこの遺伝子が偽遺伝子化しており、尿酸が体内に蓄積する。我々の研究グループは2002年に、この偽遺伝子化が大型類人猿および小型類人猿の祖先種において独立に起きたことを明らかにした。大型類人猿ではエクソン2のコドン33(アルギニン)におけるナンセンス変異(約1500万年前)、小型類人猿ではエクソン2のコドン18のナンセンス変異、エクソン3の1塩基欠失、エクソン5の1塩基挿入(約1000万年前)のいずれかと、それぞれ異なる変異によって独立に生じている。

本講演では、まず類人猿におけるUOXの収斂的な偽遺伝子化の3つの背景を述べる。第一に、霊長類の共通祖先においてすでにUOXの転写・酵素活性が低下しており段階的に偽遺伝子化が進んだこと。第二に、偽遺伝子化までの過程でCAGアルギニンコドンが異常に蓄積し、偽遺伝子化の「準備」が整えられてきたこと。第三に、GRとAP-1からなるプロモーターモジュールが大型・小型類人猿の分岐以前に獲得されXORの転写活性を抑制したことである。次に、UOXの偽遺伝子化による尿酸の蓄積が及ぼす生理学的・適応的意義について述べる。尿酸は強力な抗酸化物質として活性酸素を除去する。霊長類の進化の初期段階で起きた変異によって霊長類はビタミンCを自前合成できないため、尿酸はその代替として生存上有利に作用した。また、フルクトース代謝の過程で生成される尿酸は脂肪蓄積を促進し、寒冷化が進んだ中新世後期におけるエネルギー確保に有利であった。すなわちUOXの偽遺伝子化は、機能喪失という一見有害な変異でありながら、初期類人猿の適応的進化を助長した可能性が高い。最後に、最近のGWASから同定されている痛風や高尿酸血症に関連する尿酸トランスポーターやALDH2に見られる変異を、進化医学の観点から言及する。

二足歩行における「適応」
荻原直道(日本人類学会) 東京大学・理学系研究科

常習的直立二足歩行の獲得は、ヒトを特徴づける最も根源的な生物学的特徴の一つであり、ヒトの骨盤、大腿骨、足部などの形態的特徴と密接に関係している。これらの二足歩行を支える形態的特徴は、化石人類の移動様式を推定するうえで重要な手がかりとなり、直立二足姿勢の保持、二足歩行の安定性、移動効率などとの関係から議論されてきた。しかし、生物学における「適応」は、本来、ある遺伝的性質が特定の環境下で生存や繁殖に有利に働くこと、そしてそのような性質が自然選択を通じて集団内に広がり、維持される過程を示す概念である。化石資料からは、形態を観察することはできても、その形質の遺伝的基盤や選択過程を直接確かめることは難しい。とはいえ、骨格形態は遺伝的要因の影響を強く受け、身体運動の力学的条件を大きく制約する。そのため古人類学や形態学では、ある形態が二足歩行において機能的に有利であり、結果として適応度の向上に寄与した可能性がある場合、それを「適応的」と論じることが多い。例えば、短く椀状の骨盤は直立姿勢の保持や片脚支持時の体幹安定性に関わり、大腿骨の内側傾斜は膝や足部を身体重心の下に位置づけることに寄与する。また、足部アーチや発達した踵は、体重支持、移動効率、接地時の衝撃緩和、歩行時の効果的な力の伝達に関わる。これらは、二足歩行に関わる代表的なヒトの形態的特徴である。一方で、実際の二足歩行では、神経系が筋活動を時々刻々と調整し、床反力を介して関節運動や身体重心の変動を制御することで、転倒を防いでいる。ロボティクスや制御工学では、路面の変化、段差、外乱、身体条件の変化に応じて、転ばずに二足歩行を維持する能力を「適応」と呼ぶ。このように、二足歩行における「適応」は、進化の過程で形成された身体形態、その形態がもたらす機能的有利性、さらに環境変化のもとで歩行を維持する能力という、異なる時間スケールの意味を持っている。

ヒトの生理反応からみた「適応」の捉え方
樋口重和(日本生理人類学会) 九州大学・芸術工学研究院

ヒトは環境の変化や様々なストレスに対して、多様な生理反応を示す。暑熱環境では体温調節や発汗反応が生じ、精神的ストレスでは自律神経活動やコルチゾル分泌が変化する。これらの生理応答は、生体の恒常性を維持するための基本的な仕組みであり、ヒトが多様な環境で生存することを可能にしている。一方で、このような生理反応は「いつでも」「誰でも」同じように生じるわけではない。同じ環境刺激に対しても個人によって反応の大きさは異なり、さらに同一個人であっても季節や生活環境、健康状態などによって変化する。このような個人間差および個人内差は、現代社会における環境ストレスへの適応能力や健康問題のリスクとも深く関わると考えられる。

このような適応の背景には、異なる時間スケールのメカニズムが存在する。人類が長い進化の過程で自然選択によって獲得した形質は「遺伝的適応」であり、現代人の生理反応の個人差にも影響を与えている。しかし、過去の環境で有利であった形質が、急速に変化した現代の生活環境では必ずしも有利に働くとは限らず、むしろ健康問題の一因となる場合もある。このような進化的ミスマッチの視点は、現代人の適応を理解する上で欠かせない。一方、同一個体が環境の変化に応じて可逆的に生理機能を変化させる現象は、「馴化」と呼ばれる。また、より短時間で生じる生理反応の変化には「順応」という概念が用いられる。このように、生理学における適応は、進化による世代を超えた変化だけでなく、一個体の生涯を通して生じる可塑的な変化も含む概念として捉えられる。

生理人類学では、このような生理反応の個人差を、人類が環境へ適応する仕組みを理解するための重要な特徴として位置付けてきた。本講演では、光環境と概日リズムに関する研究例を紹介しながら、生理人類学における「適応」の捉え方を概説し、現代社会におけるヒトの適応について考えたい。

S-02 Part 2 9月11日(金)17:20~19:00
『プラネタリーヘルス:身体・物質・共生の循環を読み解く』
世話人:山内太郎(日本生理人類学会、北海道大学)

本シンポジウムでは、環境と人類の相互作用を「循環」の観点から問い直す。ヒトと環境のあいだで交わされる物質や共生体の流れ、地球規模から身体内部に至るまで多層的に生じる「見えない現象」を可視化する人類学的アプローチに焦点を当てる。例えば、環境から物質を取り込む「食」と環境へ物質を放出する「排泄」、水・土壌・身体のあいだで生じる物質循環、移動と環境利用、ヒトと多様な生物との共生関係などを取り上げる。対象とする時間軸は現代社会に限定せず、人類進化や人新世も視野に入れて通時的に検討する。ヒトの進化と生物学的多様性を探究する自然人類学、ヒトを霊長類進化の連続性のなかで理解しようとする霊長類学、そして環境への適応を通じて身体と生活の関係を探究する生理人類学という異なる学問的伝統を背景に、それぞれの立場から「循環」という共通テーマを検討する。

霊長類学の立場からは、野生霊長類の食行動や排泄行動に着目し、ヒトを含む霊長類が環境中でどのような物質循環・社会的相互作用を形成しているのかを考える。自然人類学の立場からは、安定同位体分析を用いて骨や歯に記録された物質循環の痕跡を読み解き、人類の食性、移動、水循環や地球化学的景観との関係、環境適応の歴史を復元する試みを紹介する。生理人類学の立場からは、排泄やサニテーションを循環の重要な構成要素として捉え直し、地域住民との参加型アクションリサーチを通じた環境と健康の共創的実践について議論する。

本セッションは、個別研究の紹介に留まらず、「身体」「物質」「行動」「共生」をキーワードとして、人類と環境の関係を再考することを目的とする。異なる学問領域の知見を交差させることで、地域の実践から地球規模の課題までをつなぐ新たな視座を提示したい。そして、プラネタリーヘルスを単なる環境問題や健康問題としてではなく、人類・霊長類・環境の循環的関係のなかで捉え直すことにより、自然人類学・霊長類学・生理人類学の協働が切り拓く新たな研究の地平を展望する。

講演者

氏名学会所属演題
松本卓也日本霊長類学会信州大学『霊長類における食と排泄の自然誌』
申亜凡日本人類学会東京大学『安定同位体から見る身体と環境をつなぐ物質循環』
山内太郎日本生理人類学会北海道大学『サニテーションから紐解くプラネタリーヘルスと共創的実践』

コメンテーター

氏名学会所属
松田一希日本霊長類学会京都大学
中山一大日本人類学会東京大学
恒次祐子日本生理人類学会東京大学

講演要旨

霊長類における食と排泄の自然誌
松本卓也(日本霊長類学会) 信州大学・理学部

プラネタリーヘルスは、人間社会における健康(ヘルス)と、それを支える地球環境(プラネット)の状態を不可分のものとして捉える概念である。本発表では、個体が環境から物質を取り込む「食」と、環境へ物質を放出する「排泄」に関する霊長類学的研究をレビューすることにより、ヒトを含む霊長類が環境中でどのような物質循環や社会的相互作用を形成しているのかを考える。

これまで霊長類学における食の研究では、何を、いつ、どこで、どのように食べるのかという問いを通して、個体の栄養獲得、環境への適応、資源をめぐる競合や分配、さらには社会の形成が論じられてきた。一方、排泄行動や排泄物は、単に不要物を体外へ出す行為ではなく、身体内に取り込まれた物質を再び環境へ戻す過程であると捉えられる。これまで、糞を介した種子散布や社会マイクロバイオーム等に関する研究を通して、霊長類と植物、昆虫、微生物、土壌、および他個体との関係が議論されてきた。食と排泄を連続した行動として捉えることは、「個体」がどこで環境から切り離され、どこまで環境とつながっているのかを問い直すことにも繋がる。

霊長類学が紡いできた自然誌は、人間社会の課題を解決するための教科書ではない。しかし、ヒト以外の霊長類の行動・社会を見つめ、人間の営為と比較することは、人間にとっての常識を逆照射し、課題そのものの捉え方を転回する可能性を秘めていると発表者は考える。本発表では、食と排泄という日常的かつ根源的な行動を手がかりに、個体と環境のあいだ、および個体と個体のあいだに生じる循環を検討し、霊長類学の立場からプラネタリーヘルスを再考するための視座を提示したい。

安定同位体から見る身体と環境をつなぐ物質循環
申亜凡(日本人類学会) 東京大学・総合研究博物館

人類は環境から食物や水を取り込み、その代謝産物を再び環境へ放出しながら生きている。このような人類と環境のあいだの物質循環は、骨や歯などの身体組織に記録される。安定同位体分析は、その痕跡を読み解くことで、過去の人類と環境との関係を復元する手法として発展してきた。

本発表では、炭素・窒素・酸素・ストロンチウム同位体を用いた研究事例をもとに、「身体に刻まれた環境情報」という観点から、人類と環境の循環的関係について考える。まず、炭素・窒素同位体分析を用いた中国新石器時代集落の研究を紹介し、農耕化や生業の多様化が人類の食性にどのような影響を与えたのかを検討する。同一集落内においても異なる食性を示す個体が存在することから、食物を介した物質循環が必ずしも均一ではなく、多様な環境利用や社会的背景を反映する可能性を示したい。

次に、酸素同位体およびストロンチウム同位体を用いた研究を通じて、水循環や地質環境の情報がどのように身体へ取り込まれるのかを考察する。酸素同位体は降水や飲み水を介した水循環を、ストロンチウム同位体は岩石・土壌・植物・動物を介した地球化学的な物質循環を反映する。本発表では、生物利用可能なストロンチウム同位体地図(isoscape)の構築研究を例に、身体に記録された環境情報から人類や動物の移動や環境利用を読み解く可能性について紹介する。

安定同位体分析は、食性や移動の復元にとどまらず、人類がどのような環境のなかで生き、環境とどのような物質的関係を築いてきたのかを理解する手がかりを与える。本発表では、人類の身体を環境との相互作用の記録媒体として捉え直し、人類と環境の循環的関係を考える視点を提示する。そして、過去から現在に至る人類と環境の相互作用を物質循環の観点から捉えることで、人類と環境の長期的な関係性を再考し、プラネタリーヘルスを歴史的時間軸のなかで理解する視点を提示したい。

サニテーションから紐解くプラネタリーヘルスと共創的実践
山内太郎(日本生理人類学会) 北海道大学・保健科学研究院

プラネタリーヘルスは、人間の健康と地球環境の健全性を不可分のものとして捉える概念である。本発表では、排泄やサニテーションを手がかりに、人間と環境のあいだに生じる物質循環を捉え直し、地域社会における共創的実践を通じてプラネタリーヘルスを考える。

サニテーションは、人間のし尿を安全に管理・処理する仕組みであり、公衆衛生、環境保全、人間の尊厳に深く関わる基盤である。しかし近代社会においては、排泄物は「汚物」や「廃棄物」として不可視化され、サニテーションもまたインフラ整備や衛生管理の問題として狭く捉えられることが多かった。一方、人間が環境から物質を取り込む「食」と、環境へ物質を戻す「排泄」を連続した営みとして捉えるならば、サニテーションは物質循環を支える重要な社会的・生態学的装置である。そこには、人間だけでなく、微生物、土壌、水環境、生態系との関係が含まれている。

本発表では、アジア、アフリカ、日本の地域社会で取り組んできたグローバルサニテーション研究を紹介する。インドネシアでは学校へのコンポストトイレ導入と価値連鎖モデルの構築、ザンビアでは都市周縁部における住民参加型の衛生環境改善、日本では地域社会に根ざした水・衛生管理の実践を対象としてきた。これらの事例から、外部から技術や制度を導入するだけでは持続的な変化は生まれにくく、地域住民、子ども、若者が自ら課題を認識し、将来像を共有しながら実践を共創することの重要性が見えてくる。

排泄は、日常的でありながら見過ごされがちな営みである。しかしそれは、身体と環境、生活と生態系、地域の小さな実践と地球規模の課題をつなぐ接点でもある。身体に記録された環境情報や霊長類の行動から見えてくる循環を踏まえつつ、サニテーションを「処理」ではなく「循環のデザイン」として捉え直すことで、生理人類学の立場からプラネタリーヘルスを再考するための視座を提示したい。

S-03 Part 3 9月12日(土)14:30~16:10
『多様性と「正常」のゆらぎ』
世話人:河村正二(日本霊長類学会、東京大学)

ヒトの身体的・行動的・心理的特徴の多様性は、しばしば「正常(あるいは標準・典型・健常)/異常(あるいは特殊・例外・障碍)」などの言葉で二分法・二元論的に理解されてきた。しかし近年の霊長類学、人類学、進化医学、遺伝学の知見は、ヒトの特徴の多くが明確な境界をもつものではなく、連続的で、多様で、環境との関係の中で意味づけられることを示している。進化の視点(特に霊長類学の視点)からヒトを俯瞰すると、ヒトにおいて正常や標準と考えられてきたことが、むしろ異常や特殊なことであったり、逆にヒトの優れた特性と考えられてきたことが、特別ではなかったりすることがわかってきた。ヒトの種内多様性の二分法・二元論的な区分けには、生物学的根拠の有無や、その理解の正誤によらず、歴史的、社会的、文化的に人為によって形成・固定化されてきたものがある。その気づきを共有することは、人為の方向を変えることで、それに起因する差別、格差、不便、機会喪失などの解消への支援に繋がりうるのではないか。一方で、重度から軽度の様々な疾患・健康障碍や、生活上の大小の困難をもたらす状態は確かに存在し、医療的・社会的支援を必要とする。これらは誰もの身近に起こりうる多様性の一部であるという気づきが、関心、理解、支援を喚起できるのではないだろうか。重要なのは、「正常/異常」という単純な二分法を維持することでも、それを全面的に否定することでもない。むしろ、どのような場面で分類が必要とされ、誰のために、どのような支援や社会設計につなげられるのかを問い直すことである。本シンポジウムでは、人類学関連3学会から提供される話題を元に、「正常/異常」という従来の枠組みを再検討する。そして、ヒトの多様性をより深く科学的に理解するとともに、より生きやすい人類社会のあり方を考える契機としたい。

講演者

氏名学会所属演題
山田一憲日本霊長類学会大阪大学『ヒトはどこまでサルか、サルはどこまでヒトか』
米元史織日本人類学会九州大学『古人骨研究からみた文化変容・階層の身体化』
江頭優佳日本生理人類学会国立精神・神経医療研究センター『神経発達症から考える「正常」のゆらぎ』

コメンテーター

氏名学会所属
太田英伸日本生理人類学会金沢大学
松前ひろみ日本人類学会東海大学
河村正二日本霊長類学会東京大学

講演要旨

ヒトはどこまでサルか、サルはどこまでヒトか
山田一憲(日本霊長類学会) 大阪大学・人間科学部

霊長類学は、ヒト以外の霊長類を研究対象とすることで、「ヒトとは何か」を問い直してきた。葉を取り除いた小枝を用いてシロアリ釣りをするチンパンジーが観察されたとき、道具の製作と使用ができる唯一の動物であるというヒトの独自性は問い直されることになった。インセスト回避、社会関係における縁者びいき、イモ洗いのような文化的行動、敵対的交渉が生じたあとの当事者間の仲直りや第三者の介入など、ヒトの特性と考えられてきた<人間らしい行動>が、ヒト以外の霊長類にも見つかった。同種殺しや虐待の世代間伝達といったヒト社会における<異常で逸脱した行動>もまた、ヒト以外の霊長類で生じうるということも明らかになっている。その一方で、子や仲間に対する積極的な食物分配や、利他行動の間接的な交換、そして言語など、ヒトにしかみられない行動があることも明らかになってきた。霊長類学は、ヒトとサルの断絶を信じる者には共通点を、連続性を信じる者には相違点を突きつける。本シンポジウムの目的は、ヒトの多様性を「正常と異常」といった単純な二元論的区分から脱構築することにある。私の話題提供では、ニホンザルの群れがローカルな伝統を築く存在であることや、状況によっては子殺しのような<異常な行動>が生じることを紹介する。ヒトだけが理性や文化を持つ特権的な存在ではないことや、サルの子殺しに見られる合理性に目を向けることで、「正常と異常」のゆらぎを確認したい。そしてその一方で、単純な自然主義的誤謬に陥ることのないように、生物学的な連続性と社会的な規範や制度をどのように切り分けることができるのか、多様なヒトのあり方を社会としてどう包摂していくのか、その議論への橋渡しをしたい。

古人骨研究からみた文化変容・階層の身体化
米元史織(日本人類学会) 九州大学・総合研究博物館

人間集団の多様性は、しばしば男性/女性、縄文/弥生、健常/障碍といった区分やカテゴリーによって理解されてきた。しかし、身体は年齢や性別だけでなく、身体活動、栄養状態、疾病、さらに歴史的には儀礼様式など様々な文化的実践が相互に作用するなかで形成・変容するものであり、古人骨研究が示すように、その境界は必ずしも明瞭ではない。一方で、身体的特徴や行動様式は文化や社会構造の変容に伴って新たな意味を与えられ、特定の集団内部で共有されることで社会的差異として再生産されることがある。

本講演では、主に日本列島出土古人骨にみられる筋骨格ストレスマーカー(MSMs)の通時的比較を通じて、身体的差異が社会の複雑化の過程でどのように組織化されるのかを検討する。対象は縄文時代、弥生時代、中世、近世の各集団である。その結果、MSMsから推定される身体活動パターンの集団間差は近世において最も顕著となり、とりわけ武士層に特徴的な傾向が認められた。縄文・弥生時代においても地域間には生業や自然環境の違いに基づくと考えられる身体活動の差異が推定された。しかし、それらは主として地域的・環境的要因に由来するものであり、専業化がすすんだ社会の、例えば近世武士層にみられるような階層によって特異的に共有される身体活動パターンとは性格を異にする。近世武士層にみられる特徴的なMSMsパターンは、礼法や身体技法、階層規範の共有を通じて形成された、武士層特有の身体習慣の一端を反映している可能性がある。古人骨研究は、そのような身体的差異が歴史的・社会的文脈のなかで共有され、再生産される過程を長期的視点から検討する手がかりを提供する。これにより、本来連続的かつ多様な身体的差異が、社会的に位置づけられ固定化されることで、社会的不均質性として顕在化する過程について考察する。

神経発達症から考える『正常』のゆらぎ
江頭優佳(日本生理人類学会) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部

神経発達症(発達障害)の文脈において『正常』とは常にゆらいでいるとも考えられる。それは神経発達症の診断基準そのものが社会や文化に左右されるという特徴を有するためである。神経発達症は生まれつきの神経発達の偏りにより認知・行動に特徴的なパターンが現れ、本人や周囲の社会生活に支障をきたすことを理由に専門医の診断を受けた状態を指す医学的概念である。神経発達症症状の表出の背景には遺伝、脳、環境それぞれの要因があると考えられ、複数が重なることで神経発達のパターンに偏りが生じ、症状表出に繋がる可能性が指摘されている。近年、この偏りは「あり/なし」ではなく、大小はあるものの誰もが有すると考えられている。偏りが大きいことは診断の一因になるものの、偏りの程度と診断の有無は必ずしも対応せず、その評価には社会や文化の枠組みが影響する。

頻度が高いものに注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)が挙げられ、2026年に発表された論文ではデンマークの18歳までの男児の診断率がADHD9.8%、ASD6.5%であった。診断率の上昇傾向も報告されるが、真に増加しているのか、診断基準の変更や疾患に対する認識の拡大による増減なのかについては検討の余地がある。更に、神経発達症の対照としての定型発達は、全般的な知的機能の問題がない場合は特に固定的な定義をもたず、その認知的・行動的特徴は研究的・社会的文脈に依存する。この点からも、ヒトの認知的特徴における『正常』を定義することの難しさが伺える。

しかしながら、いかに神経発達症が連続体であっても診断を有する当事者にとっては日常生活の困難が大きく、適切な支援や配慮が重要である。その場合『正常』という枠組みは有用なのであろうか。本シンポジウムでは神経発達症の病態仮説に関わる認知機能および特徴を紹介しつつ、社会が想定している『正常』とは何なのかについて、フロアの皆様と共有・議論したい。

公開シンポジウム

第21回人類学関連学会協議会合同シンポジウム 企画担当:日本人類学会

『人間の「集団」とは何か:人類学・人間科学関連9学会からの視点』

動物の「群れ」とはかなり異なる人間の集団。その不思議な本質をさぐるため、9つの視点を交差させながら考えます。

日時2026年9月13日(日)13:00〜16:30(開場12:30)
会場東京大学駒場キャンパス 13号館1323教室(会場B)/オンライン(ハイブリッド開催)
対象どなたでも参加できます。参加費無料。
申込対面参加は申込不要。オンライン参加は https://forms.gle/ErbUDCLcaimWX7zw5 より(申込締切 2026年9月6日(日)、先着500人)
後援東京大学 進化認知科学研究センター/東京大学 心の多様性と適応の連携研究機構
問合せshudan.sympo2026@gmail.com(「集団」シンポジウム事務局)

企画趣旨

人間は、それぞれ何らかの「集団」に属し、その内外で他者と関わり合いながら生きています。私たちは「集団」に属することで安全、利益、やすらぎなどの恩恵を受ける一方、よくも悪くも「集団」の影響を強く受けながら、それぞれの人生を歩んでいます。

では、他の動物たちの「群れ」と異なる、人間の集団の特質とは何でしょう? 地域や時代によって、人間はどのような集団をつくってきたのでしょう? よく耳にする「人種」や「民族」とは、いったいどのような集団なのでしょう? 親類でも旧知の仲でもない人と人を結びつけて集団にする力は、何なのでしょう? ――考えてみると、自身の集団について、私たちは知らないことが意外に多くあるようです。

そこで、人間について研究する9つの学協会が合同で、それぞれの視点から人間の「集団」について語り、互いに議論する場をつくることにしました。この機会に多くの皆様が、人間集団の意外な諸側面に触れながら、議論に加わってくださることを期待しています。

プログラム

時間内容担当
13:00開会あいさつ・趣旨説明海部 陽介(日本人類学会 東京大学総合研究博物館)
13:10〜15:25学術講演(途中休憩あり)司会:蔦谷 匠(日本人類学会 九州大学高等研究院)
15:30〜16:25総合討論司会:海部 陽介
16:25閉会あいさつ河野 礼子(日本人類学会 慶應義塾大学文学部)

学術講演

演題演者(学会)
1霊長類の社会集団における空間の共有と認識の共有竹ノ下祐二(日本霊長類学会)
2狩猟採集民の集団:"Man the Hunter"アプローチの再考高田明(日本文化人類学会)
3「なかま」とは何か――牧畜民ドドスの時間と行為から人間集団を考える河合香吏(生態人類学会)
4つながりすぎない人びと——日本の講集団にみるゆるやかな関係性鈴木昂太(日本民俗学会)
5進化理論からみたヒト集団の協力大槻久(日本人間行動進化学会)
6弥生文化集団とは何か宮本一夫(日本考古学協会)
7ゲノムからみたヒト集団―大陸から都道府県まで、連続性のなかに見える違い―大橋順(日本人類学会)
8ヒト集団における環境適応の多様性と可塑性西村貴孝(日本生理人類学会)
9集団で生きる人間の心と行動:友人、職場、国家・民族をつなぐ社会心理学の視点から縄田健悟(日本社会心理学会)

講演要旨

竹ノ下祐二
1.霊長類の社会集団における空間の共有と認識の共有
竹ノ下祐二(日本霊長類学会 岡山理科大学理学部動物学科)
[プロフィール]専門:霊長類学 岡山理科大学理学部動物学科教授。京都大学で霊長類学を学び、日本モンキーセンター、中部学院大学を経て、2024年より現職。アフリカ大型類人猿の社会生態と保全を研究。ガボン、ムカラバ国立公園における野生ゴリラ長期研究プロジェクトの代表。著書に『新・方法序説』など。

現生の霊長類の多くが群れ生活を送る。群れをつくらない単独性の種の多くは小型で夜行性の原猿類で、真猿類ではオランウータンが唯一の例外である。霊長類の群れの構成はいくつかの類型に分けられる。たとえばテナガザル類は単婚型、ゴリラは一夫多妻型、ニホンザルやチンパンジーは複雄複雌の群れをつくる。ただしこうした基本的な類型の中で、種内や種間で変異もみられる。たとえば、マウンテンゴリラでは一夫多妻型と複雄複雌型の群れが混在する。

このように霊長類の群れのありかたは多様だが、共通するのは、群れが生殖と育児の単位となる、メンバーシップの安定した持続的な両性集団であることである。これを伊谷(1981)は基本的単位集団(BSU)と呼んだ。

BSUの多様性は系統的制約を受けると考えられるが、生態学的要因も大きく影響する。霊長類社会生態学と呼ばれる研究領域では,BSUのありようを、食物資源をめぐる採食上の競合、それに応じたメスの分布、オスとメスの繁殖戦略の違いから生じる対立、捕食者への対処といった生態学的要因の組み合わせから説明する(中川・岡本2003)。

人間の集団の進化的な成り立ちを考える際に、現生霊長類の群れの類型のうちどれが祖型にあたるのかを推定し、そこからいかにして現在のような人間の集団構造が生まれてきたのかを問う試みがなされてきた。しかしBSUとは、個体間の時空間的な共在とそこで生じる実際の社会交渉に基礎づけられるものである。一方、人間が語る「集団」はこれとは本質的に異なる。たとえば家族は必ずしも群居の単位ではなく、成員が離れて暮らすことも珍しくない。家族を家族たらしめるのは空間の共有ではなく「家族」という概念そのものであり、そのメンバーシップは想像的で、直接会ったことのない親族すら含みうる。すなわち、空間ではなく認識の共有を基盤とする。

したがって、人間の集団概念(家族、地域社会、国家など)を、重層社会や一夫多妻型の群れといった霊長類の社会構造に安易になぞらえることには注意が必要だ。両者は同じ「集団」という言葉を使いながら、異なる位相の現象を指している可能性があるからだ。

高田明
2.狩猟採集民の集団:"Man the Hunter"アプローチの再考
高田明(日本文化人類学会 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
[プロフィール]専門:人類学、アフリカ地域研究 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教授。京都大学で心理学、人類学、アフリカ地域研究を学び、2022年より現職。狩猟採集社会の子育てや環境知覚、エスニシティの形成について研究。著書に『ブッシュマンの子育て』、『狩猟採集社会の子育て論』、『Hunters among farmers』、『The ecology ofplayful childhood』、『相互行為の人類学』など。

18世紀の思想家ルソーは、原罪を想定するキリスト教的な人間観に対抗するように自然人(Natural Men)、すなわち不平等がほとんど存在せず、争いのない人々の姿を思い描いた。それから約1世紀を経て行われたGaltonらによるサン(ブッシュマン)の調査は、ルソーの自然人を再発見したかに思えるような報告を行った。さらに20世紀の後半に入ると、米国のハーバード大学のRichard LeeとIrven DeVoreを中心とする研究者グループが経験論的な人類学的調査を行い、やはりルソーの自然人と呼応するような狩猟採集社会像を描いた。その成果は“Man the Hunter”(Aldine,1968)としてまとめられ、人類学のみならず隣接する研究分野や一般社会にも大きな反響を呼んだ。

おそらくはそのインパクトが大きかったが故に、“Man the Hunter”というフレーズが呼び起こすイメージには、さまざまな批判が行われてきた。サンのような現代の狩猟採集民を対象とした調査に基づいて人類の始原的な姿を論じることの問題や男性・狩猟を重視するように聞こえるジェンダー観の問題は、そうした批判の最たるものである。実際には、ハーバード・グループなど初期の研究者もそうした問題に自覚的であった。彼ら・彼女らはすでに“Man the Hunter”で紙幅をさいて、狩猟採集社会の変容や女性の採集活動の生計における大きな貢献について論じている。

こうした議論はさらに、その後の学際的な論争へとつながっていった。それを通じて、狩猟採集社会をめぐって新たな経験論的データが蓄積されるとともに、民族的境界を越えた個人の移動、それと関連したアイデンティティの再編や多重化の問題が論じられるようになった。また、狩猟採集社会における父親や他の養育者による子育てへの大きな貢献が示され、人間社会における共同養育の意義が盛んに論じられている。

これらを考慮すると、"Man the Hunter"アプローチは、すでに近代の初期から人口に膾炙していた興味・関心に応えたことよりも、これから明らかにしていくべき多くの学問的な問いを生み出したことにその重要性があると考えられる。そして、さらなる経験論的データの収集の必要性と学際的アプローチの重要性は現在もますます高まっている。

河合香吏
3.「なかま」とは何か――牧畜民ドドスの時間と行為から人間集団を考える
河合香吏(生態人類学会 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
[プロフィール]専門:生態人類学 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)教授。博士(理学)。北海道大学、京都大学にて生態人類学を学び、静岡大学助教授、AA研助教授、准教授を経て、2014年より現職。東アフリカ牧畜社会研究、および霊長類学と人類学の協働に基づく人類の社会性の起原と進化の共同研究を推進。著書に『野の医療』、編著に『関わる・認める』、『社会性の起原と進化始論』など。

「人間の集団とは何か」という問いを、制度的な所属や集団の境界ではなく、日常語である「なかま」を手がかりに考察する。議論の出発点は、大学の学部時代に所属していた山系サークルの創部70周年祝賀会での経験である。卒業以来40年近く会っていなかった人びととの再会でありながら、自分が何者であるかを説明したり、話し方や振る舞い方を確認したりする必要はなかった。かつてと同じ呼び方や調子が、その場でただちに共有されたからである。このような関係は「なかま」としか呼びようがない。

生態人類学は、人間を、環境のなかで動植物や事物、他者と相互作用しながら生きる存在として考える。人間どうしの関係も、同じ相手や環境との相互作用を繰り返すなかで、互いの振る舞いや距離が調整されて成立する。この観点から、「なかま」を「関係のしかたや振る舞い方を、説明や確認なしに共有できる人びと」と仮定義する。その共有を理解するうえで重要なのが時間である。「なかま」とは、かつて同じ状況のなかで行為をともにし、互いの振る舞いを調整してきた時間が、現在の行為を支える関係である。過去に蓄積された関係の形式は、長い空白を経た後にも、再会の場で再び機能しうる。

この点を、ウガンダの牧畜民ドドスによる家畜の略奪(レイディング)集団の事例から検討する。レイディングに参加する人びとは、親族、姻族、友人、知人など、さまざまな関係にある人びとが、そのつど具体的な行為に向けて集まる。参加者の編成を左右するのは実践的な判断であり、その背景には、過去の行為を通じて得られた、互いの力量や振る舞いについての認識がある。危険な場面での態度、家畜を扱う技量、地形に関する知識、他者の判断を聞く能力などが記憶され、それが現在の共同実践を支えている。

「なかま」は、ある行為をともにするときに、過去の経験とともに現れる関係である。この視点は、「集団」を、現在そこにいる人びとのまとまりとしてではなく、何をともに行為できるのか、その可能性がどのような時間の蓄積によって支えられているのかという問題として捉え直す。このような時間性を帯びた関係の形式を「なかま」と呼びたい。

鈴木昂太
4.つながりすぎない人びと——日本の講集団にみるゆるやかな関係性
鈴木昂太(日本民俗学会 国立民族学博物館)
[プロフィール]専門:日本民俗学、芸能史研究 国立民族学博物館(民博)人類文明誌研究部准教授。慶應義塾大学、総合研究大学院大学で民俗学・文化人類学を学び、東京文化財研究所研究補佐員、民博助教を経て、2025年より現職。日本の民俗芸能、特に神楽に関わる人や組織、儀礼の研究をしている。主たる著書に『比婆荒神神楽の社会史:歴史の中の神楽太夫』がある。

人間は1人で生きてはいかない(いけない)。人が集い共同生活するようになると、そこに社会が生まれる。われわれは、どのような社会的つながりの中で生きているのだろうか。こうした疑問を考える上で、血縁・地縁・職縁・約縁などといった「○○縁」という概念を導入してみよう。生まれ、育ち、学び、働き、老い、死ぬ、その過程ではさまざまなトラブルや困難が起こりうるし、単独では実現できない大事業をやらないといけない時もあるだろう。そうした時に人は、他者とつながり、さまざまな縁を利用し、そこから利益を得てきた。人はゲンキンな生き物で、嫌なやつとはそもそも付き合わないが、なんらかの得があれば戦略的に我慢しながらつながることもありうる。その一方で、現在は誰ともつながれず孤立する無縁という社会問題も生じている。

こうした縁のうち、本発表では「約縁」に注目する。約縁は、目的や関心を共有する人々の約束(参加の意思)により生じるつながりで、サークルや同好会など同じ目標に向かって集まるグループのことをいう。自発的に選択可能でゆるやかな関係性が特徴である。このような約縁集団の例として、日本における伝統的な結社である講・講集団を取り上げる。講は、何らかの目的を達成するために結成された組織である。地域共同体を母体とする場合もあるが、必ずしも地縁は必須ではなく、1地区や1つの村などを単位とする小規模なものから、市町村や都道府県を単位とする大きな規模の組織もある。その性格もさまざまで、信仰・属性・趣味・職業・課題など多様な共通性・目的に基づいて組織が結成される。たとえば、みんなで順番に伊勢神宮を参拝しよう(=伊勢講)、毎月決まった日に集って念仏を唱えよう(=念仏講)、みんなでお金を融通し合おう(=頼母子講・無尽)、といったように目的毎に数多の講が結成された。こうした講は、今でいう非営利組織(NPO)に近い性格を持つ。その歴史は古く平安時代まで遡り、日本社会の中で1000年以上にわたり機能してきた集団である。

本発表では、講集団という日本における伝統的な結社のカタチ(約縁)を基に、人々が他者を巻き込んでどう自己実現を果たしてきたのかを紹介していく。それにより、歴史民俗学のアプローチから人間にとっての他者とつながる意味を考えてみたい。

大槻久
5.進化理論からみたヒト集団の協力
大槻久(日本人間行動進化学会 総合研究大学院大学統合進化科学研究センター)
[プロフィール]専門:数理生物学 総合研究大学院大学統合進化科学研究センター教授。九州大学大学院にて数理生物学を学び、Harvard大学ポスドクフェロー、日本学術振興会特別研究員PD、JSTさきがけ専任研究者、総合研究大学院大学先導科学研究科を経て、2025年より現職。数理モデルを用いた進化研究に従事。特に協力行動の進化的起源と維持機構に関し、社会性昆虫や霊長類等、幅広い分類群について理論研究を行っている。

ヒトという種の大きな特徴の一つとして、その高い社会性を挙げることができる。赤ん坊が未熟で生まれることにより、養育に際し両親のみならずコミュニティーからの協力が必要になったこと、狩猟食物を獲得するために複数人で共同してタスクをこなす必要が生じたことなどは、いずれも協力の必要性を押し上げた要因である。

進化生物学において、協力を達成するメカニズムは長年に渡って研究されてきた。それらは血縁によるものと、互恵性によるものに大別される。血縁とは親族関係、すなわち遺伝子の共有を通じた個体間の関係性であり、血縁者への協力は自己が持つ遺伝子を間接的に助けていることになるから協力は進化すると説明される。一方で互恵性とは、他者に協力を与えた個体がその後に協力をお返ししてもらうことを指し、この相互関係が協力を進化させる。血縁による協力が幅広い分類群に当てはまるのに対し、互恵性はヒト特有(もしくは控えめに見積もっても、ヒトにおいて特徴的)であると考えられている。

本発表では互恵性の中でも特に、社会的評判を通じた集団内での協力行動の受け渡しである「間接互恵性」について、実証研究および理論研究によって知られていることを概説したい。間接互恵性では、Bに協力したAは、その後にB自身からお返しされるのではなく、Aの社会的評判を知った第三者Cから協力を受ける。ここで重要となるのは、自らは協力しないが他者からは協力を受けるようなフリーライダー(ただ乗り者)の存在である。間接互恵性場面において、ヒトはいかに評判を操り、そしてその評判を用いてどのように協力を維持し、フリーライダーに対して頑健な集団を築き上げているか。これらの疑問に関する最新の知見を紹介する。

宮本一夫
6.弥生文化集団とは何か
宮本一夫(日本考古学協会 四川大学考古文博学院)
[プロフィール]専門:東アジア考古学 四川大学文科講席教授、九州大学名誉教授。京都大学で考古学を学び、九州大学を経て、2025年より現職。東アジアにおける古代国家形成過程の比較研究。著書に『東北アジアの初期農耕と弥生の起源』、『東アジア青銅器時代の研究』、『東アジア初期鉄器時代の研究』など。

人間集団を考古学で明らかにすることは難しい。物質文化の様々な様式(土器、石器、住居、集落、墓制など)の集合体が文化様式とすることができ、これを社会集団と仮定することはできるが、実際にそれらが当時の人間集団を表していたかは証明しがたい。そのような条件の下で、縄文文化と弥生文化を比べた場合、狩猟採集社会(原始栽培を含む)と水田による灌漑農耕社会といった生業区分だけでなく、土器様式、石器様式、集落形態、墓制などに大きな違いを見せている。この中で、生活様式に密接な土器様式を比べた場合、縄文文化と弥生文化では、器種や形態、文様に大きな違いを見せているだけでなく、土器の製作技術に大きな違いが認められる。

弥生時代(灌漑農耕社会)は北部九州に紀元前9~8世紀に始まり、大陸系磨製石器、環濠集落、支石墓・木棺墓(列状埋葬墓)といった朝鮮半島南部の無文土器文化に由来する文化属性が次第に付加されていく、縄文文化から弥生文化への移行期が北部九州にのみ存在する。土器様式は、縄文土器文化の刻目突帯文土器(夜臼Ⅰ式)に、無文土器文化系統の壺や板付祖形甕といった土器が加わり、紀元前6~5世紀に弥生土器文化の板付式(遠賀川式)土器が成立する。この段階で、無文土器文化と同じ粘土帯、外傾接合、ハケメ調整、覆い型野焼きといった縄文土器とは全く異なった土器製作技術に転換する。このような物質文化の大きな転換に、少数の朝鮮半島南部からの渡来民と縄文人との遺伝的交配は存在したであろうが、朝鮮半島南部の情報を北部九州の縄文人が受け入れ、弥生文化を生み出していった。その情報の共有には、共通の言語である日本語が介在していた可能性がある。板付(遠賀川)式土器様式は、水田、大陸系磨製石器、紡錘車、環濠集落、列状埋葬墓を伴い、弥生時代前期(紀元前6~4世紀)には、西日本から東海西部まで広がっていく。弥生時代前期には、これらの地域に弥生土器文化集団が存在したが、それ以西には農耕を持った縄文土器文化集団が存在した。その後、次第に弥生土器文化集団が東進し、弥生時代終末から古墳時代前期には、東北南部まで広がっている。その北の東北北部から北海道は、続縄文文化社会が広がっていたのである。

大橋順
7.ゲノムからみたヒト集団―大陸から都道府県まで、連続性のなかに見える違い―
大橋順(日本人類学会 東京大学大学院理学系研究科)
[プロフィール]専門:ヒト進化遺伝学 東京大学大学院理学系研究科教授。東京大学で人類遺伝学と生物人類学を学び、2021年より現職。ヒトゲノムの多様性情報を利用して、アジア人とオセアニア人の移住・混交やその過程で作用した自然選択について研究している。

ヒトは一つの種であり、世界各地の集団は長い歴史のなかで移動と交雑を繰り返してきた。そのため、集団間の遺伝的な違いは明確な境界で区切られるものではなく、基本的には連続している。一方、ゲノム上の一つひとつの多型をみると集団間の違いはごく小さいものの、数十万から数百万か所の情報をまとめて解析すると、アフリカ・ヨーロッパ・東アジアなどの大陸規模の集団だけでなく、日本列島内の地域集団、さらには都道府県集団の間にも、集団の成立過程や人々の移動を反映した遺伝的特徴が見えてくる。また、こうした特徴を利用すれば、ある個人がどの集団と遺伝的に近いか、その祖先がどの地域に由来する可能性が高いかを確率的に推定することもできる。本講演では、ヒト集団を固定的な区分としてではなく、互いにつながりながら少しずつ異なる遺伝的連続体として捉え、ゲノム解析がその微細な構造をどのように描き出すのかを、大陸集団から日本の都道府県集団までの例を通してわかりやすく紹介する。

西村貴孝
8.ヒト集団における環境適応の多様性と可塑性
西村貴孝(日本生理人類学会 九州大学大学院芸術工学研究院)
[プロフィール]専門:生理人類学 九州大学大学院芸術工学研究院准教授。九州大学で生理人類学を学び、2013年に長崎大学医学部助教、2020年に九州大学講師を経て、2024年より現職。現生人類の環境適応能について、生理学的実験とフィールド調査の双方から研究を行っている。近年は古人類の環境適応能にも関心を広げ、研究を進めている。写真はネパールの高山地帯。

ヒトは出アフリカ後、急速に世界へと拡散し、寒冷地域、高山地域、熱帯地域など過酷な環境に適応してきた。特に気温環境への適応は重要であり、我々ヒトは暑さや寒さに対して、深部体温を常に一定に保つように体温調節系が働く。例えば暑いときは血管拡張と発汗により速やかに放熱を行い、寒いときは血管収縮と産熱により体温を維持・上昇させようとする。温暖なアフリカで長い時間を過ごした人類は、効率的な発汗機能の獲得により基本的には暑さには強く、長距離を走る能力にも優れている。ところが出アフリカ後は、地球は最終氷期を迎え、寒い中を我々の祖先は拡散していった。この過程において、高緯度地域への拡散・定住は、衣服や住居などの文化的適応に加えて、形態的・生理的適応も重要な役割を果たしたと考えられる。

こうした環境適応には、集団間の多様性が存在する。例えば皮膚の色は、日照時間の減少に対して効率的にビタミンDを合成できるようにした結果である。また世界の人類集団を俯瞰すると、高緯度地域では体格が大きい傾向があり、これは動物に適用されるアレン・ベルグマンの法則と一致することを示唆する。ところが、ヒトの場合、これらに加え生理的適応もあり、豊富な動物資源を持っていた極北のイヌイットは高産熱型の適応を示す。一方で、オーストラリア先住民は、5℃を下回る夜間において、家も服も持たないが、体表面の強い血管収縮により魔法瓶のように体温を維持する適応を示す。このような集団間の多様性は、その地域において食料資源や他の環境要因により自然選択を受け、体温調節系が最適化されていった結果と考えられる。一方で、個人レベルでも環境適応能には多様性(個人差)と可塑性が存在する。例えば、汗をかきやすい人や寒さを感じやすい人がいることは個人差の一例である。可塑性とは、夏には暑熱順化によって発汗しやすくなり、冬には褐色脂肪組織が活性化して熱産生能力が高まるなど、環境に応じて体温調節機能が変化することを指す。これは短期間で起こる適応現象であり、順応や順化と呼ばれる。このように本講演では、体温調節に関わる適応現象を中心に、ヒトの環境適応能の多様性と可塑性について概説する。

縄田健悟
9.集団で生きる人間の心と行動:友人、職場、国家・民族をつなぐ社会心理学の視点から
縄田健悟(日本社会心理学会 福岡大学人文学部)
[プロフィール]専門:社会心理学,集団力学,産業・組織心理学 福岡大学人文学部准教授。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。博士(心理学)。集団における心理と行動をテーマに研究を進め,特に集団間紛争や組織のチームワークを研究対象としている。著書に『暴力と紛争の”集団心理”』、『だけどチームがワークしない』など。

本講演では,社会心理学における「集団」の視点を手がかりとして,身近な友人関係から職場のチームワーク,国家・民族をめぐる集団間紛争までをつなぎ,集団の中で生きる人間の心と行動について紹介する。

社会心理学とは,他者や社会的環境との関わりのなかで,人間がどのように考え,感じ,行動するのかを明らかにする学問である。その対象は,個人の心理から対人関係,集団,さらには社会・文化的な文脈まで広がりがある。

社会心理学における「集団」とは,複数の人々からなり,その間に心理的・行動的な結び付きがあるまとまりを指す。これは,私たちが日常的に用いる「集団」という言葉に比較的近い概念である。友人同士や少人数のグループのような小集団だけでなく,職場や組織,さらには国家や民族のような大規模な集団も研究の対象となる。また,人類が集団で生活してきた進化的背景から,現代の職場や組織における集団過程まで,多様な時間的・理論的視点から集団の心理と行動を捉えている。

人は集団の中で,周囲の人々に合わせる「同調」や,一人で作業するときよりも努力をしなくなる「社会的手抜き」を示すことがある。その一方で,共通の目標に向かって協力したり,優れたチームワークを発揮したりすることもある。さらに,集団への所属意識は,「我々」と「彼ら」という区別を生み,これが国家や民族の間の対立や集団間紛争につながる場合もある。このように,友人関係,職場,国家・民族という一見異なる場面にも,集団で生きる人間に共通する心理が働いている。

このように人は,集団の中で他者と協力し,支え合う一方で,ときに同調し,対立し,争うこともある。集団という視点から人間の心と行動を捉えることは,身近な人間関係や職場のあり方を理解するとともに,社会の分断や紛争に対処するための手がかりにもなる。本講演を通して,集団が人間に果たす役割について考えていきたい。

中高生ポスター発表 要旨

HP-1〜HP-6 2026年9月12日(土)12:35-14:05 21 KOMCEE West B1階 K003(MMホール)
中高生ポスターは、若手発表賞ポスターの奇数番号と同じコアタイム(12:35-13:20)に発表します。表彰式は14:05-14:15、同会場で行います。

HP-1 子を含むチンパンジーの群れにおけるコミュニケーション行動
戸泉 衣織(といずみ いおり、熊本大学教育学部附属中学校3年)
Iori Toizumi (Junior High School Attached to Faculty Education, Kumamoto University, 3rd)

チンパンジーはジェスチャー、音声、接触、表情など様々な方法を組み合わせコミュニケーションをとっている。そしてコミュニケーションの際、ヒトと異なり、自分にとってメリットがあるか、互恵的な交換が成立しているかを考えている。本研究では接触やジェスチャーというコミュニケーション方法に焦点を当て、チンパンジーの特徴もふまえながら子が群れにいることがその子の母親と他個体の間のコミュニケーションにどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。それを明らかにするため熊本市動植物園のチンパンジー5人を25日間の計31時間11分観察し、コミュニケーション行動を記録していった。個体情報はマルク(♂)アルファオス、みるく(♀)レンの母親、ノゾミ(♀)子育て経験あり、クッキー(♀)人工哺育で成長、レン(♂)マルクとみるくの子となっている。結果はみるくとクッキー、みるくとノゾミ間のコミュニケーション行動回数を比較するとみるくとクッキー間のコミュニケーション行動回数の方が多かったが、レンとノゾミ間、レンとクッキー間のコミュニケーション行動回数を比較するとレンとノゾミ間のコミュニケーション行動回数の方が多かった。この結果から子へのアクセスが許容されるのかはその個体の経験によるものだと考察できる。個体情報に書いたようにノゾミは子育て経験があるが、クッキーは人工哺育で成長しているうえに死産を経験している。みるくとクッキー間のコミュニケーション行動回数を踏まえて、レンとクッキー間のコミュニケーション行動回数に着目すると、みるくとクッキーは互恵関係になっているが、それがレンを巻き込むまでの関係に発展していないと言える。飼育員の方のお話によるとクッキーも段々レンと接しようとしているため、時がたつにつれみるくもクッキーへレンへのアクセスを許容し始めると考える。

HP-2 公益財団法人日本モンキーセンターでの科学研究実践活動
大井 咲歩(おおい さほ、南山中学校女子部3年)、大野 眞子(おおの まこ、南山中学校女子部3年)、大西 希実(おおにし のぞみ、南山中学校女子部3年)、戸田 百咲(とだ ももえ、南山高等学校女子部1年)、中川 はな(なかがわ はな、南山高等学校女子部1年)
Saho Ooi (Nanzan Girls' Junior High School, 3rd), Mako Ono (Nanzan Girls' Junior High School, 3rd), Nozomi Oonishi (Nanzan Girls' Junior High School, 3rd), Momoe Toda (Nanzan Girls' Senior High School, 1st), Hana Nakagawa (Nanzan Girls' Senior High School, 1st)

公益財団法人日本モンキーセンターにある「モンキーバレイ」において、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)個体群を対象に、石叩き行動と、その実施場所の石の量との関係を明らかにすることを目的として調査を行なった。全個体を対象に生起サンプリング法を用い、石叩き行動時に使用した石の大きさや行動場所を記録した。観察日は2026年4月29日と6月7日の2日間、総観察時間は6時間50分であった。石叩き行動は石が多い場所で61.7%、石が少ない場所で38.3%観察された。また、石を持ち替えたり、石叩き後に石を持って移動したりする行動も観察された。石叩きに用いる石を選択して移動させる行動が観察されたことから、石が少ない場所へ石を持ち運んでいる可能性が示唆された。

また、「リスザルの島」において、ボリビアリスザル(Saimiri boliviensis)個体群を対象に、0歳個体に対するinfant handlingを行う個体(IH個体)と母親との位置関係を明らかにすることを目的として分析を行った。2025年7~10月の5日間(総観察時間178分)の個体追跡データを用い、1分ごとのワンゼロサンプリングとして集計した。総観察時間に対する、0歳個体に2頭以上の他個体が同時に近接する割合を算出した結果、母親とIH個体が0歳個体に同時に近接していた割合(18.5%)が最も高かった。さらに時系列で解析したところ、生後39日では母親が近接している際にIH個体が散発的に近接した一方、生後67〜88日ではIH個体の近接頻度が母親を上回り、その間は母親の近接頻度が低下する傾向がみられた。これらの結果から、IHが活発に行われる時期には、母親とIH個体の近接頻度に変化が生じることが示唆された。

HP-3 血縁のない若齢ゴリラの雌雄関係はどのように変化するのか -アニーとゲンタロウの場合-
岡部 啓梧(おかべ けいご、桐朋高等学校2年)
Keigo Okabe (Toho High School, 2nd)

ニシローランドゴリラは、他の霊長類と比べ穏やかな群れを営み、群間でも非攻撃的な交流を行うなど、比較的寛容な社会性を持つとされる(Cooksey et al.(2025))。私は上野動物園の同種の相互行動の解析を通じ、個人間のコミュニケーションの改善、ひいては平和な人間社会作りの鍵を得たいと考えている。昨年は上野動物園のハオコ群のコミュニケーションについて報告した。

その後、2025年10月に京都市動物園の雄ゲンタロウ、11月に東山動植物園の雌アニーが繁殖のため移動して来た。本研究は二頭の観察から、異なる家族に由来する成体雌雄が一対一の新たな環境下でどう距離を縮めるかを明らかにし、飼育下でのゴリラの相互行動への理解を深めること、親密な関係形成を促す飼育上の工夫を得ることを目的とする。

本発表では、公開同居前の個体の行動(採食、歩行、立位、座位、横臥、腹臥、仰臥、毛づくろい、指しゃぶり等)が移動後から現在までどう変化したかを報告する。観察方法は、放飼場の公開同居前の個体の行動をストップウォッチで記録し、行動割合の平均を気温別に算出し、これを公開同居後の行動変化の指標とする。観察は2026年1~8月に25日間実施し、ゲンタロウは10時から、アニーは11時からの約1時間の行動を対象とした。

結果、ゲンタロウの休息時(座位、横臥、腹臥、仰臥)に行う行動を①指しゃぶり、②自己毛づくろい・皮膚搔き、③通常状態に分類した際、移動初期は①が多く見られた。また①と②は高温・低温時との相関も見られ、自己指向性行動として緊張状態を反映する可能性が考えられた。さらに湿度が高いほど休息量は増えた。公開同居後は公開同居前と同様の行動に加え個体間距離、接近回数、体の向き、採食場所、毛づくろい等を記録し親密度との関連を分析する予定である。ご助力いただいた上野動物園飼育展示課調整係および飼育担当の皆様に心より感謝申し上げます。

HP-4 カタカナ略語において子音が形成に及ぼす影響
渡辺 彩里(わたなべ さり、東京都立国分寺高等学校3年)
Sari Watanabe (Tokyo Metropolitan Kokubunji High School, 3rd)

窪薗(2008)は単純語や複合語の略語が形成される際、音節や単語の位置が影響していると報告している。しかし、略語形成に子音や母音が単独で及ぼす影響についてはまだ詳しく分かっていない部分が多い。本研究では子音が略語形成に与える影響の有無を明らかにすることを目的とし、調査を行った。略語に用いられなかった部分を脱落部分、略語として残っている部分を非脱落部分と定義する。脱落部分の各子音の個数調査をおこなった。各外来語の辞書を参照し、カタカナ語の脱落部分に該当する子音の発音記号を数えた。脱落部分の全子音620個中には、t(99個)やn(87個)などの特定の子音が多く確認された。次に、調査対象とした子音について、収集した200単語中での総数を算出し、脱落部分の各子音の数との割合を比較した。特定の子音において、総数に占める脱落部分の割合が高いものが確認された。特定の子音が、脱落部分が発生する原因として、影響を持つことが示唆される。次に、略語形成は子音の種類による影響によるものなのか、位置が影響しているのかを特定する調査を行った。脱落部分を単語内での位置によって中間脱落部、前脱落部、後脱落部の3つに分類し、各脱落部における子音ごとの分布の差を調べた。この調査により、各脱落部の割合に顕著な差は見られなかった。位置による影響が大きく、特定の子音においても、脱落部分発生の原因としての影響は大きくないことが示唆される。

HP-5 ヒト椎骨における上関節突起の連続的変化
小西 祐翔(こにし ひろと、大宮国際中等教育学校5年(高校2年))
Hiroto Konishi (Saitama Municipal Omiya International Secondary School, 5th (High School, 2nd))

椎骨の上関節突起は椎間関節を構成する部位であり、その関節面の向きは脊柱の高さに応じて変化する。椎間関節の関節面の配向は脊柱各部の運動方向や可動性と密接に関係することが報告されている。本研究では、頸椎から腰椎にかけて上関節突起関節面の向きがどのように連続的に変化するのかを、統一した基準で定量的に明らかにすることを目的とした。

対象は埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科のヒト骨格標本2体とし、形態が特殊な第1、2頸椎を除いた第3頸椎から第5腰椎を使用した。各椎骨を上面から撮影し、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて矢状面に対する上関節突起関節面の角度を計測した。撮影時には椎骨を粘土で固定し、上関節突起関節面が水平面に投影されるよう調整した。この方法により、頸椎・胸椎・腰椎の形態差による影響を低減し、各椎骨を統一した条件で比較した。矢状面の基準として、椎体上面前縁の最突出点と棘突起先端を結ぶ線を正中基準線として用いた。さらに、上関節突起関節面の内側端と外側端を結んだ線を関節面方向と定義し、正中基準線(矢状面)とのなす角を計測した。

現在までに2体の標本を計測した結果、頸椎から胸椎では上関節突起関節面は概ね矢状面に直交するのに対し、腰椎では矢状面に沿う方向へと変化していた。また、第12胸椎において関節面方向が大きく変化する傾向が確認された。この傾向は2標本で共通して認められた。これらの結果から、ヒトの上関節突起関節面の向きは第12胸椎を移行部として胸椎から腰椎にかけて連続的に変化することが示唆された。今後は、正中基準線の設定方法について別の基準も用いて比較し、測定結果の再現性を検証するとともに、ヒト脊柱の可動性や運動方向との関係について考察を深めたい。

HP-6 下太田貝塚の埋葬から見る縄文人の集団構造
川口 絢士(かわぐち けんと、成田高等学校2年)
Kento Kawaguchi (Narita High School, 2nd)

本研究では、下太田貝塚(千葉県茂原市)に出土した人骨を調査対象として、埋葬の特徴と身体的特徴の関係から当時の集団構造を分析した。下太田貝塚は、約12,000 ㎡に及ぶ広大な面積の縄文中期〜晩期(約4,500年前〜2,500年前)にかけての低湿地遺跡で保存状態の良好な人骨が発掘されている。

従来、縄文社会には身分差がなく、平等な狩猟採集社会であったとの考え方が定説となっていたが、近年では、墓制の違いや副葬品の偏り、一部の個体の手厚い埋葬などが確認されたことにより、農耕定着以前にも生前の社会的地位や役割に応じた格差が存在したとする考え方が注目を集めている。本研究では、下太田貝塚においてこれを人骨データから具体的に検証することを目的とした。そこで、手厚い埋葬をされているものや、離れた位置に埋葬されているものに、身体的な特徴が見られるのではないかという仮説を立てて、これを検証しようと試みた。分析では、『千葉県茂原市下太田貝塚ーかんがい排水事業(排水対策特別型)新治地区埋蔵文化財調査業務ー』(財団法人総南文化財センター・茂原市教育委員会、2003)の調査を元に、出土人骨の体格(骨計測値および性別・年齢推定)、埋葬状態(屈葬・仰臥伸展葬といった姿勢や配向)、埋葬場所、および個体間の位置関係のデータを用いて、埋葬の特徴と身体的特徴との相関を考えた。

今後は個体数が限られている中で、より信憑性のある考察をする方法を考えていきたい。また、本研究で触れていない系統や血縁に関することも含めて、多角的な視点を持った研究に取り組みたい。

独自企画(自由集会・分科会・研究部会)

F1-1〜F5-3 2026年9月10日(木) 21 KOMCEE East
各企画の会場名をクリックすると 21 KOMCEE East の会場図に移動します。

会場1 21 KOMCEE East 2階 K211(2F-211教室)

F1-1青年期をもつのはヒトだけか−霊長類的基盤を考える
2026年9月10日(木)13:00〜14:30 会場1 21 KOMCEE East 2階 K211(2F-211教室)
[企画者]田島知之(玉川大学 リベラルアーツ学部)

ヒトの生涯において「青年期」は身体的に急激な発達を遂げるだけなく、大人になってから必要となる他者との社会的な付き合い方、知識、技術を学習し、社会的成熟を遂げるための重要な期間であるとされる。人類学の分野では、青年期(adolescence)はヒト固有のライフステージであり、類人猿をはじめとするその他の動物には存在しないと長らく言われてきた。しかし、その根拠は形態学的な知見に基づくものであり、行動面についての比較検討が十分に行われていないことは霊長類学の立場から指摘されてきた。本集会では、ヒトおよびヒトと同様に長い未成熟期間を持つヒト科類人猿(オランウータン、ボノボ、ゴリラ)を対象として野外研究を行ってきた研究者が、それぞれの対象が未成熟期において示す行動的・社会的な特徴についてこれまでの知見を報告することで、未成熟期間の拡張がもたらす進化的意義という問いについて議論したい。本集会が、霊長類学・人類学・生理人類学の研究者が青年期の進化史的基盤に関する問いを共有し、新たな比較研究を構築するための契機となることを期待する。

プログラム
  • 田島知之(玉川大)趣旨説明およびオランウータン属について
  • 戸田和弥(総研大)チンパンジー属について
  • 田村大也(京都大)ゴリラ属について
  • 山内太郎(北海道大) ヒト狩猟採集民
  • デイビッド・スプレイグ(東京外大/テンプル大) コメント
  • 全体討論(質問はオンラインフォームで集めます)
F1-2次期指導要領における霊長類学・人類学関係の教科書コンテンツの提案
分科会企画
2026年9月10日(木)14:45〜16:15 会場1 21 KOMCEE East 2階 K211(2F-211教室)
[企画者]矢野航(防衛医大)・米田穣(東大)

小学校、中学校、高校の指導内容を指し示す次期学習指導要領の改訂が文部科学省で進んでいる。各教科書会社に対するPRを行う時期は予定を前倒しして今年度後半にも始まる予定とされる。われわれ人類学普及委員会は、昨年度の人類学会でシンポジウムを実施し、前回の学習指導要領改訂すなわち現行の教科書における霊長類学・人類学の取扱いの状況、教育現場におけるニーズ、海外教科書との比較を行った。その中で、現行の日本の生物関連教科書は総体的に充実しているが、進化分野の学びにくさ、教えにくさがあることが明らかになってきた。そこで、我々は以下の観点に沿った、新たなコンテンツを提案すべきと考えている。1)生物学の統合的視座としての霊長類学・人類学、2)生物学の基礎応用の題材としての霊長類学・人類学、として霊長類・人類を導入・提供することと、系統関係を中心としたインフォグラフィックスの準備、そして、4)この10年で得られた新たな人類学知見の更新、の4点である。

本分科会では、昨年のシンポの議論と文部科学省に提出した提言を元に、矢野と米田がレビューを行い、上記4点について、河村(東大、色覚進化)、森田(科博、人類系統進化)、徳山(中央大、社会進化)、澤藤(九州大、現生人類)がそれぞれの視点から話題を提供した後、参加者と広範かつ自由な意見交換を期待して本分科会を企画する。

プログラム
  • 0.次期学習指導要領改訂に対する日本人類学会の提言とこれからの提案について概要説明
  • 矢野航(防衛医大)・米田穣(東大)
  • 1.河村正二(東大)
  • 2.徳山奈帆子(中央大)
  • 3.森田航(科博・東大)
  • 4.澤藤りかい(九州大)
  • ディスカッション 30分
  • コメンテーター:奈良貴史(新潟医療福祉大)、ほか
F1-3福島県に生息するニホンザル原町個体群の保全管理:現状と広域連携の課題
2026年9月10日(木)16:30〜18:00 会場1 21 KOMCEE East 2階 K211(2F-211教室)
[企画者]藤田志歩(鹿児島大学共通教育センター)、今野文治(合同会社東北野生動物保護管理センター)、清野未恵子(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)、日本霊長類学会保全・福祉委員会

平成23(2011)年に発生した東日本大震災とこれに伴う原発事故から15年が経過した。避難指示が解除となった地域では、住民の帰還や市町村復興への取り組みが進められているが、ニホンザルの管理事業実施計画が未策定の市町村もあり、震災や原発事故の影響によるニホンザル保全管理の遅滞が懸念されている。現在、福島県には149群を超えるニホンザルの群れが生息しており、旧避難指示区域に生息する原町個体群は約60群と推定されている。福島県の復興計画が第3期に入り、避難指示解除地域が増える中で、ニホンザルの分布拡大や不十分な被害管理体制が地域住民の帰還を妨げる要因の一つとならないために、原町個体群管理指針が令和7年に策定されるなど、行政主導による原町個体群の保全管理が急ピッチで進められている。こうした近年の福島県の取組は、県境・市町村境に生息する群れを広域管理する自治体にとって有用な情報提供となるだけでなく、人間が長期間不在となった地域におけるニホンザルの分布情報は、過疎が進む地域での個体群管理にも参考となる知見をもたらすだろう。

保全・福祉委員会では、原発事故によるニホンザルの放射線被曝の影響や課題についてはこれまで自由集会等で取り上げ、議論してきた。本自由集会では、現在進められている原町個体群の保全管理事業について話題提供を行うとともに、他地域における先進事例も参照しつつ、広域管理の課題と今後の展望を議論したい。

プログラム
  • 小幡裕介(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室)「帰還困難区域内におけるニホンザルのモニタリング調査について」
  • 井上広海(福島県生活環境部自然保護課)「福島県で現在進めている市町村境を超えた管理」
  • 川本芳(高宕山のサル観察クラブ)「遺伝学的解析による個体群管理の方法」
  • コメント
  • 鈴木克哉(NPO法人里地里山問題研究所)
  • 鈴木正敏(東北大学災害科学国際研究所)
  • 総合討論
主催:日本霊長類学会保全・福祉委員会
後援:日本哺乳類学会保護管理専門委員会ニホンザル保護管理検討作業部会

会場2 21 KOMCEE East 2階 K212(2F-212教室)

F2-1古代分子分析と人類進化
進化人類学分科会 第51回シンポジウム
2026年9月10日(木)13:00〜14:30 会場2 21 KOMCEE East 2階 K212(2F-212教室)
[企画者]蔦谷 匠(九州大学・高等研究院)

古代DNAをはじめとする分子分析の研究が人類学・考古学に応用され、近年ますます多くの発見が得られている。日本国内ではこうした研究の多くが完新世の時代に集中しているが、分析技術の発展もあり、世界的にはさらに古い時代への応用が進んでいる。本シンポジウムでは、人類進化の時間軸で、旧石器時代やホモ・サピエンス以前の人類などのより古い時代を対象にした研究の世界的な動向のレビューを中心に、古代分子分析の現状を紹介し議論する。具体的には、古代ゲノム解析によって明らかになってきた過去の人類進化や異なる人類種間での交雑の実態、古代DNAよりもずっと古い時代にさかのぼって遺伝情報を取得できることが明らかになってきた古代プロテオーム解析、遺跡土壌に含まれる古代DNAの分析によって復元できる古環境と人類のゲノム、重元素の安定同位体分析やエナメル質の窒素同位分析など新たな手法による化石人類の食性復元について取り上げる。先行研究の紹介を中心としながら、これらの新規な手法や知見の日本の人類学における意義について検討する。また、これらの手法の現時点での限界や、応用の際の注意事項についても議論する。こうした議論を通じて、特に、分析を中心に携わる研究者と、発掘や形態観察を中心に携わる研究者のあいだの情報の共有や意見の交換を促進したい。

プログラム
  • 主旨説明:蔦谷匠(九州大学 高等研究院 准教授)
  • 古代ゲノム解析による古人類の交雑史の復元:高畑尚之(総合研究大学院大学 名誉教授)
  • 古代プロテオーム解析による化石人類の系統復元:樽澤優芽子(九州大学 高等研究院 特定助教)
  • 古代土壌DNA分析による人類進化史の復元:澤藤りかい(九州大学大学院 比較社会文化研究院 講師)
  • 新たな同位体分析手法による食性復元:蔦谷匠(九州大学 高等研究院 准教授)
F2-2霊長類の前方交叉・後方交叉研究の展望
キネシオロジー分科会シンポジウム
2026年9月10日(木)14:45〜16:15 会場2 21 KOMCEE East 2階 K212(2F-212教室)
[企画者]松村秋芳(神奈川大学化学生命学部)・伊藤幸太(産業技術総合研究所 情報・人間工学領域)

霊長類の四足歩行では、前肢と後肢の着地順序に基づいて前方交叉型(lateral sequence)と後方交叉型(diagonal sequence)が区別される。後方交叉型は多くの樹上性霊長類で高頻度にみられ、その進化的・機能的意義は、樹上適応や運動機能の進化を考える上で重要な研究課題となってきた。

日本におけるこの研究分野の先駆者である富田守氏は、霊長類では後肢への荷重が大きいことに着目し、その力学的特徴と着地順序との関係を明らかにしようとした。この研究は、歩行様式を単なる運動パターンとしてではなく、その機能的背景から理解しようとする新たな視点を提示した。一方、国際的にはHildebrandが歩容を体系的に分類する手法を確立し、現在も比較運動学の共通基盤として広く用いられている。

その後、前方交叉・後方交叉をめぐる研究は、三次元運動解析や床反力計測によるバイオメカニクス研究、筋骨格モデルやコンピュータシミュレーションを用いた解析へと発展してきた。さらに近年では、実験室内に設置した樹上歩行路や足場条件を制御できる実験環境を利用することで、支持枝の太さや傾斜、安定性などの違いが歩行様式の選択や運動制御に及ぼす影響も明らかになりつつある。このように、歩行様式は荷重分配や安定性だけでなく、環境条件に応じた柔軟な運動戦略として理解されるようになってきた。

本シンポジウムでは、昨年末に逝去された富田守氏の先駆的研究とその学術的意義を振り返るとともに、シミュレーション研究や近年の実験的研究を含めた最新の成果を概観し、霊長類の前方交叉・後方交叉研究の到達点と今後の展望について議論したい。

プログラム
  • 木村 賛(東京大学総合研究博物館)
  • 「富田によるサル特有前方交叉型四足歩行の発見」
  • 荻原直道(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
  • 「霊長類はなぜ前方交叉型で歩くのか?」
  • 3.後藤遼佑 (群馬パース大学 リハビリテーション学部)
  • 「手足の協働と前方交叉型歩行」
  • 4.総合討論
F2-3骨考古学におけるタフォノミー研究の実践と展開
日本人類学会 骨考古学分科会セッション(日本動物考古学会との共催)
2026年9月10日(木)16:30〜18:00 会場2 21 KOMCEE East 2階 K212(2F-212教室)
[企画者]澤田純明(新潟医療福祉大・人類研)、青野友哉(東北芸工大・歴史遺産学科)

タフォノミーは、生物遺体が死後に辿る変化の過程とその要因を解明する研究領域である。かつては動物骨の形成過程や遺跡形成論を中心に議論されてきたが、近年では遺跡出土人骨の研究へも広く導入され、埋葬過程や遺体処理行動の復元、そして死者をめぐる社会的・文化的実践の解明に大きく貢献するようになった。

日本においても先史時代の人骨を対象とした実践的研究が進み、出土状況や空間配置の分析に加え、骨表面の切創痕・咬痕・風化痕・熱変成痕の観察や、骨組織の保存状態・微細構造の分析を通じ、出土人骨の形成過程の解明が進められてきた。また、分析精度を高めるため、齧歯類の骨齧りをはじめとする生物要因の基礎研究とその応用も試みられている。

こうしたアプローチにより、埋葬姿勢や施設構造、埋葬後の変化のほか、廃屋墓や複葬墓・多数合葬といった複雑な埋葬プロセスの詳細な復元が可能となった。さらに、遺体が即時に埋葬されたのか、一定期間曝露されたのか、加熱処理を施されたのかを検証することで、個々の遺体・遺骨の扱いに加え、埋葬に至るまでの処置や過程についても、具体的な解明が進んでいる。

本分科会では、人骨を主対象としたタフォノミー研究の実践例と、それを支える基礎研究(生物要因の解明等)を紹介し、その成果と課題を共有する。巨視的観察から微視的な組織分析まで、手法やアプローチの違いを越えた議論を通じて人骨タフォノミー研究の到達点を確認し、今後の展望を明らかにしたい。

プログラム
  • 1. 青野友哉(東北芸工大・歴史遺産学科)
  • 「骨考古学におけるタフォノミー研究の実践-廃屋墓と多数合葬・複葬墓-」
  • 2. 永島萌(慶應大・文)
  • 「齧歯類の骨齧り行動に関する研究の現状と応用」
  • 3. 植月学(帝京大・文化財研究所)
  • 「人骨に残された齧痕による縄文時代廃屋墓の埋葬環境の再検討」
  • 4. 皆川真莉母(都立大・人文社会)
  • 「タフォノミー痕跡からみた縄文時代の遺体・遺骨の取り扱い」
  • 5. 逢坂暖(東京大・新領域)
  • 「骨組織タフォノミーにみる縄文時代の遺体の取り扱い-焼骨を中心に-」
  • 6. 奈良貴史(新潟医療福祉大・人類研)
  • 「総合コメント」

会場3 21 KOMCEE East 2階 K213(2F-213教室)

F3-1殿筋の比較形態機能学
日本人類学会 ヒト・霊長類比較解剖学分科会
2026年9月10日(木)13:00〜14:30 会場3 21 KOMCEE East 2階 K213(2F-213教室)
[企画者]後藤遼佑 (群馬パース大学)、時田幸之輔 (埼玉医科大学)

本シンポジウムでは, ヒト・霊長類比較解剖学として, 殿筋群について考えたい。直立二足歩行のヒトと四足歩行の非ヒト霊長類とでは,骨盤から見て,大腿骨の方向が90°異なっている.四足歩行の非ヒト霊長類の場合,骨盤から90°屈曲して地面に向かう大腿骨を伸展させて歩行する.一方,ヒトでは,大腿骨は非ヒト霊長類からさらに90°股関節を伸展した位置にある.よって, ヒトは歩こうとすると,股関節の屈曲伸展可動域が伸展側にずれた極めて特徴的な動きとなる. この特徴の理解には, 骨盤を水平に保つ中殿筋, 股関節伸展筋である大殿筋, 各種霊長類二足歩行時の骨盤・股関節の運動学的比較観察が重要であると考える。

そこで,ヒト大殿筋の筋構造と神経支配の関係から考察するヒト大殿筋の形態形成について, 姉帯先生にご講演をお願いし, 霊長類殿筋群支配神経の比較解剖学について, 小池先生にご講演をお願いした. また, 中殿筋比較解剖学(神経筋内分布)から考察する形態機能の適応的意義について設楽先生にご講演をお願いした. 最後に, ヒト大殿筋中殿筋の歩行時の筋電図解析について, 上林先生にご講演をお願いした. 以上から, ヒト二足歩行に伴う殿筋群の特徴について理解を深めたい

プログラム
  • はじめに
  • 後藤遼佑 (群馬パース大学)
  • ヒト大殿筋の特異的発達は単なる肥大か?:筋構造と支配神経からその形態形成を考える
  • 姉帯飛高 (順天堂大学)
  • 霊長類大殿筋支配神経比較解剖学
  • 小池魁人 (関越病院)
  • ニホンザルとチンパンジーにおける中殿筋筋内神経分布の比較:ヒト中殿筋の進化的起源の解明に向けて
  • 設樂哲弥 (大阪大学)
  • ヒト大殿筋・中殿筋・小殿筋の筋電図解析
  • 上林和磨 (リバーシティ すずき整形外科)
  • 総合討論
F3-2「ニホンザルの稀な行動」−英語書籍の出版へ
2026年9月10日(木)14:45〜16:15 会場3 21 KOMCEE East 2階 K213(2F-213教室)
[企画者]中道正之(大阪大)、山田一憲(大阪大・院人間科)、中川尚史(京都大・院理)

ニホンザルの「稀な行動」に関する4回目の自由集会を開催する。長年ニホンザルを観察していても珍しいと思われる行動や場面に出会う。経験の浅い研究者も論文や書物に書いてないようなニホンザルの行動を観察することもあるだろう。我々はそのようなニホンザルの「稀な行動」を以下の3つに分類した(中道ら2009):①行動そのものは一般的なものであるが,観察することが難しい行動(出産など)。②行動の生起が少なく、観察事例が限られている行動(養子とり、脊椎動物食)。③ある集団では見られるが、他の集団では見られない行動(stone-handling、抱擁など)。

今日の科学研究では、事前に立案された計画に従って観察が実施され、得られたデータを統計分析し、論文執筆することが一般的だ。だからこそ、「稀な行動」は多様な霊長類をさらに深く理解するために不可欠なものであると思う。霊長類の行動・生態などを扱う学術誌では事例研究の論文が少なくなった時期があった。Primates誌では「稀な行動」の重要性が再確認され(Nakagawa 2021; Nakamichi 2022, 2023)、事例研究の掲載は続いている。しかし、学術誌で未報告な事例はまだ多数あるはずだ。我々は当初より「稀な行動」の英語書籍の出版を意図していたが大きく遅れてしまい、執筆を検討していた方にはご迷惑をおかけした。これまでの約15年間に、自由集会やメーリングリスト、およびアンケート調査(中川ら 2011;中川 2021)で集積された「稀な行動」を基に、英語書籍「稀な行動」の次年度中の出版を目指している。

今回の12年ぶりの自由集会では、「稀な行動」の重要性を再認識していただける新たな事例紹介と「稀な行動」からの新たな展開の可能性を示唆する発表をしていただく。最後に、英語書籍での論文執筆に向けた要綱を示すとともに、この英文書籍への執筆の申し出を募る。

プログラム
  • 1.森光由樹(兵庫県立大・自然・環境科学研)、赤見理恵(日本モンキーセンター)、鈴木克哉(里地里山問題研) 「ニホンザルとツキノワグマの接近事例-複数地域からー」
  • 2.土橋彩加(信州大・総合医理工) 「上高地のニホンザルと他種動物との種間関係、および「稀な行動」のリストアップ」
  • 3.川添達朗(神戸大・人間発達環境) 「金華山のニホンザル集団での新奇な食物の広まりにオスが関与したと思われる事例」
  • 4.石塚 真太郎(福山大・生命工) 「小豆島のニホンザル特有の行動から探る島嶼環境の行動進化」
  • 5.山田一憲(大阪大・院人間科) 「稀な行動の蓄積の先にある視座」
  • 6.中道正之(大阪大) 「英語書籍「ニホンザルの稀な行動」の執筆要綱」
F3-3排泄から考える:排泄物のアフォーダンスと「個」の境界の揺らぎ
2026年9月10日(木)16:30〜18:00 会場3 21 KOMCEE East 2階 K213(2F-213教室)
[企画者]松本 卓也(信州大学)・北山 遼(北海道大学)

排泄物は誰のものか。個としての身体はどこで終わるのか。排泄は社会や生態系を乱すのか、それとも編み直すのか。生物にとって最も日常的な営為でありながら、ときに周縁化されてきた排泄(物)を研究対象とすることで、人間中心的な常識を疑い、再考察する視座を得ることが本自由集会の目的である。

排泄物には、食性、健康状態、腸内微生物、社会関係、空間利用、匂い、忌避/誘引、種間相互作用が織り込まれている。排泄物は身体の外へ出た瞬間に「私ではないもの」となる一方で、なお「私」の情報と作用を帯び続ける。排泄物は、「個」の境界を揺るがす物質なのである。

本集会では、排泄および排泄物をめぐる自然誌を、霊長類学、人類学、医学、生態学、古生物学の視点から編み直す。野生霊長類の排泄エチケット、動物–植物間相互作用と植物の行動、混群における社会マイクロバイオーム、温泉環境がもたらす腸内微生物群集の機能的類似、排泄物から己を知り、さらに自己をデザインする試みをトピックとして取り上げる。

本集会では、完成された結論よりも、各分野で生まれつつある野心的な問いや、まだ言語化の途上にある研究構想を歓迎する。卑近で、しかし周縁化されがちな排泄という現象を入口に、「個」と環境、自己と他者、ヒトと非ヒト、生物と物質の関係を参加者と議論しながら問い直したい。合同大会ならではの異分野の交流を通じて、排泄の自然誌という未開拓の領域を編むことを目指す。

プログラム
  • ・趣旨説明
  • ・発表①: 松本 卓也(信州大学)
  • 『遠社会性』…チンパンジー社会における排泄物の扱われ方とエチケット
  • ・発表②: 山尾 僚(京都大学)
  • 『植物の行動生態』…排泄物を介した動物–植物間の相互作用-種子は植食者を感知できるのか?
  • ・発表③: 北山 遼(北海道大学)
  • 『超超個体』…社会という微生物のすみか-混群と温泉のマイクロバイオーム
  • ・発表④: 伊藤 正樹(株式会社メタジェン)
  • うんこは「茶色い宝石」…『腸内デザイン』から捉え直す「個」の境界と自己
  • ・コメント: 小金渕 佳江(東京大学) 『考古遺物としての糞石と人類学の視点から』
  • 泉 賢太郎(千葉大学) 『糞化石の数理と古生物学の視点から』
  • ・総合討論

会場4 21 KOMCEE East 2階 K214(2F-214教室)

F4-1生理人類学の測定法と人類学関連研究への展開
—脳・パフォーマンス・生理反応・歩行/姿勢制御から考える—
2026年9月10日(木)13:00〜14:30 会場4 21 KOMCEE East 2階 K214(2F-214教室)
[企画者]元村 祐貴(九州大学大学院芸術工学研究院) 西村 悠貴(労働安全衛生総合研究所) 高倉 潤也(国立環境研究所) 跡見 友章(杏林大学保健学部)

生理人類学は、今を生きるヒトを対象に様々な生理・行動指標を測定し、その個人差、環境適応との関連、ならびに背後にあるメカニズムを明らかにする学問として発展してきた。その中で、脳活動、認知・作業パフォーマンス、自律神経・内分泌・温熱生理、歩行・姿勢制御などの測定法は、それぞれ高度に専門化しており、測定原理、得られる指標、解釈可能な範囲、実施上の制約を分野横断的に共有する機会は必ずしも多くない。一方、霊長類学・自然人類学・遺伝進化学など、より広い人類学的研究においても、ヒトの適応、進化、発達、生活様式、環境応答を理解するうえで、生理人類学的測定は有効な接点となり得る。とくに、実験室で得られる精密な指標を、フィールド、労働・生活環境、集団差や個体差の研究へどのように橋渡しするかは、今後の重要な課題である。そこで本企画では、日本生理人類学会に所属する研究者4名が、脳、作業パフォーマンス、生理反応測定、歩行・重心動揺に関する代表的な測定法を概説する。各話題提供では、それぞれの方法が何を測り、どのような条件で有効に解釈でき、どのような限界をもつのかを整理したうえで、人類学的な問いへ接続・展開する可能性を論じる。さらに、これらの測定を、進化、環境適応、生活様式、発生・発達・加齢、文化差・個人差といった人類学的テーマへどのように接続できるか、また各指標を組み合わせることでどのような共同研究が可能になるかを議論する。3学会連合大会という機会を活かし、各指標を用いた新たな分野間コラボレーションの可能性について議論する。

F4-2ヒトの睡眠・生体リズムにみられる多様性
日本生理人類学会「光と生体リズム研究部会」「睡眠研究部会」合同企画
2026年9月10日(木)14:45〜16:15 会場4 21 KOMCEE East 2階 K214(2F-214教室)
[企画者]樋口重和(九州大学大学院芸術工学研究院)、北村真吾(国立精神・神経医療研究センター)

睡眠と生体リズムは種を超えて保存された基盤的生理機能である一方、人工照明、就労・学習時間、標準時刻に基づく社会的スケジュールのもとで、個体の内因性リズムと生活環境の不一致が生じやすくなっている。睡眠時間、クロノタイプ、リズム同調性には遺伝的要因と環境要因が関与し、その多様性をどう捉えるかは、健康リスクの理解にとどまらず、ヒトの環境適応、生活設計、支援技術を考えるうえで重要な課題である。

本企画は、日本生理人類学会「光と生体リズム研究部会」および「睡眠研究部会」の合同企画として、睡眠・生体リズムの多様性を、進化・適応と臨床の両面から検討する。

早川敏之先生(九州大学)には、クロノタイプ(朝型・夜型)を生物時計機構の表現型として位置づけ、クロノタイプに関わる遺伝的傾向が、現生人類の高緯度地域への拡散に伴う光周期の季節変動への適応とどのように関連するかを論じていただく。特に、関連遺伝子座に基づく集団レベルの傾向、現生人類集団間の緯度差、およびネアンデルタール人との比較から、現生人類に特徴的な時間適応の可能性を考える。

廣瀬真里奈先生(藤田医科大学)には、概日リズム睡眠・覚醒障害の臨床研究に基づき、睡眠・覚醒相後退障害や非24時間睡眠・覚醒リズム障害を中心に、内的リズムと社会的時刻の不一致が日常・社会生活上の困難として現れる過程を解説いただく。さらに、病態生理の不均一性や、心理社会的要因との相互作用を踏まえ、正常/異常の境界と多様性のとらえ方を検討する。

総合討論では、個人差を前提とした睡眠・リズム研究と、現代社会における適応的な光・時間環境設計の可能性を議論する。

プログラム
  • 1. 講演(30分+質疑10分)
  • ・クロノタイプにおける現生人類の光環境適応と環境仮説
  • ・早川敏之氏(九州大学)
  • 2. 講演(30分+質疑10分)
  • ・「朝起きられない」の背景にある病態の不均一性―概日リズム睡眠・覚醒障害の臨床研究から―
  • ・廣瀬真里奈氏(藤田医科大学)
  • 3. 総合討論(10分)
F4-3日本列島集団の体温調節機能と形態的特性の統合的解釈
2026年9月10日(木)16:30〜18:00 会場4 21 KOMCEE East 2階 K214(2F-214教室)
[企画者]若林斉(北海道大学)、中山一大(東京大学)、西村貴孝(九州大学)

温熱環境への適応は、人類にとって最も重要な環境適応の一つである。温暖なアフリカで進化した人類は、出アフリカ後に寒冷環境を含む多様な気候への適応が必要であった。ヒトは文化的適応能を有するため、衣服や住居によって環境の影響を軽減することが可能であったが、その一方で、遺伝的変異を伴う生理的・形態的適応も生じたと考えられている。例えば、寒冷地集団における褐色脂肪組織活性の高さや、身長・四肢プロポーションにみられる緩やかな地理的勾配は、温熱環境への適応と考えられる。

日本列島においても、気候環境には大きな南北差が存在し、さらに近年では2つの祖先集団に由来する生理的・形態的多様性も議論されている。そこで本企画では、体温調節機能の地域差や、褐色脂肪活性を含む代謝機能に関与する遺伝要因、アレン・ベルグマンに代表される形態的特性と体温調節機能など、日本列島集団の温熱環境への適応について多角的な視点から議論したい。

プログラム
  • 主旨説明
  • 「日本列島集団の寒冷適応にみられる生理学的特性と解剖学的特性」
  • 講演者:若林斉(北海道大学)
  • 「形態と体温調節から再考する現代人のアレン・ベルグマンの法則」
  • 講演者:西村貴孝(九州大学)
  • 「ゲノム多様性からみた日本列島人の褐色脂肪組織機能の多様性」
  • 講演者:中山一大(東京大学)
  • 総合討論

会場5 21 KOMCEE East 1階 K114(1F-114教室)

F5-2サルからサピエンスへ至る知識累積の向上に何が関与したか
2026年9月10日(木)14:45〜16:15 会場5 21 KOMCEE East 1階 K114(1F-114教室)
[企画者]香田啓貴(東京大学)、太田博樹(東京大学)

ヒトの文明の成立にとって、霊長類/人類進化の過程で生じた認知能力の著しい向上が関与したことは疑いない。近年、それは「認知革命」と称されることもあり、ネアンデルタールと一線を画した主要因と考察されることすらある。しかし、ホモ・サピエンスにおけるこうした劇的な知識累積と文化・文明の成立は、本当に個体の生物学的な認知能力の向上=脳機能の変化が主たる要因と言えるのだろうか。この「個体認知の過剰進化」を前提とする仮説は、近年の考古学的・人類学的知見からも議論が分かれる点である。たとえば、高度な社会学習の能力(正確な模倣や洞察、柔軟な予測能力など)や、言語機能の基盤となるシンボル操作能力などは、サピエンス以外でも十分に高い水準を示していた可能性がある。では、サピエンスの圧倒的な繁栄と知識累積を可能にした他の要因は何だったのだろうか。本集会では、「変化したのは個体の学習能力そのものだけでなく、学習の対象である『社会』そのものではないか」という点に着目する。他者への寛容性、集団の規模や接続性、共同学習を可能にする社会的な場そのものの変容が、新たな認知ニッチとして機能し、知識累積の爆発を引き起こしたのではないか、という可能性を議論する場としたい。そのために本企画では、霊長類や人類を対象とした認知や心理、社会や生態、ゲノム科学や考古学、さらには数理モデルなど、幅広い分野で活躍する研究者の知見を持ち寄り、現在までの見解を学際的に糾合する場としたい。

プログラム
  • 趣旨説明/話題提供1(10分):香田啓貴(東京大学)
  • 話題提供2(10分):豊田 有(京都大学)
  • 話題提供3(10分):松田一希(京都大学)
  • 話題提供4(10分):服部裕子(京都大学)
  • 話題提供5(10分):井原泰雄(東京大学)
  • 話題提供6(10分):太田博樹(東京大学)
  • 話題提供7(10分):門脇誠二(東京大学)
  • コメント(10分):岡ノ谷一夫(帝京大学)
  • 総合討論(10分)
F5-3ヒガシチンパンジーの進化史を探求する。生態・形態・行動・遺伝から多面的にみる集団間の多様性とその意義
2026年9月10日(木)16:30〜18:00 会場5 21 KOMCEE East 1階 K114(1F-114教室)
[企画者]島田将喜(帝科大)・徳山奈帆子(中央大)・吉川翠(神奈川県博)・早川卓志(北海道大)・矢野航(防衛医大)

ヒガシチンパンジー(Pan troglodytes schweinfurthii)は、後期更新世から完新世にかけての10万~1万年前の間に、中央アフリカから東アフリカにかけて広がっていたチンパンジー集団が、ウバンギ川の形成によって徐々に分断され、最終氷期以降に現在の水量が確立し、チュウオウチンパンジー(P. t. troglodytes)と完全に亜種分化されたとされる。ヒガシチンパンジーは生息する緯度範囲も広い上、マラガラシ川やウガラ川などの地理的障壁により集団間の個体の移動が制限されているため、亜種内での局所的な遺伝的分化も大きい。特にウガンダあたりの北部森林群、タンザニアあたりの南東部のゴンベ群やマハレ群といった地域個体群は独自の進化史をたどってきた。これらの集団は赤道直下の湿潤な熱帯雨林から、ウガラ群の生息地のようなタンザニア西部の乾燥疎開林まで、極めて多様なニッチに適応しているため集団間に顕著な生態・形態・行動・遺伝的差異が存在する。例えば、乾季が長く食物や水が極度に制限される辺縁部の疎開林に生息する南東部の集団は、森林に生息する集団に比べて、低密度・大きな遊動域・体サイズの小型化を示すことが報告されている。

このようにヒガシチンパンジーは生息環境の分断と適応に伴った亜種内多様性が高い。その多様性と適応の基盤のひとつが、樹上性から地上性へのクラインであると私たちは考えている。人類進化とも並行するヒガシチンパンジーの進化的多様性を、生態・形態・行動・遺伝学の視点から、あらためて多面的に捉えなおすことを本集会の目的とする。樹上性と地上性の割合がチンパンジーの生態・行動どのように集団間変異をもたらしたかについて、島田(マハレ)、徳山(カリンズ)、吉川(ウガラ) がレビューを行い、早川(遺伝)、矢野(形態)がそれぞれの視点から話題を提供した後、コメンテータに総評を加えていただいたうえで、参加者と自由な意見交換を行う予定である。

プログラム
  • 趣旨説明・話題提供1 (発表10分+質疑2分)
  • 発表者 島田将喜:マハレのチンパンジーによる遊びの頻度の高さと遊び場
  • 話題提供2 (発表10分+質疑2分)
  • 発表者 徳山奈帆子(中央大):ワンバのボノボ・カリンズのチンパンジー
  • 話題提供3 (発表10分+質疑2分)
  • 吉川翠(神奈川県博):ウガラのチンパンジーの生態と行動
  • 話題提供4 (発表10分+質疑2分)
  • 早川卓志(北海道大):ヒガシチンパンジーのゲノムの亜種内多様性と局所分化
  • 話題提供5 (発表10分+質疑2分)
  • 矢野航(防衛医大):樹上性/地上性による形態変異
  • コメント1 (発表10分)
  • 古市剛史(京都大):
  • コメント2 (発表5分)
  • 諏訪元(東京大博)
  • 総合討論・質疑応答 (15分)

特別企画

SP-1人類学ドルメン:若手・中堅なんでも懇談ランチ会
[企画者]石田 悠華(東京大学・新領域創成科学研究科)、大谷 洋介(大阪大学・COデザインセンター)、志村 恵(東京都立産業技術研究センター)、蔦谷 匠(九州大学・高等研究院)、脇山 由基(東京大学・理学系研究科)

日本の学会や学術研究を取り巻く状況は年々困難になっていると言われている。人類学関連の学会においても、会員数の減少や、研究機関での教員ポストの減少が報告されている場合もある。こうした困難な状況への取り組みは複合的に実施する必要があると考えられるが、そのうちもっとも重要なもののひとつは若手への多面的な支援であろう。急速に変化する社会の状況も鑑みると、若手の最新のニーズを正確に把握し、限られたリソースを効果的に配分する必要性はますます高まっているかもしれない。こうした背景のもと、本企画では、連合大会開催時のお昼休憩の時間に、若手会員を対象とし、各自で持ってきてもらった昼食を食べながら、若手同士や中堅の会員とさまざまなテーマに関してフランクに懇談できる場を設ける。事前のアンケート結果を参考にして、6つのテーマを設ける。若手会員は興味のあるテーマを選んで小グループに分かれ、そのテーマに新鮮な経験を有する複数の中堅会員のファシリテーションやメンタリングのもと、懇談する。懇談後には事後アンケートに協力いただく。こうした取り組みを通じて、学会やキャリア段階の枠を超えた横・縦・斜めのつながりを構築する機会を提供するとともに、今後のさらなる取り組みのための最初の足がかりとする。

プログラム
  • ワークライフバランス
  • さまざまなキャリアパス
  • 論文執筆や研究費取得
  • 海外での研究や国際コミュニケーション
  • 女性特有の話題(女性のみ)
  • 英語でフリートーク
参加者のみなさまは昼食持参でお願いいたします。企画側からの昼食の提供はありません。
参加にあたっては、いろいろな立場の方が安心して懇談できるよう、別に共有する行動指針を遵守いただきます。

学会賞表彰・受賞記念講演

2026年9月12日(土)16:20〜17:25 13号館 1323教室(会場B)
本大会では、下記の表彰と受賞記念講演を行います。

  • 日本人類学会 学会賞
  • 受賞記念講演
  • PSJ 国際学術研究助成 表彰
  • AS 論文奨励賞
  • その他の表彰

受賞者・演題などの詳細は、当日会場でご案内します。

講演要旨

若手発表賞対象 口頭発表

会場A(1313教室)

熱帯乾燥林におけるコクレルシファカの採食戦略:雨季と乾季の季節間比較
佐川そのみ、佐藤宏樹(京都大・アジア・アフリカ地域研究研究科)
Foraging Strategies of Coquerel’s Sifaka in a Tropical Dry Forest: A Comparison between the Rainy and Dry Seasons
Sonomi SAGAWA, Hiroki SATO

熱帯乾燥林には明瞭な雨季と乾季があり,植物のフェノロジーが大きく変化する。マダガスカル島に固有のシファカ属(Propithecus)は,葉や種子の処理に適した発達した消化管と臼歯を備える一方,果実も重要な食物として利用することが知られている。このような特徴をもつ本属は,季節的な資源変動に対し.柔軟な採食戦略をとっている可能性がある。しかし,季節性の顕著な熱帯乾燥林に生息するコクレルシファカ(P. coquereli)は,生態学的研究が乏しく,その採食生態は詳細に明らかになっていない。そこで本研究は,熱帯乾燥林において,コクレルシファカがどのような採食戦略をとっているのかを明らかにすることを目的とした。調査は,マダガスカル北西部のアンカラファンツィカ国立公園に生息するコクレルシファカ1群を対象に行った。調査は,2024年12月〜2025年3月の雨季と,2025年7月〜9月の乾季に実施した。調査期間中,6時から18時まで群れを追跡し,直接行動観察を実施した。5分間隔で,個体の行動,採食した植物種および部位を記録するとともに.群れの位置をGPSで記録した。これらのデータを用いて,雨季と乾季における行動パターン,食物利用,移動距離を比較し,季節間での採食戦略の違いを検討した。その結果.雨季には果実が採食時間割合の半数を占め,移動時間と1日の移動距離も長かったことから,移動コストをかけて果実を探索し,優先的に利用する「高コスト・高リターン」な採食戦略をとっていたと考えられる。葉の利用に季節差はみられなかったが,乾季には.果実利用が減少し,種子,花,幹の利用が増加した。また,移動時間と移動距離も短く,探索コストを抑えつつ食性の幅を広げる「低コスト・広食」な採食戦略へ切り替えていたと考えられる。これら柔軟な採食戦略の変化の背景には,シファカ属の形態的特徴が関係していると考えられる。

Identification of “anomalous” trichromats in neolithic humans supporting ancient prevalence of human color vision diversity
Yizhen Wang1, Yuka Matsushita1, Kae Koganebuchi2, Yusuke Watanabe2, Yoshiki Wakiyama2, Hiroki Oota2, Amanda D. Melin3, Shoji Kawamura1
1Department of Integrated Biosciences, Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, 2Department of Bioscience, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 3Department of Anthropology and Archaeology, University of Calgary, Canada

Humans are unique in color vision among catarrhine primates (African/Asian monkeys, apes and humans) showing diversity with “deficiency” phenotypes. The phenotypic variation is mainly due to variation of the L and M (collectively called “L/M”) opsin genes by gene conversion between them, replacing a portion of one gene with that of another. Exons 3 and 5 of the L/M opsin genes account for ~5 nm and ~25 nm of their ~30 nm spectral difference. However, our knowledge on human color vision diversity has relied on various studies of different populations using different methodologies. It also remains poorly understood when this diversity became prevalent in human evolutionary history. In our previous study, we investigated the genotypes of the L/M opsin genes for 1,759 current humans from Africa, Europe, Asia, and Americas, together with seven neolithic and one paleolithic humans, two archaic hominins, and 13 non-human catarrhine primates, by investigating publicly available whole-genome sequence data and our own targeted capture project data. We searched for variable nucleotide sites in each exon and each intron among L/M opsin genes in each individual and defined the number per length of each region as “L/M diversity”. We showed that gene conversion has homogenized L and M opsin genes in all current and ancient humans, archaic hominins and non-human primates studied. We also showed that while purifying natural selection has maintained L/M diversity equally high in exons 3 and 5 against gene conversions in non-human catarrhines, the selection has been relaxed in exon 3 with smaller spectral effect than exon 5 in both current and ancient humans, suggesting that the color vision diversity seen today was already prevalent in paleolithic humans. In this study, we expanded our ancient DNA dataset by adding one Neanderthal, two paleolithic and nine neolithic human genome data. The results further supported our previous study overall. Regarding archaic hominins, we confirmed that their L/M diversity of exon 3 was not lowered, but that of exon 5 was lowered. In addition, among the Siberian neolithic individuals that were newly incorporated into this study, we identified four individuals carrying hybrid L/M opsin genes. Among them, two individuals, dated to approximately 4,000 years ago, were classified as anomalous trichromats, i.e., “deuteranomaly” and “protanomaly” in ophthalmological terminology, respectively. The new data further supports a notion that the color vision "deficiency" seen today was already prevalent in ancient humans and would be regarded as common variation considering their better shape-recognizing vision than prototypical trichromacy.

嵐山集団のニホンザルにおける20カ月間の毛づくろい行動の一貫した個体差の検討
片山洸彰,勝野吏子,山田一憲(大阪大・人間科学)
Consistent inter-individual differences in grooming over 20 months in Japanese macaques (Macaca fuscata) of the Arashiyama group
Kosho KATAYAMA, Noriko KATSU, Kazunori YAMADA

パーソナリティは,性や年齢といった個体属性では説明できない時間と状況を通じて一貫した行動の個体差である。ヒト以外の霊長類においては社交性がパーソナリティの一側面として扱われ,毛づくろい行動の個体差が指標とされてきた。しかし,毛づくろい行動に影響しうる,性,年齢,順位,血縁個体数といった個体属性を,複数同時に考慮しながら個体差を評価することは分析の難しさからこれまで十分に行われてこなかった。近年,個体差そのものをモデル内で推定する統計手法が開発されつつあり,反復性分析はその一つである。反復性を評価することで,個体属性では説明されない個体差が,毛づくろい行動にどの程度含まれるのかを評価できる。本研究では,ニホンザル(Macaca fuscata)を対象に個体属性を考慮したうえで,20カ月間にわたって毛づくろい行動に一貫した個体差がみられるのかを検討した。嵐山モンキーパークの野生ニホンザル28頭(オス5頭,メス23頭)を対象に,2023年8月から2025年3月の間に計164日間,計280時間(平均10時間/個体,SD = 0.00)の行動観察を行った。個体追跡法による1セッション20分の観察を行い,毛づくろい時間と毛づくろいの相手個体数を記録した。これら二つの毛づくろい指標について反復性をモデル推定し,性,年齢,順位,血縁個体数を統制要因としたうえで,高い反復性が認められるかどうかを検証した。反復性は,毛づくろい時間と毛づくろい相手個体数の両者において高く,20カ月間の観察期間を通して一貫した個体差がみられた。この結果は,集団内には個体属性にかかわらず,多くの相手と広く社会交渉を行う個体と,他個体との接触を避けて少数の個体と集中して社会交渉を行う個体がいることを示唆している。ニホンザルは他個体との社会交渉に関して,どのくらい多くの相手と,どのくらいの頻度で交渉を行うかについて個体ごとに異なる戦略があるのかもしれない。

歯の咬耗を「失われた量」として捉える―未咬耗時エナメル質体積推定による咬耗評価―
中村凱(東京大・院理、総研博)、近藤修(東京大・院理)
Quantifying dental wear progression through estimation of cumulative enamel tissue loss
Kai NAKAMURA, Osamu KONDO

歯の咬耗は、歯の萌出後の機能期間を通じて進行する累積的な硬組織喪失プロセスであり、古人骨研究において、年齢推定や食性復元の指標として広く利用されてきた。本研究では、咬耗を現在観察される歯冠形態ではなく、機能期間を通じて累積したエナメル質喪失量として捉える。失われたエナメル質量は直接観察できないため、残存歯冠形態から未咬耗時のエナメル質体積を推定し、その差分として咬耗量を評価する枠組みを採用した。縄文時代人骨資料の下顎大臼歯を対象に、マイクロCT画像から歯冠サイズおよびエナメル質厚さを計測し、未咬耗歯を基準資料として、初期エナメル質体積推定モデルを構築した。さらに、推定された初期体積と残存体積との差からエナメル質喪失量を算出し、その変化パターンを検討した。その結果、歯冠サイズに加えてエナメル質厚さを説明変数として用いることで、初期エナメル質体積の推定精度は向上した。また、推定されたエナメル質喪失量は発育年齢および歯種間の既知の咬耗進行パターンと整合的な傾向を示した。本研究は、未咬耗時のエナメル質体積推定に基づき、咬耗進行を累積的なエナメル質喪失量として評価するための方法論的枠組みを提示するものであり、古人骨研究における咬耗評価の新たな可能性を示す。

高齢者施設の木造化、内装木質化が職員に与える影響
前田健志、恒次祐子、坂口大和(東京大・農学生命科学研究科)、苅谷健司、山田浩嗣、土屋守雄(住友林業・筑波研究所)
Impact of timber construction and wood-based interiors in elderly care facilities on staff
Kenji MAEDA, Yuko TSUNETSUGU, Hirokazu SAKAGUCHI, Kenji KARIYA, Hirotsugu YAMADA, Morino TSUCHIYA

高齢者施設では, 施設を支える職員の心理的・生理的負担を軽減することが重要な課題となっている。木材にはストレス緩和や心理状態の改善に寄与する可能性が報告されており, 高齢者施設における木材利用は, 職員にとって有益な可能性があるとして注目されている。そのため本研究では, 構造や内装の異なる高齢者施設で働く職員の心理・生理指標を複数の施設で比較し, 建物の木造化, 内装木質化が職員へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査対象は木造4施設 (W1 ~ W4) , RC造4施設 (RC1 ~ RC4) の計8つの高齢者施設とした。各施設において床かたさ, 分光照度, 木視率, VOC濃度, 温湿度を測定した。また, 同意を得られた全施設職員141人を対象に, 知的生産性, 仕事への意欲, 疲労度, 食堂空間の印象評価に関する項目を含むアンケート調査を実施した。さらに介護職職員80人を対象に, 勤務時のウェアラブルデバイス着用により活動量および脈拍数を2週間, 連続で測定し, 介護職職員42人を対象に, 毛髪中のコルチゾール濃度 (後頭部の毛髪, 根本から3cm) から慢性的なストレスの評価を行った。脈拍数は個人ごとの安静時からの変化量を算出して解析した。食堂の印象評価では, 明るさやあたたかさ, 自然らしさといった項目でRC1がW3よりも有意に評価が低く, 嗜好性や快適性といった空間の総合評価に近い項目についてもRC1の評価が他の施設より低くなる傾向を示した。RC1における食堂空間の木視率は他の施設に比べて顕著に低く, これが主観的な印象評価に一部反映された可能性が推察される。介護職職員の生理指標である脈拍数の変化量や毛髪コルチゾール濃度については, 構造形式の違いによる差はあまり見られず, 脈拍数の変化量ではRC4が, 毛髪コルチゾール濃度ではRC2が他の施設よりも高い傾向を示した。今後,これらの指標について, 施設の環境因子や運用面, 個人差など, 建物の構造以外の要因との関係も併せて検討していく予定である。

3次元身体力学モデルによるゴリラナックルウォークの順動力学シミュレーション
嶋根裕太、荻原直道(東京大)
Forward Dynamics Simulation of Gorilla Knuckle-Walking Based on Three-Dimensional Whole-Body Model
Yuta SHIMANE, Naomichi OGIHARA

アフリカ大型類人猿は,ナックルウォーク(knuckle-walking, KW)と呼ばれる特異な四足歩行を行う。しかし,ヒトとの最終共通祖先(LCA)から,どのようなプロセスを経てKWを進化させたのかは十分解明されていない。一方,ヒト系統ではLCAから二足性が進化したと考えられるため,身体構造や歩行運動を仮想的に改変できるシミュレーションを通じて,KWが選択される力学的条件を検証することは,ヒト二足歩行の進化を考える上でも重要である。特にゴリラは大型で地上性が高く,KWが主要な移動様式として明瞭に表れるため,KWの力学条件を検討する上で有用なモデルである。そこで本研究では,ゴリラの身体力学モデルに深層強化学習を適用し,KWを再現する順動力学シミュレーションを構築することを目的とした。具体的には,全身CT画像および解剖データに基づき,ゴリラの3次元身体力学モデルを構築した。KWを再現する制御器は,3層の隠れ層を有する多層ニューラルネットワークとして表現し,関節角度や速度,姿勢などを含む計77次元の感覚情報を入力として,22次元の関節トルク指令値を出力する。さらに,実測データに近い関節運動と床反力を再現できるように報酬関数を設定し,PPOを用いた強化学習によって,その報酬を最大化する制御方策を学習させた。シミュレーションにより生成された歩行は,全関節における関節軌道の誤差が約5.0°に収まり,計測値と概ね一致した。また,床反力パターンもゴリラKWの計測結果と定性的に類似し,ゴリラKWの運動学的・動力学的特徴を計算機内に再現できることが示された。本モデルを用いて身体形態や制御条件を仮想的に改変することで,KWが成立・選択される力学的条件を検証できると考えられる。さらに,本研究で構築したKWの動力学シミュレーションは,LCAに想定される四足歩行様式をモデル化し,四足歩行から直立二足歩行への移行過程を力学的に検証するための計算基盤となると考えられる。

石器製作における手の生体力学解析のための計測系構築
田中理暉(東京大・院理),叶賀卓(産総研),多田充徳(産総研),荻原直道(東京大・院理)
Development of a New Measurement System for Biomechanical Analysis of the Hand during Stone Tool Production
Riki TANAKA, Suguru KANOGA, Mitsunori TADA, Naomichi OGIHARA

ヒトの手は他の霊長類と比較して,物体把握・操作能力に優れており,高度な道具を製作し,使用する能力を持っている。なかでも,最も原始的な道具の一つである打製石器は,初期人類の生存と適応に重要な役割を果たしており,石器製作はヒトの手の構造と形態の進化に関与したと考えられている。しかし,石器製作が手にどのような力学的負荷を与え,それが把握能力や手の形態進化にどのように影響を及ぼしたのかは,骨形態分析のみから明らかにできない。これまでにも,模擬石器製作中の打撃動作や手に加わる力を測定する試みは行われてきたが,手指の運動,手指に加わる接触力,打撃石および石核に作用する力を詳細かつ同時に計測し,石器製作中の力学現象を総合的に解析できる計測系はいまだ確立されていない。そこで本研究では,石器製作の動力学を定量的に解析するための計測系を構築し,その有効性を評価することを目的とした。具体的には,片手あたり16個のIMUを搭載したセンサーグローブを用いて打撃時の各指の三次元運動を計測し,手掌および指腹部に多数配置した小型圧力センサーにより,石器製作中に手指に加わる接触力を計測した。さらに打撃石と石核に加わる力をロードセルで計測し,手指運動,手指接触力,打撃力を同時に取得可能な統合計測系を構築した。光学式モーションキャプチャにより取得した手の三次元運動を基準値として,IMUセンサーグローブによる手指運動計測の精度を評価し,本計測系が実用上十分な精度を有することを確認した。これらのデータを統合することで,石器製作中に手の各骨に加わる外力,各関節に作用するトルク,関節間力などを推定し,石器製作がヒトの手に与える力学的負担を定量的に評価するための基盤を構築した。これは,ヒトの手がどのように形態的・構造的変化と力学的適応を遂げたのかの理解に貢献し,ヒトの把握能力の起源と手の進化過程の解明に繋がる。

チンパンジーのメスにおける加齢に伴う行動変化―活動時間配分と空間利用に着目して
キム ジャオク(京都大・院理)
Age-Related Behavioral Changes in Female Chimpanzees: Focusing on Activity Budgets and Spatial Use
Jaock KIM

ヒトにおける高齢化社会への関心と霊長類を対象とした長期野外調査の進展に伴い,ヒト以外の霊長類においても老化に関する研究が活発に行われている。チンパンジー(Pan troglodytes)では,オスは30歳代以降に一貫して身体機能や活動量を低下させることが報告されている。一方,メスでは加齢の影響は一様ではなく,同年代個体間でも行動に大きな個体差が認められる。そのため,メスの加齢に伴う行動変化は,単純な活動量の低下だけではなく,別の視点からも捉える必要がある。本研究では,チンパンジーのメスの加齢に伴う行動変化のパターンを,活動時間配分と樹上・地上の空間利用に着目して分析した。調査はタンザニア・マハレ山塊国立公園のM集団で実施した。対象はオトナメス8個体で,20歳代4個体(若齢オトナメス)と40~50歳代4個体(高齢オトナメス)の二つの年齢クラスに区分した。2025年8月から2026年2月まで,対象のメスを個体追跡し,1分間隔の瞬間サンプリング法を用いて行動データを収集した。活動時間配分の分析では,採食時間は年齢によって差が見られ,高齢個体で全体的に短い傾向が認められた。とくに若齢個体では地上よりも樹上で採食が長くなる一方で,高齢個体では地上と樹上の差は見られなかった。休息では逆のパターンが示された。若齢個体では空間による明確な差は見られなかったが,高齢個体では地上での休息が増加した。移動では,若齢個体では空間による明確な差は見られなかった。一方で高齢個体では地上に比べて樹上で移動時間が短い傾向が見られたが,この差は統計的に有意ではなかった。活動時間配分のみでは年齢クラス間の差は限定的であったが,空間利用を考慮することで,活動ごとに異なる加齢効果が確認された。これらの結果は,チンパンジーのメスの加齢に伴う行動変化が,単なる活動量の低下ではなく,空間利用と活動構成の再編として現れる可能性を示唆している。

現代日本人下顎骨形態と性差の時代変化
臼井詩織(東京大・理、科警研)、天野英輝(東京大・理)、中務真人(京都大・理)、早川秀幸(筑波剖検センター)、塩谷清司(聖隷富士病院)、荻原直道(東京大・理)
Secular changes of mandibular morphology and sexual dimorphism in modern Japanese
Shiori USUI, Hideki AMANO, Masato NAKATSUKASA, Hideyuki HAYAKAWA, Seiji SHIOTANI, Naomichi OGIHARA

下顎骨の形態は咀嚼機能と密接に関連しており,食習慣を含む生活習慣の影響を受けることが知られている。日本人の下顎骨形状は縄文時代から1900年代前半にかけて変化してきたことが報告されているが,その後,現在に至るまでの比較的短期間に生じた変化については十分に検討されていない。また,下顎骨は形態の性差が大きい骨として知られているが,下顎骨全体の形状が時代的に変化しているのであればそれに伴って性差の表れ方も変化している可能性がある。そこで本研究では,大学所蔵の日本人骨標本群56個体分を近代日本人,2020年代に撮影された日本人死後CTデータ56個体分を現代日本人として,両群の下顎骨形態を3次元幾何学的形態測定法に基づいて比較し,過去約100年間に生じた時代変化について検討した。その結果,現代日本人では,近代日本人に比べ関節突起が外側に,下顎角が内側に位置している,関節突起や筋突起が短い,下顎体前部が上方に位置しているなどの特徴が確認された。また,時代にかかわらず観察された性差のうち最も顕著な特徴は,男性で下顎角が外側に突出していることであった。一方,近代日本人においては,男性は女性に比べ関節突起が外側に突出し,筋突起が大きく,下顎体前部が後方に位置していて下顎下縁の輪郭が角張っている傾向が観察されたが,これらの性差は現代日本人では明瞭ではなかった。以上の結果から,下顎骨の形態は過去100年ほどの間に大きく変化しており,それに伴って性差の表れ方も変化しており,一部の性差が縮小していることが示された。この背景には,近年の柔らかい食べものを中心とした食習慣の変化や,男女間のライフスタイルの均質化などの影響があると考えられる。本研究の成果は,法人類学分野における身元不明遺骨の性別推定の精度向上などにも寄与する可能性がある。

視覚入力および支持面条件の変化に伴う立位姿勢制御の身体分節間協調-位相同期値を用いた探索的検討-
近裕介(久我山病院, 杏林大学),西沢康平(東京大学), 藤木聡一郎(獨協医科大学),池田悠稀(国立精神・神経医療研究センター),田中和哉(帝京科学大学),星野真之介(世田谷人工関節・脊椎クリニック),藤澤祐基(杏林大学),荻原直道(東京大学),跡見友章(杏林大学)
Task-Specific Modulation of Intersegmental Coordination During Human Upright Postural Control: A Time-Series Analysis Using Phase Locking Value
Yusuke KON, Kohei NISHIZAWA, Soichiro FUJIKI, Yuki IKEDA, Kazuya TANAKA, Shinnosuke HOSHINO, Yuki FUJISAWA, Naomichi OGIHARA, Tomoaki ATOMI

ヒトの立位姿勢は,二足で構成される狭い支持基底面上に身体質量比の高い頭部・体幹部が鉛直方向に配列し,多分節な身体が一定の範囲で揺らぎながら制御される。この力学的に不安定な構造に対して,姿勢制御系は視覚入力や支持面条件などの外部環境に応じて,課題特異的に身体各分節の協調様式を変化させると考えられる。姿勢制御の評価には,圧力中心や身体重心の時系列解析が用いられることが多い。しかし,これらの指標は全身の動揺特性を反映する一方で,身体分節間の協調様式を直接的に捉えるには限界がある。本研究では,加速度センサを用いて視覚条件および支持面条件の変化に伴う課題特異的な身体分節間協調の特徴を位相同期値(PLV: Phase Locking Value)により探索的に検討することを目的とした。対象は健常成人男性18名とした。課題は,静止立位を閉脚位にて視覚条件(開眼・閉眼)×床面条件(安定床面・不安定床面)を変更して各60秒間実施した。加速度センサは,頭部・胸郭・骨盤部・両上肢・両下肢の7か所に貼付した。取得した加速度信号に対して,重力成分低減および時間同期処理を行い,前後・左右方向の加速度データを抽出した。前処理後の加速度データに対して,4次Butterworthバンドパスフィルタ(0.1-20Hz)処理を行った後,Hilbert変換により瞬時位相角を算出し,各体節間のPLVを算出した。結果として,前後・左右方向のいずれにおいても,開眼・安定床面条件と比較して,閉眼条件および不安定床面条件では胸郭部-骨盤部間のPLVが高くなる傾向を認めた。また,開眼・安定支持面条件を基準とした場合,閉眼条件よりも不安定支持面条件においてPLVの変化がより明瞭となる傾向がみられた。本結果より,閉脚立位においても,視覚入力の遮断および支持面の不安定性に応じて身体分節間協調が変化する可能性があり,PLVは環境条件に応じた姿勢制御様式の変化を捉える指標となる可能性が示唆された。

齧歯類の齧痕が示唆する後期更新世白保竿根田原洞穴遺跡での風葬の可能性
永島萌(慶應大・院文)、片桐千亜紀(沖縄県教育庁・文化財課)、大藪由美子(土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム)、佐藤孝雄(慶應大・文)、河野礼子(慶應大・文)
Rodent Gnaw Marks Suggesting Fuso at the Late Pleistocene Shiraho-Saonetabaru Cave Site
Moe NAGASHIMA, Chiaki KATAGIRI, Yumiko OYABU, Takao SATO, Reiko T. KONO

石垣島に所在する白保竿根田原洞穴遺跡からは,後期更新世から完新世初頭の1,200点を超える人骨片が発見された。約20体分を数える更新世人骨の出土状況が風葬人骨の出土状況に類似することなどから,当遺跡は風葬墓である可能性が示されている。発表者らはこれまで,骨表面に残る齧歯類の齧痕に基づき,白保竿根田原洞穴遺跡より出土したおよそ2万7千年前の4号人骨が風葬されたものである可能性を議論してきた。さらに,齧歯類の齧痕を風葬の論拠とする妥当性を示すために,近世石垣島の風葬墓である嘉良嶽東方古墓群の人骨に齧痕が見られるか否かを調査し,近世の風葬人骨にも齧歯類による齧痕が残されていることを確認した。本発表では,白保竿根田原洞穴遺跡での風葬説を検証するために,4号以外も含めた更新世の全ての白保人骨を齧歯類の齧痕の観点から観察した結果を報告する。白保人骨には齧歯類による齧痕が総計95箇所確認された。傷痕の形状からは,軟部組織が付着していた時期から完全な白骨化後まで露出した環境にあった個体が含まれることが明らかとなった。齧痕が観察される人骨の放射性炭素年代に隔たりがあることは,風葬が数千年にわたって行われていた可能性を示唆する。以上より,後期更新世の白保竿根田原洞穴遺跡では長期にわたり連続的,あるいは断続的に風葬が行われた可能性が高いと言える。

東南アジア大陸部の少数民族ゲノムに観察された祖先モザイク構造
吉田光希(東京大・院理)、松平一成(琉球大・院医)、木曽菜穂(東京大・院理)、小金渕佳江(東京大・院理)、Nancy Bird(University of East Anglia・Biological Sciences)、西田奈央(国立国際医療研究所)、木村亮介(琉球大・院医)、徳永勝士(国立国際医療研究所)、Paul Verdu(CNRS-MNHN-Université Paris Cité・Eco-anthropology)、Danai Tiwawech(National Cancer Institute、 Bangkok)、Surin Pookajorn(Silpakorn University・Archaeology)、Phaiboon Duangchan(Srinakharinwirot University)、Wannapa Settheetham-Ishida(Khon Kaen University・Medicine)、石田貴文(東京大・院理)、渡部裕介(東京大・院理)、Garrett Hellenthal(University College London・Genetics)、太田博樹(東京大・院理)
The Ancestral Mosaic Structure observed in Ethnic Minority Genomes of Mainland Southeast Asia
Koki YOSHIDA, Kazunari MATSUDAIRA, Nao KISO, Kae KOGANEBUCHI, Nancy BIRD, Nao NISHIDA, Ryosuke KIMURA, Katsushi TOKUNAGA, Paul VERDU, Danai TIWAWECH, Surin POOKAJORN, Phaiboon DUANGCHAN, Wannapa SETTHEETHAM-ISHIDA, Takafumi ISHIDA, Yusuke WATANABE, Garrett HELLENTHAL, Hiroki OOTA

東南アジア大陸部(Mainland Southeast Asia:MSEA)のヒト集団形成は,出アフリカ後初期に定着した在地狩猟採集民と,約4千年前に東アジアから南下した農耕民グループの重なりとして説明するTwo-layer Model(TLM)によって理解されてきた。現在のMSEAには,古くから特有の生業形態を維持してきた少数民族が居住しており,TLMの痕跡として注目されてきた。東南アジアの先史遺跡から出土する狩猟採集に関連する石器・技術複合はホアビニアン文化と呼ばれる。現在のマレー半島南部の密林で狩猟採集を営む集団(Semang:SM)は,ホアビニアン狩猟採集民の直接の子孫と考えられている。一方,北部山岳地帯で伝統的な農耕を営む少数民族グループ(Hill Tribes:HT)は,後発の農耕集団との関連で議論されてきた。しかし,こうした対応関係をゲノムデータから検証した研究は少ない。そこで本研究では,タイ少数民族とMSEA出土古人骨から得られた全ゲノム配列データを統合解析し,それらの系統的連続性や交雑史を検証した。ハプロタイプに基づく祖先構成比推定の結果,SMとHTの間には候補祖先の割合に明確な違いが見られ,SMはホアビニアン狩猟採集民と,HTは外来農耕集団と,子孫-祖先関係が確認された。一方,単一の祖先成分のみを有する民族はほぼ皆無で,多くの民族には,ホアビニアン狩猟採集民やMSEA新石器農耕民に加え,華北や南アジア集団に関連するゲノム要素も検出された。これらの結果は,現在の東南アジア大陸部の少数民族が,TLMで想定される二層構造の単純な残存集団ではなく,後続する多層的な移住・交雑を経て形成されたモザイク的集団であることを示している。本発表では,交雑年代推定の結果も踏まえ,TLMを静的な二層構造から,移住と交雑を包含する動的なモデルへと議論を展開する。

野生ニホンザルの湿度と関連した行動性体温調節:半日陰の意義
田伏良幸(中央大・理工学術院)
Behavioral thermoregulation in relation to humidity in wild Japanese macaques: the significance of semi-shade
Yoshiyuki TABUSE

近年の気候変動による熱ストレスの増加によって,野生動物が行動でどのように熱ストレスを緩和しているのかを理解する重要性が強調されてきている。日向・日陰などの休息場所利用は気温により変化し,行動性体温調節として機能するが,この過程における湿度の効果は十分に理解されていない。また,日向と日陰の中間的日照カテゴリーである半日陰の利用は,トカゲで最適な体温維持に寄与しうるが,内温動物での半日陰の体温調節的意義は不明である。そこで本研究は,屋久島の野生ニホンザル(Macaca fuscata yakui)を対象に,気温と湿度を考慮し,日向・日陰・半日陰の3つの日照カテゴリーに着目した休息場所利用を検証した。本研究は鹿児島県屋久島の西部地域沿岸部に生息するUmi-A群(全72頭)のニホンザルを対象に,2021年3月を除く2020年10月から2021年10月まで調査を行った。調査中,気温は6.0℃から35.1℃、湿度は35.7%から91.2%まで観測された。4歳以上のメス24頭を対象に,個体追跡法により512時間(一個体あたり平均で21.3±4.2時間)観察し,晴天時,追跡個体が休息し始めた時,または遊びを除く親和的行動を始めた時の722の休息場所利用を観察した。日照カテゴリーは,追跡個体の日光に当たる体表面のうち,日光に曝されている割合が0から33%を日陰,33%から67%を半日陰,67%から100%を日向と定義した。その結果,ニホンザルは約22℃以上で,湿度80%以上の湿潤時に日陰,湿度60%以下の乾燥時に半日陰を選択する一方で,約15℃以下では,湿度に関わらず日向を選択する可能性が高かった。このことから,湿度は低温状況下ではなく高温状況下で休息場所利用を変化させることを示している。さらに,半日陰利用は高温乾燥状況下でのニホンザルの体温調節戦術である可能性を示唆し,他の霊長類や内温動物が湿度によって変化する熱ストレスへの対処として,どのように休息場所を利用しているのかという理解を深める一助となるかもしれない。

ニホンザルにおける水平梯子上の四足歩行の時系列分析
安富祐人、山本倫生、設樂哲弥、岡響希、西村剛(大阪大・人間科学)
Time-series analysis of quadrupedal walking on a horizontal ladder in Japanese macaques
Yuto ADOMI, Michio YAMAMOTO, Tetsuya SHITARA, Hibiki OKA, Takeshi NISHIMURA

サル類は樹上適応して進化してきた。そこでは,足場が不連続かつ多様な樹上を,安全に,かつ移動方向を柔軟に変化させながら,移動する必要があった。樹上で四足歩行するサル類は,四肢の運動パターンを柔軟に変化させることで安全に移動する。そこでは,四肢の運動を変化させるのみでなく,それらを繋ぐ体幹を三次元的に姿勢変化させて対応している。時事刻々と変化する樹上環境への適応を理解するとき,移動する基体の変化に対して,体幹運動を含めた四肢の運動をどのように変化させて対応しているのかを理解する必要がある。本研究は,ニホンザル四足歩行中の水平梯子の幅を操作し,不連続性を変化させた際の四肢と体幹運動を比較した。分析には,歩行周期中に離散的に測定された値からなる波形全体を,時間に沿って連続的に変化する一つの関数として捉える関数データ解析を用いた。これにより,波形を特定の要約指標に変換することなく,四肢運動と体幹運動の時間的変化を保ったまま,実験条件間で歩行周期中のどの局面に違いが生じるのかを直接比較した。水平梯子の間隔を広くするにつれ,同側前後肢の運動を左右で非対称的に乖離させ,一方で同側前後肢の接地時間を伸ばす一方で,対側の前後肢の滞空時間を形成し長くすることで歩幅を広げていた。さらに,体幹を接地側へと側屈することにより,反対側が滞空中でも身体の安定性を確保していた。このような運動は,理論的には,サル類のDSDC歩様で実現される。この四肢,体幹運動を変化させせることにより,滞空相での移動方向を変化させることも可能になると考えられる。この結果は,サル類特有の歩容が,不連続な環境でも安全かつ柔軟に移動することに適応的であることを示唆した。

郡遺跡・倍賀遺跡出土人骨の歯エナメルプロテオーム解析による弥生時代中期集団の性別推定
福原瑶子(総研大・統合進化)、鹿野 塁(大阪府文化財センター)、飯田真理子(大阪市教育委員会)、西内 巧(金沢大)、長岡朋人(青森公立大)、蔦谷 匠(九州大・高等研究院、総研大・統合進化)
Sex determination of the Yayoi period population in Osaka through palaeoproteomic analysis of ancient dental enamel.
Yoko UCHIDA-FUKUHARA, Rui SHIKANO, Mariko IIDA, Takumi NISHIUCHI, Tomohito NAGAOKA, Takumi TSUTAYA

過去の人々の性別推定は,集団の性比や人口構成といった生物学的側面だけでなく,性別に基づく役割分担や社会階層との関係といった社会的側面を考察するうえでも重要である。埋葬された古人骨の性別を推定することは,当時の社会における性別と役割・地位との関係を理解する手がかりとなる。従来は骨盤や頭蓋骨の形態分析によって性別が判断されてきたが,酸性土壌環境下では古人骨の分解が進み,性別判定が困難な場合があった。そこで我々は,歯エナメル質に残存するタンパク質を用いたエナメルプロテオーム解析に着目した。歯エナメル質は結晶構造が密で,酸性土壌でも比較的残りやすい。本研究では,XおよびY染色体にコードされるアメロゲニン由来ペプチドにみられるアミノ酸配列の違いを分析し,生物学的性別を推定した。本研究では,大阪府茨木市の郡遺跡・倍賀遺跡を対象とした。本遺跡は弥生時代前期末から後期に相当し,中期に集団埋葬墓が出土している。本遺跡は生活が完結した弥生の集落であった可能性がある。我々は,この出土歯エナメル質に対してエナメルプロテオーム解析を実施し,性別を推定することができた。本研究では,得られた性別判定結果をもとに,この集団における性別構成と埋葬様式の関係性について検討する。

古代ミトコンドリアゲノムから明らかになったボリビア・チチカカ湖周辺における時代を通じた遺伝的連続性
片岡梨沙子1、Adrian A. Davin2、藤木雅1、吉田光希1、脇山由基1、渡部裕介1、小金渕佳江1、Guido Valverde3、太田博樹1
1東京大学大学院・理学系研究科、2 Institute of Microbiology ETH Zürich, Zurich, Switzerland, 3 Eurac Research、Institute for Mummy Studies
Ancient mitochondrial genomes reveal maternal-line continuity through cultural transitions in the Bolivian Altiplano
Risako Kataoka1, Adrian A. Davin2, Miyabi Fujiki1, Koki Yoshida1, Yoshiki Wakiyama1, Yusuke Watanabe1, Kae Koganebuchi1, Guido Valverde3, Hiroki Oota1
1Graduate School of Science, University of Tokyo, 2 Institute of Microbiology ETH Zürich, Zurich, Switzerland, 3 Eurac Research, Institute for Mummy Studies

南米ボリビアのチチカカ湖周辺の高山地域では、移動型の狩猟採集民集団から定住型の農耕牧畜社会への移行が、およそ4,000年前に始まったと考えられている。農耕牧畜の導入は一般的に人口増加や社会の複雑化と関連付けられており、この地域でもチリパ(Chiripa)やワンカラニ(Wankarani)といった村落の繁栄、そして後にティワナク(Tiwanaku)文明の興隆が見られた。しかし、農耕牧畜の発展が人口にどのような影響を与えたか――例えば、その増加に要した時間や、人口の置換か交雑が生じたかといった詳細――については、依然として不明な点が多い。

本研究では、ワンカラニ(形成期:紀元前800年~紀元200年)、ティワナク(中期ホライズン:西暦500年~1110年)、およびコント・コント(Konto Konto)/パカヘス(Pacajas)文化(後期中間期:西暦1100年~1450年)という3つの文化段階と関連する古人骨から抽出したDNAを分析した。53個体のミトコンドリアゲノム完全配列を用いて集団遺伝学的解析を行った。ベイズスカイラインプロットの結果から、約4,500年前から2,500年前にかけて母系有効集団サイズ(Ne)が増加し、その後は一定の水準を維持していたことが推定された。さらに、3つの時期すべてにおけるミトコンドリアハプログループの構成に有意な差は見られず、超可変領域に基づくTajima’s D検定も有意に正の値を示さなかったことから、母系系統に有意な分集団構造は認められなかった。

これらの知見は、過去2,000年間にわたりチチカカ湖流域において、母系系統の著しい連続性が維持されてきたことを示唆している。したがって、観察された文化的・社会政治的変容は、検出可能な大規模な母系系統の入れ替わりを伴っておらず、文化の変化は主に遺伝的に連続した地域集団の内部で生じたと推定される。

会場B(1323教室)

縄文時代人の体格における変異:緯度・地方・遺跡の比較
鬼木そら(東京大学大学院・理学系研究科・生物科学専攻)
Variation of Jomon People’s Physique: Comparisons Across Latitude, Regions, and Archaeological Sites
Sora ONIKI

これまで縄文時代人の体格の多様性に関する研究は,縄文集団と現代日本人の地域変異の程度の比較や,縄文集団内の地方や緯度ごとの変異に注目してきた。例えば,縄文男性の四肢骨から,緯度と関連する地理的変異を検討した研究では,体サイズ(四肢骨長と大腿骨頭幅)は北上するほど増大し,ベルクマンの法則が当てはまると報告されている。一方,上腕骨にフォーカスした別の研究では,海浜・内陸という立地や遺跡間差の重要性が指摘されている。そこで,本研究では,縄文時代人の男女の上・下肢骨の計測値を用いて,緯度・地方・遺跡における変異を明らかにすることを試みる。資料は北海道から沖縄にかけて102遺跡の縄文時代人骨1007個体(女462,男545)である。計測項目は身長との相関の高い長さに加え,活動レベルと強く関わる太さ,体重と相関が高い骨頭などの関節サイズとした。緯度区分は世界測地系の北緯30度未満,30~37度,37~40度,40度以上,地方区分は北海道,東北,北陸,関東,東海,近畿,中国,九州,沖縄とした。緯度との関連を調べた結果,男女の上腕骨,女性の大腿骨と脛骨最大長,男性の尺骨最大長に有意な相関が見られたが,緯度と四肢骨長の相関係数は総じて高くはなかった。次に,20個体以上ある遺跡のみを解析対象とし,緯度,地方,遺跡の三因子による三元配置分散分析を各計測項目ごとに行った。結果,長さ,太さ,関節サイズの変異の因子は一様ではなく,遺跡を因子とする計測項目は男性の方が多いことがわかった。また,関節サイズについては女性にはいずれの因子においても有意差がなかったのに対し,男性は地方や遺跡において有意差が確認された。さらに詳しく遺跡間差を調べるため,Tukey-HSD検定を行ったところ,同じ緯度区分や地方区分の遺跡間でも有意差が確認された。さらに,有意差のある遺跡の組み合わせは男性の方が多く,縄文時代人の体格の遺跡間差には性差がある可能性が示唆された。

縄文時代人の下肢骨断面形態における性差
白神明日香(東京大学大学院・理学系研究科・生物科学専攻)
Sexual Dimorphism in Lower Limb Bone Morphology in the Jomon Population
Asuka Shirakami

柱状大腿骨および扁平脛骨は,小金井(1890)やモース(1879)による報告以来,縄文時代人骨格の主要な特徴の一つとして広く知られている。その成因については,遺伝よりも環境要因によるとの考えが強く,一般に下肢にかかる前後方向の力学的負荷や筋活動との関連が指摘されているほか,脛骨の扁平性については栄養不足に起因するとの説もある。一方,そうであるなら,縄文集団間での活動の差異に応じて,これらの形質は大きく変異すると予想される。特に性差のパターンは,縄文社会における男女間の活動様式の差異を反映している可能性があり興味深いが,そのような検討例はほとんどない。そこで本研究では,日本列島各地の縄文遺跡出土人骨を対象に下肢骨断面形態を比較し,⑴下肢骨形態にみられる性差の遺跡間変異を明らかにすること,⑵形質間および他要因との関連を検討することを目的とした。資料は,日本列島各地の縄文時代前期〜晩期にかけて出土した人骨のうち,骨盤や頭骨により性別判定が可能な個体の大腿骨及び脛骨である。各々の骨に対して長さ,関節幅,矢状径(最大径),横径などの線形計測を行い,大腿骨の柱状示数および脛骨の扁平示数を算出した。さらに,各示数と他の計測値との関連並びに両示数間の関連を検討した。大腿骨の柱状性は概して男性が女性より高い値を示したが,変異の重なりも大きかった。一方,脛骨の扁平性では,一部の遺跡では女性が男性を上回る傾向も認められた。いずれの形質においても,性差の程度には遺跡間変異が認められた。また,大腿骨柱状性と脛骨扁平性の関連では,男女ともに明瞭な相関関係は認められなかった。Ruff(1987)は,下肢骨形態の性差が男女の移動性や労働分担の違いと関連する可能性を指摘している。これを踏まえ,本研究で認められた下肢骨形態における性差の遺跡間変異についての意味や,一部の遺跡で女性が男性より高い扁平性を示した背景について考察する。

糞石からの古代寄生虫DNA検出のための抽出法およびin silico解析法の最適化
坂田彩音1,藤木雅1,本間友理,脇山由基1,渡部裕介1,太田博樹1,小金渕佳江1(1東京大 院理)
Optimization of DNA Extraction and in silico Analysis for the Detection of Ancient Parasite DNA from Archaeological Fecal Materials
Ayane SAKATA, Miyabi FUJIKI, Yuri HOMMA, Yoshiki WAKIYAMA, Yusuke WATANABE, Hiroki OOTA, Kae KOGANEBUCHI

過去の人々の排泄物(糞石)から当時の寄生虫のDNAを検出することは,当時の衛生環境を調べる手掛かりとなる。また,当時の人々の家畜動物との関わりについての情報を得られることも期待できる。しかし,日本列島ではDNAに基づく古代寄生虫研究は非常に少ない。当研究室ではこれまで糞石DNAからの摂食物推定や,遺跡堆積物からの古代DNA分析を通じて過去の生活環境の復元に取り組んできた。糞石や堆積物に含まれる古代DNAは,一般に断片長が短いうえ,周辺土壌由来の現代DNAが多く混在するため,それらを考慮した解析手法の検討が必要である。さらに,糞石から得られる寄生虫DNAの多くが卵に由来するとの報告があり,これまで当研究室が採用していたDNA抽出法では卵殻を十分に破砕できず,DNA回収効率が低下する可能性がある。このため,古代寄生虫DNAの検出に特化したDNA抽出法および解析手法の最適化が不可欠である。

本研究では古代寄生虫DNAを用いた過去の生活環境の復元を目的とし,沖縄県の首里城跡・御内原北地区(琉球王国時代,15世紀後半〜17世紀前半)出土の糞石を対象に次世代シークエンサ(Next Generation Sequencer: NGS)をもちいた古代寄生虫DNA検出手法の最適化を行った。

当初,現代糞便用のDNA抽出キットを用いた結果,得られたDNAの断片長が長く,宿主・微生物由来DNAが大部分を占めるという課題が明らかとなった。そこで(1)マイクロビーズを用いた寄生虫卵の物理的破砕,(2)古代DNAに特徴的な超断片化された50bp以下のDNAも回収できる先行研究のプロトコル,(3)この両者を組み合わせた手法の3条件を比較した。さらに,標的種以外のDNA配列を段階的に取り除くパイプラインを構築し,古代寄生虫DNA検出と糞石のホストを推定した。本発表では,これら最適化の評価を中心に報告する。

解剖学的筋骨格モデルに基づくヒト母指筋の指先力生成機能の解析
石橋咲, 荻原直道(東京大・大学院理学系研究科 生物科学専攻)
Biomechanical Analysis of Individual Thumb Muscle Functions Underlying Human Precision Grip Using an Anatomically Accurate Musculoskeletal Model
Saki ISHIBASHI, Naomichi OGIHARA

ヒトは,他の霊長類と比較して優れた精密把握能力を有する。この能力には,手部を構成する各筋の起始・停止や走行といった形態的特徴が深く関与すると考えられる。しかし,各筋がどの方向にどの程度の指先力を生成し,精密把握にどのように寄与するのかは十分に明らかになっていない。実際の手を用いた実験では複数の筋が協調して活動するため,個々の筋の寄与を分離して評価することが困難である。一方,各筋の起始・停止および走行を解剖学的に再現した3次元筋骨格モデルを構築すれば,単一筋活性化時に生じる運動と指先力を計算機上で解析することができる。本研究では母指筋に着目し,順動力学シミュレーションにより各筋の力学的機能を個別に解析することで,ヒトの精密把握能力を支える筋系の形態的基盤を明らかにすることを目的とした。解析の結果,ヒト固有の長母指屈筋は,他の母指筋では十分に発揮できない方向に相対的に大きな指先力を生成したことから,他の筋では代替が困難な機能を担い,母指先端で発揮可能な力の方向を拡張することで,ヒトの精密把握能力に寄与していると考えられる。従来,精密把握に重要と考えられてきた母指対立筋は,他の四指との対向方向への指先力発揮には相対的に大きく寄与せず,精密把握における力学的寄与は限定的である可能性が示された。これに対し,第一背側骨間筋は,対向方向への指先力発揮に大きく寄与することが示された。第一背側骨間筋は,ヒトとチンパンジーで母指中手骨に対する起始範囲が大きく異なる。そこで,ヒトモデルの第一背側骨間筋をチンパンジーの起始点に改変して指先力生成を試みた結果,ヒトモデルで認められた対向方向への指先力生成が全く行えなかった。以上より,ヒトの第一背側骨間筋は,母指中手骨に対する起始範囲の変化に伴って筋走行が変化することで,精密把握に有利な対向方向への母指先端力を発揮する機能を獲得した可能性が示唆された。

機能的単位に基づく筋腱経路オントロジーの構築と比較解剖学への応用
田原-新井 悠也(理研・筑波大)、仮屋山 博文(理研)、尾崎 遼(理研・筑波大)
Function-based curation and comparison of a muscle–tendon routing ontology
Yuya TAHARA-ARAI, Hirofumi KARIYAYAMA, Haruka OZAKI

ヒトや霊長類の運動器機能を理解するには,筋の起始・停止だけでなく,筋力がどの経路で伝達されるかを考慮する必要がある。筋腱は途中で滑車,腱溝,支帯,種子骨などを介して走行や力の作用方向を変え,関節に対するモーメントアームにも影響するためである。ヒトでは,上斜筋腱が眼窩の滑車(トロクレア)で走行を変え,手指の支帯・腱鞘は腱を骨に沿って保持し,膝蓋骨は大腿四頭筋腱のモーメントアームを増大させる。同様の機能は,鳥類の烏口上筋が通る三骨管,ウマの舟状骨,バッタのハイトラー隆起などにもみられる。しかし,これらの構造は分類群ごとに異なる名称や形態で記載されるため,力学的機能に基づく横断的な比較は容易でない。そこで本研究では,筋腱経路に介在する構造の機能を共通に記述するオントロジーを整備し,分類群を超えた比較を可能にすることを目的とした。文献情報から,筋の起始・停止だけでは機能を説明しきれない筋腱経路125事例(96分類群)を収集し,各構造の役割(走行を変える・保持する・モーメントアームを変える)を,コンピュータで検索・比較可能な共通語彙として整理した。その結果,構造の型(滑車・骨管・種子骨・クチクラの突起など)が異なっても,同一の機能クラスとして検索され,推論でも同じクラスに分類された。本枠組みは構造の由来ではなく機能で形質を束ねるため,進化的に独立に獲得された収斂構造を同一の機能単位として比較できる。これにより,二足歩行における足部の支持・推進や,霊長類の手による把握・懸垂のしくみを,分類群を超えて比較する基盤になると考えられる。さらに公開三次元骨格データを用い,筋を引くと長腓骨筋腱が立方骨の長腓骨筋腱溝で走行を変える様子を対話的に確認できる筋骨格シミュレーションを実装し,力の方向転換とモーメントアームの再現を示した。本研究は情報学,比較解剖学,生体力学をつなぐ試みとして報告する。

身体能力関連遺伝子における機能検証候補の絞り込みを目的とした選択圧解析
服部桜,中里浩一(日本体育大学大学院体育学研究科)
Detecting signatures of selection to prioritize candidate variants for functional validation in physical performance–related genes
Sakura HATTORI, Koichi NAKAZATO

身体能力に関連する候補遺伝子は多数報告されているが,その多くは機能的意義が未解明である。自然選択の痕跡を示す遺伝子変異は機能的意義を有する可能性が高く,実験的な機能検証に進む候補を効率的に絞り込むための有用な指標となりうる。そこで本研究では,身体能力関連候補多型の中から機能検証の優先候補を同定することを目的とし,選択圧解析を行った。1000ゲノムプロジェクトのCEU・YRI・CHB集団を対象に,先行研究で報告された身体能力関連多型について,Relateにより祖先組換えグラフを推定しCLUES2で選択係数を推定した。結果,CEUで2多型,CHBで3多型が有意水準を満たした。CEUでは,LCT遺伝子多型と連鎖するR3HDM1 rs6759321およびSLC39A8 rs13107325,CHBではALDH2 rs671,LRPPRC rs10186876,MLN rs12055409が検出された。一方,YRIでは有意な多型は検出されなかった。このうちR3HDM1 rs6759321,SLC39A8 rs13107325,ALDH2 rs671はいずれも先行研究で自然選択との関連が示唆されており,本解析により既知シグナルが再現された。さらに,新たに検出されたLRPPRC rs10186876は,LRPPRC発現と関連するeQTLとして報告されている。LRPPRCが関与するミトコンドリア機能は骨格筋の筋力発揮や持久性能力と関連することから,rs10186876は身体能力関連形質に機能的意義を有する可能性がある。以上より,選択圧解析は,身体能力関連候補変異の中から機能検証に進む優先候補を絞り込むためのフィルターとして有用であることが示唆された。特にLRPPRC rs10186876は,選択シグナル,eQTL情報,遺伝子機能の複数の観点から,機能解析の有力な候補と考えられる。

ヒストタフォノミーからみた縄文時代後期の土器棺再葬墓の葬送プロセス −骨組織観察と放射性炭素年代測定による検討−
◯逢坂 暖1、永瀬 史人2、佐宗 亜衣子3、國木田 大4、米田 穣1, 5
1東京大・新領域創成科学研究科、2新潟県立歴史博物館、3新潟医療福祉大・自然人類学研究所、4北海道大・文学研究院、5東京大・総合研究博物館
Funerary Processes of Late Jomon Pottery Coffin Reburial Graves from a Histotaphonomic Perspective: Insights from Bone Histology and Radiocarbon Dating
Dan OSAKA, Fumihito NAGASE, Aiko SASO, Dai KUNIKITA, Minoru YONEDA

縄文時代後期の土器棺再葬墓は,大規模な環状列石出現期にみられる特徴的な墓制であり,白骨化した遺体を土器棺に納める再葬墓として位置づけられてきた。しかし,遺体がどのように扱われ,どのような時間的経過を経て土器棺へ納められたのかについては,考古学的情報のみからでは十分に明らかにできない。本研究では,青森県および岩手県内の縄文時代後期土器棺再葬墓出土人骨を対象に,ヒストタフォノミーの観点から骨組織観察を行い,放射性炭素年代測定の結果とあわせて,土器棺への埋葬に至る葬送プロセスを検討する。青森市松山遺跡出土焼人骨では,表面に一次火葬を示唆するCurved Transverse Fractures(CTFs)が認められ,骨組織内には微生物による侵食であるbioerosionは確認されなかった。このことから,当該資料は腐敗・白骨化後に加熱されたのではなく,軟部組織を伴う比較的新鮮な段階で加熱された可能性が示唆される。一方,青森市山野峠遺跡や二戸市荒谷遺跡をはじめとする非焼骨資料ではbioerosionが認められ,遺体が一定期間の腐敗・分解過程を経た後,土器棺に納められた可能性がある。また,土器棺出土人骨には骨の選別や再配置を受けたと考えられる例があり,全身骨格が残る場合でも解剖学的位置を保持しない場合が多い。これは,土器棺への埋葬が死亡直後の「一次葬」ではなく,一定の処理過程を経た後の最終的な埋葬行為であったことを示唆する。さらに,土器棺と人骨はそれぞれ異なる履歴をもつ資料であり,両者の年代差や出土状況は,死亡から土器棺への埋葬までの時間差や,土器の使用・再利用を含む複雑な時間性を検討する手がかりとなる。本結果は,土器棺再葬墓を単に白骨化した骨を土器棺に納める再葬としてではなく,火葬,腐敗・白骨化,選別,再配置を含む複合的な葬送プロセスとして理解する必要性を示す。

Investigating the molecular basis of coat color melanism in Macaca nigra
〇Xiaochan YAN1,5 , Yohey TERAI2, Kanthi Arum WIDAYATI3, Akihiro ITOIGAWA4, Bambang SURYOBROTO3, Hiroo IMAI1
1 Institute for the Evolutionary Origins of Human Behavior, Kyoto University, 2 Department of Evolutionary Studies of Biosystems, The Graduate University for Advanced Studies, 3 Department of Biology, IPB University, 4 Institute for Protein Research, The University of Osaka, 5 Institute for the Academic Innovation, Hokkaido University

Hair color variation is a prominent trait in primates and has evolved through complex genetic mechanisms influenced by thermoregulation, immune function, and social communication. Melanism, characterized by increased dark pigmentation, has independently arisen multiple times across primate lineages. However, the genetic underpinnings of melanism remain unclear.

To explore the molecular mechanisms underlying dominant melanism in Sulawesi macaques, we performed transcriptomic analyses of hair roots from Macaca nigra, a species with uniformly dark pelage, and Macaca ochreata, which exhibits a contrasting dark and light pelage pattern.

The Multidimensional Scaling (MDS) plot revealed a clear separation between light-and dark-hair samples of M. ochreata, indicating distinct gene expression profile between the two pigmentation phenotypes. We identified 812 differentiated expressed genes (DEGs), of which 190 genes were highly expressed in dark-hair group. In addition, 1127 DEGs were identified between dark-hair samples of M.nigra and light-hair samples of M.ochreata. Sixty-six genes were commonly upregulated in the dark hair of both species. Notably, genes involved in melanogenesis and melanosome maturation, such as TYRP1 and PMEL were specifically upregulated in dark hair of M. nigra hair compared with M. ochreata.

拡散テンソル画像に基づくヒトとマカクの白質線維走行の発達過程の比較
高木蔵之助, 天野英輝(東京大・院理), 四津有人(東京大・院理, 日本医科大学), 荻原直道(東京大・院理)
Comparative analysis of developmental changes in white matter fiber orientation in humans and macaques using diffusion tensor imaging
Kuranosuke TAKAGI, Hideki AMANO, Arito YOZU, Naomichi OGIHARA

拡散強調MRIは,生体内の水分子拡散の異方性を利用して,脳白質線維の走行を非侵襲的に推定する手法である。脳領域間の神経接続は認知機能と密接に関連すると考えられ,拡散テンソル画像(DTI)を用いた白質構造の発達・老化研究が進められてきた。一方で,ヒトとヒト以外の霊長類における白質線維走行の発達過程を直接比較した研究は少なく,ヒトに特徴的な球形に近い脳形態と白質構造の発達的変化との関係も十分には明らかになっていない。そこで本研究では,DTIを用いてヒトとマカクの白質線維走行および拡散特性の発達過程を比較し,ヒト脳の進化的特徴を検討することを目的とした。まず,オープソースのデータベースから, ヒトとアカゲザルの出生直後から成熟するまでの, 縦断データを含む成長過程のDTIを取得した。次に, 各個体のDTIを剛体, Affine, 非線形変換を繰り返して, 年齢群内および年齢群間で段階的に変形し,成長に伴う白質繊維走行の変化を考慮しながら種ごとの成熟個体テンプレートへ位置合わせを行った。テンソル画像の変形では,各ボクセルの拡散方向情報が保持されるよう再配向処理を行った。位置合わせ後,白質領域におけるボクセルごとの拡散係数に基づく主成分分析を各種内で実施し,年齢に伴う拡散特性の変化を評価した。また,tractographyにより主要な白質線維束の走行を可視化し,各領域における線維構造の発達程度の変化を検討した。その結果,各種内において,成熟に伴う白質拡散特性の変化が特定の主成分軸に沿って整理され,発達段階に応じた白質線維走行の変化を可視化することが可能となった。さらに,ヒトとマカクでは発達に伴う拡散特性の変化の現れ方に違いがみられ,ヒトに特徴的な白質発達様式と脳形態変化との関連を示唆する予備的知見を明らかにした。

脛骨遠位部の形態から推定されるナチョラピテクスの移動様式
渡辺宗憲(京都大・理学研究科)、國松豊(龍谷大学・経営学部)、菊池泰弘(佐賀大学・医学部)、高野智(公益財団法人日本モンキーセンター)、清水大輔(中部学院大学・看護リハビリテーション学部)、⽯⽥英實(京都大名誉教授)、中務真人(京都大・理学研究科)
Locomotor Behavior of Nacholapithecus Inferred from the Distal Tibial Morphology
Munenori WATANABE, Yutaka KUNIMATSU, Yasuhiro KIKUCHI, Tomo TAKANO, Daisuke SHIMIZU, Hidemi ISHIDA, Masato NAKATSUKASA

ナチョラピテクス・ケリオイはケニアで発見された約1500万年前の中新世類人猿であり,ヒトと現生アフリカ大型類人猿の共通祖先の運動様式を復元する上で重要な種である。さまざまな⾻格部位の研究から,ナチョラピテクスは慎重な樹上性四足歩行を主体としながら,木登りなどの垂直移動もしばしば行っていたと考えられている。しかし,距腿関節の運動機能については十分に検討されていなかった。距腿関節は,背屈・底屈運動のみならず内反・外反運動にも関係し足首の可動性に深く関与するため,移動様式を復元する上で重要な部位である。本研究では,1990年代に発見され未記載であった保存状態の良好なナチョラピテクスの脛骨遠位部化石を対象とし,中新世のアフリカおよびユーラシアの化石類人猿,さらに現生大型類人猿との比較を行った。線形計測および幾何学的形態計測を用いて脛骨遠位関節面と内果の形態の機能形態学的評価を行った。さらに,これらの比較結果に基づき,ナチョラピテクスの距腿関節の運動機能と移動様式について検討した。

誰が先に飲む?:サバンナの水場におけるパタスモンキーの個体戦略と集団リスク低減
半沢真帆(東京大・院農生命)
Who Drinks First?: Individual Behavioral Strategies and Collective Risk-Mitigation at Savanna Waterholes in Patas Monkeys
Maho Hanzawa

人類のサバンナ進出において、「水場」は脱水回避に不可欠な資源である一方、捕食者や競合者が同時に集まるホットスポットでもある。さらに、飲水中の視覚遮断や濁りによる視界不良は、個体の警戒能力を低下させるため、生理的欲求と生存リスクのジレンマが生じる。このような高リスクな環境下に適応するには、集団内の個体による行動戦略の多様性と役割分散が求められる。そこで本研究では、高い地上性を持ち、サバンナに適応したパタスモンキーをモデルとし、過酷な乾季の水場における個体の飲水行動から、年齢や性別、社会的順位による行動戦略の差異を明らかにするとともに、集団リスク低減に向けた役割分散の様態を検討することを目的とした。本調査は、ガーナ共和国・モレ国立公園に生息する野生パタスモンキーの単雄群1群を対象とし、乾期にあたる2021年12月~2022年3月、2022年10月~2023年3月の計約8ヶ月間行った。日中の気温が40℃を超えることもある乾期では、群れは昼時間帯に水場を利用し、その場で長時間の休息をとる。調査では、群れを終日追跡し、水場周辺の行動をビデオ撮影し、到着から移動開始までの飲水シーケンスを連続記録した。分析では、集団内での飲水順序や個体による水場環境の選定、また警戒行動として「周囲への見回し」と「水面の凝視」の2つを記録し、警戒行動や飲水への投資時間を算出した。予備的分析の結果、飲水順序や警戒行動、飲水への時間投資、選定する水場環境において、個体による行動の差異が観察された。本発表では最新の分析結果を提示し、生理的欲求と高リスクが随伴する環境下で、集団内の個体がいかに「様子見」や「リスクテイク」といった役割を分散させ、社会的ジレンマの中で集団行動を調整しているかを検証する。さらに、これらを通じた集団リスク低減の可能性を示し、人類進化におけるサバンナ適応期の集団行動基盤について議論を深めたい。

不眠症を含む多因子疾患リスクからみた現生人類の適応進化
濱元祥子、森谷悠香(九州大・院システム生命科学)、藤戸尚子(新潟大・脳研究所)、手島康介(九州大・理)、早川敏之(九州大・基)
Adaptive Evolution of Modern Humans Inferred from Multifactorial Disease Risk Including Insomnia
Shoko HAMAMOTO, Yuka MORIYA, Naoko FUJITO, Kosuke TESHIMA, Toshiyuki HAYAKAWA

現生人類の多くの疾患は遺伝・環境両因子が関与する多因子疾患であり、環境への適応によりリスクが変化してきたと考えられる。集団での疾患リスクを評価するためには関連する遺伝子座を網羅的に用いた指標が必要である。そこで本研究は、現生人類において広く見られる代謝・精神行動・循環器などの39疾患に関連する遺伝子座を対象に、Population Polygenic Score(PPS)を用いて現生人類とネアンデルタール人の間で疾患リスクの方向性を比較検討し、現生人類固有にリスクが変化した疾患を探索した 。

その結果、不眠症をはじめとした14の疾患が候補として見つかり、そのうち加齢が発症に関係しない疾患では現生人類でリスクが低くなっている可能性が示唆された。つづいて古代人を用いてこれら疾患のリスクの変化を検討したところ、4疾患で後期旧石器時代を通じて継続的にリスクが低下していた。また、不眠症においては現代人特異的な顕著なリスク変化が観察された。

そこで不眠症を対象とし、そのリスクの変化に関わる適応進化を検討した。Fc統計量を用いた解析により不眠症非リスクアレルに正の自然選択を検出するとともに、様々な疾患や形質との共進化を検討した結果、心理社会的ストレスへの適応が、現生人類における不眠症リスク低下の一因である可能性が示唆された。 後期旧石器時代における世界拡散の過程で増大した社会的・心理的負荷に対し、現生人類が遺伝的な適応を遂げ、その結果、不眠症のリスクが低下してきたことをうかがわせる 。

以上の結果は、現生人類において多因子疾患リスクの低下をもたらした適応進化の存在を示すものであり、疾患リスクの進化的背景を考察するうえで重要な知見を提供する。

糞由来DNAのメチル化を指標としたニホンザルの年齢推定精度の向上
池上知乃新(京都大・理), 村山美穂(京都大・野生研), 松本卓也(信州大・理)
Age estimation of Japanese macaque based on DNA methylation from feces
Tomonoshin Ikegami, Miho Murayama, Takuya Matsumoto

近年,加齢に伴ってメチル化率が変化するDNA領域を指標にした動物の年齢推定研究が進んでいる。血液や体組織を用いた研究が多い中,比較的容易に採取できる糞は,対象動物への負担を軽減でき,特に野生動物において理想的な試料である。しかし,糞は血液や体組織と異なり,腸内細菌や胆汁等の夾雑物を多く含むため,年齢推定においては大きな推定誤差が生じる。夾雑物を物理的・化学的処理によって除去する手法が開発されつつあるが,金銭的コストと手間の観点から実現可能性が低い。そこで本研究では,適切な試料選別の基準を設けることで糞を用いた高精度な年齢推定法の確立を目指した。年齢推定法の確立には年齢が明らかな個体が不可欠であり,また試料選別を行うため,十分な検体数が必要となる。そこで本研究では,長年の個体識別から年齢が判明している長野県地獄谷野猿公苑において,2025年3月~2026年2月にニホンザル(Macaca fuscata)64個体を対象に糞を採取した。糞84試料より抽出したDNAをバイサルファイト処理した後,MS-HRM(Methylation Sensitive-High Resolution Melting)法でELOVL2遺伝子領域のメチル化率を測定した結果,メチル化率と年齢には正の相関(r = 0.455)が見られた。得られたデータに基づいて年齢推定モデルを作成したところ,推定誤差は5.30年(寿命の約21%)であり,ニホンザルの先行研究と同程度の大きな誤差(5.51年:寿命の約22%)が生じた。この精度の低さは,糞中の夾雑物による測定結果のばらつきが一因と考えられる。そこで,実験を反復し,測定値のばらつきを変動係数で評価し,ばらつきの小さい試料(変動係数<0.05)のみを選別し,年齢推定モデル作成に用いた。その結果,年齢とメチル化率の相関は強くなり(r = 0.703),推定誤差は2.94年(寿命の約12%)と精度の向上がみられた。本手法は,年齢未知の野生ニホンザル群への適用だけでなく,他の動物種の年齢推定における推定精度の向上に貢献できると期待できる。

世界規模の比較メタゲノム解析が明らかにしたサハラ以南アフリカ集団が保持する祖先的腸内シアノバクテリア系統
村井皓太郎(東京大・新領域・院理)、鈴木穣(東京大・新領域)、西嶋傑(東京大・新領域)
Global-scale microbiome analyses identify an ancestral gut cyanobacterial lineage enriched in African populations
Kotaro MURAI, Yutaka SUZUKI, Suguru NISHIJIMA

ヒト腸内細菌叢は宿主の食事や生活習慣,遺伝的背景と関連し,それらの異なる集団において独自の特徴を示す。そのため,多様な集団を対象とした解析が必要である。しかし,従来の研究は欧米を中心とする工業化社会に大きく偏っており,ヒト腸内細菌叢の多様性は十分に理解されていない。本研究では,サハラ以南アフリカ集団の腸内細菌叢を体系的に特徴づけることを目的に,世界57カ国41,471サンプルもの大規模ショットガンメタゲノムデータを比較解析した。その結果,サハラ以南アフリカ集団は工業化集団だけでなく,他の非工業化集団とも異なる腸内細菌叢構造を示し,種多様性が高く,349種の細菌が有意に高い存在量を示した。特に,非光合成シアノバクテリア系統であるGastranaerophilales目がサハラ以南アフリカ集団に特徴的であった。Gastranaerophilalesの存在量は,サハラ以南アフリカ地域内においても狩猟採集民や伝統的農村集団で高く,都市集団で低かった。比較ゲノム解析の結果,本系統がビタミン合成経路,鞭毛関連遺伝子,キチン由来糖の輸送系など,他の主要な腸内細菌とは異なる機能的特徴を有することが明らかになった。31種5,371サンプルの動物由来腸内メタゲノムを解析した結果,Gastranaerophilalesはチンパンジー,ゴリラ,マカク類など多様な霊長類にも広く検出され,現生人類の出現以前から続く宿主関連性をもつ腸内細菌系統である可能性が示唆された。以上より,Gastranaerophilalesは工業化に伴い減少したVANISH taxaの新たな候補であり,サハラ以南アフリカ集団と多様な霊長類に保持された祖先的腸内共生系統である可能性がある。本研究は,近代化による生活様式の変化がヒトと腸内細菌の共生関係をどのように再編したかを理解する基盤を提供する。

冷涼環境下における正弦波歩行時の呼吸・体温調節の相互連関
藤田真子(同志社大学大学院)、堀内雅弘(鹿屋体育大学)、福岡義之(同志社大学)
Interaction of respiratory and thermal regulation during sinusoidal walking under mild cold environment
Mako FUJITA, Masahiro HORIUCHI, and Yoshiyuki FUKUOKA

呼吸調節と体温調節は相互作用しており, 低温環境下では外側傍腕核(LPBN)を介して皮膚からの温度感覚入力と化学受容器からの呼吸性入力が統合されることで, 呼吸パターン変化を伴う体温調節が生じる可能性がある。本研究では, ふるえによる代謝亢進を伴わない冷涼環境下での歩行が呼吸および体温調節の相互連関へ及ぼす影響を検討した。健常若齢者15名を対象とした。環境温度条件は, 19℃の冷涼温度(T19)と28℃の中性温度(T28)の2条件とし, 時速3~6 kmで変動する正弦波歩行をトレッドミル上で実施した。測定項目は, breath-by-breath法による換気・ガス交換データ(換気量[VE], 一回換気量[VT], 呼吸数[Bf], 呼気終末二酸化炭素分圧[PETCO2], 酸素摂取量[VO2], および二酸化炭素排出量[VCO2]), 心拍数(HR), および体温調節データ(耳内温[Ttym], および平均皮膚温[胸部, 上腕, 大腿, 下腿の4か所:Tsk])とした。各指標の平均値と正弦波応答特性(振幅および位相応答)を2条件間で比較した。TtymおよびTskの平均値は, T19においてT28と比較して有意に低下した(いずれもp<0.05)。一方, エネルギー代謝量(VO2およびVCO2)の平均値は条件間で有意差は認められず, 冷涼・中性両環境下において代謝亢進が生じていないことを確認した。Bfの平均値はT19において有意に低下し(p=0.02), 正弦波に対する振幅応答もT19において有意に小さかった(p<0.001)。これに伴いVEの平均値もT19において有意に低値を示したが(p=0.02), PETCO2は維持された。これらの結果より, 冷受容器からの求心性冷感覚信号がLPBNに入力されることで, 深くゆっくりとした呼吸パターンへ変化し, 呼吸による熱損失を抑制した可能性が示唆された。また, このような呼吸パターンの変化は迷走神経活動を高め, T19におけるHR低下にも関与した可能性がある(p=0.03)。以上より, 代謝亢進を伴わない冷涼環境下での動的運動では, 化学受容器を介した呼吸調節よりも, LPBNを介した冷感覚入力による呼吸抑制が優位となる可能性が示唆された。

地表面温度がニホンザルの休息時姿勢選択に与える影響:接触面積を介した熱伝導の調整
神未来(信州大・進化人類学分野)、山口飛翔(東邦大・理/日本学術振興会)、水野愛弓(信州大・進化人類学分野)、松本卓也(信州大・進化人類学分野)
Effects of ground surface temperature on resting posture selection in Japanese macaques: Modulation of conductive heat transfer through changes in contact area
Mirai JIN, Tsubasa YAMAGUCHI, Megumi MIZUNO, Takuya MATSUMOTO

動物は生理的体温調節以外に行動によって体温を調節する。霊長類ではハドルの形成や日光浴などが知られており,これまで主に行動と気温・日光との関連が議論されてきた。一方,動物が固体表面に接している場合,基質との接地面における熱伝導が主要な熱交換経路となり得る。しかし,地表面温度(以下地温)の違いによって動物がどのように行動・姿勢を変えるかはほとんど検討されておらず定量的な分析も乏しい。そこで,本研究では地獄谷野猿公苑のニホンザル(Macaca fuscata)を対象に,接地面積や大気への露出面積が異なる休息姿勢(座り/寝そべり/しゃがみ)および四肢の内転が地温とどのように関連しているのかを定量的に明らかにすることを目的とした。2024–2025年の冬季に観察を行い,30分おきのルートセンサスを実施した。ルートから10m以内にいる全個体の姿勢と年齢クラス,気温と個体のいる場所の地温を測定した。得られたデータのうち,ハドル形成のない単独個体の休息姿勢(n = 128)を分析対象とした。多項ロジスティック回帰分析の結果,座り姿勢を基準としたとき,地温の上昇に伴い寝そべり姿勢をとる傾向が強まり,地温の低下に伴いしゃがみ姿勢をとる傾向が強まることが分かった。加えて,未成熟個体は成熟個体と比較して,寝そべり姿勢やしゃがみ姿勢をとる傾向が強かった。また,ロジスティック回帰分析の結果,四肢の内転が地温の低下に伴い増加することも明らかになった。一方,これらの姿勢の変化および四肢の内転と気温との関連はみられなかった。以上の結果から,ニホンザルは地温に応じて休息姿勢を変えることで接地面積を増減させ,地面との熱交換量を調節している可能性が示唆された。野外における行動性体温調節を理解する上では,気温だけでなく動物が接触する基質温度を含む環境条件を考慮する必要があると考えられる。

会場C(1331教室)

ニホンザルにおける選好注視法を用いたアカンボウの歩行動画への視覚的選好の検討
齊藤葵,延原久美,延原利和(一社・淡路ザル観察公苑), 山田一憲,勝野吏子(大阪大・人間科学)
Visual preference for baby video using preferential looking paradigm in Japanese macaques
Aoi SAITO, Hisami NOBUHARA, Toshikazu NOBUHARA, Kazunori YAMADA, Noriko KATSU

哺乳類のアカンボウは幼児図式と呼ばれる特有の外見的特徴を有する。アカンボウらしい特徴として大きな瞳や大きな頭,小さな身体,小さく短い手足,不器用な動きなどが挙げられる。このような特徴は私たちヒトの養育欲求を引き起こすことが明らかになっており,近年霊長類でも同様にアカンボウらしい特徴が養育行動を引き起こす可能性が指摘されている。ヒト以外の霊長類がどの程度アカンボウに関心を示しているかをヒトと比較することは,ヒトがアカンボウに惹かれるメカニズムの進化的起源を明らかにするうえで重要である。本研究では野生ニホンザルがアカンボウの特徴に視覚的選好を示すかどうかを実験的に検証した。先行研究ではアカンボウらしい特徴のうち目の大きさや額の広さなどの顔の特徴や毛色などに着目して画像提示を行うものが多かったが,本研究では「不器用な動き」にも着目した。不器用な動きを含むアカンボウらしい特徴を提示するために今回は動画刺激を使用した。淡路島餌付け集団の1歳齢以上のオスとメスを対象に,アカンボウが歩く動画と,その母親であるオトナメスが歩く動画を選好注視法を用いて同時に提示した。それぞれの刺激への注視時間の長さを比較し,参加個体はオトナの歩行動画よりもアカンボウの歩行動画に対してより長く注視すると予測した。結果,サルは両刺激に対して強い関心を見せたが,選好に有意な偏りはみられなかった。したがって,ニホンザルではオトナの歩行動画よりもアカンボウの歩行動画に対してより強い選好を示すわけではないことが分かった。本研究では,動画自体がニホンザルの関心を強く引いた可能性がある。さらに,刺激には生後5か月のアカンボウの動画を使用したため,アカンボウらしさが生後直後よりも減少していた可能性がある。提示刺激や提示時間などの手法を変更して再検討する必要がある。

若年成人における神経症傾向と主観的感覚意識の関連性-嗅覚への気づきに着目して-
石田恵梨(公立小松大大学院)、枝元香菜子(金沢学院大・公立小松大大学院)、角浦裕里(公立小松大大学院)、小木曽洋介(東亜大)、髙木祐介(公立小松大)
Associations Between Neuroticism and Subjective Sensory Awareness in Young Adults: A Focus on Olfactory Awareness
Eri ISHIDA, Kanako EDAMOTO, Yuri TSUNOURA, Yosuke OGISO, Yusuke TAKAGI

目的: 本研究の目的は、本邦の若年成人を対象に、パーソナリティ特性と五感意識及び嗅覚認知との関連を検討することとした。方法: 大学及び専門学校に所属する学生を対象に、無記名自記式の質問紙調査を実施した。調査項目は基本情報、TIPI-J(神経症傾向、外向性、協調性、勤勉性、開放性を評価)、五感意識、匂いの気づきやすさ等とした。結果: 707名から回答を得た。有効回答者の年齢は19.3±1.8歳であった。72.7%が日常生活で五感を意識していないと回答した一方、82.4%が匂いに気づきやすいと回答した。五感意識と匂いの気づきやすさには有意な正の相関関係が認められた。神経症傾向は五感意識及び嗅覚認知と有意な関連を示さなかったが、感覚機能低下の自己評価と有意な関連を認めた。さらに、外向性及び開放性が高い群では五感を意識する者の割合が有意に高く、外向性が高い群では匂いに気づきやすい者の割合も有意に高かった。考察: 感覚認知の主観的評価は、個人の刺激応答の特性や適応様式の差異を反映する可能性が考えられた。本研究の結果から、若年成人では感覚機能の鋭敏性そのものより、感覚刺激への意識の程度がパーソナリティ特性と環境適応を反映する指標になる可能性は示唆された。

HBVのジェノタイプから探る縄文後期〜弥生にかけてのヒトの移動
深澤 眞楠(新潟大・医歯保健学研究科),神澤 秀明(科博・生命史),河合 洋介(国立遺伝学研究所・ヒト集団ゲノム研究室),田中 智久(山梨大・微生物学,北大・遺伝子病制御研究所肝炎ウイルス学分野),森石 恆司(山梨大・微生物学,北大・遺伝子病制御研究所肝炎ウイルス学分野),奥田 修二郎(新潟大・医歯保健学研究科),舟橋 京子(九州大・比較社会文化研究院),安達 登(山梨大・法医学)
Tracing Human Migration from the Late Jomon to the Yayoi Period through HBV Genotypes
Makusu FUKASAWA, Hideaki KANZAWA, Yosuke KAWAI, Tomohisa TANAKA, Kohji MORIISHI, Shujiro OKUDA, Kyoko FUNAHASHI, Noboru ADACHI

発表者らは,第77, 78回人類学会大会で,縄文人のHBVが東南アジアのテナガザルやオランウータンに近い系統のものであり,オーストラリア・アボリジニに特異的なジェノタイプC4とも一部リコンビナントの可能性があることを指摘した。しかしながら,これらは現代日本のHBVのジェノタイプとは全く異なる系統であった。本研究では,弥生以降のHBVサンプルを追加することで,日本列島の縄文後期から弥生時代以降にかけてのHBVのジェノタイプの変遷をヒト集団の移動と並行して考察する。

比較筋骨格シミュレーションが示すヒトに特異的な中殿筋と小殿筋の筋内領域間機能分化
設樂哲弥(大阪大・人間科学)、時田幸之輔(埼玉医科大・保健医療)、平崎鋭矢(京都大・EHUB)
Comparative musculoskeletal simulations reveal human-specific regional functional differentiation within the gluteus medius and minimus
Tetsuya SHITARA, Kounosuke TOKITA, Eishi HIRASAKI

ヒトの骨盤は左右および背腹方向に幅広く,頭尾方向に短いのに対し,非ヒト霊長類の骨盤は左右および背腹方向に狭く,頭尾方向に長い。ヒトで固有に進化したお椀型の骨盤は,股関節に対する中殿筋と小殿筋の配置を変えることで,四足歩行時には主に推進力の生成に寄与していたこれらの筋を,二足歩行時には骨盤の水平維持を担う筋へと,その機能を変化させたと考えられてきた。しかし,我々の最近の研究(Shitara et al., 2026)から,この機能変遷は主として移動様式の変化に起因し,派生的な骨盤形態はむしろ筋内領域間の機能的分化をもたらした可能性が示唆された。ただし,これはニホンザル・テナガザル・ヒトの比較に基づくものであり,ヒトに最も近縁な現生種であるチンパンジーのデータが欠けていたことが課題であった。そこで本研究では,チンパンジーを解析対象に加え,中殿筋と小殿筋における筋内部の機能的分化がヒト系統で特異的に生じたという仮説を検証することを目的とした。3Dスキャナを用いて,チンパンジー5個体の骨盤および大腿骨の表面形状データを取得し,計算機上でそれらを関節させ,起始点群を停止に向かって座標変換することで,各筋を多数の筋作用線で構成される有限要素としてモデル化した。既報のチンパンジー二足歩行データから股関節の三軸回りの関節角度を取得した。関節角度データをモデルに投入し,各筋作用線が持つモーメントアームを計算することで,中殿筋および小殿筋の筋作用の時系列的変化と空間的分布を算出した。その結果,チンパンジーではニホンザルやテナガザルと同様に,姿勢変化に伴って筋全体の機能が変化する一方,ヒトでみられるような筋内の領域間の機能的分化は認められなかった。この結果は,中殿筋と小殿筋における筋内の機能的分化がヒト系統で特異的に進化した可能性を支持する。本発表では,追加の骨形態解析から,筋内の機能的分化を生じた形態的要因について議論する。

霊長類に共通する骨盤の性的二型パターンの進化
坂井明日風(京都大・理),森本直記(京都大・理)
Evolution of a shared pattern of pelvic sexual dimorphism in anthropoid primates
Asuka SAKAI, Naoki MORIMOTO

ヒトの骨盤における顕著な性差は,直立二足歩行による骨盤幅の制約と,大脳化した胎児が通過するための産道確保という,相反する要求に対するヒトに特有の適応であると考えられてきた。しかし近年,ヒト以外の霊長類においても,出産への適応と考えられる骨盤の性差が報告されており,ヒトの骨盤における性差の進化的解釈は再検討が迫られている。

本研究では幾何学的形態測定法を用いて,ヒト科・テナガザル科・オナガザル科・クモザル科を含む霊長類10種における骨盤の性的二型の大きさ及び形態パターンを比較した。その結果,性的二型のパターンは,分析対象の種間で広く維持されており,出産が比較的容易とされる種においても,メスの産道が大きくなるような共通の形態変異が認められた。ヒトの骨盤の性差は直立二足歩行に関連して固有に生じたものではなく,狭鼻猿類の系統関係と対応した段階的な形態変異の延長線上にあることが示唆された。さらに産道は,種を超えて共通して,特に強い形態的制約のもとにあることが明らかになった。これらの結果は,霊長類に共通する産科的制約が祖先的な骨盤の性的二形のパターンを規定し,それがヒトにおいても維持されて進化してきたことを示唆している。

日本人集団特異的MNVの網羅的解析と機能的影響の評価
安田 千七(理研・筑波大)、田原-新井 悠也(理研・筑波大)、尾崎 遼(理研・筑波大)
Comprehensive Analysis and Functional Impact Assessment of Multi-Nucleotide Variants Specific to the Japanese Population
Chinatsu YASUDA, Yuya TAHARA-ARAI, Haruka OZAKI

近年,高速シーケンス技術の発展により,現代人集団を対象とした大規模ゲノム解析が進展している。ヒト集団の遺伝的多様性を理解するうえで,単一塩基変異(Single-Nucleotide Variants,SNV)は広く解析されてきたが,隣接する複数塩基の置換から構成される多塩基変異(Multi-Nucleotide Variants,MNV)については,特に日本人集団における研究が限られている。本研究では,東北メディカル・メガバンク機構の60KJPN全ゲノムシーケンスデータとgnomADのMNVデータを比較し,日本人集団にみられるMNVの特徴を検討した。その結果,日本人データセットのみに観察されるMNVを多数同定した(日本人集団MNVの85.5%(969,700 MNV),低頻度MNVの除外後は20.6%(234,059個 MNV))。また,これらのMNVの80%以上が遺伝子間領域やイントロン領域などのノンコーディング領域に位置しており,日本人集団のゲノム多様性を理解するうえで,コーディング領域に限らない解析の必要性が示された。さらに,ノンコーディングMNVの機能的影響を評価するため,ゲノム配列から遺伝子発現やエピゲノム特徴の変化を予測できるゲノム言語モデルAlphaGenomeを用いた。MNVとして複数の置換をまとめて評価した場合と,対応するSNVを個別に評価した場合を比較したところ,日本人特異的MNVの一部では,単独のSNV解析では小さく見える変化が,組み合わさることで遺伝子発現制御に影響しうることが示唆された。本研究は,日本人集団におけるゲノム多様性をMNVという単位から捉え直し,現代日本人の遺伝的特徴をより詳細に記述するための基盤的知見を提供する。

ToMMoコホートデータをもちいた縄文人由来ゲノムが表現型へ及ぼす影響の検証
中村友香(東京大・院理)、渡部裕介(東京大・院理)、田辺秀之(総研大・RCIES)、東光一(遺伝研)、黒川顕(遺伝研)、豊田敦(遺伝研)、加藤智朗(京都大・iPS財団)、塚原正義(京都大・iPS財団)、小金渕佳江(東京大・院理)、今村公紀(金沢大・院医)、石田貴文(東京大・院理)、大橋順(東京大・院理)、太田博樹(東京大・院理)
Validation of the Phenotypic Impact of Jomon-Derived Genetic Backgrounds Using Cohort data provided by Tohoku Medical Megabank Project
Yuka NAKAMURA, Yusuke WATANABE, Hideyuki TANABE, Koichi HIGASHI, Ken KUROKAWA, Atsushi TOYODA, Tomoaki KATO, Masayoshi TSUKAHARA, Kae KOGANEBUCHI, Masanori IMAMURA, Takafumi ISHIDA, Jun OHASHI, Hiroki OOTA

過去20年のヒトゲノム多様性解析の進展により,多型アレルと疾患や体質との関連が明らかにされてきた。しかし,これらは統計学的関連に基づく知見であり,表現型の違いを生み出す機序が解明されたアレルは非常に少ない。また,食習慣など環境因子の影響を完全に排除したアレル効果の評価はほぼ不可能である。近年,欧米を中心に,環境要因の統制下にある培養細胞を用いて,アレルと表現型の関係を実験的に検証する報告が増えている。異なる祖先集団に由来するアレルが,個々人の表現型の差異に与える影響は,人類学的観点からも明らかにすべき重要な課題である。現代日本人は,祖先集団(在地系縄文集団および渡来系集団)由来アレルを比較的容易に推定できるため,この検証に適した集団である。本研究では,東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)が保有するコホートデータを用い,縄文人に由来するゲノム成分の割合(Jomon Allele Score: JAS)が高い群と低い群を選定した。さらに,血液検査値,末梢血細胞の遺伝子発現データ,および末梢血細胞から作製した人工多能性幹細胞(iPSC)を用いて,両群の表現型を比較した。その結果,JASは腎臓濾過機能の検査値と有意な正の関連を示した。また,JASが高い群において高発現を示す遺伝子群は免疫応答関連経路に有意に富んでいた。一方,私たちの研究室で行われた先行研究において,縄文人由来ゲノムとの関連を報告したトリグリセリド量について,iPSC由来肝細胞を用いて解析した結果,群間差は確認されなかった。これらの結果は,現代日本人ゲノム中に存在する縄文人由来ゲノムが,一部の生理学的特徴や細胞機能に関して表現型の差異に影響する可能性を示す。本研究は,現代日本人が受け継いだ縄文人由来ゲノムと表現型との関係を理解し,縄文人由来ゲノムの進化的意義を考察するための新たなアプローチを提示した。

ヒト成人四足歩行からみた霊長類ダイアゴナルシークエンス歩行の力学的意義
藤原歩(東京大)、四津有人(日本医科大)、荻原直道(東京大)
Biomechanical Significance of Primate Diagonal-Sequence Gait Inferred from Adult Human Quadrupedal Walking
Ayumu FUJIWARA, Arito YOZU, Naomichi OGIHARA

哺乳類の四足歩行には、前後肢の接地順序に基づく2つの特徴的な歩行パターンが存在する。一般的な哺乳類では、後肢の接地後に同側の前肢が接地するラテラルシークエンス(LS)歩行が多くみられる。一方、多くの霊長類では、後肢の接地後に対側の前肢が接地するダイアゴナルシークエンス(DS)歩行が観察される。DS歩行は樹上環境における姿勢安定性に寄与すると考えられているが、その力学的・身体構造的要因はいまだ十分には明らかでない。この問題は種間比較によって検討できるが、種間で形態や運動が大きく異なるため接地シークエンスそのものの影響を分離して評価することは難しい。一方、ヒト成人は四足歩行時にLS歩行を選択しやすいことが報告されているが、実験条件下ではLS歩行とDS歩行を同一個体内で比較できる。そこで本研究では、ヒト成人に四足歩行を行わせることで、シークエンスの違いが歩行力学に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。具体的には、光学式モーションキャプチャシステムと14枚の小型床反力計を用いて身体運動と床反力を計測し、身体重心の揺動、身体重心まわりの角運動量、および前後肢の関節モーメントを算出した。その結果、左右方向の床反力および身体重心まわりの角運動量の振幅は、LS歩行でDS歩行よりも大きい傾向を示した。また、膝関節伸展モーメントおよび股関節内旋モーメントも、LS歩行でDS歩行より大きい傾向が認められた。これらの結果から、DS歩行はLS歩行と比較して、身体の上下軸・前後軸周りの動揺を相対的に抑制する歩行パターンである可能性が示された。DS歩行は樹上環境における姿勢安定性の向上に寄与し、霊長類におけるDS歩行の進化的意義を支持する可能性がある。一方、ヒト成人では、四足姿勢において下肢が上肢に対して相対的に長いため、DS歩行では遊脚期の下肢クリアランス確保が難しくなり、結果としてLS歩行が選択されやすい可能性がある。

ニホンザルにおける発達による他個体との距離の取り方の変化
榊原未桜, 伊藤海凪(コーネル大), 岩見冴(ペンシルバニア州立大), 平田聡(京都大・野生動物研究センター)
Changes in the length of interpersonal space between Japanese macaques based on age
Mio Sakakibara, Mina Itou, Sae Iwami, Satoshi Hirata

ニホンザル(Macaca fuscata)では, 他個体に対する接近・回避行動が観察され,距離をとることで闘争を回避するとされる。また, このような距離調整はサプラントなどの行動として現れ, 群れの安定に寄与する。しかし, 他個体との関係は幼少期から形成される一方で, 他個体に対する求められるふるまいを適切に行動に反映できるかの発達過程は十分に明らかになっていない。本研究は, ニホンザルにおける他個体との距離の取り方の発達を明らかにすることを目的とした。2025年10月~2026年1月に, 京都市西京区の嵐山モンキーパークを遊動域にもつ嵐山群を対象に, 同一家系に属する年齢の異なるメス9頭を選出し, 個体追跡によりサプラント発生時・発生後の距離を目測により記録・分析した。その結果, 0〜3歳個体は5歳以上に比べ, サプラント発生時・発生後ともに距離が短い傾向を示した。これは, 他個体との距離の調節が, 幼少個体では十分に行われていないことを示唆している。また, これらの結果をもとに, 2026年2月より, 同嵐山モンキーパークにおいて, 3Dスキャンおよびビデオ解析を用いた同種他個体との距離の取り方の計測を行った。さらに, 2026年6月より, 屋久島西部林道でも計測を行った。ビデオ解析を用いることにより, 正確で多量なデータを集めることができる。この研究により, ニホンザルにおける同種他個体に対する認識やふるまいに迫ることができると考えられる。

近世江戸集団における口腔衛生状態の階層差
蓮田賀子(九州大・地球社会統合科学府)
Social Status Differences in Oral Health Status in Early Modern Edo Population
Noriko HASUDA

過去の集団の健康状況の指標として口腔衛生指標が用いられている。しかし,口腔衛生状態には年齢や性別など複数の要因が関与することから,社会階層との関連を評価する際には年齢や性別の構成を考慮した検討が望ましい。そのため本研究では,疫学的解析手法を用いて年齢・性別の影響を統計的に調整しながら,近世江戸集団における口腔衛生状態の階層差を明らかにし,その背景要因について検討することを目的とした。自證院,寛永寺護国院,池之端七軒町遺跡,崇源寺・正見寺,我善坊谷遺跡出土人骨を対象に,口腔衛生指標として歯冠齲蝕,歯根齲蝕,生前喪失歯率,平均歯槽骨レベルおよび垂直性骨吸収を,歯に加わる負荷の指標として著しい咬耗を評価した。埋葬様式を社会階層の指標とし,年齢・性別を調整した回帰分析により各指標との関連を検討した。また,混合データ因子分析を用いて口腔衛生状態の総合的特徴を評価した。さらに,口腔衛生に関わる習慣の指標として歯磨き痕との関連についても検討した。結果として,口腔衛生指標には階層差が認められ,比較的高い階層と考えられる埋葬群において歯の喪失が多い傾向が認められた。一方,比較的低い階層の埋葬群では咬耗が強い傾向を示した。歯磨き痕は高い階層ほど多く観察されたが,各口腔衛生指標との明確な関連は認められなかった。比較的高い階層ほど口腔清掃習慣が浸透していた一方で,口腔衛生状態は必ずしも良好ではなく,社会階層に伴う食生活や生活様式の違いが影響した可能性が示唆された。

ネアンデルタール人の運動能力の特徴を示唆する可能性のある候補変異の探索
奥大河(総研大・統合進化)、五條堀淳(総研大・統合進化、統合進化科学研究センター)
Exploring candidate mutations that could suggest characteristics of Neanderthal physical ability
Taiga OKU, Jun GOJOBORI

ネアンデルタールは現生人類とは異なる形態学的な特徴を持ち、周辺環境や異なる生存戦略に適応していたと考えられている。こうした形態的特徴の要因として、狩猟や移動に伴う運動能力と関連していた可能性が議論されてきた。しかし、ネアンデルタールの運動能力に大きな影響を及ぼす筋機能・エネルギー代謝といった生理学的な側面の議論は、骨格形態からの推測が難しく、先行研究も限られている。一方、現生人類では、持久力・瞬発力といった運動能力のタイプや速筋/遅筋のタイプなどに関連する遺伝子が報告されており、古人類の運動能力差を検討するための手がかりとなる。本研究では、運動能力のタイプや速筋/遅筋タイプなどに関連する遺伝子領域を対象に、現生人類とネアンデルタールの比較ゲノム解析を行い、ネアンデルタール特異的な運動能力の特徴を示唆する候補変異を探索した。複数のネアンデルタール個体で共有される変異から、現生人類で未観測もしくはごく低頻度の変異と、現生人類に残る交雑由来と疑われる変異を抽出し、ネアンデルタール特有変異候補とした。これらの特有変異から、現生人類で運動能力のタイプおよび速筋/遅筋タイプに関連する遺伝子領域上に存在する特有変異を対象に、その変異における機能影響予測を行った。その結果、ネアンデルタール特異的変異候補が抽出され、これらの大半は非コード領域に位置する変異であった一方、少数ながらミスセンス変異などの影響が大きいと想定される変異も抽出された。また、既報で実験的に機能解析されている筋代謝関連変異と整合する候補も抽出され、本解析アプローチの妥当性が支持された。本発表では、機能的影響が予測される変異を中心に報告する。本アプローチは、ネアンデルタールの運動能力を直接推定するものではないが、形態から想定される運動能力差を、ゲノムデータに基づき生理学的側面から検討するための候補を提示するものである。

GHOST:要約統計量のみを用いた参照パネル未収載集団における集団特異的連鎖不平衡構造の再構築
Jonghyun Kim (東大・院理)、大橋順 (東大・院理)
Genome haplotype orchestration via synthetic trajectory (GHOST): Reconstructing population-specific linkage disequilibrium for unrepresented ancestries using only summary statistics
Jonghyun KIM, Jun Ohashi

個人レベルの遺伝型データはプライバシー上の制約により利用が制限されることが多く,集団遺伝学研究の大きな障壁となっている。そこで本研究では,アレル頻度と遺伝地図、および汎用的な参照パネルのみから,対象集団の遺伝的構造を反映したPhased VCFを生成するアルゴリズムGHOSTを開発した。GHOSTはLi-Stephens Imputationモデルを拡張し,二段階の自動推定により祖先成分の重みとサンプリングパラメータを最適化する。さらに,対象集団特異的なLDブロックや選択シグナルを再現するため,確率的な“ghost haplotype injection”機構を導入した。1,000ゲノムプロジェクトデータ(1KGP)を用いたleave-one-out検証では,対象集団を参照パネルから除外した場合でも,生成データは主成分分析およびADMIXTURE解析において実データと近い位置に配置され,近縁集団からも識別可能であった。また、アメリカ先住民集団のアレル頻度をもとに生成したデータは,主成分分析においてヒトゲノム多様性プロジェクト(HGDP)のアメリカ先住民と一緒にクラスタリングされ,EHH及びiHS解析においてもrs13054099 (SLC25A17)など,アメリカ先住民集団における既知の正の自然選択のシグナルが確認された。GHOSTは、個人情報を共有せずに多様な集団のゲノム構造を復元できる枠組みであり、今後の集団遺伝学研究におけるデータ共有と下流解析の新たな基盤となり得る。

縄文時代の頭骨における外傷について~東日本を中心に~
平野力也(沖縄県立博物館・美術館、東京大学大学院・理学系研究科・生物科学専攻)
The cranial traumas of the human skeletal remains from Jomon period in Eastern Japan
Rikiya HIRANO

人類史における暴力行為を巡る議論のなかで、考古学・人類学的研究から狩猟採集社会は農耕社会に比べて平和的と考えられている。日本列島においても、弥生時代は多数の受傷人骨や殺傷能力の高い武器の出現などから組織的戦闘が行われたとされる一方で、縄文時代では暴力行為の証拠が少ないとされる。これまでに縄文時代人骨では20例程度の人為的な損傷の報告があり、これらの出版データを集成した研究がなされてきた。

しかし縄文時代における暴力行為の実態については未解明な点も多く、さらなる検討の余地がある。例えば発表者は既存の人骨に未報告の人為的損傷があることを発見・報告しており、このように損傷に注目した包括的な再検討をすることで新たな事例を発見できる可能性がある。また新事例を含む網羅的なデータからは、損傷の頻度や性状、時空間や個人の属性に基づく傾向などをより詳細に分析することができる。そのうえで、縄文時代における人体の損壊が暴力行為・遺体損壊・事故などのどのような背景によるものかを探ることが、縄文時代の暴力行為に関するさらなる議論には必要である。

そこで本発表では縄文時代遺跡から出土した頭骨約1,000個体分について、外傷の有無やそれらの性状について観察した結果を報告する。包括的調査の途中段階のデータではあるが、縄文時代全体における人為的損傷の状況を概観する。さらに東日本地域における事例に注目して、損傷の特徴や考古学的背景を踏まえたうえで、人為的損傷が引き起こされた背景について検討する。

島嶼化は脳サイズと体サイズをどのように変えるのか:ニホンジカ集団間変異と化石種リュウキュウジカからの示唆
豊田直人(東京大・新領域)、久保麦野(東京大・新領域)、藤田祐樹(科博・人類)、澤浦亮平(鎌女大・教育)、大城逸朗(おきなわ石の会)
How does insularity alter brain and body size? Insights from variation among sika deer populations and comparisons with the Ryukyu deer (†Cervus astylodon)
Naoto TOYODA, Mugino O. KUBO, Masaki FUJITA, Ryohei SAWAURA, Itsuro OSHIRO

島嶼環境に生息する哺乳類では,形態形質や生活史形質が本土集団とは異なる方向へ進化する。特に体サイズの変化は「島のルール」として議論され,資源量が限られた島嶼環境では,大型哺乳類において小型化が生じやすく、Homo floresiensisH. luzonensisなどの人類もその代表例として議論されている。この仮説に基づけば,体サイズに加えて,維持に高いエネルギーを要する脳も,島嶼環境への適応の一環として小型化する可能性がある。そこで本研究では,ニホンジカの本土集団と島嶼集団,およびその近縁な島嶼絶滅種であるリュウキュウジカを対象に,島嶼化に伴う体サイズおよび脳サイズの変化を検討した。近縁な集団・種を比較することで,系統的・生態的差異の影響を抑えつつ,島嶼化に伴うサイズ変化の進行過程を検討できる。ニホンジカ18集団に由来する74個体およびリュウキュウジカ6個体の頭蓋骨のCTデータから,頭蓋骨と脳エンドキャストをセグメンテーションし,体サイズの代替指標として後頭顆幅を,脳サイズの代替指標として脳エンドキャスト容量を計測した。本土集団のみを学習用データとして構築した線形モデルに基づき,島嶼集団の予測値を推定し,実測値との差を検討した。その結果,後頭顆幅では一部の島嶼集団では明瞭な減少が認められなかった一方,脳エンドキャスト容量は島嶼集団において一貫して予測値を下回った。体サイズは資源制約に加え,性選択,個体群密度など複数の要因に影響されるため,島嶼環境においても一貫して小型化するとは限らない。一方,脳は維持コストの高い器官であり,資源量が限られた島嶼環境では脳サイズの縮小に向かう強い選択圧が作用した可能性がある。リュウキュウジカは体サイズと脳サイズとがともに明瞭に小型化しており,島嶼集団に期待される変化と同方向の特徴を示しつつも,その程度において際立った極端な島嶼適応の事例と位置づけられる。

現代人女性CTデータを用いた耳状面前溝の成因に関するマクロ形態学的検討
中村 謙伸(東京大学大学院・理学系研究科、聖マリアンナ医科大学・医学部・解剖学講座)、近藤 修(東京大学大学院・理学系研究科)、森 菜緒子(秋田大学大学院・医学系研究科・放射線医学講座)、小野 有紀(秋田大学大学院・医学系研究科・産婦人科学講座)、安達 登(山梨大学・医学部・法医学講座)、河野 礼子(慶應義塾大学・文学部)、寺田 幸弘(秋田大学大学院・医学系研究科・産婦人科学講座)
A macromorphological study on the etiology of the preauricular groove using CT data from present-day females
Kenshin NAKAMURA, Osamu KONDO, Naoko MORI, Yuki ONO, Noboru ADACHI, Reiko T. KONO, Yukihiro TERADA

ヒト寛骨の耳状面前下部に認められる凹状の骨変形は,耳状面前溝(PAG)と称され,成人女性で発達する傾向にある。経産歴が明らかな資料を用いて,PAG形成と経産歴との関連性を調査した複数の先行研究の結果から,PAGは妊娠ないしは出産の過程において形成されるという一定の共通認識がある。一方,PAGの発達度には大きな個人差があり,経産女性でも未発達の例や,未経産女性でも発達した例が認められる。また妊娠・出産がPAG形成に関与する機序には不明な点が多い。近年では,骨盤形態がPAG形成に影響する可能性も指摘されている。本研究では,PAGの形成部位が前仙腸靭帯の付着部に相当することに着目し,同靭帯への負荷がPAG形成の一因であるという仮説を立てた。この仮説を検証するため,秋田大学医学部附属病院にて撮影された現代人女性の骨盤部臨床CT画像を用い,PAGの定量化と,線計測およびGeometric Morphometricsによる骨盤全体の形態分析を実施し,両者の関連を検討した。PAGの発達度評価には,肉眼観察による定性的分類が用いられることが多いものの,本研究ではCT断面上で溝領域のセグメンテーションを行い,PAG volumeを算出することで,より客観的なPAG発達の評価を試みた。分析の結果,PAG volumeと骨盤形態との間に有意な関連性が認められ,特に仙腸関節周辺の形態変異が強く関連することが示された。また,仙腸関節から恥骨結合面までの距離,および仙腸関節から寛骨臼までの距離が相対的に長いほど,PAGが発達する傾向も認められた。PAGの発達と関連するこれらの形態変異は,産科的要因に限定されない仙腸関節周辺に生じる負荷を反映している可能性が考えられる。

一般口演

会場A(1313教室)

骨盤形態変形と順動力学解析による直立二足歩行生成の仮想進化シミュレーション
伊藤幸太(産総研・AIRC・DHRT)、多田充徳(産総研・AIRC・DHRT)、遠藤維(産総研・AIRC・DHRT)、丸山翼(産総研・AIRC・DHRT)
A virtual evolutionary simulation of bipedal locomotion generation based on pelvic morphology transformation and forward dynamics analysis
Kohta ITO, Mitsunori TADA, Yui ENDO, Tsubasa MARUYAMA

直立二足歩行はヒトの進化を特徴づける基本的な運動様式であり,その成立過程における骨盤形態の役割については,形態変化と歩行機能の関連の観点から多くの議論がなされてきた。初期人類であるAustralopithecus afarensisは幅広い骨盤を有し,現代ヒトとは異なる形態的特徴を持ちながらも二足歩行を実現していたと考えられている。一方で,現代ヒトの骨盤は腸骨の配向変化により股関節外転筋の機能に適応した形態であり,片脚支持期の体幹安定化に寄与するとされている。このように,ヒトの骨盤は二足歩行の安定化や効率向上に適応した形態であると考えられているが,その力学的意義は骨格形状に基づく推論に依存しており,動的な運動生成の観点から直接的に検証された例は限られている。さらに,近年化石人類の筋骨格構造を再現した下肢モデルが提案されているが,下肢全体の形態差が複合的に影響するため,個別の形態要素の寄与を分離して評価することは困難であった。本研究では,神経筋骨格シミュレータを用いた順動力学解析により,進化過程で生じたであろう骨盤形態の連続的変化が直立二足歩行生成に与える影響を検討した。現代ヒトの筋骨格モデルを基に,Australopithecus afarensisの骨盤形態を終点とし,現代ヒトから化石人類的形態へと連続的に遷移するよう対応特徴点に基づくThin-Plate Spline変換を適用することで,骨盤を変形させた。さらに,この変換場を筋の起始・停止および経由点に適用することで,筋骨格構造を整合的に改変したモデルを構築した。骨盤形態を段階的に変化させながら,その各段階において歩行生成を行い,制御パラメータを再最適化することで,それぞれの骨盤形態に適応した歩行動作を獲得させた。本発表では,得られた歩行に対して,エネルギー効率,筋活動様式,ならびに重心運動や骨盤運動に着目し,骨盤形態が歩行の力学的特性および運動戦略に与える影響について検討する。

トルコ南部ウチャーズリII洞窟における発掘調査の結果
森本直記(京都大・理),森田航(科博・生命),クレマン・ツァノーリ(ボルドー大・先史),石原与四郎(福岡大・理),イスマイル・バイカラ(ガジアンテップ大・考古)
Results of excavation at Üçağızlı II Cave, Türkiye
Naoki MORIMOTO, Wataru MORITA, Clément ZANOLLI, Yoshiro ISHIHARA, İsmail BAYKARA

ホモ・サピエンスのアフリカからの拡散のうち,現生人類の遺伝的基盤を形成した波は約6万年前にあったと推定されている。しかし,このイベントを直接的に示す化石証拠は極めて限られている。特に,アフリカとユーラシアの回廊地帯であるレバントにおける化石証拠は重要だが,イスラエルのマノット遺跡で発見された化石が一点知られているのみである。我々は化石記録の空白を埋めるべく,トルコ共和国南部,レバントの北端に位置するウチャーズリII洞窟で発掘調査を継続している。これまでに,人類の化石を複数発見し,この洞窟には約6万年前を境とし,ネアンデルタールとサピエンスの両方(詳細は森田他の発表による)が生息していたことが明らかになった。さらに,両種は2万年以上にわたり均質な文化を維持していた。また,食用に適さないアフリカタモトの貝殻も両種ともに利用していた。これらの遺物を総合的に解釈すると,アフリカから出てきたサピエンスの系統,あるいはより古い時代からレバントで生き延びたサピエンスの系統と,ユーラシアに先に進出していたネアンデルタールとが,ウチャーズリII洞窟周辺で接触していた可能性が高いと考えられる。

トルコ南部ウチャーズリII洞窟出土の歯化石の解析
森田航(科博・生命史)、森本直記(京都大・理)、クレマン・ツァノーリ(ボルドー大・先史)、石原与四郎(福岡大・理)、イスマイル・バイカラ(ガジアンテップ大・考古)
Analysis of tooth fossils at Üçağızlı II Cave, Türkiye
Wataru MORITA, Naoki MORIMOTO, Clément ZANOLLI, Yoshiro ISHIHARA, İsmail BAYKARA

ホモ・サピエンスの拡散は約6万年前にアフリカからユーラシア大陸に向けて起きたと推定されており、その際、祖先集団が必ず通過したであろう地域が西アジアである。中期更新性以降、西ユーラシアに広く分布していたネアンデルタール人がこの地域にも進出していたことが知られている一方で、10万年前前後には一時的にはホモ・サピエンスが進出したことがスフール・カフゼー遺跡の発掘調査から知られている。また、古遺伝学的な研究からネアンデルタールとサピエンスの混血がこの地域で起きていたことも推定される現状を踏まえると、一遺跡ではあるものの、どのような人類集団間の置換・交雑、並びに文化的な交流が起きていたのかは非常に重要である。本発表では、トルコ共和国南部、レバントの北端に位置するウチャーズリII洞窟における発掘調査で出土した歯化石の形態解析の結果を提示する。咬耗状態も含め非常に状態が良い化石が得られた。現生人類に加え、更新世のサピエンス、並びに歯種によっては特徴的な形態を示すネアンデルタール人参照資料との比較の結果、ウチャーズリII洞窟に居住した人類集団の移り変わりを示唆するデータが得られたので報告するとともに、このことがサピエンス集団のユーラシア拡散に寄与した可能性についても議論したい。

弥生時代人骨にみられる渡来的形質の多様性と展開
米元史織(九大・総研博)
Diversity and Distribution of Yayoi -Associated Craniofacial Traits
Shiori YONEMOTO

弥生時代人骨は、日本列島における人類集団形成過程を考える上で重要な資料であり、これまで縄文系集団と渡来系集団の混血によって成立したとする「渡来・混血説」(金関)を中心に研究が進められてきた。さらに、近年の考古学・古DNA研究は、弥生時代における人々の移動や交流がより複雑であった可能性も示しており、従来の集団平均に基づく議論だけでなく、個体レベルの形質変異に着目した検討が求められている。

本研究では、北部九州・山口地域および古浦遺跡出土の弥生時代人骨に加え、韓半島の新石器時代から初期鉄器時代に属する古人骨を対象として顔面部形質の比較を行った。顔面部の計測値を用いた主成分分析および判別分析により、いわゆる渡来系(的)形質とされてきた高顔傾向の分布と個体差を検討した。

その結果、北部九州・山口地域の弥生時代集団は全体として高顔傾向を示すものの、地域ごとに低顔傾向個体の頻度に差が認められた。特に三国丘陵・甘木朝倉地域では高顔個体の割合が高い一方、響灘沿岸部や古浦遺跡では低顔個体が比較的多く確認された。また韓半島出土人骨の多くは高顔傾向を示したが、一部には低顔傾向個体も存在し、韓半島側にも一定の形質的多様性が認められた。

以上の結果は、弥生時代における渡来的形質の形成と展開が、韓半島と日本列島との交流や在来集団との混血、地域ごとの人口動態など複数の要因が関与した可能性を示唆する。弥生時代人の形質形成は、均質な「渡来系弥生人」の拡散としてではなく、多様な個体変異を伴う動的な過程として理解する必要がある。

後期旧石器時代から新石器時代にかけてのユーラシアにおける人類集団の拡散二層モデル:頭骨3次元形状解析による検証
松村博文(札幌医大・医)、谷尻豊寿(メディックエンジニアリング)、河内まき子(産総研)、洪曉純、Peter Bellwood (オーストラリア国立大・考古)
Dispersal of Anatomically Modern Humans in Eurasia from Upper Paleolithic to Neolithic: Two Layer Model Supported by 3D Cranial Morphometric Analysis
Hirofumi MATSUMURA, Toyohisa TANIJIRI, Makiko KOUCHI, Hsiao-chun HUNG, Peter BELLWOOD

後期旧石器時代から新石器時代への移行期には、人類の頭蓋形態に著しい変化が見られた。これは、農業への移行と並行して生じた微小進化、環境適応、人口移動、混血、および置換に起因すると考えられている。アメリカ大陸を除く世界177の先史遺跡と現代人86集団のあわせて603個体の頭蓋形状を3次元同相同モデルで解析した。その結果、東アジアおよびヨーロッパの後期旧石器時代(中石器時代を含む)の狩猟採集民は、アフリカやパプアの人々と類似した特徴を示し、こうした地域への異なる気候等への適応は頭蓋形態には顕著な選択圧はかからず、おそらく生理学的適応で対処したものと推測された。いっぽう最終氷期最盛期(LGM)の間には、寒冷地適応によりヨ-ロッパの旧石器時代人の脳頭蓋はより球状へと顕著に変化した。新石器時代への移行において北東アジア人は極寒の環境下において、咀嚼機能がより強固に発達したのに対し、温暖な南ヨーロッパや西アジアでは最終氷期最盛期(LGM)以降には咀嚼機能の退化が急速に進行した。北ヨーロッパと東アジアでみられる旧石器時代から新石器時代の頭蓋形態の急速な変化は、農耕拡散による先住の採集狩猟民との人口置換または混血によって推進されたことが示唆された。

縄文人脛骨の頑丈性と扁平性は成長過程のいつ現れるのか:断面形状解析による現代日本人との比較
水嶋崇一郎(聖マリアンナ医大・解剖)
Ontogeny of tibial robusticity and platycnemia in the Jomon: A cross-sectional geometric comparison with modern Japanese
Soichiro MIZUSHIMA

先史時代の狩猟採集民における頑丈かつ扁平な四肢骨形態は,現代の産業社会集団とは異なる特徴として広く知られている。従来,こうした四肢骨形態は,骨の機能的適応 bone functional adaptation,すなわちウォルフの法則を拡張したパラダイムのもとで,生涯にわたり蓄積される身体活動量と,それにともなう力学的負荷の大きさと方向に対する生体力学的応答として説明されてきた。しかし,こうした骨形態が,成長過程で後天的に獲得される機能的応答なのか,あるいは成長の初期,たとえば胎生期から認められる集団差なのかは,これまでに十分検証されていない。本研究では,日本列島の先史時代狩猟採集民である縄文人を対象として,脛骨の頑丈性および扁平性が個体発生過程のどの時期に現れるのかを明らかにすることを目的とした。胎生期から思春期にわたる縄文人50体分,現代日本人70体分の脛骨を対象とし,工業用X線CT装置によって骨幹中央部の断面画像を取得した。得られた画像から,緻密質断面積,髄腔部断面積,断面二次モーメント,断面形状を表すモーメント比などを計測し,成長段階ごとに両集団を比較した。本発表では,縄文人脛骨における骨量および断面形状の特徴が,どの成長段階から明瞭になるのか,あるいは個体発生過程を通じて明瞭な集団差が認められないのかを検討し,その形成要因について考察する。

縄文時代と弥生時代の人口構造―年齢構成と出生率―
五十嵐 由里子(日本大・松戸歯学部),香川 幸太郎(立遺伝学研究所),水高 将吾(茨城大学),清水 邦夫(統計数理研究所)
Fertility and Survivorship of Jomon and Yayoi people
Yuriko IGARASHI, Kotaro KAGAWA, Shogo MIZUTAKA, Kunio SHIMIZU

狩猟採集社会から農耕社会への変化の様相を復元し変化の要因を解明することを目的とし,日本列島における狩猟採集集団と農耕集団である縄文集団と弥生集団を対象として,古人骨資料を用いて人口構造(年齢構成と出生率)の復元を行っている。現在もデータの収集を行っており,今回は現時点での成果を発表する。

各遺跡集団において,個々の人骨の年齢推定値から描いた生存曲線を年齢構成の指標とした。さらに女性人骨の骨盤上に現れる妊娠出産痕を観察して集団の出生率を推定した。

対象としたのは,縄文集団では,北海道集団,岩手県集団(蝦島貝塚,中沢浜貝塚,湧清水貝塚,宮野貝塚)宮城県集団(里浜貝塚,西の浜貝塚,高松貝塚),福島県集団(三貫地貝塚,大洞貝塚),千葉県集団(姥山貝塚,加曽利貝塚,貝殻塚貝塚),神奈川県称名寺遺跡,愛知県集団(保美貝塚,吉胡貝塚,川地貝塚,稲荷山貝塚),大阪府森之宮遺跡,岡山県集団(津雲貝塚,里木貝塚,涼松貝塚,粒江貝塚),広島太田貝塚,九州集団,弥生集団では,和歌山県集団,鳥取県青谷上寺地遺跡,山口県集団(土井ヶ浜遺跡,中ノ浜遺跡),九州集団(金隈遺跡,隈西小田遺跡)である。

その結果,人口構造は地域によって異なることがわかった。年齢構成にも出生率にも,単純な地域的勾配では説明できない地域差が認められた。また初産年齢は10歳代後半から20歳代前半と推定できた。

このような人口構造の違いをもたらす原因について,遺跡の考古学的情報などを参照して考察を行う。

広田遺跡出土人骨の年代測定-Sr同位体比分析個体を中心に-
高椋浩史(土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム)、米元史織(九州大・総合研究博物館)、足立達朗、田尻義了(九州大・比較社会文化)
Dating of human skeletal remains excavated from the Hirota site - Focusing on individuals analyzed using Sr isotope ratio analysis -
Hirofumi TAKAMUKU, Shiori YONEMOTO, Tatsuro ADACHI, Yoshinori TAJIRI

広田遺跡は鹿児島県南種子町に所在し,種子島の東岸の太平洋上に面した砂丘に営まれた集団墓地の遺跡である。広田遺跡の発掘調査は1957年から2006年の間に5回実施され,保存状態の良好な人骨と大量の貝製装飾品が出土している。墓は南北にのびる砂丘の南側(南区)と北側(北区)に分布し,出土人骨は出土した層をもとに,上層人骨と下層人骨に区分されている。出土した人骨の年代的位置付けについては,墓同士の層位の前後関係により把握されてきた。しかし,墓が砂丘上に営まれているため墓壙の検出が困難で,墓に土器を伴う事例も少ないことから,墓の年代を決定することが難しい状況であった。その後,広田遺跡から出土した人骨を用いた年代測定の結果が報告され,出土人骨の年代位置付けが明らかにされつつある。

発表者らはこれまで,広田遺跡の下層人骨を対象としてSr同位体比分析による広田遺跡の人びとの移動復元をおこなってきた。Sr同位体比分析の結果,墓域内における副葬品組成の変化に基づく考古学的な検討からの時間変化に伴い,広田遺跡への移入者の様相が変化することが明らかとなった。ただし,筆者らが進めてきたSr同位体比分析により明らかとなった広田遺跡への移入者の年代については,その多くは年代が明らかとなった個体の副葬品組成との比較によって位置づけてきたため,該当個体そのものの年代測定が必要であった。そこで,本研究では,Sr同位体比分析によって広田遺跡において外部からの移入者と推定された個体の年代測定の結果を報告する。あわせて,考古学において年代の議論となっていた貝製品が副葬された個体についても,その年代測定の結果を報告する。

創傷を有す吉野口遺跡(吉備津)出土伝妹尾太郎兼康頭蓋骨
富岡直人,今城一輝,長谷川廉(岡山理大・生物地球学部)
Damaged Skull excavated from Yoshinoguchi site (Kibitsu), which was suggested to be Seno'o Taro Kaneyasu according to local lore
Naoto TOMIOKA, Kazuki IMAJYO, Ren HASEGAWA

故川中健二(本学人類学研究室)は,岡山市教委の依頼により吉野口遺跡鯉山小学校出土人骨の分析を実施した。本遺跡は備前国一宮吉備津神社の北側に所在し,平安時代末期に展開した源平合戦古戦場の隣接地である。地元の武将妹尾(瀬尾)太郎兼康が転戦の末,鎌倉方に敗北し,斬首・晒首の後,首級は此処に埋葬されたという伝承が伝わっており,この調査による出土状況と推定年齢が伝承と一致することから,これらの骨格は,兼康のものと考えて矛盾しないとの結論が川中により示された(川中1997)。

再検討にあたり本頭蓋骨について,従来記載されなかった計測値や創傷を検討することとした。左右側方より潰された頭蓋骨の復元値であることから,数値には多くの誤差が含まれると考えられるが,頭周長は55.0~56.0cm,頭骨最大長は18.00~19.40cm,頭骨最大幅は復元値で14.00~15.3cmと推定した。比較的歪みが軽微と推定されるバジオン・ブレグマ高は14.2cm,顔高n-gnは,12.6cmであった。頭蓋骨の復元値を正しいとすると,川中が推定した長頭型と異なる型になる可能性がありうる。

さらに,形成過程分析をあらためて実施した。本頭蓋骨に残された明確な創傷は,左側前頭部・頭頂部を中心に,刺創が9つ,切創が5つみられ,刺創は長さ6.30~16.00mm,幅1.60~4.30mm,深さ1.5~5.5mmに達しており,かなり強い力が加えられたことがうかがわれた。この左側面が出土時の上面となっており,刃器による受傷面を上位に配置したものと推定された。

一方右側頭部は強い圧力が全面に加えられ,側頭骨,頭頂骨,後頭骨が砕かれ,解剖学的位置が失われた箇所がみられた。これらの影響もあり,頭蓋骨は約9cmの幅にまで圧迫され変形していた。右側面が埋葬時下位に配置されたため,破砕された多くの頭蓋骨破片が回収され,右側頭蓋骨のプロファイルの把握が出来た。

人骨のタフォノミーにみる土器棺再葬墓の多様性-環状列石出現期の葬墓制の検討-
◯永瀬史人1、米田 穣2、佐宗亜衣子3、國木田 大4、逢坂 暖5
1新潟県立歴史博物館、2東京大・総合研究博物館、3新潟医療福祉大・自然人類学研究所、4北海道大・文学研究院、5東京大・先端生命科学専攻
Diversity of Pottery Coffin Reburials as Seen in the Taphonomic identifications of Human Bones: An Examination of Burial Systems During the Period of the Emergence of Stone Circles
Fumihito NAGASE, Minoru YONEDA, Aiko SASO, Dai KUNIKITA, Dan OSAKA

土器棺再葬墓は、鹿角市大湯環状列石や青森市小牧野遺跡といった大規模な環状列石が出現する縄文時代後期にみられる特徴的な墓制である。本州東北部を中心として広く普及し、環状列石の内側や周囲より発見される例もあることから、環状列石が構築される背景を考える上でも重要である。土器棺再葬墓をめぐっては、峠道を挟むようにして片側には土器棺が納められた石室群、その反対側には石棺墓群が発見された青森市山野峠遺跡を事例として、石棺墓は遺体が安置され、骨化するまでの一次葬の墓制、土器棺再葬墓は石棺墓内で骨化した骨を土器に納めるための二次葬用の墓制として、双方には相関関係があるとの仮説も提示されている。この説は多くの研究者によって支持されるが、その妥当性について検証が必要である。また、出土人骨に関する人類学や科学分析を応用した再葬のプロセスや被葬者像に迫る研究もこれまでになかったといえる。本研究では、上記課題に重点を置き、土器棺出土人骨の放射性炭素年代測定とタフォノミー、ヒストタフォノミーの観点から検討を進めている。ここで注目されるのは、再葬人骨における埋葬過程の多様性である。火葬の可能性を示唆する焼骨が認められる例(青森市松山遺跡)や、複数回、サンプリングする部位を変えても全くコラーゲンが得られず、放射性炭素年代測定を実施できなかった人骨(二戸市荒谷遺跡)がある。こうした、再葬人骨に残された痕跡のヴァリエーションからは、被葬者が多様なプロセスを経て納棺にいたった可能性も想定される。本発表では、土器棺再葬墓の論点を整理しつつ、タフォノミーの観察と放射性炭素年代測定等の成果から推測しうる、土器棺再葬墓における被葬者の埋葬過程を報告する。

最古のジャワ原人化石の出土層位:サンギランにおける新たな野外調査からの推察
海部陽介(東京大・総合研究博物館),竹下欣宏(信州大・学術研究院),U.P. ウィボウォ(バンドン地質博物館),I. クルニアワン,R. セティアワン,E. セティヤブディ,A. プラボウォ(バンドン地質調査所),R. ファトニ,M.Y. ロシダ(サンギラン初期人類博物館),近藤恵(お茶の水大・基幹研究院)
Stratigraphic levels of the oldest Homo erectus fossils from Java: A perspective from new field project at Sangiran
Yousuke KAIFU, Yoshihiro TAKESHITA, Iwan KURNIAWAN, Ruly SETIAWAN, Erick SETIYABUDI, Unggul Prasetyo WIBOWO, Arief PRABOWO, Rais FATHONI, Marlia Yuliyanti ROSYIDAH, Megumi KONDO

中部ジャワに所在し,初期人類遺跡として世界遺産に指定されているサンギランには,層厚が300メートルほどある更新統が数キロ四方に渡って露出している。この地層は,当地が浅海環境から次第に陸化して河川が流れるようになり,これに伴って地上性哺乳動物と原人が現れ進化した連続的な化石記録を含む点で,貴重である。サンギランでは,1970年代後半から日本とインドネシアの合同地質調査が開始され,長年のデータ蓄積の結果,おおよその編年が完成しつつある。これらの調査で確認できた原人化石産出層位の下限はSangiran層上部のTuff 11で,上限はBapang層のMiddle Tuffとされ,綿密な年代測定の結果,その年代は約110万~80万年前に収まることが報告された(Matsu’ura et al. 2020 Science)。しかしこれらの化石産出層準については,公表された報告書(Watanabe and Kadar 1985)で結論とごく簡単な説明だけが示されるにとどまっており,現在に至るまで,その詳しい根拠および信頼性が不明なままである。我々は,この点を解決することを1つの目的として,2024年からサンギランにおける新たなフィールドワークを開始した。ここでは,そこで判明してきた最古のジャワ原人化石群の層位情報と,その一部がTuff 11よりさらに下位に由来する可能性について,報告する。

後方歩行における脊柱起立筋および腹直筋の活動様式
岡健司、村西壽祥(和泉大・リハ)
Activity patterns of the erector spinae and rectus abdominis during backward walking
Kenji OKA, Hisayoshi MURANISHI

【目的】ヒトは前方歩行を基本とするが,後方歩行などの非典型的な移動にも対応できる。その背景には,姿勢保持を担う体幹筋活動の再調整があると考えられる。本研究では,前方歩行と後方歩行における脊柱起立筋および腹直筋の筋活動量,同時活動性,筋電図波形の時間的パタンを比較し,後方歩行における体幹筋活動様式の特徴を検討した。【方法】健常成人9名を対象に,左右の脊柱起立筋・腹直筋の表面筋電図を計測した。各筋の前方歩行中最大値を100%として筋活動を正規化し,歩行周期全体の筋活動の中央値と,同側筋間および左右同名筋間の同時活動指標を算出した。歩行条件間の比較にはWilcoxon符号付順位検定を用い,Holm法で補正した(有意水準5%)。また,歩行周期を101点に時間正規化して各筋の中央値波形を作成し,筋間のPearson相関係数を算出した。本研究は所属機関の倫理審査承認後,対象者の同意を得て実施した。【結果】後方歩行では,脊柱起立筋活動量は前方歩行より有意に大きく(左:前方歩行33.4%,後方歩行47.8%;右:前方歩行31.5%,後方歩行48.2%),腹直筋では有意差を認めなかった。同時活動指標では,同側筋間,左右同名筋間とも有意差はなかった。中央値波形では,同側脊柱起立筋-腹直筋の相関係数は前方歩行で弱い正の値,後方歩行で負の値を示した(左:前方歩行r=0.21,後方歩行r=-0.32,右:前方歩行r=0.17,後方歩行r=-0.51)。左右腹直筋の相関係数は前方歩行r=0.16,後方歩行r=0.52であった。【考察】後方歩行では脊柱起立筋活動量が大きいが,同時活動指標に有意差はなく,体幹伸展筋と屈曲筋を一様に同時活動させる活動様式ではないと考えられた。中央値波形では,後方歩行において腹直筋活動に共通した時間的パタンがみられ,脊柱起立筋とは異なる時期に活動する傾向を示した。以上より,後方歩行における体幹筋活動様式の特徴として,脊柱起立筋活動量の増大に加え,脊柱起立筋と腹直筋の活動タイミングの違いが示唆された。

片脚立位における体節間協調―位相同期の方向・周波数特異性による探索的検討
跡見友章(杏林大学), 近裕介(久我山病院, 杏林大学), 西沢康平(東京大学), 藤木聡一朗(獨協医科大学), 池田悠稀(国立精神・神経医療研究センター), 田中和哉(帝京科学大学), 星野真之介(世田谷人工関節・脊椎クリニック), 藤澤祐基(杏林大学), 荻原直道(東京大学), 清水美穂(電気通信大学), 跡見順子(電気通信大学)
The direction and frequency-specificity of inter-segmental phase synchronization during one-leg standing - Preliminary Study
Tomoaki ATOMI, Yusuke KON, Kohei NISHIZAWA, Soichiro FUJIKI, Yuki IKEDA, Kazuya TANAKA, Shinnosuke HOSHINO, Yuki FUJISAWA, Naomichi OGIHARA, Miho SHIMIZU, Yoriko ATOMI

ヒトの立位姿勢は身体重心を二足による狭い支持基底面内に維持するよう制御される。頭部・体幹部は身体質量の約50%を占めることから相対的に高位重心となり,加えて体幹部は胸郭部と骨盤部からなる多分節構造を有する。そのため,片脚立位のような肢位では支持基底面が著しく狭小化して姿勢制御への負荷が増大し,体幹分節性の関与が顕在化する。加えて、床面の支持条件は足底からの体性感覚入力を変化させ,姿勢制御における感覚の重みづけに影響する。

身体部位間の協調を定量的に検討する手法に,位相同期値(PLV: Phase Locking Value)がある。本研究では,片脚立位における体節間PLVを前後(AP)・左右(ML)方向別かつ周波数帯域別に評価し,方向特異性・帯域特徴量について探索的に検討した。

健常成人男性7名の利き足による開眼片脚立位について,安定床面・クッションマットの2条件を60秒間2試行実施した。頭部・胸郭部・骨盤部・両上肢・両下肢の7部位にIMUセンサ(TSND151, ATR-Promotions)を装着し,加速度および角速度を200Hz,±4Gで計測した。重力加速度の補正およびセンサ間時間同期処理をした後,AP・ML方向の加速度に帯域別(1–3 / 3–6 / 6–10Hz)の4次Butterworthバンドパスフィルタを適用し,Hilbert変換による瞬時位相から全区間の体節間PLVを算出した。各PLVを方向×条件×ペアの線形混合モデル(変量効果:被験者,被験者×ペア)およびHolm法による多重比較補正によって評価した。なお,本研究は杏林大学倫理審査委員会の承認を経て実施した。

結果として,低周波数帯域(1–3Hz)ではML方向のPLVは,床面によらずAP方向より有意に高値を示した。中〜高周波数帯域(3–6/6–10Hz)では,クッションマット条件でML方向のPLVが増大し,体幹–下肢間ペアが主に影響した。体軸内では胸郭部–骨盤部・頭部–胸郭部が頭部–骨盤部と異なる帯域・方向的特性を示し,胸郭部は頭部・骨盤部と区別される中間分節として機能する可能性が示唆された。以上より,方向と周波数を分離した体節間PLVを用いて解析することで,片脚立位の姿勢制御を分節レベルで分解することが可能となり,体幹分節性の評価精度が高まる可能性が示唆された。

テナガザルの発声機構と機能形態
西村剛,寺田知功,島倉華純,中野良彦(大阪大・人間科学),徳田功(立命館大・機械工),後藤遼佑(群馬パース大),Christian T. Herbst(Univ. Mozarteum Salzburg)
Phonatory mechanism and functional morphology in hylobatid vocalization
Takeshi NISHIMURA, Tomoyoshi TERADA, Kasumi SHIMAKURA, Yoshihiko NAKANO, Isao T. TOKUDA, Ryosuke GOTO, Christian T. HERBST

テナガザルは,大きな高く澄んだ声で朗々と歌う「ソング」で有名である。その音声は,声帯振動と声道共鳴の協調によるソプラノ歌唱法に相当する方法で作られる。ヒト以外の霊長類では,声帯に声帯膜が付属する。テナガザル以外では,声帯膜は声帯内側上方の遊離縁付近から上方へ伸びて,サブハーモニクスを生じたり,声帯と相互に干渉してカオス状の音源を生じせたりする。しかし,テナガザルでは,声帯膜が声帯に対して外側にある。本研究は,生体テナガザルの発声中の声帯・声帯膜振動(EGG)信号と,摘出喉頭を用いた吹鳴実験によって得られた声帯振動信号およびそのハイスピードビデオとを照合して,テナガザルの発声機構を明らかにし,その機能形態適応を考察した。生体のEGGでは,サブハーモニクスがほとんど認められず、音源は安定していた。吹鳴実験では,声帯の振動数が低いときには,声帯に加えて声帯膜も振動し,サブハーモニクスが形成された。甲状軟骨を前傾して声帯・声帯膜を伸長させて振動数を上げると,声帯膜の振動が止まり,声帯のみが振動し,サブハーモニクスが消失した。以上の結果から,テナガザルのソング発声は声帯のみの振動であると推定される。声帯のみの振動は音源が安定し,また、振動しない声帯膜は声帯振動の閾値を下げる効果があることから,大きな朗々とした発声に資する。声帯膜振動を止めるには,甲状軟骨を大きく前傾させる必要があるが,その運動に適応的な解剖学的特徴が報告されている。また,その前傾運動により,声帯形状がファルセット発声に適したものになると推定される。このようにテナガザル類では,ソング音声生成に適応的な解剖学的・運動学的進化が起きたと考えられる。

本研究の実施にあたり,科研費(24H00576,23H03424)から支援を受けた。

マカクザルとイエネコにおける脊椎の3軸方向の柔軟性と身体運動との関連
日暮泰男、戒能靖史、岡本士毅(山口大・共同獣医)、上田政洋、宮崎清孝、寺田達二、伊藤望美(山口大・総合技術部)、吉嵜響子、櫻井優、森本將弘(山口大・共同獣医)
Spinal flexibility in three planes of motion in macaque monkeys and domestic cats: its relationship to locomotor behavior
Yasuo HIGURASHI, Yasufumi KAINO, Shiki OKAMOTO, Masahiro UEDA, Kiyotaka MIYAZAKI, Tatsuji TERADA, Nozomi ITOU, Kyoko YOSHIZAKI, Masashi SAKURAI, Masahiro MORIMOTO

脊椎は体幹の芯となる骨格であり、数十個の椎骨とそれらを連結する椎間板や靭帯などの軟部組織から構成される。体幹は動物の体重の大部分を占めるため、脊椎によって作り出される体幹の運動は、動物の運動能力に大きな影響を及ぼしていると考えられる。しかし脊椎の運動機能の解明は、その構造が複雑であることに加え、外部から観察することが難しいため、十分には進んでいない。本研究では、ヒトに近縁なマカクザルにおける脊椎の3軸方向(屈曲伸展、側屈、回旋)の柔軟性を計測し、ネコとの比較を通じて、脊椎の柔軟性と身体運動との関連を検討した。マカクザル3頭(アカゲザル2頭、ボンネットモンキー1頭)とイエネコ4頭から胸椎と腰椎を採取した。その後、脊椎への荷重と脊椎の変形を同時に測定する荷重試験機に取り付け、胸椎と腰椎のそれぞれについて3軸方向の荷重変形曲線を取得した。この曲線に対して折れ線回帰分析を適用することにより、ニュートラルゾーンの大きさを決定した。ニュートラルゾーンは抵抗力をほとんど受けずに脊椎が変形できる範囲のことであり、柔軟性の重要な指標である。マカクザルでニュートラルゾーンが認められたのは胸椎の回旋のみであった(片側47°)。これに対して、ネコでは胸椎と腰椎の3軸方向すべてにニュートラルゾーンが認められた。具体的には、屈曲伸展のニュートラルゾーンの大きさは胸椎が66°、腰椎が49°、側屈では胸椎が両側79°、腰椎が両側35°、回旋では胸椎が片側81°、腰椎が片側11°であった。本発表では、胸椎の回旋柔軟性と旋回(方向転換)との関連、そしてマカクザルの固い脊椎と二足歩行や子ザルの運搬との関連を考察する。

身体性×多時間スケール×動的安定性によるレジリエンス基盤の創成
跡見順子,清水美穂(電気通信大学),竹内大吾,林俊宏,堀尾喜彦,後藤玲子(帝京大学),藤木聡一朗(獨協医科大学),跡見友章(杏林大学)
Embodied Resilience: Integrative Dynamics across Multiple Timescales and Stability States
Yoriko ATOMI, Miho SHIMIZU, Daigo TAKEUCHI, Toshihiro HAYASHI, Yoshihiko HORIO, Reiko GOTO, Soichiro FUJIKI, Tomoaki ATOMI

超高齢・AI時代に突入した人類はどこに向かうのか。万物の長である人のQOLは真に向上しているのか。人の身体は他の動物と同様に自然そのものの創発体であり,各種がその環境に依存して進化適応してきた。真の情報は,太陽系の地球環境で生まれた環境情報を内在化させた自己組織化物としての自然物にあるが,現在のAIにそれはどれだけ反映されているのだろうか。人間・人類科学を目指す本3学会合同学会の場において,サーカディアンリズムや,霊長類における体幹制御研究の評価が重要となる。我々はG-センサの位相同期を検出するPLV解析(Tanaka et al., 2022)を用い,不安定な立位を常態とする人間に特異的な制御を捉える基盤科学を進めている。これらの課題に取り組むため,地球環境・分子・神経筋・身体・人工知能・社会を貫く「適応する身体」の原理解明を目指し,異分野の研究者が集う「身体性・多時間スケール動的安定性統合科学スクラム(EMDSS)グループ」を2025年に形成した。本発表ではその端緒となる研究を報告する。体幹の動的安定性を引き出し下肢協調運動に結びつける1日10分の“臥位”運動プログラムの2週間実施(無作為化クロスオーバー試験および前後比較試験)により,健康若年成人の“立位”バランス能力・敏捷性・柔軟性など神経筋協応の基盤が改善した(Atomi A. et al., PLoS One, 2026)。本成果は,脊椎動物の基本構造に基づく適切な身体介入が全身的な適応変化を誘導し得ることを示し,高齢者の転倒予防への応用可能性から海外メディアでも紹介された。本プロジェクトでは,これらの知見を細胞生物学,脳生理学,ブレインモルフィック工学,ロボティクス,福祉経済学と融合し,「身体性」と「動的安定性」を共通言語とする新たな人間科学の構築を目指す。

足底腱膜がヒト二足歩行時の鉛直軸周りの回旋特性に与える影響
松本優佳1,2、荻原直道2(1. 神戸大・院医、2. 東京大・院理)
Role of the plantar aponeurosis in axial rotation mechanics during human bipedal walking
Yuka MATSUMOTO, Naomichi OGIHARA

ヒト足底腱膜(PA)は他の霊長類と比較してよく発達しており,ウィンドラス機構によって足部剛性を高めて効果的な蹴り出しを可能にするだけでなく,弾性エネルギーを保存し解放することで,効率の良い二足歩行の実現に寄与する。PAのこれらの機能は,主として矢状面上の足部力学の観点から議論されてきたが,内側縦アーチの上下変形は,距骨下関節の運動や下腿回旋と連成するため,PAはtibio-calcaneal couplingを介して足部—下腿間の三次元的な運動調整にも影響しうる。実際,ヒト二足歩行では,足部と地面との相互作用により鉛直軸周りの回旋モーメントが作用している。この回旋モーメントは従来あまり注目されてこなかったが,近年では,二足歩行時の体幹および下肢の回旋運動の制御,さらには歩行の安定性や効率性に関与する重要な力学的要素であると考えられている。しかしながら,実歩行中のPAの力学的挙動を直接計測することは困難であるため,PAが鉛直軸周りの回旋特性に及ぼす影響については,十分に明らかではない。そこで本研究では,足部有限要素モデルに基づく動的シミュレーションを用いて,PAがヒト二足歩行時の鉛直軸周りの回旋特性に果たす役割を検討することを目的とした。PAを除去したモデルを用いて歩行中の足部挙動を再現し,生成された床反力および足部・下腿に生じる鉛直軸周りの回旋モーメントを正常モデルと比較した。その結果,床反力に大きな差は見られなかったものの,PA除去モデルでは,蹴り出し相における内旋モーメントが低下した。また足底圧分布を確認したところ,PA除去モデルでは,蹴り出し相における足趾部の接地が消失し,床との接触面積が減少していた。これらの結果は,PA張力が前足部剛性と足趾接地を維持し,足底接触領域および圧力・せん断力分布を保つことで,鉛直軸周りの回旋モーメント生成に寄与する可能性を示唆している。

直立姿勢・歩行における体幹分節間同期の周波数帯域依存性
田中和哉(帝京科学大学),西沢康平(東京大学), 藤木聡一朗(獨協医科大学),近裕介(久我山病院, 杏林大学), 星野真之介(世田谷人工関節クリニック), 清水美穂(電気通信大学),荻原直道(東京大学),跡見順子(電気通信大学)跡見友章(杏林大学)
Frequency band-dependent trunk intersegmental synchronization during upright posture and gait
Kazuya TANAKA, Kohei NISHIZAWA, Soichiro FUJIKI, Yusuke KON, Shinnosuke HOSHINO, Miho SHIMIZU, Naomichi OGIHARA, Yoriko ATOMI, Tomoaki ATOMI

ヒト直立二足姿勢と歩行では,高い身体重心を限られた支持基底面上で安定させる必要がある。体幹は胸郭部と骨盤部を含む多分節構造を有し,視覚,体性感覚,前庭感覚などの感覚入力に基づく姿勢制御反応は,周波数帯域により異なる可能性がある。本研究では,体幹各分節の加速度変動の同調性を周波数帯域別に評価し,直立姿勢・歩行における体幹制御特性を探索的に検討した。

対象は健常成人14名とし,体幹背面9分節に慣性センサを装着した。条件は,開閉眼と開閉脚を組み合わせた立位4条件,ラバーマット上での開閉眼2条件,wide gait,narrow gaitとした。左右・前後方向加速度からPhase Locking Value(PLV)を算出し,体幹9分節間のPLV行列をヒートマップとして可視化した。さらに,体幹中央部PLV,最大クラスターサイズ,帯域別PLVを算出した。帯域は0.1–0.5 Hz,0.5–1 Hz,1–3 Hz,3–6 Hz,6–10 Hzとした。本研究は倫理審査承認後に実施した。

帯域別統計解析では,体幹中央部PLVに条件,帯域,方向の主効果と条件×帯域の交互作用を認めた。閉脚条件では開脚条件と比較して0.1–3 Hz帯域を中心に体幹中央部PLVが増加し,最大クラスターサイズも増大した。ラバーマット条件ではPLVと帯域別パワーが増加し,歩行ではwide gaitの1–3 Hz帯域でPLVが増加する一方,中央集中性は低下した。

本結果は,体幹分節間同期が支持基底面や歩隔により規定される力学的制約に応じ,周波数帯域依存的に再構成される可能性を示す。閉脚条件で0.1–3 Hz帯域を中心に同期が高まったことは,支持基底面縮小に対し,低周波の身体動揺・COM-COP制御と速い姿勢補正において,上半身重心近傍の分節結合を強める戦略を反映する可能性がある。Air・歩行条件の解釈には,帯域別パワー特性を含めた検討が必要である。

解剖学的相同変換に基づくヒト脳形態の個体発達および系統発生的変化の統合分析
天野英輝、高木蔵之助(東京大・院理)、多賀厳太郎(東京大・院教育)、荻原直道(東京大・院理)
Integrated analysis of ontogenetic and phylogenetic changes in human brain morphology using anatomically homologous brain transformations
Hideki Amano, Kuranosuke Takagi, Gentaro TAGA, Naomichi Ogihara

ヒト脳形態の進化を理解するためには,成体における種間差を比較するだけでなく,その形態的特徴が個体発生の過程でどのように形成されるのかを明らかにする必要がある。従来,ヒト脳形態の個体発生と系統発生はしばしば別々の枠組みで記述されてきた。しかし,脳画像解析における脳形態比較手法である解剖学的相同変換を用いれば,胎児期を含むヒトと非ヒト霊長類の脳形態の成長過程を同一の形態空間上に記述することが可能となり,脳形態の進化を成体間の静的な比較としてではなく個体発生過程の延長上に生じる動的な系統発生的変化として捉えることができると考えられる。そこで本研究では,種間で解剖学的に相同な脳領域を対応づける三次元相同変換手法を用い,ヒト脳形態の成長変化とマカクおよびチンパンジーとの系統発生的差異を,同一の形態空間内で記述することを試みた。ヒトおよびマカクについては胎児期から成体まで,チンパンジーについては子供期から成体までの頭部MRIデータを用いた。これらのデータから脳領域を抽出し,相同領域が定義された3種の脳アトラスを用いて,全個体における相同脳領域を同定した。さらに,解剖学的相同変換により,全個体の脳形態を詳細に対応づけることで,個体間の各ボクセルの対応関係を確立した。この対応関係に基づいて各個体に相同ランドマークを配置し,幾何学的形態測定学を用いて,3種における個体発生に伴う脳形態の成長変化を比較した。その結果,ヒトの脳形態の発達過程は,脳部位ごとに大きく異なる成長変化を示すなど,マカクおよびチンパンジーと比較した共通の形態空間内において,特徴的な成長パターンとして記述された。一方で,胎児期の形態は,ヒトとマカクは相対的に近い位置を示した。このことは,成体で認められる大きな種間差が,個体発達過程における形態変化の方向性や程度の違いによって形成される可能性を示している。

会場B(1323教室)

タイ・ワットタキアップ沿岸のカニクイザルにおけるヤドカリ捕食と道具を用いない殻処理行動
豊田有(京都大学・野生動物研究センター)、金道知聖(NHKエンタープライズ)、松本恭幸(日本放送協会)、延本周仁(日本放送協会)、長屋 良典(NAGAYA SHOWTENG Co., Ltd.)、Surat Chunukit(NAGAYA SHOWTENG Co., Ltd.)、Hatsadin Sripirom(NAGAYA SHOWTENG Co., Ltd.)、Somnuk Wanwaan(NAGAYA SHOWTENG Co., Ltd.)
Hermit Crab Predation and Non-tool Shell Processing by Coastal Long-tailed Macaques at Wat Takiap, Thailand
Aru Toyoda, Chisato Kindo, Yasuyuki Matsumoto, Norihito Emmoto, Ryosuke Nagaya, Surat Chunukit, Hatsadin Sripirom, Somnuk Wanwaan

カニクイザル(Macaca fascicularis)は沿岸・マングローブ環境において潮間帯の多様な無脊椎動物を利用し、一部の個体群では石を用いて牡蠣や巻貝、カニ類を処理することが知られている。一方、道具を用いない沿岸採食行動、とくに殻に包まれた獲物への対処法については十分に記録されていない。本研究では、タイ王国プラチュアップキーリーカン県フアヒン郡ワット・タキアップ寺院の沿岸域に生息するカニクイザルを対象に、2025年9月2日から19日に実施したテレビ撮影に伴う行動観察から、水生ヤドカリ類の捕食の初記録と殻処理行動の詳細を報告した。観察地は漁船の停泊場、海産物市場、砂浜、玉石原および岩礁が隣接する人為影響下の潮間帯環境である。干潮時、サルは岩牡蠣、小型カニ類およびヤドカリ類に接触した。ヤドカリが殻口近くに位置する場合には、手指で容易に引き抜く、または殻を岩面に打ち付けて脱落させた。他方、ヤドカリが殻の奥深くに留まる場合には、巻貝殻を岩やコンクリート基盤に反復して擦り付け殻壁を薄くした後、歯または基盤への打撃により破壊し、露出した付属肢を摘出して摂食した。本研究は、カニクイザルによるヤドカリ捕食の初報告であるとともに、石を携行せずに基盤を利用して殻付き獲物へアクセスする処理技法を示した。擦過と打撃を組み合わせる行動は、身体のみを用いる処理と携行石器を用いる打撃行動の間に位置する可能性があり、沿岸域における道具使用行動の創発過程を考える上で重要な記録となる。今後は個体識別に基づく長期観察、資源量調査、および人為的食物供給との関係の検証が必要である。

ボノボのオスの順位に関連する交尾パターン:全体の交尾頻度の順位に依らない同等性と受胎可能なメスへの交尾機会における順位バイアス
戸田和弥(総合研究大学院大学・特別研究員)、古市剛史(椙山女学園大学・プロジェクト研究員)
Comparable overall copulation rates yet rank-biased access to likely fertile females in male bonobos at Wamba
Kazuya TODA, Takeshi FURUICHI

ボノボ(Pan paniscus)のメスは受胎可能期にとどまらず、産後の不妊期にも長期にわたり性皮腫脹を示し、オスと交尾する。従来、この「擬発情」は、高順位のオスによる繁殖機会の独占を抑止すると考えられてきた。しかし、近年の父子判定の結果から、オス間の繁殖成功には顕著な偏りがあると判明しており、オスはメスの受胎可能期をかなり正確に察知していることが示唆されている。本研究では、Ryu et al. (2025)を参考にボノボのメスの性皮腫脹パターンから受胎可能性が高い期間(Likely Fertile Window: LFW)を推定し、どの順位のオスがどのような状況でLFWメスあるいは非LFWメスと交尾しているかを調査した。コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区に生息する野生のボノボ集団を対象に、終日個体追跡を用いた行動観察を実施した結果、オスを追跡した41日中33日(80%)で1回以上の交尾が観察された。オスの交尾頻度に順位による差は見られなかったものの、LFWメスとの交尾は高順位のオスが独占していた。また、追跡中のオスが属するパーティ内にLFWメスがいる時は、LFWメスがいない時と比べて、低順位のオスほど非LFWメスと交尾する確率が高まった。これらの結果は、繁殖成功が高順位のオスに大きく偏るという遺伝的知見に合致すると同時に、低順位オスがLFWメスへのアクセスを巡って高順位オスと直接対峙するのではなく、配偶防衛(mate-guarding)されていない非LFWメスへ交尾対象をシフトさせていることを示している。この代替戦術は、精子競争への参加機会をわずかに高めるか、あるいは将来の交尾に向けて多数のメスと親和的な関係を築くための行動であると示唆される。

近年の研究成果にもとづくボノボの進化に関する性的受容性長期化仮説の検討
古市剛史(椙山女学園大・プロジェクト研究員)
An Examination of the prolonged sexual receptivity hypothesis in bonobo evolution based on recent research findings
Takeshi FURUICHI

1.0,1.7~1.8,および2.6~2.8 Maに起こったアフリカの大乾燥期にPan属の共通祖先の一部がコンゴ川の上流を右岸から左岸に渡り,その後また隔離されて現在のボノボ(Pan paniscus)になったとする竹元らの仮説は,現在広く受け入れられている。また古市らは,そのボトルネック期に起こったメスの性的受容性の長期化が,ボノボの多くの特徴の進化をもたらす元になったとする性的受容性長期化仮説を提唱してきた。しかしこの仮説には,主として3つの未解決の問題があった。本発表では,これらの点について,近年の研究成果をもとに検討を行う。

第1は,1.0~2.8 Maのどの時期にボノボの祖先が川を渡ったのかという問題である。ゲノム研究では,ミトコンドリアDNAの分析による初期の研究の多くが1.8~2.5 Maとする一方,核DNAの分析による2000年代の研究は0.9~1.8 Maとしている。また,コンゴ川の左岸には,2.45~3.7 MaにPan属の共通祖先から分かれた”ghost ape”が存在し,そのゲノムの一部が現生のボノボに受け継がれているとされている。

第2は,授乳期初期の不妊期に性皮の腫脹と性交渉が発現することによる性的受容性の長期化が,どういうメカニズムで進化したのかという問題である。現生のボノボは比較的小さな単一の祖型個体群から始まっていることが知られているが,性的受容性の長期化が遺伝子浮動による突然変異の定着によるものなのか,ボノボの祖型個体群中に性的受容の発現時期に関する個体変異がすでに存在し,何らかの環境的・社会的要因によってより早期の性的受容性が選択されて広がったものなのかという点は,検討する必要がある。

第3は,メスの性的受容性の長期化がオス間の競合に及ぼす影響である。多くのメスが性的受容を示すと実効性比が緩和され,オス間の性的競合が緩和されると考えられるが,オスたちは妊娠の可能性のある排卵期のメスを巡って競合し,不妊期の性的受容性の発現はオス間の競合の緩和には結びつかないとする考えもある。

野生チンパンジーにおける排泄行動の社会的文脈と空間的特徴
松本卓也(信州大・理学部生物学コース)
Social Contexts and Spatial Characteristics of Excretory Behavior in Wild Chimpanzees
Takuya MATSUMOTO

生物学における排泄とは,代謝の過程で生じた不要物を体外,または代謝系外へ除く現象を指す。本発表では,その中でも排便と排尿をあわせて排泄と呼ぶ。現代日本社会におけるヒトの排泄は,トイレなどあらかじめ定められた場所で行うべき行為として制度化されている。一方,ヒト以外の霊長類は「特定の場所で排泄しない」動物とされる。つまり,非ヒト霊長類の排泄は,時と場所にさほど気を遣わない,あるいはしたい時にする「野糞」である,とされることが多い。しかし,排泄物がヒト同様に忌避の対象となり得る霊長類種においては,排泄物が自分あるいは他個体に付着しないためのゆるやかな規則が存在する可能性がある。上記の予想に基づいて,発表者は野生チンパンジーの排泄行動を観察・記録した。観察対象はタンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーである。発表者は2019年9月から2026年5月の期間に断続的に調査を行い,チンパンジーが排泄した際の他個体とのやりとり,前後の行動,および場所(倒木の上,岩の上など)を記録した。チンパンジーは地上と樹上の両方を利用する半樹上性の生物である。そのため,排泄個体と他個体の空間的配置も併せて記録した。本発表では,これらの観察結果の分析を基に,チンパンジーの排泄の空間的・社会的特徴を描き出し,ヒトの排泄との相違について議論する。

母親による死児への世話と生存活動の両立―野生ヤクシマザルの事例―
李 保輪(総研大・総合進化科学研究センター / 学振PD),田伏 良幸(中央大・理工学術院),兼子 明久(京都大・ヒト行動進化研究所​)
Balancing Maternal Care for a Dead Infant and Self-Maintenance Activities: A Case Study of a Wild Japanese Macaque (Macaca fuscata yakui)
Boyun LEE, Yoshiyuki TABUSE, Akihisa KANEKO

霊長類の母親は,子育てと自らの生存のための活動(採食・社会交渉など)を両立させ,その「二重課業(dual career)」(Altmann 1980)の間で均衡を保ちながら生活している。しかし,母親による子育て行動(運搬など)は子が生存している間だけでなく,死亡後にも継続されることが,多くの霊長類種で報告されている。こうした知見から,母親はこの死亡後も,死児を放棄すると決めるまで,「二重課業」を継続する可能性がある。本研究では,死児を持つ母親の「二重課業」に着目し,野生ヤクシマザルの母親が動かなくなった乳児を運び始めてから,約2日後に7時間以上放棄するまでの行動を追跡し,母親が自らの生存活動と死児への世話をどのように両立させるのかを調べた。具体的には,一定時間ごとに母親の各生存活動(採食・社会交渉)と死児への世話行動(運搬・毛づくろいなど)の頻度を記録するとともに,生存活動時の死児との距離を分析した。母親は最初の数時間は死児を持ち続けていたが,その後は死児を置いて生存活動を行い,再び回収する行動を繰り返した。死児を置いて離れる時間と距離は徐々に増え,その後急増した。また,死児と共にいる間よりも,死児から離れている間の方が生存活動が長く持続した。これらの結果は,母親が死児への世話を継続する一方で,自らの生存活動との両立を図るため,運搬負担や生存活動への制約を軽減するよう行動を調整していたことを示唆する。一方で,最終的に死児から長距離・長時間離れ,回収しなくなったことは,死児への世話を生存活動と両立することが次第に困難となり,放棄へと至る過程を反映していると考えられる。この事例は,母親による死児への行動を子育て戦略という視点から検討したものであり,死児運搬に関する議論に新たな視点を提供するものと考えられる。

展示環境や来園者数が天王寺動物園のチンパンジーの行動に与える影響
永井亮輔1,佐野祐介2,片山洸彰1,勝 野吏子1,山田一憲1(1. 大阪大・人間科学、2. 天王寺動物園)
The effects of exhibit environments and the number of visitors on chimpanzee behavior at Osaka Tennoji Zoo
Ryosuke NAGAI, Yusuke SANO, Kosho KATAYAMA, Noriko KATSU, Kazunori YAMADA

飼育動物の行動は環境要因によって影響を受け,その変化は動物福祉を評価する重要な指標となる。来園者の存在は,動物のストレスとなって探索行動や親和的行動を減少させたり,逆に刺激となって行動を活性化させたりするなど,多様な効果をもつとされる。また,その影響は来園者数だけでなく,展示環境や個体特性によって異なる可能性がある。本研究では,天王寺動物園で飼育されているチンパンジー2群7頭(リッキー群4頭,レックス群3頭)を対象として,展示環境の違いや来園者数の変動が行動に与える影響を検討した。調査は2025年9月から2026年3月にかけて計46.2時間実施した。屋内展示場および屋外放飼場において1分間隔のスキャンサンプリング法を用い,チンパンジーの行動(休息,移動,採餌,ビジランス,親和的行動)と来園者数を記録した。屋内展示場での来園者数は平均12.4人(n=298,0-33人),屋外放飼場では平均22.5人(n=1011,0-51人)であった。リッキー群およびレックス群において屋内と屋外どちらにおいても,来園者数の増加は移動や休息の生起率に明確な影響を与えていなかった。一方,これらの行動は展示環境や個体差の影響を強く受けていた。リッキー群のミナミは,他の3頭と比べて屋外での休息割合が低く(8%,他3頭平均36%),頻繁に寝室へ入ろうとする行動がみられた。レックス群のマリリンは,他の2頭と比べて屋内外ともに休息割合が高く(屋内:71%,屋外:89%),屋内では(21%)屋外より(5%)移動頻度が高かった。マリリンは昨年5月にレックス群へ加わった新規導入個体であり,新たな環境や群れへの適応過程が行動に反映された可能性が考えられる。本研究の結果は,来園者数による明確な行動変化は認められなかった。一方で,展示環境や個体特性が行動に大きく影響することが示唆された。

ガーナ・モレ国立公園のパタスモンキーにおけるロストコールとそのアヌビスヒヒからの戦術的隠蔽
中川尚史(京都大・院理),半沢真帆(東京大・院農生命)
Lost call and its Tactical Concealment from Anubis baboons by a patas monkey in Mole National Park. Ghana.
Naofumi NAKAGAWA, Maho HANZAWA

マキャベリ的知性仮説は,種内の競合相手を「欺く」行動として発現したとする社会的知性の進化仮説である。霊長類における戦術的欺きのなかで,逸話的事例のみならず,量的データによって盛んに証明されてきているのは,繁殖競合場面,あるいは採食競合場面での視覚的隠蔽である。他方,聴覚的隠蔽については研究例が少なく,繁殖競合場面で肯定的な報告があるものの,採食競合場面では肯定否定が混在している。演者は,2021年来調査対象としてきたパタスモンキー群の構成員であるワカモノメスに人為的に付けられた紐を,公園関係者が取り除くために一時捕獲する場面に立ち会い,当該個体が麻酔覚醒後2時間43分10秒追跡した。その間の行動を発声と合わせて連続記録し,捕獲前日までの5日計約5時間,捕獲翌々日以降群れ合流後の14日計約14時間の記録と比較した。追跡開始から1時間53分1秒後にシクシン科高木Anogeissus leiocarpus樹冠最頂部で視覚的モニタリング中,樹下でアヌビスヒヒの群れが採食・休息を始めた。それまで捕獲前日前,捕獲翌々日後に比較して高い割合で視覚的モニタリングを行うとともに,頻繁に時間長の長いコンタクトコール(”moo”)を発声していたが,ヒヒが樹下に滞在中は全く発声しなくなった。時間長の長いコンタクトコールはロストコールと考えられるとともに,競合他種であるヒヒがそばに現れることにより聴覚的隠蔽を行ったと推察された。通常,パタスモンキーは群れとしてヒヒ群と遭遇すると,隠蔽はせず警戒するか退避行動を示す。1頭でヒヒ群に囲まれるという稀な事態での隠蔽をオペラント条件付けにより学習したとは考えにくく,競合他種から見えていないこと,さらに静かにしていれば気付かれないということを理解した意図的な隠蔽(Mitchellの欺きレベル4)を示唆する事例である。

勝山ニホンザル集団において子ザル養育中でない経産メスが孤児となって1カ月以上経過した生後5カ月と12カ月の子ザルを養子とした事例
中道正之(大阪大・人間科学)、大西賢治(奈良教育大)、山田一憲(大阪大・人間科学)
Adoption of 5- and 12-month-old infants by currently infantless, multiparous females in the Katsuyama free-ranging, provisioned group of Japanese macaques, Macaca fuscata
Masayuki NAKAMICHI, Kenji ONISHI, Kazunori YAMADA

論文報告されているマカク類での養子取り25事例(18論文)の内の23事例で、出産してから1カ月以内のメスが、母ザルを失って間もない生後1カ月以内の赤ん坊に対して授乳を含む母親行動を行っていた。他方、勝山ニホンザル集団で、過去3年間に出産をしていない経産メス2頭が、生後4、5カ月で孤児になり、その1カ月後と7カ月後の生後5カ月と12カ月になった子ザルの世話を開始した(事例①と②)。養母と養子は母系の遠縁か非血縁で、いなくなる前の養子の実母と養母の間の毛づくろいは稀か、全くなかった。養子2頭は養母に抱かれ始めた当日には、養母の乳首を口に含むのは確認できず、3日以上経過した後に初めて確認できた。その後2カ月以内に子ザルの栄養的吸引を確認した。事例①では、生後1年目後半の6カ月間の養母と養子の間の身体接触、母ザルからの毛づくろいなどの頻度は、養母が養子取りの翌年に出産した実子の生後1年目後半のときの値と有意な差はなかった。事例②では、1歳前半の養子と養母の間の近接、乳首接触、養母からの毛づくろいの頻度は、同じ年齢の実子と実母11ペアの値から得られた95%の信頼区間内であった。事例①の養子は1歳になり、養母が実子を出産した後も約1カ月間、養母に対して乳首接触の試みがあった。勝山集団では稀な1歳後半の子ザルの背での運搬が、事例②の子ザルでは1歳後半でも養母による背での運搬が時折見られた。これら結果から、(1)広鼻猿類やコロブス類でも報告されている生後2カ月以降の子ザルの養子取りが、ニホンザルでも稀ではあるが生じること、(2)生後4,5カ月にわたって実母との授乳を含む密な関係を保っていた子ザルにとっては、養母に抱かれても、直ぐの乳首接触を始めるのが心理的に困難で、(3)弟の誕生後も乳首接触を求める(事例①)、養母による背中での運搬をより長く求める(事例②)という養母からの独立の遅延が明らかになった。

秋田市大森山動物園の飼育チンパンジーによるカエル捕食の事例報告
村松明穂(秋田県立大・総合科学教育研究センター)
Case report of a captive chimpanzee’s predation on a frog at Akita Omoriyama Zoo
Akiho MURAMATSU

本発表では,秋田市大森山動物園で偶然観察された飼育チンパンジーのカエル捕食について報告する。チンパンジーは雑食性であり,野生下では,小型霊長類をはじめ様々な種を狩り,肉食をおこなうことが知られている。一方で,腐肉食はあまり行われないことも指摘されている。チンパンジーが主食ではない肉を得るために狩りをおこなう理由については,栄養摂取のためとする説もあるが,それだけではなく群れ内の文化が影響しているとする説もある。また,チンパンジーが骨に対して肉食動物と同様の咀嚼損傷を与えられることや,肉をある程度問題なく消化できることが,飼育個体を対象とした実験的な研究で明らかになっている。飼育下においては,チンパンジーの放飼場内に小型の野生生物が入ることがある。多くの場合,チンパンジーは野生動物を攻撃したりおもちゃとして扱ったりするが,食べることは滅多にないとされる。飼育下で給餌される食物のうち,主なタンパク源は霊長類用固形飼料であり,タンパク質を多く含む葉物野菜がこれを補い,さらに豆類・種子類や卵,昆虫などが追加される場合がある。今回報告する事例が観察された大森山動物園のチンパンジー舎の屋外展示場では,展示場を囲む水堀内でモリアオガエルをはじめとした複数種のカエルが繁殖している。2026年6月20日,屋外放飼場において,放飼開始直後である午前10時頃に,ボンタ(M,54歳)がモリアオガエルとみられるカエルを追っており,ジェーン(F,58歳)がこれに加わった。その後,ジェーンがカエルを掴んで移動し,口に含み,最終的に嚥下した。飼育スタッフによると,ジェーンはこれまでにもカエルを捕食したことがあるとのことである。なお,ボンタは野生由来で1歳過ぎには大森山動物園に来園した個体,ジェーンは多摩動物公園(東京都)で生まれ,1993年に大森山動物園に移動してきた個体である。

人類の肉食行動の進化再考
五百部裕(椙山女学園大・人間関係)
Reconsidering the Evolution of Human Meat-Eating Behavior
Hiroshi IHOBE

発表者は,2023~2025年度の人類学会大会において「霊長類の肉食行動の進化再考1・2・3」と題する一連の発表を行い,1)現生霊長類においては肉食という特徴が一部の種に限られたものではなく一般的なものであり,かつ肉食の頻度が低い種でも肉に対して強い関心を示すこと,2)中期中新世類人猿と同所的に生息していたと考えられるコロブス類との体重比は,現生のチンパンジーとアカコロブスの体重比の範囲内に収まることから,中期中新世霊長類が(コロブス類を)肉食していた可能性があること,3)発見されている化石の割合やラミダス猿人の樹上での活動性を考えると,ラミダス猿人が同所的に生息するコロブス類を狩猟していた可能性は低いものの,機会的なつかみ取りという方法によりラミダス猿人が肉食していた可能性はあることを指摘した。これらの成果を踏まえ,本発表では,発表者が1990年代に公表した人類の肉食行動の進化をめぐる論考(五百部1993,1996,1997)を再考することを目的とした。これらの論考では,発表者はヒト上科における狩猟・肉食行動について,ゴリラとチンパンジー・ボノボ・ヒトの系統が分岐した後に,後者の系統で獲得されたと考察した。しかし,上記の結果を踏まえると,以下のような流れが考えられる。すなわち,(たぶん)森林で生活していた現生類人猿との共通祖先の段階で,すでに肉食は行われており,かつ「肉に強い関心」を持っていた。そして,乾燥した環境で生活するようになった初期人類はこうした特徴を継承しつつ,森林から乾燥地といった環境の変化に対応する形で,肉の入手方法や肉食の頻度,そして肉食の対象を変化させていった。その上で,道具使用や大脳化といったことと関連しながら,人類の肉食をめぐる特徴は変化していった。

大分県川原田洞穴の再検討Ⅱ
遠部 慎(中央大学人文科学研究所)、納屋内高史(富山市教育委員会埋蔵文化財センター)、畑山智史(中央大学人文科学研究所)
Reexamination of Kawaharada Cave SiteⅡ
Shin ONBE, Takashi NAYAUCHI, Satoshi HATAKEYAMA

大分県杵築市川原田岩陰(洞穴)遺跡は、1963年と1997年の発掘調査が行われた岩陰遺跡である。縄文時代早期から後期までのまとまった土器群が検出されている。動物遺存体は後期以降の層位から検出されている。

貝類について、2次にわたる調査試料100点について同定をおこなった結果、みられた貝種は、1門2綱3目5科7属7種である。確認できた貝種の棲息域は、淡水棲、汽水棲、海水棲と多様な環境であり、人類による採取活動によって遺跡にもたらされたことが確認された。また、動物骨も、シカ・イノシシ・サル・タヌキ・アナグマ・イタチ・ヒトなどが確認された。

川原田岩陰の所在する杵築市内では、縄文中~後期の貯蔵穴で知られる龍頭遺跡や、後期前半の山迫貝塚(ハイガイ主体)をはじめとする遺跡群があり、それらと本資料群との関係を整理しきたい。

弥生時代における貝採取季節と集落構造に関する一試案
畑山智史(中央大学人文科学研究所)
Preliminary Study on Shell Collecting Seasonality and Settlement Structures in the Yayoi Period
Satoshi HATAKEYAMA

弥生時代は,水田稲作を基盤とする農耕社会であり,先の縄文時代の狩猟採集社会とは本質的に異なる社会構造を有する。生業の主体となる農耕は,年間スケジュールが既に組み込まれた生業サイクルであることから、時間的重複が困難な貝採取の季節を明らかにすることは、間接的にそれ以外の季節における農耕に関わる生業活動の一端を復元することに繋がる。しかしながら,生業の具体的な季節性を科学的に明らかにするアプローチは容易ではないものの,1日1本の規則的な日輪を形成する生物学的特性を用いた貝殻成長線分析は,採取季節をより高解像度な時間軸で特定できる方法であり,これまで主に縄文時代の貝塚研究において蓄積されてきた。本研究では,従来縄文時代を中心に蓄積されてきた貝殻成長線分析について,弥生時代の貝塚における分析事例を集成して,検討した。その結果,弥生時代における実施例は未だ少例であるものの,集落の形態や立地環境によって,異なる様相が明らかとなった。東海地方における一般的な貝塚遺跡の事例では,春から夏にかけての計画的な貝採取が確認された。これに対し,中四国地方にみられる高地性集落の事例では,夏や秋の貝採取が確認された一方,一般に採集の適期とされる春季の事例が欠落する傾向が認められた。特に,農耕社会において収穫期にあたる最重要期の秋に貝採取を行っている点は極めて特異である。さらに高地性集落という遺跡の立地や集落構造において観察できた結果は,当時の社会構造の複雑性を反映しており,生業季節にもその影響が及ぶことを示唆していると考えられる。

ビルマカニクイザルの全ゲノム解析
松平一成(琉球大・医)、石田貴文(東京大・理)、木村嘉孝、田村あゆみ、田丸正枝、對馬隆介(宇部市ときわ動物園)、マライヴィジットノン・スチンダ(チュラロンコーン大・理)
Whole-genome sequencing analysis of the Burmese long-tailed macaque
Kazunari MATSUDAIRA, Takafumi ISHIDA, Yoshitaka KIMURA, Masae TAMARU, Ryusuke TSUSHIMA, Suchinda MALAIVIJITNOND

これまでの研究からビルマカニクイザル(Macaca fascicularis aurea)が、ナミカニクイザル(M. fascicularis fascicularis)と遺伝的に異なること、またトクモンキー種群のマカクからの遺伝子浸透を受けたことが示された。本研究では、ビルマカニクイザルの進化の詳細、特にナミカニクイザルから分岐した年代と、トクモンキー種群からの遺伝子浸透の由来と割合の2点を明らかにすることを目的とした。そのために、トクモンキー(M. sinica)とボンネットモンキー(M. radiata)の全ゲノム配列を新たに決定し、22個体のマカクの全ゲノム配列を用いて解析を行った。その結果、マカク属の中では、多数の交雑・遺伝子浸透の痕跡が検出された。この複雑な網状進化のために、トクモンキー種群の内、具体的にどの系統からビルマカニクイザルへの遺伝子浸透があったのかを特定するには至らなかった。しかし、複数の進化シナリオに基づいて解析を行った結果、どの進化シナリオにおいても概ね一貫して、ビルマカニクイザルが、トクモンキー種群から1~13%の遺伝子浸透を受けたという推定値が得られた。また、ビルマカニクイザルとナミカニクイザルの分岐は99~189万年前と、他のマカクの種間の分岐年代と同等か、より古い年代と推定された。これらのことから、ビルマカニクイザルとナミカニクイザルの遺伝的差異は、主にこれら2系統の分岐が古いことによってもたらされたと考えられ、ビルマカニクイザルの分類を、カニクイザルの亜種から、独立した種に格上げする必要性が示された。

ネパール高地集団におけるエピゲノムワイドDNAメチル化解析による高地環境応答の分子基盤の探索
安河内彦輝(関西医大・ゲノム解析部門)、有馬弘晃(長崎大・熱研)、Sweta Koirala(Nepal Development Society)、Kishor Pandey(Tribhuvan Univ.)、Basu Dev Pandey(長崎大・出島特区)、山本太郎(奥沢診療所)
Exploring the molecular basis of high-altitude environmental response by epigenome-wide DNA methylation analysis in Nepali highlanders
Yoshiki YASUKOCHI, Hiroaki ARIMA, Sweta KOIRALA, Kishor PANDEY, Basu Dev PANDEY, Taro YAMAMOTO

高地適応の候補となる遺伝的バリアントが多く報告される一方で,そのエピジェネティック基盤は未解明な点が多い。そこで本研究では,ネパール高地集団のエピゲノムワイドDNAメチル化解析およびメチル化量的形質遺伝子座(meQTL)解析を行った。まず,ネパール高地集団40名(男女各20名,平均年齢44.4歳)をEPIC v1(8名)とEPIC v2(32名)アレイで測定し,RnBeadsで解析した。比較対象として,漢民族集団40名(平均年齢38.8歳,EPIC v1)のDNAメチル化データをGEOデータベース(GSE141682)から取得し,共変量で調整した差次的メチル化解析およびエンリッチメント解析(Hallmark遺伝子セット・GO・KEGG・Reactome)を実施した。さらに,Asian Screening Arrayでタイピングした一塩基多型(SNP)データをSHAPEIT5でphasingした後,Minimac4/MetaMinimac2でmeta-imputationし,このSNPデータとDNAメチル化データを用いて,共変量で調整した線形混合モデルによるcis-meQTL解析を行った。まず,差次的メチル化解析の結果として, 207,344のDMPを同定した(FDR < 0.05)。エンリッチメント解析では,HYPOXIAパスウェイの低メチル化(HIF-1α経路のエピジェネティックプライミング)とHEME_METABOLISMの高メチル化(多血症回避)が示唆された。また,発生や転写制御,グルタチオン代謝(酸化ストレス防御)等のパスウェイが濃縮された。予備的なmeQTL解析からは,EPAS1EGLN1近傍のメチル化へのSNPの関与が示唆された。以上より,低酸素感知や多血症回避,酸化ストレス防御等に関わる協調的なエピジェネティック制御の存在が示唆された。

米国先住民族における大規模集団ゲノム学解析:トライバル主権を尊重した倫理的枠組みの構築
一色真理子(東大・院理)、Srilakshmi M. Raj(アインシュタイン医科大・遺伝), Krystal Tsosie(アリゾナ州大・生物科学)
Large-Scale Population Genomics of American Indian and Alaska Native Peoples: Toward Tribally Sovereign and Ethically Grounded Frameworks
Mariko ISSHIKI, Srilakshmi M. RAJ, Krystal TSOSIE

北米のAmerican Indian and Alaska Native(AI/AN)集団は、南米先住民集団や他の北米集団と比較して医学・遺伝学研究の蓄積が限られており、健康、疾患、祖先に関する知見が十分ではない。そこで、本研究では、米国All of Us Research Program(AoU)で収集されたAI/AN集団の大規模ゲノム・生医学データを用い、祖先構造および健康関連形質との関連を解析した。なお本研究はAoUのデモンストレーションプロジェクトとして、データにおける潜在的課題の抽出と、それを補完するトライバル主導の運営体制整備を目的に実施された。AI/AN参加者16,037名分の全ゲノム配列と電子健康記録を用いて、祖先・集団構造解析、IBD解析、有効集団サイズ推定、表現型ワイド関連解析(PheWAS)を実施した。研究設計においては、集団史の詳細復元、個人・集落の特定、外部データセットとの直接比較を行わないなど、トライバルの意向を反映した制約を設けた。祖先解析の結果、AoU AI/AN集団の多くは他大陸系集団との混血を示し、自認する文化・社会的カテゴリーと遺伝的背景との間に乖離が認められた。集団構造解析では、Alaska Nativeが東アジア系集団との遺伝的近縁性を示し、American Indianはアリゾナ・ニューメキシコ地域を中心とする主要クラスター、多様な集団を含む混成クラスター、プレーンズ集団クラスターの3群に分類された。IBD解析でも同様の地域構造が確認され、植民地化期に対応すると考えられる有効集団サイズの急激な縮小が示唆された。さらにPheWASでは、先住民祖先割合の上昇が2型糖尿病および末期腎疾患リスクと関連し、一方で呼吸器系疾患とは負の関連を示した。本研究は、AI/AN集団における集団構造と先住民祖先と健康関連形質の関連を明らかにすると同時に、コミュニティ主導型ガバナンスと科学的厳密性を両立する研究枠組みの重要性を示し、今後の先住民族ゲノム研究のモデルケースとなることが期待される。

韓半島南部古人骨のゲノムからみた先史・古代人集団の遺伝的特徴
金亨哲(国立加耶文化遺産研究所), 寺井洋平(総研大・進化センター), 神澤秀明(科博・生命史),

近年、東アジアにおける古代DNA研究の進展により、日本列島および韓半島における人類集団形成過程が徐々に明らかになりつつある。しかし、韓半島出土古人骨のゲノムデータは依然として限られている。

本研究では、釜山加徳島長項遺跡出土の新石器時代人骨1個体および金海礼安里古墳群出土の三国時代人骨2個体を対象としてゲノム解析を行った。PCAおよびADMIXTURE解析の結果、三国時代個体は既報の韓半島三国時代人集団と類似した遺伝的特徴を示した。一方、新石器時代個体は三国時代個体とは異なる位置に分布し、日本列島の縄文人集団との遺伝的類似性が一部認められた。

本発表では、これらの解析結果を報告するとともに、韓半島南部集団と日本列島集団との関係について検討する。

近世日本のヒト口腔内細菌叢の解析:集団間多様性について
荒川明(東邦大・医)、栗山佑基(東京大・理)、水嶋崇一郎(聖マリアンナ医大)、平田和明(聖マリアンナ医大)、熊谷真彦(農研機構)、植田信太郎(東京大・理)、水野文月(東邦大・医)、黒崎久仁彦(東邦大・医)
Interpopulation Diversity of the Human Oral Microbiome in Edo-Period Japan
Mei ARAKAWA, Yuki KURIYAMA, Soichiro MIZUSHIMA, Kazuaki HIRATA, Masahiko KUMAGAI, Shintaroh UEDA, Fuzuki MIZUNO, Kunihiko KUROSAKI

メタゲノム解析の発展により,ヒト常在細菌叢を網羅的に解析することが可能となり,食性や生活環境との関連が明らかになりつつある。なかでも口腔内細菌叢は,歯石中にDNAとして保存されるため,古人骨資料を用いた過去集団の生活環境や口腔環境の復元に有用であると考えられる。本研究では,江戸時代の地理的に異なる2つの遺跡,すなわち一橋高校遺跡(東京都千代田区)および塩川遺跡(山梨県北杜市)から出土した人骨を対象とした。一橋高校遺跡出土人骨68個体および塩川遺跡出土人骨40個体の計108個体に付着した歯石からDNAを抽出し,次世代シーケンサーを用いたショットガンシーケンスを実施した。得られたDNA配列を用いて微生物分類解析および系統解析を行い,口腔内細菌叢の組成と主要細菌の系統的特徴を比較することで,江戸時代日本人における口腔内細菌叢の集団間多様性を検討した。その結果,一橋高校遺跡集団と塩川遺跡集団はいずれも口腔内細菌に特徴的な細菌群を有していた一方で,口腔内細菌叢の組成には集団間で差異が認められた。また,一部の口腔内細菌については,集団間で異なる系統的位置を示した。これらの結果から,同じ江戸時代の日本列島内においても,都市部と農村部という異なる生活環境を背景とする集団間で,口腔内細菌叢の構成や細菌系統に違いが存在していることが示された。

ニホンザル(Macaca fuscata)における生殖系列 de novo 突然変異の発生率と変異パターン
劉子嘉、東濃篤徳、中村克、長田直樹
Rates and patterns of de novo germline mutations in the Japanese macaque (Macaca fuscata)
Zijia LIU, Atsunori HIGASHINO, Katsuki NAKAMURA, Naoki OSADA

生殖系列突然変異率の推定は,繁殖集団の遺伝的なモニタリング,進化的時間軸の較正,集団動態の推定などに不可欠であるが,家系に基づく直接推定が得られている霊長類はごく限られている。ニホンザル(Macaca fuscata)はヒト以外の霊長類で最北に分布する種であり,複雑な集団史を有することが知られているが,種特異的な突然変異率が報告されていないため,これまで進化的年代の較正には他種の値を代用せざるを得なかった。

本研究では,ニホンザルにおける生殖系列突然変異率を初めて直接推定することを目的とした。3世代からなる家系に属する20個体を平均36.6×の深度で全ゲノム解析し,11組の親子トリオを構築した。さらに既報の66個体を集団パネルとして併用し,偽陽性の変異を効率的に除外した。厳密なバイオインフォマティクス的フィルタリングとIGVによる目視確認の結果,信頼性の高い252個の一塩基突然変異を同定し,1世代あたり1塩基あたりの突然変異率を0.66 × 10⁻⁸(95%信頼区間:0.53–0.79 × 10⁻⁸)と推定した。突然変異スペクトラムはC>T転位が46.8%を占めた。CpG部位における変異は全体の19.0%を占め,Ts/Tv比は2.15であった。70個の変異について,両親どちらのゲノムで変異が起こったのかを推定した結果,父親由来が75.7%(父親由来と母親由来の比 = 3.1:1)と顕著なバイアスが確認された一方,本サンプルサイズでは父母いずれの年齢も変異数との間に有意な関連を示さなかった。これらの値はアカゲザルとよく一致しており,両種の分岐後約100〜230万年の間,生殖系列の突然変異プロセスが保存されてきた可能性を示唆する。本研究で得られた推定値は,今後のニホンザルの進化および集団遺伝学的研究の基盤となるものである。

アイヌ民族を対象とした遺伝学的研究の歴史的検討
佐藤桃子(理化学研究所)
Historic analysis of genomic research on biospecimens and data derived from Ainu people
Momoko SATO

先住民族を対象とした科学研究の倫理的なあり方は世界各地で議論されている。日本においても, 日本人類学会は2025年12月にアイヌ遺骨に関する声明を出したほか, 日本文化人類学会・日本考古学協会とアイヌヘイトに関するとの共同会長声明を出しており, 今後の研究の在り方について検討が続いている段階と考えられる。

日本において先住民族を対象とした研究に関する議論は, 主にアイヌ民族の遺骨の取扱いが中心を占めてきた。海外では先住民族に由来する生体試料やゲノムデータ等のデータの取扱いの議論も進んでいる中で, 日本において遺骨以外の試料を用いた研究がどのようになされてきたのかは必ずしも明らかではない。

本研究は, 3つの学術データベースを用いてアイヌ民族に関するゲノム研究を抽出し, それらの研究にどのような試料・情報が利用されていたかを明らかにした文献研究である。抽出された文献は1962年から2025年までの82件で, 1件を除くすべての論文がアイヌ民族や他の集団の人類学的起源を探求するものであった。特に1980年代に取得された血液試料が, その後多くの研究に利用されていることが明らかになった。研究に際し北海道アイヌ協会や地域コミュニティに説明・相談したと明記している研究も少数見られた。

現在策定中の「アイヌ民族に関する研究倫理指針」では生体試料やデータの取扱いについても規定があり, 一般に入手可能な試料や公開済みのデータを除いては二次利用に再同意の取得が求められている。本研究では論文における公開情報のみを対象としたため, 利用された試料・データが一般に入手可能かどうか確認することは今後の課題となるが, 研究の実態に即して倫理面の議論を遺骨に留まらず広げていくことが重要であると考える。

アルコール摂取後の主観的酩酊感と注意機能の変化:ALDH2遺伝子型および飲酒傾向との関連
本井碧、申㽋敬(九州大・芸術工学研究院)、濱もも(九州大・統合新領域学府)、安田幸太郎(九州大・芸術工学府)、西村貴孝、西村英伍(九州大・芸術工学研究院)、豊島秀夫(福岡浦添クリニック)、荒木維子(九州大・統合新領域学府)、勝村啓史(九州大・芸術工学研究院)、夏亜麗、大橋智昭(本田技術研究所)、栗山斉昭(ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン)、宮内友那(本田技術研究所)、元村祐貴、樋口重和(九州大・芸術工学研究院)
Changes in subjective intoxication and vigilance after alcohol intake: associations with ALDH2 Genotype and drinking tendency
Midori MOTOI, Nakyeong SHIN, Momo HAMA, Yukitaro YASUDA, Takayuki NISHIMURA, Eigo NISHIMURA, Hideo TOYOSHIMA, Yuiko ARAKI, Takafumi KATSUMURA, Yali XIA, Tomoaki OHASHI, Nariaki KURIYAMA, Yuna MIYAUCHI, Yuki MOTOMURA, Shigekazu HIGUCHI

ヒトのアルコール経口摂取後の反応には個人差があり,その背景にはアルコール代謝に関わる遺伝子多型だけでなく,日常的な飲酒習慣も関与する可能性がある。東アジア集団に多いALDH2*2アリルは,活性の低いアルデヒド脱水素酵素をコードしており,それを持つヒトでは飲酒後の不快な主観的経験により,飲酒行動が抑制されることが知られている。このように遺伝子と行動,生理的反応は相互に関連することが想定される。したがって,本研究ではアルコール代謝関連遺伝子と飲酒傾向が,呼気中アルコール濃度と「酔い」の自覚および注意機能にどのように影響するかを検討した。健康な若年成人93名(男性55名,女性38名)を対象に,体重1 kgあたり0.5 gのアルコールを30分かけて経口摂取させ,摂取後0〜100分に呼気中アルコール濃度(BrAC),主観的酩酊感,Psychomotor Vigilance Task(PVT)成績を測定した。ADH1BおよびALDH2遺伝子型を被験者間要因,時間を被験者内要因とする反復測定分散分析に加え,構造方程式モデリングにより,遺伝子型,飲酒傾向(AUDIT-C),BrAC,主観的酩酊感,PVT lapse(見落とし)率の関連を検討した。その結果,ALDH2遺伝子型と時間の交互作用が認められ,ALDH2*1/*2保有者はALDH2*1/*1保有者よりBrACおよび主観的酩酊感が有意に高い値を示した。一方,PVT成績は飲酒後に悪化したものの,遺伝子型間で有意な差は認められなかった。40分時点では,呼気中アルコール濃度が主観的酩酊感およびPVT lapse率を正に予測した一方,AUDIT-Cは主観的酩酊感を負に予測したが,PVT lapse率とは関連しなかった。なお,AUDIT-CはALDH2*1/*1保有者の方が有意に高かった。以上より,飲酒傾向が高い者ほど「酔っていない」と感じやすいにもかかわらず,注意機能の低下には明確な関連は認められなかった。本研究から,若年成人を対象とした中等量飲酒条件における検討ではあるが,ALDH2遺伝子型が飲酒習慣の形成に関わり,その飲酒習慣の強さが主観的酩酊感の低さと関連するという構造の一端が示唆された。

会場C(1331教室)

心拍同時計測型ナイトブラ式深部温デバイスを用いた性周期評価とPMSの関係
〇横山 結(神奈川工科大学・健康医療科学部・管理栄養学科)、澤井 明香(宮城大学大学院・食産業学研究科)、藤武 ひかる(神奈川工科大学・健康医療科学部・管理栄養学科)、宮本 理人(神奈川工科大学・健康医療科学部・管理栄養学科)、杤久保 修(横浜市立大学・医学部)

【目的】性周期の適切な把握は健康や妊娠維持に重要である。我々は、ナイトブラ装着型デバイスによる睡眠中連続皮膚温から推定した深部温(わたしの温度Ⓡ、TOPPAN社製)が臥位舌下婦人体温計より高精度に温度リズムを評価可能であり、従来は別機で測定していた心拍数から基底心拍時温度を抽出することで低温期と高温期の差が明確となることを報告してきた。本研究では、深部温測定デバイスに心拍測定機能を統合した開発機を用い、同時測定による最適評価条件と月経前症候群(PMS)との関連を検討した。

【方法】女子大学生27名を対象に約1ヶ月間就寝時に装着し測定した。就眠後2・3・4時間の温度、睡眠中平均深部温、基底心拍時温度を抽出し、低温期と排卵直後高温期を比較した。さらにPMS調査票で月経前週の症状を評価し、深部温との関連を相関分析および多項式回帰分析により検討した。

【結果】低温期と排卵直後の高温期は、就寝後2時間温(p=0.00122)、3時間温(p=0.001059)、4時間温(p=0.000343)、平均温(p=0.0000172)、基底心拍時(p=0.0000139)で有意差を認めたが、婦人体温計では認めなかった(p=0.928)。特に平均温および基底心拍時が最も高い識別能を示した。PMS症状合計値と高温期深部温との間にはr=0.3程度の弱い関連が示唆されたが、多項式回帰モデルでは統計学的有意性は確認されなかった。

【考察】本開発機は温度リズム評価に高精度を示し、平均温度および基底心拍時温度が性周期判別に最適と考えられた。平均温度は長時間データと異常値処理により安定性が高く、基底心拍時温度は徐波睡眠に対応する指標として有用である。PMSとの関連は本報でも同様の傾向が示唆されたが、有意性は確認されなかった。対象者数を増やし、深部温リズムによる健康管理や症状推定への応用可能性を今後検討する必要がある。

サルは“説明”を探索するか?
壹岐朔巳(京都大・白眉センター/ヒト行動進化研究所)、岩沖晴彦(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構)、足立幾磨(京都大・ヒト行動進化研究所)
Do monkeys engage in explanation-seeking?
Sakumi IKI, Haruhiko IWAOKI, Ikuma ADACHI

「説明探索行動」は、①既有の知識と矛盾する出来事を契機に生じ、②その出来事についてさらに知るために自ら対象に働きかける介入行動を含み、③食物などの外的報酬によって直接強化されるものではない、という3条件を満たす情報探索行動と定義される(Völter et al., 2020)。ヒトは、物体が不自然に浮遊するような場面を目撃すると、その背後にある原因や仕組みを探ろうとする。こうした説明探索行動は、これまでヒトに特有のものと考えられてきた。本研究では、3DゲームエンジンUnityを用い、物理法則に反する動きをするボールをタッチパネル上でニホンザルに提示し、ボールや周辺領域への介入操作行動を検討した。実験では、画面の片側に透明なスロープが配置され、そこを通過するボールが浮遊しているように見える「透明スロープ条件」、同じ場所に同形の視認可能なスロープがある「不透明スロープ条件」、スロープが存在しない「スロープなし条件」を設定した。条件提示中に食物などの外的報酬は与えなかった。透明スロープ条件と不透明スロープ条件では、ボールの軌道は同一だが、前者でのみ動きが不自然に見える。また、透明スロープ条件とスロープなし条件は、3D空間上の見かけが同一である。被験体が不自然な現象の背後にある原因や説明を探索しているならば、ボールをスロープ方向へ動かす、ボールをそこへ落とす、スロープ領域を触るといった行動が、透明スロープ条件において他条件よりも多くなると予測した。13個体の実験データを解析した結果、これらの予測が支持され、ニホンザルが不自然な出来事の背後にある原因や説明を探索するように行動したことが示唆された。さらに、透明スロープ条件では若い個体ほど上述の行動を多く示したことから、これらの行動は隠れた因果構造への好奇心や探索的関心を反映していたと考えられる。本研究は、非ヒト動物にも説明探索行動が存在する可能性を示す初めての実験的報告である。

飼育ニシゴリラの利き手を評価するための新課題の開発:野生下の行動を再現したシロアリ課題
田村大也(京都大・院理、霊長類フィールド研究センター)、仲村賢(恩賜上野動物園)
Development of a novel task to assess hand preference of captive western gorillas: The termite task simulating natural foraging behavior in the wild
Masaya TAMURA, Ken NAKAMURA

大型類人猿はヒトの利き手の進化的起源を理解するための重要な研究対象である。飼育霊長類の利き手の指標として30年以上にわたりチューブ課題が広く用いられてきた。しかし,野生霊長類がチューブ課題様の行動をとることは稀であり,同課題の生態的妥当性が議論の的となってきた。そこで本研究は,野生下と同様の行動を飼育霊長類から引き出す装置を作成し,生態的妥当性の高い新たな利き手指標を開発することを目的とした。本研究では,野生ニシゴリラ(Gorilla gorilla)で観察されるシロアリ採食行動をモデルとした「シロアリ課題」を開発した。新たに作成したのは直径76 mm,高さ38 mmの半球空洞状のステンレス製の装置で,半球の底面には12.5 mmの穴が3つ空いている。この装置内に,リンゴのみじん切り20 g,オートミール7 g,小さい乾燥食物8 gを混ぜた餌を入れた。その結果,飼育下のニシゴリラが装置の穴から餌を取り出す際に,野生下のシロアリ採食行動と類似の操作を行うことを確認した。これを踏まえ,恩賜上野動物園の飼育ニシゴリラ6頭を対象にシロアリ課題とチューブ課題を実施することで,シロアリ課題の利き手指標としての有効性を確かめた。調査の結果,シロアリ課題では全6頭が有意な利き手を示し,4頭が右利き,2頭が左利きであった。一方,チューブ課題では3頭が右利き,1頭が左利き,2頭は利き手が不明瞭であった。さらに,利き手の強さを示す「利き手指数の絶対値」の平均はシロアリ課題で0.96±0.02,チューブ課題で0.45±0.18となり,全個体がチューブ課題よりもシロアリ課題でより強い利き手を示した。以上より,新たに開発したシロアリ課題は,チューブ課題と同等以上の感度で飼育ニシゴリラの利き手を検出できる可能性が示された。今後,さまざまな飼育環境で容易に追試ができるよう装置を改良することで,シロアリ課題は生態的妥当性が高い,チューブ課題に次ぐ有用な利き手の指標となることが期待される。

書字課題における認知的負荷と運動的負荷が運動制御・筋活動・脳波活動に及ぼす影響
渥美結月(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻4年), 藤澤祐基(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻), 杉山歩夢(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻4年), 中村万里(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻4年), 中山七海(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻4年), 沼田莉緒(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻4年), 星野真之介(世田谷人工関節・脊椎クリニック リハビリテーション部), 池田悠稀(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所), 花房京佑(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻), 跡見友章(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)
Effects of Cognitive and Motor Loads on Motor Control, Muscle Activity, and EEG Activity During a Handwriting Task
Yuzuki ATSUMI, Yuhki FUJISAWA, Ayumu SUGIYAMA, Banri NAKAMURA, Nanami NAKAYAMA, Rio NUMATA, Shinnosuke HOSHINO, Yuki IKEDA, Kyosuke HANAFUSA, Tomoaki ATOMI

【目的】健常右利き者を対象に,習熟文字(通常のひらがな)と非習熟文字(逆さ文字)の書字を利き手・非利き手で比較し,巧緻動作の運動制御特性を検討した。あわせて,認知的負荷および運動的負荷の違いが運動学的指標・筋活動・脳波活動にどう反映されるかを検討した。【方法】右利き健常成人10名(平均20.8±0.58歳)を対象とした。5cm四方のマスに利き手・非利き手で習熟文字と非習熟文字を書く課題を行った。三次元動作解析で運動学的指標(速度・筆跡・分離性)を,表面筋電図で上肢筋の活動開始・ピーク・終了のタイミングを,脳波で運動関連領域の事象関連脱同期(μ・β帯域)を評価した。【結果】書字の実行時間は,利き手習熟<利き手非習熟<非利き手習熟<非利き手非習熟の順に延長し,手の条件と文字の習熟度の双方の影響が示唆された。筋電図では,非習熟文字で筋活動開始が遅れる傾向がみられ,非利き手では近位筋が同期的に活動し,分離性低下と関連した。脳波では,非利き手書字において,対側半球だけでなく,同側半球の運動関連領域にも活動変化がみられる傾向があった。課題の前半と後半で一部の指標に変化がみられ,短時間での適応の可能性が示された。【考察】非利き手・非習熟文字での実行時間延長と筋活動開始の遅延は,書字運動の計画・実行効率の低下を反映する可能性がある。近位筋の同期的活動と分離性低下は,学習初期に自由度を制限し,運動を単純化する制御方略と考えられる。同側半球の活動変化は,利き手で獲得された運動プログラムの参照,または代償的活動を反映する可能性がある。【結論】運動的負荷と認知的負荷を組み合わせた書字課題により,巧緻動作の運動制御特性を検討した。分離性指標・筋活動・脳波活動の併用は,書字動作の運動学習過程を多面的に評価できる可能性を示した。今後は対象者数を増やし,各指標の関連を検討する必要がある。

ニホンザルの血縁個体間の顔は似ているか?
上野将敬(近畿大・総合社会),井上英治(東邦大・理),大西賢治(奈良教育大・教育),加藤邦人(岐阜大・工),寺田和憲(岐阜大・工),根地嶋勇人(大阪大・人間科学),山田一憲(大阪大・人間科学)
Do kin have similar faces in Japanese macaques?
Masataka UENO, Eiji INOUE, Kenji ONISHI, Kunihito KATO, Kazunori TERADA, Yuto NEJISHIMA, and Kazunori YAMADA

顔は個体間の血縁認識の手がかりになる可能性があるが,ヒト以外の霊長類では,血縁間の顔が類似しているという一貫した結果は得られていない。本研究では,ニホンザルの顔画像を用いて,顔の形態的類似性が血縁関係を反映しているかを検討した。また,人間による顔の類似性評価の特徴を探るために,人間評価に直接は依存しない類似度として,深層学習の一種であるメトリックラーニングを用いた。メトリックラーニングは,特徴空間上で似た個体ほど近くに配置するため,個体間の距離を類似度として利用できる。成体メス49個体の顔について,メトリックラーニングに加え,ニホンザルの識別経験をもつ識別経験者33名と,識別経験がない一般成人77名が,2個体の顔の類似度を7段階で評定した。これら3種類の類似性評価と,母系血縁度,およびマイクロサテライトから推定した遺伝的血縁度との関連を,年齢差を変数に含めた線形混合モデルで解析した。その結果,母系血縁度は3種類すべての顔類似度と有意に関連した一方,遺伝的血縁度はいずれの類似度とも有意な関連を示さなかった。母系血縁度が0であるペアに限って分析しても,遺伝的血縁度と顔の類似度は関連していなかったことから,父系血縁の影響は限定的であると考えられた。また,識別経験者と一般成人が評価した類似度では,母系血縁度と年齢差の交互作用がみられ,年齢差が小さいほど血縁と類似度の関連が強く,識別経験者は一般成人よりも大きな年齢差までその関連が維持される傾向がみられた。以上より,母系で生涯にわたり環境を共有する成体メスにおいて,母系血縁間の顔は類似していたが,その類似性は遺伝的血縁度では説明されなかったため,共有環境など非遺伝的要因が影響している可能性がある。さらに,ニホンザルの顔の類似性を人間が評価する際には年齢差の影響を受けるが,識別経験によってその影響が緩和されることが示された。

暴言ばく露下における情動情報処理と個人差の検討
西村悠貴,久保智英,松元俊,佐々木毅(労働者健康安全機構・労働安全衛生総合研究所)
Emotional information processing under aggressive language exposure and its individual differences
Yuki NISHIMURA, Tomohide KUBO, Shun MATSUMOTO, Takeshi SASAKI

【目的】職場における暴言は,直接的な被害者だけでなく周囲の間接的な被害者も生じうることから,その影響範囲は広い。これまでの筆者らによる研究で,暴言の影響の受けやすさに個人差が存在することが示されたが,その検討は主として主観評価に基づくもので生理的背景は十分に解明されていない。そこで本研究では,暴言ばく露中の脳活動を計測し,個人差の生理的背景について検討した。【方法】日本語を母語とする42名(男女同数,平均33.6±7.12歳)を対象に,実験室実験を実施した。参加者はまず状態不安を測定するSTAI1質問紙に回答した。続いて暴言音声、または統制条件として同一音声の逆再生音声が背後から流れる中,課題無関連な顔画像を併用したEmotional GoNogo課題を遂行し,事象関連電位を測定した。課題終了後には再度STAI1および音声に関する主観評価を実施した。2条件の実施間には2週間以上のウォッシュアウト期間を設けた。【結果】2条件間で,Nogo試行時のP3振幅およびN2振幅に有意差はなかった。一方,状態不安変化量と条件の交互作用はN2振幅で有意であり,下位検定では統制条件においてのみ状態不安変化量の単純主効果があった。【考察】暴言条件では,状態不安変化量にかかわらずN2振幅は概ね抑制されており,暴言ばく露は多くの参加者に共通して影響した可能性がある。一方,逆再生音声は日本語としての意味内容は失われていても、声の強さや抑揚などで攻撃的発話として知覚されうる特徴は残っていた。統制条件では状態不安が増加した参加者ほどN2振幅が大きかったが,そうした参加者では音声に注意を奪われずGoNogo課題への注意が比較的維持されていた可能性がある。したがって,統制条件における状態不安上昇は,情動刺激への注意捕捉そのものではなく,曖昧な攻撃的音声環境下での課題処理の維持と関連していた可能性がある。

偏光光干渉断層計を用いた網膜・脈絡膜構造およびメラニン関連指標と対光反射後持続性縮瞳反応(PIPR)の民族差解析 ―東アジア人とヨーロッパ人の比較―
久瀬真奈美(医療法人社団・久瀬医院,三重大眼科),田口義之(医療法人社団・久瀬医院),中澤勇介,許諾(九州大・芸術工学府),江藤太亮(Max Planck Institute for Biological Cybernetics),樋口重和(九州大・芸術工学研究院)
Ethnic Differences in Retinal and Choroidal Structure, Melanin-Related Metrics, and the Post-Illumination Pupillary Response Assessed by Polarization-Sensitive Optical Coherence Tomography: A Comparison Between East Asians and Europeans
Manami KUZE, Yoshiyuki TAGUCHI, Yusuke NAKAZAWA, Nuo XU, Taisuke ETO, Shigekazu HIGUCHI

【目的】網膜色素上皮(RPE)や脈絡膜メラニン色素は,眼内光環境の維持に重要な役割を担っている。近年,偏光光干渉断層計(PS-OCT)によるメラニン量の指標となるエントロピーが注目されている。本研究では東アジア人(EA)とヨーロッパ人(EU)のPS-OCTで評価した網膜構造とメラニン関連指標の民族差を検討するとともに,内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)機能を反映するPIPRとの関連を解析した。

【対象と方法】対象は、健常53眼(EA36眼,EU 17眼)。PS-OCT(トーメーコーポレーション,名古屋,日本)による網膜神経線維層(RNFL),網膜,神経節細胞複合体(GCC),脈絡膜各層の厚みとRPEと脈絡膜のエントロピー値を測定した。領域はETDRSグリッドを用いてCenter,Inner ring,Outer ringに分け検討した。さらに青色光刺激PIPRを測定し,構造指標との関連を検討した。群間比較にはWelch t検定を用い,PIPRとの相関を検討した。

【結果】脈絡膜 エントロピーは,Center,Inner およびOuter ringの全領域でEA群がEU群より有意な高値を示した(p<0.001)。RPE エントロピーはOuter ringのみ有意な高値を示した(p<0.05)。構造指標では、脈絡膜厚に民族差を認めず,網膜、GCC厚はEU群で有意に高値だった。PIPR は民族差を認めなかったが,RPEエントロピーは全領域において正の相関を示した( p<0.05)。

【結論】EU群よりEA群で脈絡膜およびRPEエントロピーは高値を示し,民族差があきらかになった。PS-OCTは脈絡膜およびRPEメラニン環境の民族差を反映する有用な指標となる可能性を示した。一方,PIPRは民族差を認めなかったが, RPEエントロピーと関連し,RPEメラニン環境とipRGC機能との関係が示唆された。

協和・不協和音に基づく音楽の聴取が脳・自律神経活動に及ぼす影響
波多 航輝, 柏原 考爾
The effects of listening to consonant and dissonant music on brain and autonomic nervous system activity

【背景】精神疾患を有する患者数は年々増加傾向にあり、医療現場や介護現場で音楽療法が注目されている。その中でも、音楽の協和性と脳・自律神経活動との関連性を検討することは重要となる。特に、協和・不協和音が脳活動へ及ぼす影響は個人差が大きく、心拍変動を中心とした自律神経活動指標との関連性については不明な点が多く残る。そこで、本研究では、協和・不協和音に基づく音楽の聴取が人の脳・自律神経活動に与える影響を検討した。【方法】被験者は健康な大学生10名を対象とした。音楽聴取時の心電図・呼吸・皮膚電気活動・脳血流の計測とアンケート(9段階の感情評価:Self-Assessment Manikin)の実施を行った。安静(3分)後、協和・不協和に基づく音楽の聴取(3分)を交互に2回ずつ提示した。心電図データからLF/HFとRMSSD(交感神経・副交感神経指標)、呼吸データから呼吸周波数、皮膚電気活動データから皮膚コンダクタンス、脳血流データからSpO2(脳の動脈血中内の酸素との結合割合)を、解析指標として用いた。解析区間は音楽開始前後の1.5分とし、2要因(「音楽開始前後」×「協和・不協和」)被験者内分散分析を行った。【結果】RMSSD・呼吸周波数・皮膚コンダクタンスの指標では、協和・不協和条件に関わらず音楽開始前後の要因で有意傾向(p < 0.1)が認められた。脳血流解析では、交互作用は有意傾向(p < 0.1)を示し、音楽開始後の協和・不協和条件間で有意差(不協和で脳血流低下:p < 0.05)が認められた。アンケートの結果、感情価・覚醒度・支配度の全てにおいて、協和・不協和条件間で有意差(p < 0.01)が生じた。【まとめ】本研究では、協和・不協和に関わらず音楽刺激そのものに対する自律神経活動の応答が大きくなった。一方、脳血流では、協和・不協和音の音楽による情動的な違いが反映された可能性が考えられる。

入眠期における色の経験の現象学および神経基盤
平松千尋、石井仰宇、堤崇至、大木翼、元村祐貴(九州大)、竹市博臣(理研)
Phenomenology and neural basis of color experiences during hypnagogia
Chihiro HIRAMATSU, Mochine ISHII, Takashi TSUTSUMI, Tsubasa OHKI, Yuki MOTOMURA, Hiroshige TAKEICHI

ヒトを含む霊長類における色覚の遺伝的・生理学的メカニズムに関する科学的理解は、19世紀以降大きく進展してきた。しかし、赤の「赤さ」など、言語化が困難な色の主観的経験(クオリア)がどのように生じるのかについては未だ十分に解明されておらず、色覚研究に残された重要な課題の一つである。我々は、外部刺激が存在しないにもかかわらず鮮明な意識経験が生じる夢に着目し、色の主観的経験が他の経験内容とどのように結びつき、またどのような神経活動と関連するのかを明らかにする研究を進めている。本研究では、特に視覚経験が顕著に生じる入眠時心像を対象とし、入眠期の脳磁図および脳波を同時計測した。入眠時心像が生じやすい脳波段階において参加者を覚醒させ、自由報告および半構造化インタビューにより意識内容の自己報告データを収集した。一般的な色覚を持つ参加者では、覚醒前に意識経験が伴っていた場合、平均で半数以上の覚醒で色の経験が報告されたが、その頻度には大きな個人差がみられた。一方、少数派色覚の参加者数名においては、色経験の頻度は比較的少なかったものの、多様な色の経験が報告された。色覚の違いにかかわらず、色は物体や風景と結びついて経験されることが多く、自然物には固有の色が、人工物には多様な色が結びつく傾向がみられた。さらに、覚醒直前の脳磁図データが表す神経活動では、色経験を伴う場合には、伴わない場合と比較して、初期視覚野における1–4 Hz帯域の低周波パワーが低く、腹側高次視覚野における20–50 Hz帯域の高周波パワーが高い傾向が、予備解析2名のうち1名の参加者で示された。今後、残りの参加者のデータ解析を進めることで、内的に生成される色の意識経験の神経基盤について理解の深化を目指す。

成人男女の夏季の低山登山時における感情に係る指標変化
髙木 祐介(公立小松大)、小木曽 洋介(東亜大)
Changes in affective responses among adults during hiking of a lower altitude mountain in summer
Yusuke TAKAGI, Yosuke OGISO

目的:夏季の低山登山時における感情に係る指標変化を評価することとした。方法:健康な成人男女8名(年齢 27.4 ± 7.0 歳)を対象とした。調査は夏季にA県のB山(標高 234 m)で行った。対象者は,C駅(=登山前,標高:約6 m)を出発し,約1時間の登山の後,B山頂上(=頂上)に到着した。その後,市街地(=下山後,標高:約10 m)へ下山した。登山時間は約3時間であった。登山中の気温は28.4~32.5 ℃,相対湿度は68.4~83.6 %を推移し,気圧は979.7~1005.2 hPaの範囲内であった。測定項目は,脈拍数,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2),主観的運動強度(RPE),感情指数とした。感情指数は荒井ら(2003)が開発した尺度を用い,「否定的感情」,「高揚感」,「落ち着き感」を評価した。測定は登山前,頂上,登山後の計3回行った。結果と考察:頂上の脈拍数及びRPEは,登山前及び下山後に比して有意な高値を示した。SpO2及び「否定的感情」に係る指数に有意差を伴う変化はみられなかった。頂上における「高揚感」に係る指数は下山時に比して有意な高値,下山時における「落ち着き感」に係る指数は登山前及び頂上に比して有意な高値を示した。不安指数の有意な増加が報告された大山(標高 1,709 m)での先行研究(髙木ら 2012)の結果と異なり,本研究のような低山登山では,運動負荷及び温熱ストレスの影響を受けても否定的な感情は有意に増大せず,肯定的な感情を示す指標値の増加が観察された。

マダガスカル,ベレンティ保護区におけるワオキツネザルの30年間にわたる個体群動態
市野進一郎(国立民族学博物館),相馬貴代,宮本直美,小山直樹(京都大・アフリカ研),高畑由起夫(関西学院大・総合政策)
30-year population dynamics of the ring-tailed lemur (Lemur catta) in Berenty Reserve, Madagascar
Shinichiro ICHINO, Takayo SOMA, Naomi MIYAMOTO, Naoki KOYAMA, Yukio TAKAHATA

本発表では,1989年から30年間にわたり継続調査をおこなったワオキツネザル(Lemur catta)の個体群動態について報告する。なお,ここではとくに2006年以降の動態に焦点をあてて議論する。調査地はマダガスカル南部のベレンティ保護区(面積約250ha)で,そこにはキツネザル類が高密度に生息している。保護区内に設定された14.2haの主調査地域で,1989年に個体識別にもとづく継続調査が開始された。主調査地域に生息するワオキツネザルの全個体を識別し,個体確認を毎年実施することで,個体数の変動だけではなく,個体の移出入や消失,群れの社会変動に関する詳細な情報が蓄積されてきた。主調査地域の個体数は43頭から116頭の範囲で変動した。群れからの追い出し等により多くのメスが主調査地域から消失したにもかかわらず,最初の17年間で個体数は増加した。その後,2006年から2011年までの5年間で116頭から43頭へと急激に減少したが,2012年以降は緩やかに回復した。2006年および2011年の捕獲調査で計測したワオキツネザルの体重は,1999年の計測時に比べ軽かった。加えて,2006年から2009年の間の幼児死亡率は他の年に比べて高く,特に2009年は極端に高い幼児死亡率が観察された。急激な個体数減少は,それまでの個体数増加やタマリンドの枯死などに伴う資源競争の激化が一因であると考えられた。群れ分裂,群れの消滅,メスの移籍などの社会変動が起きたことで群れの構成が変化し,群れの数は3群から7群へと増加した。その一方で,個体数の減少後に群れの融合は観察されなかったため,平均群れサイズは調査開始時を下回った。ワオキツネザルは群れサイズが変化しても,行動域面積や利用空間の変動が少なく,同じ行動域を利用し続ける傾向がある。こうしたワオキツネザルの空間利用パターンによって資源競争が局所的に激化し,今回観察されたような個体群変動につながった可能性が示唆された。

新潟県妙高市笹ヶ峰地域のニホンザル個体群の系統的位置づけと成立過程
田中洋之(京都大・霊フィ研)、川本芳(高宕山のサル観察クラブ)、宮本俊彦(糸魚川高校)、杉山茂(静岡大学・グローバル共創)、星野智紀、赤見理恵(公財 日本モンキーセンター)
Phylogenetic position and the process of population formation of Sasagamine Japanese macaques (Myoko City, Niigata)
Hiroyuki TANAKA, Yoshi KAWAMOTO, Toshihiko MIYAMOTO, Shigeru SUGIYAMA, Tomonori HOSHINO, Rie AKAMI

【目的】新潟県妙高市笹ヶ峰のニホンザル(笹ヶ峰ザル)は,山地帯を遊動域とする複数の群れからなり,新潟県ニホンザル管理計画における妙高個体群には数えられていない。これまで実施したミトコンドリアDNA (mtDNA) のD-loop領域の塩基配列分析から,1)笹ヶ峰ザルを特徴づけるmtDNAタイプ1は,妙高地域個体群や長野県戸隠のニホンザルでみられることから,これら一帯のニホンザルが共通祖先を有すること,2)タイプ1とその近縁なハプログループは,中部山岳系統Bに属し,中部山岳系統Aに含まれた新潟県糸魚川や長野県小谷とは個体群の成立過程が異なることがわかってきた。本発表では,笹ヶ峰ザルの来歴をより明確にすることを目的として,2つの群れ(北群と南群)を識別して採集した遺伝試料を分析し,中部山岳系統A,B及びどちらにも属さない長野県山ノ内のリファレンスデータとともに行った系統分析の結果を報告する。【材料と方法】2025年5月,9月,2026年2月及び4月の調査で採集された糞試料59検体(北群15,南群25を含む)を用いて,D-loop領域を含む約1200塩基対の塩基配列を解読した。975塩基に基づく近隣結合法による分子系統樹とハプロタイプネットワークを作成した。【結果及び考察】南群の1検体がタイプ3だった以外,全ての試料はタイプ1だった。南群と北群は1つの群れが分裂したか,共通祖先を有すると考えられた。笹ヶ峰や妙高のハプログループは系統樹では中部山岳系統Bの部に位置づけられた。進化距離の平均値が比較に用いた中部山岳系統Bの7地点の間で0.0049、笹ヶ峰や妙高のハプログループと7地点の間で0.0122であったことから、笹ヶ峰や妙高のハプログループが系統的に分化していると予想された。環境省ガイドラインで要配慮地域として選定されるこの地域のニホンザルが遺伝的にもユニークであると考えられた。

新たに確認された被害形態:ニホンザルによる木材への食害
大谷洋介(大阪大・COデザインセンター)、土橋彩加(信州大・総合医理工学)、松本卓也(信州大・理学)
A Newly Documented Form of Wildlife Damage: Wood Gnawing by Japanese Macaques
Yosuke OTANI, Ayaka TSUCHIHASHI, Takuya MATSUMOTO

ニホンザルによる獣害が全国で社会課題となっている。農作物被害、林業被害、人身被害など被害形態は地域や状況によって多様であり、必要とされる対策も被害形態や発生過程によって異なる。そのため被害形態を適切に把握することは実効的な対策を検討するうえで重要な基礎情報となる。本研究では、長野県松本市上高地においてニホンザルが建物などを構成する木材を齧る事象について、被害実態、被害発生の広がりを明らかにすることを目的とした。調査は、関係者への聞き取り、被害現場での直接観察、トレイルカメラによる映像記録、事業者等を対象としたアンケートにより実施した。上高地の宿泊事業者3件を対象とした聞き取りでは、ニホンザルが木材を齧る行動が継続的に観察されていることが確認された。直接観察およびトレイルカメラにより、ニホンザルが木材を齧り、咀嚼して嚥下する様子を映像として記録した。アンケートでは、宿泊事業者17件のうち12件および環境省から回答を得た。そのうち53.8%(7/13)が木材への被害があると回答し、これまでに要した修繕費は1万~100万円の範囲であった。被害は宿泊施設、共用トイレ、神社、信州大学調査ステーションで確認された。食害の対象は冬囲い、柱材、屋根材、壁材を構成する無垢材・集成材・合板といった広範な木材であった。また、被害は2021年以前から継続的に発生しており、3群以上のニホンザル集団の遊動域で確認された。これらの結果から、木材への食害は一部の個体による一過性の行動ではなく、複数の集団にまたがって継続的に発生していることが示された。以上の結果からニホンザルによる木材食害は、既存の農作物被害や林業被害とは異なる、建物・構造物を対象とした獣害の新たな一形態として位置づけられる。今後は、建材や立地条件など発生要因を検証するとともに、建物の保護等の対策を検討する必要がある。

糞プロテオミクスによる野生チンパンジーの離乳パターン推定
蔦谷匠(九州大・高等研),有賀奈津美(京都大・霊長研),西内巧(金沢大・疾患モデル),徳山奈帆子(中央大・理工),古市剛史(京都大・野生研),橋本千絵(京都大・野生研)
Fecal proteomics reveals the weaning patterns in wild chimpanzees
Takumi TSUTAYA, Natsumi ARUGA, Takumi NISHIUCHI, Nahoko TOKUYAMA, Takeshi FURUICHI, Chie HASHIMOTO

乳汁の摂取は幼少期の栄養獲得と生体防御に必須であり,ヒト科のなかでも多様性が見られる。ヒトにおいては授乳期間が柔軟かつ短縮しているとされるが,その比較対象となる大型類人猿においては正確な授乳期間の推定が困難である。ヒトとの遺伝的な近縁さから,特にチンパンジーはヒトとの比較対象としてもっともよく取り上げられるため,人類のライフヒストリーの進化を検討するうえでは野生チンパンジーの離乳パターンを正確に把握する必要がある。本研究では,カリンズ森林保護区 (ウガンダ) の野生ヒガシチンパンジーのアカンボウより採取した糞をプロテオーム解析し,齢に応じた乳タンパク質と生体防御タンパク質の検出状況から,授乳・離乳パターンをより正確に明らかにした。この結果は,ヒト科の幼少期の栄養・免疫戦略をより精緻に検討するうえでの重要な知見となる。また,チンパンジーの繁殖生態について,より正確かつ高解像度な証拠を提供するものである。

野生ボノボにおける閉経後の長い寿命について
橋本千絵、毛利惠子(京都大学・野生動物研究センター/霊長類フィールド研究センター)、戸田和弥(総合研究大学院大学・統合進化科学研究センター)、古市剛史(椙山女学園大学・プロジェクト研究員)
Post-reproductive lifespan in wild bonobos.
Chie HASHIMOTO, Keiko MOURI, Kazuya TODA, Takeshi FURUICHI

ヒトのメスは,約50才で閉経し,その後も数十年生存する。この閉経後長寿命(post-reproductive lifespan: PRLS)は進化論的に特異な形質であり,これまでPRLSが確認されたのは,ヒト以外にシャチなどしかない。ヒトに最も系統的に近いチンパンジーでは,飼育下のチンパンジーにおいて閉経の可能性は示唆されていたものの(Herndon et al. 2012),長期調査地4集団を対象とした研究では,寿命と繁殖終了年齢に差がなく,チンパンジーでは,閉経後の長い寿命はないのではないかといわれてきた(Emery Thompson et al, 2007)。しかし,近年ヒト科においても重要な知見が相次いで報告されている。Wood et al.(2023)はウガンダ・ンゴゴ集団の野生チンパンジーにおいて,成体メスの約20%が閉経後に平均14年以上生存し,ホルモンもヒトの更年期と類似した変化が確認されることを示した。Smit & Robbins(2025)は,ウガンダ・ブウィンディの野生マウンテンゴリラの約3分の1のメスが繁殖停止後10年以上生存するという統計的に有意なPRLSを報告した。本研究では,約50年の長期調査を行うコンゴ民主共和国の野生ボノボを対象に,ボノボにおいてPRLSがあるかどうかについて予備的な報告を行うものである。老齢メスの性皮腫脹データおよび尿中性ホルモン動態(エストロゲン代謝物E1G・プロゲスチン代謝物PdG)の予備的分析を行った。その結果,50歳を超えてもなお性皮腫脹を継続している個体が複数確認された一方,40歳代で性皮腫脹の消失と性ホルモンの低下が確認された個体も存在した。PRLSについてこれまで提唱されてきた,「おばあさん仮説」「母親仮説」「副産物仮説」についても検証して,ボノボにおけるPRLSの存在と進化的意義について考察する。

コモンマーモセットにおけるプロリン型オキシトシン特異的ELISAの評価
毛利惠子、橋本千絵(京都大・野生動物研究センター/霊長類フィールド研究センター)、宮部貴子(京都大・ヒト行動進化研究所)、清水慶子(岡山理科大学・理学部)
Evaluation of a Pro8-Oxytocin ELISA in Common Marmosets
Keiko MOURI, Chie HASHIMOTO, Takako MIYABE, Keiko SHIMIZU

オキシトシン(OT)様作用をするペプチドホルモンは,システインのSS結合でつながった環に3つのアミノ基が付いた9つのアミノ酸で構成される分子構造をとる。構成するアミノ基は動物種によって1~数個入れ替わっており,様々な異型がある。霊長類のOTは2つの異型があることが分かっており,ヒトやマカクなどは8位のアミノ基がロイシンであるが,マーモセットなどの一部の新世界ザルは8位のアミノ基がプロリンに置き換わっている。このプロリン型のOTはロイシン型より活性が強いという報告もあり,この型のOTを持つマーモセットが家族ぐるみで育児をすることや,感情豊かに多彩な声を発すること,またいろいろなことに興味を示すなど親和的な行動をする動物であることは興味深い。このようにマーモセットの親和的な行動や性質とOT分泌との関係を明らかにすることはヒトや他の動物における子育てや社会的な行動とOTの関係を知るにも重要なヒントになるのではと考える。しかし,前大会で報告したように,ニホンザルを対象とした実験では,非侵襲的な方法で採取した尿中OTと,血中OTや排卵周期の間には相関関係が見いだせなかった。先行研究でもマーモセットの尿中OTと行動に相関がみられなかったと報告されていることから,代謝時間の長い尿中OTよりも唾液中OTを調べることの方が行動とOTの相関関係を調べるのには有効であると考えた。しかし,そもそも唾液は採取量が限られるし,OT濃度が低いと予想されるので,より特異的で感度の高い測定系が求められる。また,これまでの我々の実験で,市販のヒト用OTキットのプロリン型OTの交差性は7%程度であることが分かった。そこで,我々は,プロリン型OTを用いて抗体を作り,マーモセットのOTに特異的なELISA測定系を開発した。本発表ではその感度,特異性,交差性について報告する。

重層社会の適応的意義を探る:テングザルにおける腸内細菌叢と寄生虫感染の統合解析
松田一希(京都大・野生研)、リワンイ(筑波大・生命環境)
Costs and benefits of sociality: integrated analyses of gut microbiomes and parasites in proboscis monkeys
Ikki MATSUDA, Wanyi LEE

テングザル(Nasalis larvatus)は、複数の単雄群が集合する重層社会を形成する。社会的な接触は病原体や寄生虫の伝播リスクを高める一方で、腸内細菌の共有を促進する可能性もある。しかし、野生霊長類において、腸内細菌叢と寄生虫感染を同一個体群で統合的に扱った研究は少ない。本研究では、ボルネオ島サバ州メナングル川流域に生息するテングザル111個体を対象に、これまでに得られた重層社会・遺伝構造、腸内細菌叢、寄生虫感染に関するデータを統合して解析した。 その結果、腸内細菌叢の組成は個体間の遺伝的近縁性や群れサイズと関連し、社会的なつながりを反映していることが示唆された。一方、寄生虫感染では、Trichuris 属の感染リスクが群れサイズと関連する一方、Oesophagostomum 属では河口からの距離との関連が認められ、寄生虫種ごとに異なる要因が働いていた。また、一部の寄生虫では腸内細菌叢との関連も認められた。 これらの結果は、腸内細菌と寄生虫が共通の社会・環境要因の影響を受けながらも、それぞれ異なる伝播機構によって維持されていることを示唆する。さらに、社会性は寄生虫感染というコストを伴う一方で、腸内細菌の共有という側面も持つことから、重層社会の適応的意義を考える上で共生生物の役割を考慮する必要があることが示唆された。

腸内細菌叢の発酵能力の評価:ヒトと飼育下の類人猿における比較研究
Wanyi LEE (筑波大・生命環境系), 土田さやか, 牛田一成 (中部大・応用生物学部), Tianmeng HE, 半谷吾郎 (京大・理学研究科)
Assessing Gut Fermentative Ability in Humans and Captive Great Apes
Wanyi LEE, Sayaka TSUCHIDA, Kazunari USHIDA, Tianmeng HE, Goro HANYA

Though descending from a common ancestor who rely heavily on gut microbiome for food digestion, humans and the other great apes have diverged greatly on their relationship with gut microbiome. Compared to the wild great apes which obtain as much as 60% of daily energy through gut microbiome, human derive no more than 10% through gut microbiome. There has been a long debate on the factors shaping the functional capacity of the hominid gut microbiome. While the gut microbial composition is closely related to host phylogeny and diet, there was limited information on the factors shaping its fermentative ability. To better understand these dynamics, this study compares the gut microbial composition and fermentative abilities between modern humans and captive great apes using meta-16s rRNA analysis and in vitro fermentation assay. Here, we present our preliminary data collected from humans, captive orangutans, gorillas, chimpanzees and bonobos across eight captive institutions.

マハレにおけるメスチンパンジー白骨遺体の発見と死後過程の復元
島田将喜(帝京科学大・生命環境)、矢野航(防衛医大・再生発生)
Discovery of female chimpanzee skeletons in Mahale and reconstruction of postmortem process.
Masaki SHIMADA, Wataru YANO

マハレ山塊国立公園のM集団遊動域西部において、チンパンジーのワカモノメスと考えられる白骨化遺体が発見された。本発表では、その発見状況、現地トラッカーへの聞き取り、樹上・地上の現場観察、周辺集団の遊動域情報、季節的な降雨・食物環境を統合し、当該メスの死亡時期、死亡場所、死後過程、出自集団を検討する。遺体は2026年4月30日に観察路上で発見された。聞き取りによれば、3月1〜19日に同地点を日常的に通過していた複数のトラッカーたちは臭いや遺体に気づかず、3月20〜24日は不在であった。3月26日に初めて異臭が認識され、3月28〜29日の大雨後に肉が付着した状態の骨が多数の地上に落下していたことが確認された。骨が発見された場所の直上5.99 mの樹上には、チンパンジーの毛や臭いが残存していた一方、ベッド形成の痕跡はなかった。3月から4月にかけて現場周辺には採食可能な果実はほとんどなかったと考えられる。これらの情報から、当該メスは3月下旬に自力で樹上に登ったものの、飢餓または衰弱によりベッドを作ることができず、身動きが取れないまま死亡し、腐敗、降雨を経て地上に落下、その後遺体の一部はスカベンジャーにより攪乱を受け、散逸した可能性が高い。M集団で識別されている12歳から14歳のメスには該当個体がなく、推定年齢、発見地点から、M集団の北に隣接するY集団またはさらに北方の集団に由来する移籍期のワカモノメスであった可能性が示唆された。本事例は、自然人類学的な骨格資料の読解と野生霊長類学的フィールドワークを統合することで、野生チンパンジーの死亡の文脈をある程度復元できることを示す。現地アシスタントやトラッカーの報告は重要な一次情報である一方、誤認や記憶の再構成を含みうるため、現場観察、出勤記録、長期個体記録、骨学的知見との照合による検証は不可欠である。

落下の解剖学:骨資料から復元した若いメスチンパンジーの死亡過程
矢野航(防衛医大・再生発生)、島田将喜(帝京科学大・生命環境)
Anatomy of a fall: Osteobiography of an injured young female chimpanzee to death.
Wataru YANO, Masaki SHIMADA

マハレ山塊国立公園のM集団遊動域西部において、チンパンジーのワカモノメスと考えられる白骨化遺体が発見された。本発表では、その骨資料の詳細な観察から当該メスの年齢、骨折状況と治癒過程、そして死亡原因の特定を行った。骨試料は頭蓋骨を含めて全身から計80点確認された。骨端の癒合および、歯根の状況からメスの12~13歳と推定された。骨折痕が残る左側上腕骨、左脛骨、およびの健側(右側)の上腕骨、膝蓋骨などの状況から、この個体は受傷後おもに右上肢と左右の下肢の3足で移動していたと思われる。左脛骨には複数回の剥離骨折が見られ、使用していたと思われる骨には変形性関節症の跡が見られたことから、この歩行様式は受傷後1年程続けられていたことが分かった。さらに、歯の資料や骨の表面の観察から、本個体がfall back foodの消費を余儀なくされており、慢性的にビタミンC不足だったことが示唆された。さらに複数の骨に残る着色証拠から、本個体は飢餓の中、壊血病由来の全身性出血により死亡した可能性が高いことが分かった。骨資料から直接の死因が推定されることは珍しく、本報告は貴重な野生の観察例となる。また、チンパンジーにおける樹上性生活による利益と、生活史上の変化で生じうる落下・骨折によるその永続的な逸失のリスクについて議論する。

一般ポスター発表
相世界7地域の現代人頭蓋の左右差について
○谷尻豊寿(株式会社メディックエンジニアリング)、谷尻かおり(株式会社メディックエンジニアリング)、松村博文(札幌医科大学・解剖)

今回は長頭や短頭、眼窩の形、顔面の平坦性ではなく、左右の非対称性に焦点をあてた分析を行ったので報告する。

非対称性成分の主成分得点に対してMANOVAを実施した結果、地域間に有意な差が認められた。そこで、地域差に寄与する形状成分を特定するため、各主成分得点について一元配置分散分析を行ったところ、PC1、PC9、PC18、およびPC19において有意差が認められた。ただし、PC9、PC18、PC19はいずれも寄与率が3%未満と低く、統計的には有意であるものの、非対称性の形状差としての影響は小さいと考えられる。一方、PC1(寄与率18%)ではヨーロッパと北東アジアの間に有意な差が認められた。この主成分は全体変動の中で比較的大きな割合を占めており、地域間における非対称性の差を説明する主要な要因であると考えられる。

相同モデル解析によるヒト胎児骨盤性差の三次元形態統合の解明
○金橋 徹(京大・医・人間健康科学),松林 潤(滋賀医大・医・臨床研究開発センター),今井宏彦(岐阜大・医・量子医学イノベーションリサーチセンター),山田重人(京大・医・人間健康科学/京大・先天異常標本解析センター),大谷 浩(島根大),高桑徹也(京大・医・人間健康科学)
Three-dimensional homologous model analysis reveals coordinated sex-related shape variation in the human fetal pelvis
Toru KANAHASHI, Jun MATSUBAYASHI, Hirohiko IMAI, Shigehito YAMADA, Hiroki OTANI, Tetsuya TAKAKUWA

ヒト成人骨盤の性差は人類学における重要な形態的特徴であるが,その三次元的特徴が胎児期にどのように出現するかは明らかでない。我々は以前,一次骨化開始期以降のヒト胎児骨盤において骨盤上口前後径,恥骨下角,坐骨棘間距離比,および骨盤傾斜角に性差を認めた。しかし,これらの局所計測で認めた性差が,骨盤全体の中でどのような三次元形態パターンとして構成されるかは不明である。本研究では,相同モデル解析により骨盤表面全体の対応点を比較し,胎児骨盤の性差が複数領域の協調的な三次元形態パターンとして現れるかを検討した。頭殿長50–225 mmのヒト胎児71例(男33,女38)を対象とし,MRI画像を用いて骨盤表面モデルを作成した。腸骨,坐骨,恥骨,仙骨に37点のランドマークを設定し,全標本間で対応点を有する相同骨盤モデルを構築した。Procrustes重ね合わせおよびサイズ正規化後,主成分分析を行い,頭殿長を共変量とした重回帰分析により性差を示す主成分を検討した。その結果,PC1(寄与率14.2%,P = 0.006)とPC5(5.0%,P = 0.015)に性差を認めた。PC1では女性側で小骨盤構成が相対的に広く,男性側では後上腸骨棘が近接する方向の形態差を示した。PC1スコアは骨盤上口・坐骨棘間距離関連の従来計測値と相関し,各部位の三次元座標との相関では後方腸骨領域,大坐骨切痕,仙腸部近傍,寛骨臼周囲,坐骨・恥骨弓周辺にも関連を認めた。PC5では女性側で骨盤下口が広く,恥骨下角も大きい傾向を示した。PC5スコアは骨盤下口・恥骨下角関連の従来計測値と相関したが,各部位の三次元座標との相関では恥骨弓周辺に限局せず,仙腸部近傍および上〜中部仙骨周囲にも関連を認めた。以上より,既報の胎児骨盤性差は三次元表面形態として確認され,その変化は従来計測部位に対応するだけでなく,寛骨臼周囲や仙腸部近傍を含む複数領域に及ぶ協調的な三次元形態パターンとして示された。

アッサムモンキーのオトナメスが集団内のメス達から受けた執拗な威嚇や攻撃と死亡の報告
吉川翠(神奈川県博・動物),小川秀司(中京大・教養),Naris Bhumpakphan(Kasetsart Univ.),Nantida Sutummawong(Kasetsart Univ.)
A case study of persistent aggression toward one female by other females within a group of Assamese monkeys and the death of the attacked female
Midori YOSHIKAWA, Hideshi OGAWA, Naris BHUMPAKPHAN, Nantida SUTUMMAWONG

タイ北部のピサヌロークに位置するタム・パ・タ・ポン野生生物保護区に生息するアッサムモンキー(Macaca assamensis)のAO群で,メス達が1匹のオトナメスに対して執拗な威嚇や攻撃をしているのを目撃したためこれについて報告をおこなう。関連の行動については2024年10月31日~11月10日の間に調査をおこなった。ただし調査開始時点で攻撃対象になっていたメスにはすでに噛まれた傷があり,本調査開始前から攻撃を受けていたという情報を保護区のレンジャーから得ている。調査では群れを可能な限り追跡し,メスからメスへの威嚇や攻撃があった時にビデオとノートへ記録をした。調査対象の群れは10頭で構成されているが,主には社会的順位が上位のオトナメスとその娘のワカモノメスによって,アカンボウを持つ下位のメスに対して,顔や体への噛みつきを伴う攻撃や威嚇が繰り返しおこなわれていた。一方でワカモノメスの母親が,ワカモノメスの攻撃から本メスを守るような場面もあった。攻撃を受けていたメスは2024年11月11日に急死した。死亡した前日の夕方に山から下りてきた時には,群れの後方にゆっくりと追従し動きが鈍い様子で,その翌朝に死亡しているのが発見された。死体には外傷として噛まれた傷は残っていたものの死亡要因は特定できなかった。直接的な要因は不明だが,樹上で攻撃された時には本メスが地面へ落下したこともあるため,そういった樹上などからの落下が死因に関連している可能性はあるかもしれない。

霊長類におけるMICOS13プロセスト偽遺伝子の多重複挿入
竹中晃子(元 名古屋文理大・健康生活)、颯田葉子(総研大・統合進化)、川本咲江(元 京大・霊長研)、寺井洋平(総研大・統合進化)
Multiple insertion of a processed pseudogene of MICOS13 in primates
Akiko TAKENAKA, Yoko SATTA, Sakie KAWAMOTO, Yohei TERAI

プロセスト偽遺伝子はmRNAから逆転写によりcDNAとなり染色体のランダムな位置に挿入された配列である。MICOS13はミトコンドリアの内膜を形成するタンパク質であるが、そのプロセスト偽遺伝子(pψ)が霊長類の進化の過程で異なる6回の時期にと異なる位置に挿入されていた。新世界ザル(NWM)では38.2-24.2 MYAにRRAS2遺伝子の3’UTRに、類人猿と旧世界ザル(OWM)では36.4-33.6 MYAに NXN遺伝子のイントロン1に、マカク属ではさらに、19.0-5.8 MYAにα-グロビン遺伝子間領域に、メガネザルでは18.0 MYAにSec23遺伝子の下流に、コクレル・シファカでは7.7 MYA にHDAC11遺伝子の下流と5.4 MYA にnuclear pore membrane glycoprotein 210-like遺伝子の下流にも挿入されていた。類人猿のpψのエクソン末端に相当する部分は欠損し、OWMのpψでは終止塩基に相当する部分の42bp上流からAluが挿入されていた。マカク属、NWM、メガネザルのpψは重複配列により挟まれていた。このように、マカク属とコクレル・シファカでは1個体の中に2回のMICOS13のpψが見られたが、両種とも社会構造は複雄群であり、オスの精子が卵子に向かって遊走する際に必要なエネルギーとしてのATPの供給にはミトコンドリアが重要な役割を果たし、そのミトコンドリアを形成するのに必要なMICOS13のmRNAが精子の中で豊富にあるためにこれらの種では2度も逆転写を受けて核に挿入されたのではないかと考えられた。MICOS13のmRNA量は精巣でのみ10倍も多く存在しているのに対し、卵巣では他の組織と同様低いという報告がある。精子競争が偽遺伝子の挿入頻度に影響していることは興味深いことである。NWMとマカク属ではpψが挿入されていない個体もある。タイの野生カニクイザル(全113頭)の中部地域では挿入頻度が0.64に対して、南部では0.07と小さい。マカク属の共通祖先にpψが挿入されたが、pψが全個体に広がる前に種分化が起きたと考えられる。また、ニホンザルでは7か所、74個体すべての個体にpψは挿入されていなかったことからニホンザルの種分化の際に強いボトルネック効果が働いたと推察された。

ボルネオオランウータンのフランジオスとアンフランジオスによる塩場利用
齋藤智志(東京農業大・野生動物学研究室),Joseh Tangan(Forest Research Centre, Sabah Forestry Department),松林尚志(東京農業大・野生動物学研究室)
The Usage of Salt-Licks by Bornean Orangutans’ Flanged Male and Unflanged Male
Satoshi SAITO, Joseh Tangan, Hisashi Matsubayashi

ボルネオオランウータンPongo pygmaeusは昼行性霊長類としては例外的に生活のほとんどを単独か母子で過ごす半単独性(semi-solitary)の動物である。本種の成熟したオスはフランジオスと呼ばれ,頬ひだ(flange)を発達させ,未発達なオスであるアンフランジオスに対して繁殖上・社会上優位であることが知られている。一方のアンフランジオスはメスとの交流を増加さる代替戦術をとることが知られている。半単独性のオランウータンが複数個体での交流がみられる場所として塩場が挙げられる。塩場とは森林内における高ミネラル濃度の湧水・土壌環境であり,植食動物にとってのミネラル源となっていることが分かっている。なかでも,オランウータンはボルネオ島サバ州において塩場の上位利用種となっている。本種はすべての性年齢での利用が確認されており、更に複数個体で一つの塩場を共有していることが分かっている(Matsubayashi et al. 2006,2011)。しかし、個体識別を伴う解析は行われていない。特に本種に特異的なオスの成長段階におけるフランジオスとアンフランジオスの利用の違いが明らかになっていない。そこで本研究ではフランジオスとアンフランジオスを対象に塩場での利用の差異を明らかにする。特にこの2つの成長段階のオスの優位性,社交性の違いが塩場利用に影響するのかを調べた。調査はマレーシア,サバ州のデラマコット森林保護区内の2地点の塩場で行った。我々の研究からオランウータンによる塩場利用は8月から10月に上昇することが分かっている。そのため,2023年,2024年,2025年の3年間における8月から10月の計3シーズン2地点のデータをもとに行った。塩場利用の優位性の評価のために個体ごとの利用頻度,社交性の評価のために社会ネットワーク解析をもとに各個体の顔の広さと繋がりの量について解析中である。本発表ではその結果について報告する。

ケニア北部コンギア地域から産出した後期中新世動物化石
辻川寛(東北文化学園大・医療福祉),清水大輔(中部学院大・看護リハビリテーション),荻原直道(東京大・理),菊池泰弘(佐賀大・医)
Late Miocene Animal Fossils from the Kongia Area, Northern Kenya
Hiroshi TSUJIKAWA, Daisuke SHIMIZU, Naomichi OGIHARA, Yasuhiro KIKUCHI

ケニア北部のナチョラおよびサンブルヒルズ地域は,中期中新世類人猿ナチョラピテクス・ケリオイ(約15 Ma)を産出するアカ・アイテパス累層や,後期中新世類人猿サンブルピテクス・キプタラミ(約9.6 Ma)を産出するナムルングレ累層が知られる。これらの地域に隣接するコンギア地域には,ナムルングレ累層の上位層準である,後期中新世末期のコンギア累層(7.2-5.3 Ma)が存在する。コンギア累層のサイトからは1980年代の調査により豊富な貝類化石が報告されていたものの,魚類やトカゲ類などの脊椎動物化石はわずかで,哺乳類に至ってはカバ科Hippopotamus属1標本が発見されたのみであった。そのため,コンギア地域は化石のほとんど見つからない地域と認識され,その後も大規模な調査は行われず,よって詳細な化石動物相は未解明であった。しかし,コンギア累層がカバーする約700万年前という時期は,チンパンジーとヒトの分岐年代と推定され,かつ,初期人類の直立二足歩行の起源を議論するうえでも欠かせない年代である。そこで著者らは新たな大型類人猿や初期人類の化石発見を目指し,コンギア地域において2024年度より再調査を開始した。2025年7-8月の調査成果(二枚貝,巻貝,ウマ科ヒッパリオン,カバ科化石など)は2026年3月の日本解剖学会にて速報したが,続く2026年2-3月の調査において,ウマ科ヒッパリオンの上顎および下顎臼歯,ウシ科の下顎大臼歯と体肢骨,魚類の椎骨などの化石を新たに追加した。本発表では,先行して報告した動物化石に加え,今回新たに追加された脊椎動物化石群を合わせて包括的に記載・報告する。

ニシパタスモンキーの飼育および野生集団の遺伝解析
Population genetic analysis of western patas monkeys (Erythrocebus patas patas) from Ghana, Cameroon, and Japanese zoos
Boniface B KAYANG1, Xorlali AZIMEY2, Christopher ADENYO1, Fadel Abdurrahman AZHARI1, Maho HANZAWA3, Yoshiki MORIMITSU4, Erasmus OWUSU1, Richard SUU-IRE1, Naofumi NAKAGAWA2, Miho INOUE-MURAYAMA2 (1: Univ. Ghana, 2: Kyoto Univ., 3: Univ. Tokyo, 4: Univ. Hyogo)

The western patas monkey (Erythrocebus patas patas) is a savanna-adapted, ground-dwelling primate distributed across West and Central Africa and recognized as an ecologically important component of savanna ecosystems. In parts of its range, the species is also involved in human–wildlife conflict. This study investigated the genetic diversity and population structure of wild patas monkeys from Ghana (n = 5) and Cameroon (n = 6), together with captive individuals (n = 14) maintained in six Japanese zoos, to provide baseline information for conservation and management. Genetic analyses were conducted using nine microsatellite loci and mitochondrial DNA sequences from the D-loop and cytochrome c oxidase I (COI) regions. Population differentiation was further examined using Principal Coordinates Analysis (PCoA), Bayesian clustering (STRUCTURE), and phylogenetic analyses. Genetic diversity indices revealed relatively high levels of genetic diversity in the Ghanaian wild (uHe = 0.733 ± 0.055), Cameroonian wild (uHe = 0.709 ± 0.051), and Japanese zoo (uHe = 0.740 ± 0.041) populations. These results suggest that the captive population has retained substantial genetic diversity despite being in captivity. PCoA revealed clear genetic separation among the three populations. STRUCTURE analysis also identified three major ancestral clusters (K = 3), demonstrating that the two wild populations possess distinct genetic signatures. Most captive individuals were assigned to a third ancestral lineage not predominant in the sampled wild populations, whereas several individuals exhibited ancestry associated with Ghanaian- and Cameroonian-related lineages, suggesting multiple founder origins. Mitochondrial analyses further supported the presence of multiple maternal lineages within the captive population. These findings indicate that the Ghanaian and Cameroonian populations are genetically differentiated, while the Japanese zoo population contains genetic variation derived from multiple wild sources. Overall, this study provides valuable baseline information on the genetic structure of western patas monkeys and may contribute to future in situ and ex situ conservation planning.

東アフリカ・ケニア北部のコンギア地域における発掘調査報告
菊池泰弘(佐賀大・医),辻川寛(東北文化学園大・医療福祉),清水大輔(中部学院大・看護リハビリテーション),荻原直道(東京大・理)
Excavation Report from the Kongia Area, Northern Kenya, East Africa
Yasuhiro KIKUCHI, Hiroshi TSUJIKAWA, Daisuke SHIMIZU, Naomichi OGIHARA

ケニア北部サンブルヒルズには,後期中新世の類人猿サンブルピテクス・キプタラミ(約960万年前)を産出するナムルングレ累層が分布する。本研究では,その北方に位置するコンギア地域において,大型類人猿およびヒト系統の化石の発見を目的とした発掘調査の成果を報告する。コンギア地域には,ナムルングレ累層の上位層準にあたる後期中新世末期のコンギア累層(約720–530万年前)が分布する。約700万年前は,チンパンジーとヒトの共通祖先が分岐した時期と推定されており,ヒト系統における直立二足歩行の起源を解明する上で重要な年代である。ナチョラ村のベースキャンプから西方約20 kmに位置するコンギア地域のSH47およびSH48サイトには,コンギア累層の堆積物が露出している。これらのサイトでは1980年代初頭に多数の貝類化石が発見されている一方,脊椎動物化石はわずかしか報告されていない。また,両サイトの南方約4 kmに位置するSpring Elephantサイトにおいても,1980年代に貝類化石のみが確認されている(ただし,本サイトはコンギア累層よりやや古い可能性があり,年代の再検討が必要である)。2024~2026年度にかけて,これら3サイトおよびコンギア累層露頭において表面採集調査を行った。その結果,新たに複数の哺乳類化石に加え,ワニ類および魚類化石を発見した。従来,コンギア累層では貝類以外の化石産出は乏しいと考えられていたが,本研究は同累層における脊椎動物化石の保存可能性を示すものであり,今後の調査に新たな展望を与える。

野生ニホンザルにおける infant handling のアカンボウ選択とその決定要因
関澤麻伊沙(防衛医大・医学教育部),沓掛展之(総研大・統合進化科学研究センター)
Infant selection in infant handling: patterns and determinants in wild Japanese macaques
Maisa SEKIZAWA, Nobuyuki KUTSUKAKE

群れで生活する霊長類では,母親以外の個体(以下,ハンドラー)が新生児に接触するinfant handling(以下,IH)が日常的に観察される。IHの先行研究では,ハンドラーはアカンボウを自由に選択できるという前提が置かれてきたが,ニホンザルの社会行動において相手を選択する際の意思決定は,個体間の社会関係によって制約を受けることが知られている。本研究では,IH時のハンドラーのアカンボウ選択に影響を与える要因を調査した。2019年春に,宮城県石巻市金華山島の野生ニホンザルA群において未経産メス9頭を対象として,行動観察を行った。ハンドラーの周囲1m以内にアカンボウが2頭おり,その後IHが起きた二択の状況で,アカンボウと母親個体の接触の有無,アカンボウと母親の距離(接触,近接,遠方),ハンドラーとアカンボウの母親との血縁度およびメス間順位の差が,ハンドラーのアカンボウ選択に与えた影響を分析した。その結果,ハンドラーは,母親から離れ,自身よりも順位の高い母親のアカンボウを選択していた。さらに,有意水準には達しなかったものの,ハンドラーと母親の血縁度が高いアカンボウが選択されやすかった。これらの結果は自然観察に基づく結果(Sekizawa & Kutsukake 2019, 2022)を,より統制された二択状況で確認したもので,距離に関する結果は,これまでの前提条件を見直す必要性を示唆している。

縄文土偶の性的美しさ:ウエスト/ヒップ比の三次元データ解析
森田理仁(滋賀大・経済),金田明大(三重大・人文),中川朋美(名古屋大・文),野下浩司(九州大・理),田村光平(東北大・東北アジア),舘内魁生(東北学院大・文),中尾央(南山大・人文)
Sexual beauty of Jomon clay figurines: A three-dimensional data analysis of waist-to-hip ratio
Masahito MORITA, Akihiro KANEDA, Tomomi NAKAGAWA, Koji NOSHITA, Kohei TAMURA, Kai TATEUCHI, Hisashi NAKAO

ヒトはどのように「美」を認識してきたのだろうか? 美は漠然とした概念であるが,進化生物学,特に性に関する理論から,美を理論的に探究することもできる。配偶者選択(mate choice)における魅力の指標となる体の形態がいくつかあり,その一つがウエスト/ヒップ比(以下,WHR)である。WHRが1よりも小さい,すなわちヒップに対してウエストがくびれた体型の女性は高い繁殖潜在性と良い健康状態をもち,男性にとって魅力的であることが示されてきた。WHRの研究対象にはヒトを模した彫刻や絵画も含まれ,本研究では縄文時代の土偶のWHRを計測した。土偶とは人型の土製品の総称で大半は女性を模したものであると考えられており,ウエストのくびれがしばしば強調されている。土偶には儀礼的役割があるといわれており,その形態には先史時代の人々の美意識や自然観が反映されている可能性がある。配偶者選択における魅力という点で土偶が意図的に形づくられたものであるならば,WHRは1よりも小さい値にある程度収束し,地域変異や時代変異も少ないと予測される。縄文土偶のWHRを分析した先行研究が正面から見た2Dデータを用いたのに対して,本研究では全国の博物館等に収蔵されている土偶を3Dスキャンした3Dデータを用いて分析を行った。暫定的な結果としては,縄文土偶のWHRは1より小さいものが多く,ウエストのくびれは顕著であった(二名による計測,周の長さに基づく結果:平均 = 0.777,SD = 0.170,断面積に基づく結果:平均 = 0.689,SD = 0.257,n = 各553)。ポスターでは,時代や地域による変異についての結果も報告するとともに,人工物のWHRを研究対象とすることや,2Dではなく3Dデータを用いることの意義を考察する。

時系列古代ゲノムを用いた琉球列島の人口動態の追跡
松波雅俊(琉球大)、河合洋介(総研大・遺伝研)、シュパイデル玲雄(理研)、角田恒雄(山梨大)、瀧上舞(科博)、安達登(山梨大)、玉城靖(今帰仁村歴史文化センター)、片桐千亜紀(沖縄県教育庁文化財課)、竹中正巳(志學館大)、今村美菜子、木村亮介(琉球大)、篠田謙一、神澤秀明(科博)
Tracking the demography in the Ryukyu Archipelago using time-series ancient genomes
Masatoshi Matsunami, Yosuke Kawai, Leo Speidel, Tsuneo Kakuda, Mai Takigami, Noboru Adachi, Yasushi Tamashiro, Chiaki Katagiri, Masami Takenaka, Minako Imamura, Ryosuke Kimura, Ken-ichi Shinoda, Hideaki Kanzawa-Kiriyama

日本の最南端に位置する琉球列島では旧石器時代から人骨が発掘されている。しかし、旧石器時代と現代の琉球人の間には遺伝的連続性が弱く、現代琉球人の起源を理解するためには縄文時代以降の移住を解明することが重要である。日本本土では、約16,000年前に狩猟採集民による縄文文化が始まったが、考古学的証拠によると琉球貝塚(琉球縄文)文化の始まりは約8,000年前とされている。我々はこれまで琉球縄文時代(6,700〜900年前)に由来する25個体の古代ゲノムを解読し、本土縄文人と琉球縄文人は遺伝的には近縁であるが、わずかな遺伝的な分化が存在することを観察した。合祖シミュレーションにより本土縄文人と琉球縄文人の分岐は約6,900 年前に遡ることが示唆された。本土縄文人からの分岐後、琉球縄文人は深刻なボトルネックを経験し、その有効人口は約2,000人と推定された。琉球列島では、その後、約1,000年前に島嶼外からの大きな移住があり、これがグスク時代の開始につながったと考えられる。しかし、この移住が現代琉球集団の遺伝背景にどのように寄与しているかは不明である。本研究では、グスク時代に由来する古代ゲノムの解読を進めている。これまでに城久遺跡群(喜界島)、屋鈍遺跡(奄美大島)、面縄貝塚(徳之島)、赤崎鍾乳洞(与論島)、今帰仁勢理客中道原洞穴(沖縄本島)から出土した14検体の年代測定とゲノム解読に成功した。また、宮古諸島から出土した15検体および石垣島から出土した12検体の古人骨の年代測定とゲノム解析を進めている。本発表では、これらの研究の進捗を報告する。

仙台市における小学6年生の体格(身長・体重)の90年間にわたる長期経年変動に関する研究
黒川修行(宮城教育大学)、三島英換(東北大学・院・医・環境医学)
Secular Changes in Body Height and Weight of Sixth-Grade Elementary School Children in Sendai City Over a 90-Year Period
Naoyuki KUROKAWA, Eikan MISHIMA

【目的】子どもの発育・発達には、居住地域の社会問題や生活環境、およびその変化が影響を及ぼすと考えられる。仙台市は都市部の拡大や周辺市町村との合併、さらに東日本大震災などを経て、地域環境や生活習慣も大きく変化してきた。本研究は、同一地域において90年間にわたり蓄積されたデータを用い、小学6年生の身長・体重がどのような推移を示してきたのか、その長期的な経年変動を明らかにすることを目的とした。【方法】仙台市立全小学校の6年生を対象とした全数調査データ(健康実態調査)を用いた。解析には、1934年(昭和9年)から2025年(令和7年)までのデータ(2020年を除き、概ね4月に測定)を使用した。【結果】調査開始の1934年から1940年まで身長・体重の平均値は増加したが、太平洋戦争期(その前後も含む)の1941〜1946年に年々減少した。戦後の1947年以降から1970年代前半にかけては急激に上昇したが、その後は身長・体重ともにその増加量が鈍化した。体重について着目すると、1980年代半ばから再び増加傾向を示した。この期間において、肥満傾向児の増加も確認されている。2000年代以降の身長は横ばいで推移した。体重は2011年頃まで減少傾向を示した後、男子は増加傾向を、女子は概ね一定の数値を示している。なお、2020年以降にやや大きな変動を確認することができる。これはコロナ禍による健診(体格測定)実施時期の遅れたことにより、児の発育が進んだためと解された。【まとめ】仙台市の小学6年生における長期的な体格推移の解析から、子どもの発育・発達状態に地域的な違いがあることが明らかとなった。また、平均値が変化しない停滞期の後に、再び大きく変化する現象も観察された。今後は、各地域の構造や子どもの生活習慣に着目した詳細な検討を進めるとともに、継続的なデータの蓄積による観察が必要であると考えられた。

ニホンザルにおける寛容性の地域間変異と顔面形態に関する予備的検証
貝ヶ石優(奈良女子大・生活環境), 山口飛翔 (東邦大・理/日本学術振興会), 南俊行 (京都大・教育), 横山ちひろ (奈良女子大・生活環境)
A preliminary analysis of the association between facial morphology and social tolerance levels across Japanese macaque groups
Yu KAIGAISHI, Tsubasa YAMAGUCHI, Toshiyuki MINAMI, Chihiro YOKOYAMA

霊長類において,顔とは他個体へ社会的シグナルを発する器官である。近年,顔面の形態的特徴自体が個体の行動特性を反映する可能性が指摘されている。特に,様々な霊長類種において,顔の縦横比 (facial Width-to-Height Ratio: fWHR) が攻撃性と関連していることが明らかになってきた。ヒトやボノボ,フサオマキザルでは,相対的に横幅の広い顔を持つ (高いfWHR値を示す) 個体は,攻撃性や支配的なパーソナリティ特性を示し,また他個体からもそのように評価される。さらにマカク属では,寛容性の低い種は寛容性の高い種と比べ顔面のfWHRの値が高い傾向が見られる。本研究では,集団全体の寛容性について地域間変異を示すニホンザルを対象に, fWHR値の集団間比較を行い,寛容性と顔面形態の関連について予備的に検証した。淡路島 (兵庫県洲本市) ・小豆島 (香川県小豆郡)・地獄谷 (長野県下高井郡)・幸島 (宮崎県串間市)・金華山 (宮城県石巻市)・嵐山 (京都府京都市) で撮影されたニホンザル個体写真について,画像解析ソフトImageJを用いて顔面の形態特徴量を計測した。先行研究に従い,fWHRは頬骨間の最大幅を眉間から上唇の上端までの長さで割った値として算出した。成体間で比較すると,ニホンザルの中で特に寛容性が高いとされる淡路島の個体は,他集団と比べ有意に低いfWHRの値を示した。淡路島以外ではfWHRの値はほぼ同程度であったが,金華山のメスにおいて高いfWHR値が見られた。また全集団を通じてfWHRには有意な性差が認められ,メスがオスより高い値を示した。さらにfWHR値はどの集団でも発達とともに低下したが,淡路島では特に低下幅が大きいことが示唆された。これらの結果は,ニホンザルにおいて集団レベルの寛容性の変異が個体の顔面形態という形で表れている可能性を示唆している。今後攻撃性の高さやホルモン動態といった個体内特性を測定し,ニホンザルの寛容性と顔面形態との関連についてさらなる検証を行う。

足部運動における視点の違いが脳波活動および主観評価に及ぼす影響―運動観察・運動イメージ・運動実行課題を用いた検討―
花房京佑(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻), 星野真之介(世田谷人工関節・脊椎クリニック リハビリテーション部), 池田悠稀(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所), 藤澤祐基(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻), 跡見友章(杏林大学・保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻))
Effects of First- and Third-Person Perspectives on EEG Activity and Subjective Ratings During Foot Movement Tasks: A Study of Action Observation, Motor Imagery, and Motor Execution.
Kyosuke HANAFUSA, Shinnosuke HOSHINO, Yuki IKEDA, Yuhki FUJISAWA, Tomoaki ATOMI

【背景・目的】運動観察および運動イメージでは、運動実行と共通する神経活動が生じることが知られている。しかし、これまでの研究は主として手部を対象としており、足部を対象とした検討は少ない。また、足部運動における視点(1人称視点:1pp、3人称視点:3pp)の違いが脳波活動に及ぼす影響についても十分に明らかではない。本研究では、足関節背屈運動を対象に、視点の違いが脳波活動および主観評価に与える影響を検討した。【方法】右利き健常成人9名を対象とし、課題(観察・イメージ・実行)をランダムに提示した後、視点の異なる右足部背屈動画をランダムに提示した。脳波は国際10-20法に基づく19chで記録し、解析は足部感覚運動野に対応するCzを対象とした。試行内の課題提示時及び動画呈示時についてμ帯域(8-13Hz)、β帯域(13-30Hz)の事象関連脱同期(ERD)を算出し、課題後はβリバウンドを解析した。加えて、前脛骨筋表面筋電図を同時計測し、課題中の筋活動を確認した。さらに課題難易度等の主観評価を取得した。【結果】課題提示時には、μERDはイメージ課題で比較的強い傾向を示した。βERDは実行およびイメージ課題において3ppで強い傾向を示した一方、観察課題では1ppで強い傾向を示した。動画呈示時には、μERD・βERDともに実行・イメージ課題で3ppが強い傾向を示した。課題後のβリバウンドは実行課題で大きく、観察・イメージ課題では小さい傾向を示した。主観評価ではイメージ課題で難易度が高い傾向を認めた。【考察】足部運動において、視点の違いにより脳波活動の変化様式が異なる可能性が示された。特に実行およびイメージ課題では、3ppにおいてμERDおよびβERDが強い傾向を示し、視点が脳波活動に影響する可能性が示唆された。一方、課題後のβリバウンドは実行課題で大きく、観察・イメージ課題では小さい傾向を示した。本研究は少数例による検討であり、今後は対象者数を増やし、その関連をさらに検証する必要がある。

AIを用いた縫合による人骨の死亡時年齢推定3
清水大輔(中部学院大・看護リハビリ)、橋本裕子(中部学院大)、谷尻豊寿、谷尻かおり(メディックエンジニアリング)
AI-based classification of cranial suture closure status.
Daisuke SHIMIZU, Hiroko HASHIMOTO, Toyohisa TANIJIRI, Kaori TANIJIRI

近年、深層学習や機械学習などを人類学・解剖学に応用する研究が増えてきている。著者らは2022年以来、脳頭蓋部の縫合の写真を用いた死亡時年齢推定の深層学習に取り組んでいる。縫合は細いため、例えば矢状縫合全体を撮影した写真を用いた場合、深層学習に用いる224×224ピクセルの画像では、全く閉鎖状況が判断できず、死亡時年齢推定が行えない状況であった。第79回日本人類学会大会では、矢状縫合を9等分し224×224ピクセルの画像でも縫合の閉鎖状況が判断できるような写真を用いて、矢状縫合の閉鎖状況を4段階に分類させた。その結果約85%の正解率を得るに至った。矢状縫合以外の縫合でも同様の方法で学習は可能である。一方で、深層学習には非常に多くの学習用データが必要であるが、年齢が既知の日本人骨は数が限られており、学習用データを増やすことには限界がある。そこで、矢状縫合の分類器で他の脳頭蓋部の縫合も十分な精度で分類できれば、すべての脳頭蓋部の縫合のデータを合わせて学習しても問題がないと言える。これによって、学習用データ数を大幅に増やすことができる。脳頭蓋部の縫合は矢状縫合や冠状縫合、ラムダ縫合、頭頂側頭縫合それぞれで縫合線の形状が異なる。また、内部構造も縫合ごとに特徴を持っている。矢状縫合やラムダ縫合は全体にわたり鋸状であるが、頭頂側頭縫合は鱗状である。また、冠状縫合は側頭線付近では鋸状なのに対し、ブレグマ付近および側頭部では鱗状である。このように、発掘人骨で一部だけが発見されても、どの縫合か見分けられるほど形状が異なる。本研究ではこれほどに形状や構造が異なる脳頭蓋部の縫合を矢状縫合だけからの学習で得られた分類器で矢状縫合と同等に判断できるかを検証したので、その結果を報告する。

高宕山自然動物園の再生状況:動物園再開後4年間の人口動態と繁殖
丸橋珠樹、川本芳、相澤敬吾、池田文隆、白井啓、白鳥大祐、直井洋司(高宕山のサル観察クラブ)
Renewal status of Takagoyama Natural Zoo: Population dynamics and breeding during the four years after the zoo reopened
Tamaki MARUHASHI, Yoshi KAWAMOTO, Keigo AIZAWA, Fumitaka IKEDA, Kei SHIRAI, Daisuke SHIRATORI, Youji NAOI

千葉県房総半島に孤立するニホンザルの地域個体群では, 外来種との交雑問題が生じてその存続が危惧される深刻な事態が続いている。2019年の台風被害による放飼場の倒壊のあとに再建された富津市の高宕山自然動物園は, この交雑の影響を除いたサルたちを母群に4年前に展示を再開し, 房総のニホンザルの姿を残す貴重な展示施設として富津市により運営されている。この動物園の管理運営に資する情報を集める目的で, 高宕山のサル観察クラブは群れの人口動態や繁殖の観察を続けている。今回の発表では開園以来の4年間の群れに見られた変化について報告する。入墨とマイクロサテライトDNAの14遺伝標識を利用し, 観察と遺伝子による個体識別を完成して群れの構成変化について調査を続けている。また, 2025年交尾期に, 自動撮影映像から交尾頻度変化を記録し, 個体間近接デンドログラムと繁殖成功との関係を分析した。健康診断は2023年11月と2025年11月に実施した。これまでの個体群動態調査, 血縁分析, 行動観察, 健康診断, から(1)繁殖成功個体はオスで6歳以上, メスで5歳以上(2)連産メスは11歳以上で, 4年連続で出産する個体がいる, (3)オスの繁殖では成功個体の変化がある一方で, ペア的な繁殖を続ける個体もいる, (4)メスでは繁殖相手に同期性がある一方で, ペア的な繁殖を続ける個体もいる, (5)メスの繁殖は必ずしも年齢順に起きない, (6)皮膚の乾燥, 脱水気味, 外傷による感染, 削痩が散見される, という特徴が認められた。この間で群れサイズは79(オス42, メス37)になり, 4年間の生残仔総数は26(オス17, メス9)に達して個体総数は増加している(数値はいずれも2026年1月現在)。群れサイズの増加の背景に関する行動と繁殖の調査および健康診断を継続し, 得られた結果から今後の群れの規模や繁殖管理の在り方を検討する必要が迫っている。

体格分類に基づく身体成熟度の差異に関する検証
武山祐樹(愛知工業大・経営学),田中望(東海学園大・スポーツ健康科学),早川健太郎(名古屋経済大・人間生活科学),可兒勇樹(大阪成蹊大・教育学)
Differences in Physical Maturation Based on Physique Classification
Yuki TAKEYAMA, Nozomi TANAKA, Kentaro HAYAKAWA, Yuki KANI

【目的】肥満や痩身といった体格の違いは,思春期時期の身体発育に関連する可能性がある。しかし,体格分類に基づき,身長発育における最大発育速度年齢を用いて身体成熟度の差異を検証した研究は十分とはいえない。そこで本研究では,日本人女子の縦断的発育データを用い,対象者をBMIに基づいて体格分類し,各体格群における身体成熟度の差異を検証することを目的とした。【方法】対象は,日本人中学生女子4800名であった。対象者について,小学1年時から中学3年時までの身長および体重の縦断的データを用いた。身長および体重は4月に測定されたデータに限定し,解析には全学年のデータが揃っていた4740名を使用した。まず,各学年におけるBMIの平均値および標準偏差を算出し,平均値,平均値±0.5SD,平均値±1.5SDに対してwavelet補間モデルを適用することで,BMI加齢評価チャートを構築した。次に,この評価チャートを用いて対象者を「痩身」「やや痩身」「標準」「やや肥満」「肥満」に分類した。さらに,個々の身長の縦断的発育データにwavelet補間法を適用し,発育速度曲線からMPV年齢を特定した。算出されたMPV年齢に基づき,身体成熟度の差異を検討した。【結果および考察】各群における身長のMPV年齢は,痩身体型で12.01±1.08歳,標準体型で10.70±1.12歳,肥満体型で10.10±1.03歳であった。体格分類ごとにMPV年齢を比較した結果,有意差(p<0.05)が認められた。これにより,体格の違いは身体成熟度の早晩と関連する可能性が示唆された。この傾向が遺伝的に制御されたメカニズムなのか栄養的な環境的要因なのかは定かではないが,本研究により体型分類と身体成熟度の関係性が示された意義は大きいと考えられる。

成体コモンマーモセットにおける顔幅高比(fWHR)と性格の関連
横山ちひろ1,松原碧波1,武田千穂2,林拓也2(1. 奈女大・生活環境,2.理研・BDR)
Facial traits (fWHR) and personality in adult common marmosets
Chihiro YOKOYAMA, Minami MATSUBARA, Chiho TAKEDA, Takuya HAYASHI

顔貌は個体の年齢や性別、健康状態などを反映するだけでなく、社会的シグナルとして他個体との相互作用に重要な役割を果たしている。ヒトでは、顔幅高比(facial width-to-height ratio: fWHR)が性差、身体特性、社会行動と関連することが報告されている。また、非ヒト霊長類においても、fWHRと攻撃性や社会的順位との関連が示されている。しかし、協同繁殖を行うコモンマーモセットにおいて、顔形態と性格特性の関連を検討した研究はほとんど存在しない。本研究では、成体コモンマーモセットを対象として、顔幅高比(fWHR)と性格特性との関連を検討した。性格は既存の質問紙法により飼育者が評価し、顔写真からfWHRを算出した。その後、各性格因子得点とfWHRとの関連を解析した。その結果、fWHRと社交性との間に有意な負の関連が認められた。すなわち、顔幅高比が低い個体ほど高い社交性を示す傾向がみられた。一方、その他の性格因子得点との関連は限定的であった。これらの結果は、コモンマーモセットにおいてfWHRの個体差が社会的特性、とくに社交性と関連している可能性を示唆する。今後はより詳細な顔形態指標を用いて、顔貌と社会的特性との関係を検討する必要がある。

コモンマーモセットにおけるオキシトシン受容体遺伝子のメチル化と性格との関連の検討
堀裕亮1、横山ちひろ2、林拓也3、植松明子3、井上 - 村山美穂1(1. 京大・野生、2. 奈女大・生活環境、3. 理研・BDR)
Relationship between methylation of oxytocin receptor gene and personality in common marmosets
Yusuke HORI, Chihiro YOKOYAMA, Takuya HAYASHI, Akiko UEMATSU, Miho Inoue-Murayama

オキシトシン受容体遺伝子(OXTR)の多型は,ヒトも含む様々な動物種において,社会的行動に影響を及ぼすことが報告されている。近年では,塩基配列の個体差のみならず,DNAに起こるエピジェネティックな変化も注目されており,その1つであるDNAのメチル化が,ヒトの行動や脳活動に及ぼす影響も研究されている。本研究では,飼育下のコモンマーモセットを対象に,OXTRのメチル化が行動の個体差に及ぼす影響を検討することを目的とした。93個体の筋肉組織から抽出したDNAを用いて,安価で簡便なメチル化分析手法として知られる,メチル化特異的高解像度融解曲線(MS-HRM)分析を行い,DNAのメチル化率を定量した。検出感度を確認するため、年齢のマーカーとして知られるELOVL2のメチル化率と死亡時日齢との相関を予備的に分析したところ、他の研究と同様に正の相関がみられた。それに対して,OXTRでは死亡時日齢とメチル化率の相関は弱かった。この結果は,OXTRのメチル化には年齢による影響は小さく,年齢依存ではないストレスなどの影響がより大きいことを示唆する。本発表ではさらに,54項目の質問紙を用いて測定した個体ごとの性格得点や生育歴(人工哺育か否か)などの特性とメチル化率との関連解析の結果を報告する。

ヒトの自己認知における多様性の理解に向けたメダカの鏡像認知行動解析
秋山辰穂、小川元之(北里大・医)、勝村啓史(九州大・院芸工)
Toward understanding the diversity of human self-recognition through analysis of behavioral responses to the mirror image in medaka
Tokiho AKIYAMA, Motoyuki OGAWA, Takafumi KATSUMURA

ヒトに特徴的な自己意識の形成には,鏡に映る像を自分自身と認識する鏡像自己認知の成立が重要とされる。しかし,鏡像自己認知はヒトに固有ではなく,様々な動物で確認されている。近年では,社会性魚類であるベラでも鏡像自己認知が確認され,ヒトと同様に身体イメージの保持を伴い行動している可能性も示されている。鏡像自己認知が系統に関わらず広くみられることは,その生物学的基盤の存在を示唆する。一方ヒトでは,鏡像を通じて形成される身体イメージと解剖学的な身体との不一致が,トランスジェンダーの性別不合の背景に関与する可能性が議論されている。これは,鏡像自己認知の成立程度に個人差がある可能性を示す。さらにヒト以外の動物でも,鏡像自己認知の成立にかかる時間の個体差や,鏡像認知行動テストの成否から,その多様性の存在が示唆される。しかしながら,そのような多様性が起こるメカニズムや進化的意義は,ほとんど分かっていない。そこで本研究では,東アジアに広く分布し多様な環境に適応し,遺伝的多様性に富むニホンメダカ(Oryzias latipes, 以下メダカ)に着目した。メダカは,様々な分子生物学的実験系が整っているモデル生物でありながら,ゲノム・表現型多様性解析も容易で,ヒト多様性を理解するモデルとして用いられている。加えて,ヒトと同様に社会性と視覚優位性をもち,それらが関わる行動の定量解析にも適している。これらの特徴は,メダカでも鏡像自己認知に多様性が存在することを期待させる。そこでまず,その進化的理解への第一歩として,メダカの鏡像自己認知に関わる行動を定量する系の構築を目的とした。実験系統メダカを用い,アクリル板提示群を対照に,鏡提示群および鏡と同サイズのアクリル箱内に同性他個体を提示した群と行動を比較した。本発表では,この鏡像認知行動のアッセイ系の構築の経過を報告する。

チャンドマン遺跡出土人骨における仙椎遠位の形態的特徴―乗馬習慣に関連する外傷の可能性についての検討―
藤澤珠織(青森中央学院大・看護)、藤田尚(金沢大・古代文明・文化資源学研究所)、Erdene Myagmar(モンゴル国立大・自然人類)
Morphological Characteristics of the Distal Sacrum in Human Remains from the Chandman Site: An Investigation into Potential Horseback Riding-Related Trauma
Shiori FUJISAWA, Hisashi FUJITA, Erdene MYAGMAR

モンゴル西部のチャンドマン遺跡から出土した約2000年前の鉄器時代人骨群は,当時の遊牧・騎馬生活の実態を復元するうえで極めて重要な資料である。我々は,2026年に実施した同遺跡出土人骨の肉眼観察に基づき,乗馬症候群との関連が示唆される脊椎の多発性シュモール結節について報告した。本発表では,これに加えて,新たに仙椎遠位部に認められた形態的特徴を報告する。本研究の目的は,仙椎遠位部における腹側方向への形態変化を評価し,当時の身体活動との関連を検討することにある。複数個体を対象とした肉眼観察の結果,仙椎遠位部に腹側への屈曲を呈する症例が確認された。当初,これらの所見については,日常的な騎乗姿勢に伴う慢性的な骨形態変化の一環である可能性を想定した。しかし,現代の臨床疫学データおよび生体力学的な受傷機序と照合したところ,馬の背という高所からの落下後,いわゆる「尻もち着地」によって臀部へ強い直接外力が加わり,仙尾骨領域に骨折が生じたのち,腹側へ偏位した状態で癒合・治癒した高エネルギー急性外傷の痕跡である可能性が示された。したがって,本所見は単なる慢性的適応にとどまらず,乗馬文化に特有の外傷性マーカーとして位置づけられる可能性を有する。現時点では,詳細な計測データに基づく定量的評価には至っていないが、本仮説を検証するため,骨折治癒痕の組織学的証明に加え,寛骨臼の楕円形化など他の乗馬症候群マーカーとの併発率について統計的分析を行う予定である。これらの検証を通じて客観的な評価手法を確立し,さらにモンゴル国内の他遺跡資料との比較を進めることで,古代遊牧社会における身体的負荷および外傷リスクの実態解明を目指す。

下本山岩陰遺跡出土の2号女性人骨における四肢骨の計測的特徴
長谷川廉(岡山理科大学大学院・理工学研究科)
Metric Traits of Limb bones of the 2nd Female Skeleton from Shimomotoyama Rock Shelter
Hasegawa Ren

長崎県佐世保市の下本山岩陰遺跡から出土した女性2号人骨は海部ほか(2017)や篠田ほか(2017,2019)により,縄文と弥生両方の特徴を有する西北九州タイプとされた。女性2号人骨を中心として九州地方の女性四肢骨の地域・時代における体格について検討した。比較資料は縄文時代後晩期(約4000年-2300年前)の岡山県津雲貝塚 n=45(池田1988),福岡県山鹿貝塚 n=6(永井1988),弥生時代前期(前5-前3世紀)の鳥取県古浦遺跡 n=15(永井1988),弥生時代前期-後期(前5-2世紀)の福岡県金隈遺跡 n=27(永井1988),弥生時代後期(1-2世紀)の山口県土井ヶ浜遺跡 n=36(永井1988),同時代の長崎県下本山岩陰遺跡 n=1(海部ほか2017),同時代の長崎県宮の本遺跡 n=17(佐世保市教育委員会1981),同時代の鹿児島県広田遺跡 n=20(永井1988),同時代の鹿児島県鳥の峯遺跡 n=7(永井1988)を選択した。計測位置はマルチン法(馬場1991)に則り,海部の設定した計測位置に加え,腓骨の中央最大径と中央最小径を選択した。身長推定には藤井(1960)を元に各四肢骨の最大長から計算した。推定年齢は先行研究より30-50代とされ,今回はSakaue(2015)を元にして頭蓋骨の縫合から年齢を推定した。結果として ,偏差折線からは北部九州と下本山女性2号人骨では上腕骨・橈骨・尺骨・腓骨の幅を示す中央最大径や中央最小径など女性2号人骨が上回っている。そして,同地域の宮の本遺跡や縄文時代である津雲貝塚,山鹿貝塚などにおいてもその傾向は伺える。このように女性2号人骨の身長は藤井の式により151.6cmと推定され,これは北部九州弥生人の平均身長である149.9cmより1.7cm高い。そして,四肢骨の中央最大径などは北部九州弥生人と比べ,偏差値が1以上と計測的特徴が目立つ。これは北部九州や南九州,西北九州の中において,運動などの後天的な条件によって変化が生じた可能性があると考えられる。推定年齢はSakaue(2015)の推定式より35-39歳の可能性が考えられる。この事から女性2号人骨は30代後半で頑強な体格を持ち,四肢に負荷が掛かる運動(肉体労働)を行っていた事が推測される。

ニホンザルのコンタクトコール鳴き交わしにおける応答の有無に応じた音響的特徴の変化
勝野吏子(大阪大・人間科学)、Benti BENJAMIN(大阪大・人間科学,the University of Clermont-Auvergne)、Alban LEMASSON(the University of Rennes)
Modification of call characteristics depending on the presence or the absence of a response in Japanese macaques
Noriko KATSU, Benti BENJAMIN, Alban LEMASSON

霊長類は、個体間の距離を維持するため、あるいは社会交渉のために、コンタクトコールを鳴き交わす。これまでの研究により、ニホンザルは音声を発した後、他個体からの応答を待ち、応答がない場合は最初に発声した個体が発声を繰り返すことが明らかになっている。ニホンザルが音声鳴き交わしの過程で、他個体の反応に応じて自身の音声の特性を変化させるかどうかを調べることは、音声コミュニケーションの指向性を明らかにする上で有用である。本研究では、鳴き交わしにおける音響的特徴の変化を明らかにすることを目的とした。特に、応答がない場合に最初の発声個体が発声を繰り返す際、発声の特徴が誇張されるかどうか、また、最初の発声個体が他個体からの応答に返答する際、応答の発声に応じて音響的な特徴が変化どうかを検証した。嵐山ニホンザル集団の成体メスから、46の鳴き交わしを収集した。計21個体が発声の開始個体となった。発声の開始個体と応答個体の発声タイミングを確認したところ、応答がない場合、発声の開始個体は発声の間隔を長くしていた。発声の開始個体が発声を繰り返す際、その繰り返しの発声は持続時間や周波数が長く、あるいは高くなるといった誇張が生じると予測したが、最初の発声と繰り返しの発声の間に一貫した変化は見られなかった。発声の間隔については、繰り返しが長くなるにつれ、短くなる傾向がみられた。応答が得られない場合に発声が変化するかどうかには、個体による違いや、発声が起こった際の行動や周囲の個体数といった文脈に関しても、検討する必要があることが示唆された。

日本列島人の熱産生多様性は二重構造説で説明できるか
石田悠華(東京大・大学院新領域創成科学研究科), 松下真美(天使大・看護栄養学部), 米代武司(東北大・大学院医学系研究科), 斉藤昌之(天使大・看護栄養学部, 北海道大・獣医学研究院), 中山一大(東京大・大学院新領域創成科学研究科)
Can the diversity of thermogenesis among the Japanese be explained by the dual-structure model?
Yuka ISHIDA, Mami MATSUSHITA, Takeshi YONESHIRO, Masayuki SAITO, Kazuhiro NAKAYAMA

[背景・目的] 寒冷適応で注目される褐色脂肪組織は, 非震え熱産生を担う主要な脂肪組織である。熱産生活性は個人や地域でばらつき, 素因の一つに遺伝的関与が疑われている。私たちは以前に, 日本人の活性が中国人よりも低く, 活性の季節変動が日本人で顕著であることを報告した。褐色脂肪組織の活性化が全身のエネルギー消費量を増大させることや, ゲノム中の縄文人由来祖先成分が現代日本人の倹約的な形質に寄与することが示唆されていたため, 東アジア人集団内の褐色脂肪組織活性の多様性の背景に縄文人由来のゲノム多様性が関与している可能性を提唱した。本研究では, この仮説の検証を目的とした。[手法] FDG-PET/CT(フルオロデオキシグルコースを用いた陽電子放出断層撮影・コンピュータ断層撮影)で測定した, 健康な日本人成人男女416名の寒冷曝露後の褐色脂肪組織活性データとゲノムDNA試料を使用し, 二重構造説に基づいたゲノム解析を実施した。Axiom Japonica Arrayに基づくインピュテーションによりゲノムワイドにSNP(一塩基多型)の遺伝型の復元を行い, 古代ヒトゲノムデータベース(Allen Ancient DNA Resource)に収載されたSNP遺伝型情報と統合したのち, ADMIXTURE v1.3.0で各個人の縄文人由来祖先成分の混合比率を算出した。[結果・考察] 現代日本人における縄文人由来祖先成分の混合比率が高い者ほど褐色脂肪組織活性が低く, BMI (body mass index)が高い傾向にあったことから, 現代日本人集団内の褐色脂肪組織活性多様性が, 二重構造に起因することが示唆された。これは温暖な縄文時代には寒冷適応のための熱産生は必須ではなく, 熱産生に使用しない余剰エネルギーを倹約的に使用することが有利であったことに起因するかもしれない。

スマトラオランウータン浅・深指屈筋に見られた新たな形態的所見
江村健児(四條畷学園大・リハ),櫻屋透真(朝日大・歯),平崎鋭矢(京都大・EHUB),薗村貴弘(朝日大・歯),荒川高光(大阪歯大・歯)
New morphological findings in flexor digitorum superficialis and profundus in sumatran orangutan
Kenji EMURA, Tohma SAKURAYA, Eishi HIRASAKI, Takahiro SONOMURA, Takamitsu ARAKAWA

【目的】我々はこれまで,霊長類において浅指屈筋を中心とした前腕屈筋の形態や支配神経について調査してきた。今回,成体メスのスマトラオランウータン(Pongo abelii)1体の右前腕屈筋群を解剖学的に観察したところ,浅指屈筋と深指屈筋の形態にこれまでとは異なる所見が得られたので報告する。【方法】皮膚を剥離して右前腕屈筋群を露出し,各筋の起始,停止,相互の位置関係を肉眼解剖学的に観察した。【結果】本例では浅指屈筋の第2指への筋腹は,内側上顆から起こり前腕のほぼ中間点まで達する長い起始腱を持っていた。第3指への筋腹は内側上顆,橈骨,橈側手根屈筋の筋膜から起始した。第4指への筋腹は内側上顆から起始し,第5指への筋腹は尺側手根屈筋の筋膜から起始した。深指屈筋では第2指に停止腱を送る筋腹が,一部浅指屈筋と癒合しながら内側上顆から起始し,深指屈筋の他の部分とは独立して遠位に走行した。第3指,第4指,第5指に停止腱を出す深指屈筋の筋腹は橈骨,尺骨,前腕骨間膜から起始し,筋が互いに癒合して分離度が低かった。【考察】これまでに報告してきたオランウータンや他の大型類人猿の浅指屈筋では,第2指に腱を出す部分は二腹筋の形態をとり,近位筋が内側上顆から起始し,中間腱を経て遠位筋が第2指へ停止腱を出した。一方,本例では第2指への筋に連なる中間腱と近位筋が見られず,起始腱が非常に長い形態となっていた。また,深指屈筋の第2指への筋は,浅指屈筋と一部癒合しながら内側上顆から起始する点がヒトの変異筋であるGantzerの筋に類似していた。この筋の解剖学的な位置づけを明確にするため,ヒトで認められたGantzer筋例と今後比較解析する予定である。本研究は京都大学EHUBの共同利用研究として行われた。

高宕山自然動物園における学会エクスカーションおよび観察会の開催報告
白井啓(野生動物保護管理事務所)、勝野吏子(大阪大・人間科学)、日本霊長類学会保全・福祉委員会
Report on the excursion and the observation workshop at the Takagoyama Nature Zoo
Kei SHIRAI, Noriko KATSU, Boad of directors for Conservation and Animal Welfare, Primate Society Japan

房総半島のニホンザル地域個体群は,環境省レッドリストにより絶滅のおそれのある地域個体群(LP)に指定されている。日本霊長類学会では高宕山自然動物園(千葉県富津市)を,外来種であるアカゲザルとの交雑からニホンザルを保護するための域外保全施設として,また地域の住民が房総のニホンザルに対して親しみを深めるための自然教育施設として,重要視している。房総地域の交雑問題や高宕山のニホンザルに対する関心を高めることを目指して開催した,高宕山自然動物園におけるエクスカーションおよび観察会について報告する。エクスカーションは第41回日本霊長類学会大会実行委員会が企画し,大会参加者を対象として2025年7月14日(月)に開催した。本企画は,餌付けに端を発する房総半島のニホンザル飼育施設の継続運営と外来種交雑問題への貢献に対し,富津市および高宕山自然動物園管理運営協議会へ学会から功労賞が贈呈されたことに伴う企画である。目的は,同園への今後の支援や外来種対策に資する施設視察,および要望書提出後の進捗報告と意見交換であった。当日は,同園でのサル観察および施設見学に加え,関豊ふれあいシニア館にて市の事業紹介やアカゲザル交雑対策の現状に関する解説が行われた。参加者は24名に加えスタッフ13名であり,実施にあたっては高宕山のサル観察クラブ,合同会社猴森,株式会社野生動物保護管理事務所の協力を得た。一方,観察会は日本霊長類学会保全・福祉委員会が企画し,主に市内の小学生等を対象として2026年8月に開催予定である。霊長類研究者が行うような個体識別や個体追跡観察を通じて,ニホンザルがそれぞれ違う顔つきを持ち,行動にも個性があることを参加者が知り,高宕山のサルに対する親しみをより深めること目指す。本発表では観察会当日の様子について報告を行う。

ヒト乳幼児を対象とした自己鏡像認識課題の再検討:マークテストにおける評価指標の細分化
ユリラ(立教大・現代心理学部), 開一夫(東京大・総合文化研究科)

自己鏡像認識を捉えるマークテストは、客観的自己の進化的・発達的起源を探る基盤的課題として半世紀以上用いられてきた。しかし近年の発達研究では、従来の指標である「マークへの接触行動(Md)」が、鏡像理解を伴わない偽陽性を生み、パス率を過大評価している可能性が指摘されている。本研究では、生後18ヶ月のヒト乳幼児を対象に評価指標を細分化し、さらに鏡情報の利用を促す新規手続きを導入することで、この問題の検証を試みた。生後18ヶ月児27名を対象とし、着脱可能な付箋紙を気づかれないよう、参加児の前頭部に貼り付けた。評価指標は、マークを剥がし取る「除去(Removal)」と、剥がさず触れるのみの「接触のみ(Md-only)」に細分化した。さらに、マークを除去できなかった参加児に対し、2枚目のマークを手渡して鏡情報の自発的利用を観察する新規フェーズを設けた。参加児の51.9%がRemovalを、18.5%がMd-onlyを示した。また、新規フェーズにおいて、多くの参加児が鏡を見ながら1枚目のマークの付近に2枚目を貼り付ける行動(Mplc)を自発的に示したが、これは既存マークの除去には繋がらなかった。本結果は、単なる接触(Md-only)が、随伴性の理解や自己鏡像の同定を要する「除去」とは異なる認知レベルにある可能性を示唆する。本研究が提案する指標の細分化および新規手続きは、ヒトや非ヒト霊長類における「自己」の創発プロセスをより精緻に比較・検討するための有効なパラダイムとなり得るか、その可能性を議論する。

ヒト大腿骨における皮質骨多孔性と骨幹部マクロ形態の関連性
弦本敏行、遠藤大輔、西啓太、今村剛、糸瀬賢、髙村敬子(長崎大・肉眼解剖学)
The Relationship Between Cortical Bone Porosity and the Macrostructure of the Femoral Diaphyses in Humans
Toshiyuki TSURUMOTO, Daisuke ENDO, Keita NISHI, Takeshi IMAMURA, Masaru ITOSE, Keiko OGAMI-TAKAMURA

【目的】長管骨の骨幹部においては,加齢とともに皮質骨の菲薄化が進行する。それに先行して骨髄腔に接する領域を中心に皮質骨多孔化が発生・進行する。これはWolffの法則に従って進行する可能性があるため,人類学的にも興味が持たれる現象である。われわれはこのような多孔化領域の広がりをCT画像データから定量評価する方法を提案し,その有用性を検証している。本研究では,このような多孔化現象と大腿骨全体の形態との関連性を検証した。【方法】対象は長崎大学保管の現代人骨格標本男女88体の右大腿骨。各大腿骨全長を臨床用CTで撮影して横断面DICOMデータを取得,各骨から等間隔に抽出した9断面の皮質骨領域に含まれるHounsfield値(HU)をエクセル上に展開した。HU値の大きさの分布を示すヒストグラムを作成し,その分布パターンを定量評価した。具体的には,HUの集中度を示す指標として,ヒストグラム頂点座標の位置を示す値Vxy,全値の平均値のX軸上の相対位置Avgなどを算出した。これらはいずれも多孔化が進行するほど低値となる。さらに,大腿骨全長,皮質骨占拠率,骨幹部弯曲度,横断面における皮質骨重心の偏移度など,各大腿骨形状に関する情報を算出し,それらとの関連性を検証した。【結果】VxyとAvgは互いに強い正の相関性を示した。これらは皮質骨占拠率と強い正の相関性を,また,横断面における皮質骨重心の偏移度とは負の相関性を示した。さらに,男性では骨幹部弯曲度と正の相関性を示した。一方で,大腿骨全長,骨幹部の内弯・外弯を示す指標とは有意な相関性を示さなかった。【考察】これらの結果より,ヒト大腿骨では皮質骨菲薄化が進むほど,骨幹部の弯曲度が低いほど,横断面における皮質骨重心が偏在するほど,皮質骨多孔化現象が進行する傾向があることが示唆された。古人骨の長管骨形態を解析するにあたって、このような解析方法を応用することによって、新たな知見が導き出される可能性が期待される。

バヤン・ボラク城址出土の漢・匈奴期人骨にみられる殺傷痕に関する考古・法科学的分析
岡崎健治 (鳥取大・医), 米元史織 (九州大・総研博), 菊地大樹 (蘭州大・歴史文化), 大谷育恵 (京都大・白眉セ), 覚張隆史, Odongoo RAVDANDORJ (金沢大・古代文化資源), Mijiddorj ENKHBAYAR, Iderkhangai TUMUR-OCHIR, Erdenebaatar HATAGIN (National University of Mongolia, Dept. of Arch. & Anth.), Alexei KOVALEV (Russian academy of sciences, Inst. of Arch.)
Forensic archaeological analysis on the traumas of the human skeletal remains of the Han and Xiongnu period unearthed in the Bayan-Bulag site
Kenji OKAZAKI, Shiori YONEMOTO, Hiroki KIKUCHI, Ikue OTANI, Takashi GAKUHARI, Odongoo RAVDANDORJ, Mijiddorj ENKHBAYAR, Iderkhangai TUMUR-OCHIR, Erdenebaatar HATAGIN, Alexei KOVALEV

モンゴル最南端、長城北側に位置するバヤン・ボラク城址は、武帝期に公孫敖が築いた受降城か、あるいは匈奴の砦かをめぐり議論が続いている。城壁から約300m離れた3×4mの楕円形ピットからは、20体以上の人骨群が密集して検出された。本研究は、これらの人々の由来と死亡・埋葬状況を学際的手法により検証することを目的とする。解剖学的およびタフォノミー分析から、人骨群は死亡直後、ほぼ同時期に遺棄されたと判断された。骨コラーゲンを用いたC14年代測定でも年代は紀元前2世紀に集中し、出土遺物の様式と整合する。形態解析による性判定・年齢推定では女性および未成人は含まれず、性判定の結果はゲノム解析とも一致した。人骨群は、身体の一部を欠く個体骨19体(S1–19)と散乱骨34点(F1–34)に区分される。解剖学的所見と骨コラーゲン同位体比の比較により、一部欠損部位と散乱骨が同一個体に属することが確認された。死亡前後の外傷の多くは螺旋骨折で、確実な鋭器損傷は1点のみであった。以上より、被葬者は強い力学的作用によって身体の一部を離断された可能性が高い。異常姿勢での埋葬状況も踏まえると、本人骨群は単なる戦死者の集積ではなく、戦場で処刑された人々の集団墓であった可能性がある。文献史料との比較から、車裂(八つ裂き)、殺(斬首)、斬(腰斬)に相当する刑罰が含まれる可能性が示唆され、軍事と刑罰執行が未分化であった当時の状況がうかがえる。

床反力モーメント成分と歩行速度が代謝に及ぼす影響
安陪大治郎(九産大・健スポ)、本山清喬(九産大・健スポ)、田代雄大(西工大・デザイン学部)、斉藤輝(九産大・健スポ)、榊泰輔(九産大・理工学部)、堀内雅弘(鹿屋体大)、荻原直道(東大・理)
Influences of vertical free moment and gait speed on energy cost of walking
Daijiro ABE, Kiyotaka MOTOYAMA, Takehiro TASHIRO, Akira SAITO, Taisuke SAKAKI, Masahiro HORIUCHI, Naomichi OGIHARA

ヒトは悪路でも直立姿勢で自在に動き回ることができる唯一の現生生物である。直立二足歩行は生物学的に考えると数多くの不利益があるにも関わらず、ヒトはなぜ直立で歩くように進化してきたのだろうか? 歩行は足底が地面から受ける反力を適切にコントロールして、身体を空間のある位置から別の位置に移動させる力学現象である。したがって、足底に床面から作用する反力を適切に作用させることが動作の成否の鍵となる。ヒトの歩行時の足底は巨大な踵骨によって地面と面接触するため、床反力は足底全体に分布して作用し、その水平方向成分によって足底には鉛直軸周りのモーメント(回転を生じさせる力)が作用するが、長い歩行研究の歴史の中で、何故か足底に作用する床反力モーメントは他の床反力成分に比べて十分小さいためか無視され続けてきた。そこで本研究では床反力モーメントを実験的に操作し、床反力モーメントが歩行代謝に及ぼす影響を検討することを目的とした。歩行中の床反力モーメントを実験的にキャンセルするためには、足底が床面と点接触すれば良い。そこで我々は運動靴の靴底に120gの軽量点接触板を製作し靴底に接着させた。18名の被験者(男性8名、女性10名)を対象にトレッドミルで普通速度(男性4.5km/h、女性4.2km/h)、ゆっくり(男性3.3km/h、女性3.0km/h)、速歩(男性5.7km/h、女性5.4km/h)で各4分歩いた時の酸素摂取量と二酸化炭素排出量からエネルギーコスト(CoT; J/kg/meter)を算出した。なお、本研究では腕振りによる上肢の回旋モーメントの影響を確認するために、両腕を振るが上肢は進行方向に正対する腕組み歩行、片腕を振るが上肢は進行方向に正対するスマホ歩行も併せて行った。その結果、CoT値は点接触板条件が他の3条件と比べて有意に高かった。その傾向は歩行速度が高まるにつれてCoT値の増加率が拡大する速度依存性があることも確認された。

四肢の運び順に注目した支持基底面サイズの比較:霊長類と非霊長類の予備的報告
後藤遼佑(群馬パース大・リハ)、日暮泰男(山口大・共同獣医)、設樂哲弥(大阪大・人間科学)、木下勇貴、平﨑鋭矢(京都大・EHUB)
Comparison of base of support area in relation to footfall sequence: A preliminary reports on macaques, cats, and a dog
Ryosuke GOTO, Yasuo HIGURASHI, Tetsuya SHITARA, Yuki KINOSHITA, Eishi HIRASAKI

霊長類は、後肢をついた後に反対側の前肢をつくdiagonal-sequence(DS)歩様を高頻度で用い、非霊長類は後肢をついた後に同側前肢をつくlateral-sequence(LS)歩様で歩く。DS歩様は、支持基底面(Base of Support: BoS)の点で、安定性の低い歩様と理論的に考えられてきた。BoSとは、動物と支持基体が接触する接点に囲まれる領域である。例えば、サルが四肢で立っている場合、支持基体に接触する手掌面と足底面を含む四か所に囲まれる領域に相当する。身体重心の地面への投影点がBoSに収まれば姿勢は安定し、外れれば転倒につながる。不安定な樹上環境で生活するサルの生態と、BoSの小さいDS歩様の組み合わせは整合性を欠くように見え、これが霊長類に特有な歩様の起源の理解を難しくしている。しかし、そのBoSの大きさを測り、他種と比較する研究は行われておらず、実データにもとづかない理論的考察に依拠している点が課題であると発表者らは考えた。そこで本研究では、サルのDS歩様におけるBoSの大きさを計測し、LS歩様で歩くネコ・イヌのBoSと対比的に評価することを目的とした。ニホンザル4個体、イエネコ2個体、ビーグル犬1個体を研究対象とした。各個体は圧力計測センサマットを敷いた床面の上を四足歩行で直線的に移動した。歩行中に四肢がマットに接触すると足跡様のデジタルデータが記録された。歩行周期の各時点について、足跡を囲む最小の多角形の面積を求めた。その面積をBoS面積とし、身体サイズで標準化した。ニホンザルのBoSはネコとイヌに比べ小さいとは言えなかった。具体的には、ネコのBoSがサルとイヌよりも統計的に有意に小さく、サルとイヌの間に有意差を認めなかった。つまり、実験結果はこれまでの理論的考察を支持しなかった。各個体の歩様を質的にみると、ネコは床面に引かれた一本の線の上を歩くかのように、四肢を一直線上に配置して歩く傾向が確認された。この観察結果から、四肢の接地順序よりも歩隔がBoSにより強く影響すると考えられた。

東アジア集団における食事誘発性熱産生の個人差に影響する要因の探索
Investigation of Inter-individual Variation in Diet-Induced Thermogenesis in East Asian Populations
Dept. of Integrated Biosciences, Grad. Sch. of Frontier Sciences, University of Tokyo
JIN, Y., NAKAYAMA, K

Objective: Asian populations have traditionally relied heavily on cereal-based diets. Such diets may impose metabolic burdens related to insulin resistance, type 2 diabetes, and obesity. Diet-induced thermogenesis (DIT) is a postprandial increase in energy expenditure accompanied by heat generation, and plays an important role in nutrient processing and energy balance. Brown adipose tissue (BAT) is a thermogenic adipose tissue that efficiently dissipates energy as heat and may contribute to individual differences in DIT. This study aims to identify genetic and non-genetic factors associated with inter-individual variation in DIT and postprandial BAT activity among East Asians. Methods: We recruited 35 healthy East Asian adults and examined DIT and postprandial BAT activity. DIT and BAT-related thermal responses were simultaneously assessed by indirect calorimetry and infrared thermography, respectively, before and after ingestion of a standardized test meal under controlled experimental conditions. For genetic analyses, saliva samples were collected for DNA extraction, followed by PCR amplification and sequencing of previously reported candidate regions and metabolism-related candidate genes. Non-genetic factors were collected using questionnaires, including dietary preferences and habits, sleep duration, and previous residential history. Results and Discussion: In this study, two SNPs in gene ADRB2 were identified as genetic factors associated with DIT and postprandial BAT activity. Among non-genetic factors, the latitude of residence ten years prior was significantly negatively correlated with DIT. Our study discovered that SNPs in/near the ADRB2 gene were associated with variations in DIT and postprandial BAT activity in East Asians, and may influence BAT activity and DIT through suppression of ADRB2 expression. Furthermore, DIT activity appears under negative correlation in high-latitude East Asians, suggesting that DIT may not serve as the primary mechanism for maintaining body temperature in cold environments. These findings may contribute to identifying the causes of inter-individual differences in DIT among East Asian populations. We are currently conducting additional experiments involving 16 participants, and we plan to report on those results as well.

入浴による体温上昇度の違いが入浴後の深部体温および末梢からの放熱指標の推移に与える影響
前田享史(九州大・院芸術工)、 Keneth B. Sedilla(九州大・院芸術工)、古賀弘子(株式会社ノーリツ)、近藤勲(株式会社ノーリツ)、前川旭(株式会社ノーリツ)、樋口重和(九州大・院芸術工)
Effects of Bathing-Induced Body Temperature Rise on Post-Bath Changes in Core Temperature and Peripheral Heat Dissipation
Takafumi MAEDA, Keneth B. Sedilla, Hiroko KOGA, Isao KONDO, Akira MAEGAWA, Shigekazu HIGUCHI

ヒトを含む日中活動の霊長類は日内の体温変動と睡眠・覚醒リズムが密接に結び付いており,特にヒトでは夕刻以降の体温低下が睡眠開始を促すことが知られている。しかし,現代人の夜間生活環境はこの生理的変化を阻害し,睡眠に悪影響を及ぼす場合がある。一方で,就寝前の入浴などの受動的身体加温は,入眠潜時の短縮や睡眠効率の改善に寄与することが知られている。我々はこれまでに,就寝1.5–2時間前の入浴において,入浴に伴う体温上昇度の違いが就寝前までの体温変化および睡眠指標に及ぼす影響を検討し,直腸温0.5℃上昇させる入浴条件が睡眠への好影響を与えることを報告してきた。しかし,体温上昇度の異なる入浴が入浴後の体温調節に関連する生理指標の経時的変化に及ぼす影響は十分に明らかでない。そこで本研究では,体温上昇度の異なる入浴条件が深部体温および末梢-中枢皮膚温較差(distal-proximal skin temperature gradient:DPG)の推移に与える影響を検討した。DPGは末梢血管拡張による放熱状態を反映し,入眠の生理指標として重要であることが知られている。健康な若年男性を対象に,深部体温(直腸温)上昇度の異なる2条件(条件L:約0.5℃上昇,条件M:条件Lより体温上昇度を抑えた条件)および入浴なし(条件N)で比較し,入浴前から出浴後までの深部体温および皮膚温の変化を連続的に測定した。その結果,条件Lで入浴後2時間時に認められた深部体温および放熱に関連する皮膚温・DPGの変化と同様の推移が,条件Mではより早期から出現した。以上の結果から,体温上昇度を抑えた入浴は,就寝までの時間が限られる場合でも睡眠前に適した生理状態を早期に誘導する可能性が示唆された。これらの知見は個人の生活リズムや就寝時刻の制約に応じた入浴条件の最適化に寄与する可能性がある。

五島列島浜郷遺跡出土弥生人女性個体にみられた距骨骨折と踵骨病変
久保大輔(北海道大・総合博物館)、遠藤大輔、佐伯和信、弦本敏行、髙村敬子(長崎大・医歯薬学総合研究科)
A talar fracture and a calcaneal lesion in a Yayoi-period female from the Hamago site, Goto Islands
Daisuke KUBO, Daisuke ENDO, Kazunobu SAIKI, Toshiyuki TSURUMOTO, Keiko OGAMI-TAKAMURA

浜郷遺跡は,五島列島北部の中通島の海岸砂丘上に形成された弥生時代前期後半から中期前半の墳墓遺跡である。1960年代の発掘調査により出土した埋葬人骨61個体が長崎大学医学部に所蔵されている。遺跡の立地や安定同位体分析の結果から,被葬者集団は海洋資源への依存度が高い漁労民であったと考えられている。本研究では,浜郷遺跡出土人骨に認められる骨病変の実態を明らかにすることを目的として,古病理学的調査を実施した。骨病変の有無は肉眼観察によって評価し,認められた病変についてはマイクロスコープおよびCT撮像による詳細観察を行った。肉眼観察による調査の結果,腰部および足部に顕著な病変を有する熟年女性個体(浜郷50号)が確認された。腰椎では第1腰椎椎体に圧迫骨折が認められ,隣接椎体との癒合を伴っていた。右足部では距骨滑車上面から内果面,中踵骨関節面および後踵骨関節面に不完全骨折が観察された。骨折部の転位は顕著ではないが,反応性骨増殖による距骨溝(足根洞)の狭小化が認められた。また,右内側楔状骨には骨性隆起が認められた。一方,左足部では踵骨後部滑液包に面する領域に顕著な骨吸収が認められ,その周囲に骨修復像が観察されたことから,病変形成後に一定期間生存したことが示唆された。距骨骨折は足部骨折の中でも比較的稀であり,高所転落などの高エネルギー外傷との関連が知られている。距骨骨折が転位を伴うと無腐性壊死のリスクが高まることが知られているが,本個体では顕著な転位を伴わなかったことが,骨折後の治癒を可能にした一因であったと考えられる。距骨骨折と腰椎圧迫骨折はともに上下方向の強い荷重によって生じうる病変であり,共通の受傷機転に由来する可能性も考えられる。一方,左踵骨病変は,骨吸収像と骨修復像の組み合わせから,例えば,何らかの細菌感染症後の治癒過程である可能性も考えられる。

なぜ祖先の遺骨は収集され,「研究資料」とされたのか―アイヌ・琉球の人びとの問いに人類学はどう答えるのか
瀬口典子(九州大・比文,モンタナ大・人類)
Why Were Ancestral Human Remains Collected and Treated as “Research Materials”? — How Should Anthropology Respond to Questions Raised by Ainu and Ryukyuan Peoples?
Noriko SEGUCHI

アイヌおよび琉球の人びとは,遺骨の返還を求める過程で,なぜ自分たちの祖先の墓が開かれ,遺骨が持ち去られ,「研究資料」として利用され,大学・博物館等に保管されるに至ったのかについて,人類学者と,それらを収集・保管してきた機関に説明を求めている。本発表では,研究者の著作,遺骨の収集・保管記録,大学コレクションに関する資料,返還をめぐる文書を検討し,研究者と行政機関との連携が遺骨収集を可能にした過程を含め,その収集と保管を支えた歴史的条件を明らかにする。アイヌと琉球の遺骨は,「日本人」の起源や列島集団の形成過程を研究するための資料として利用されてきた。その研究では,頭蓋や骨格の形態比較に加え,のちにはDNA解析も用いられ,人間集団の分類や系統関係の解明が試みられた。しかし,資料の検討から,遺骨の収集はこうした学術的関心だけでは説明できず,近代日本による北海道・琉球の政治的統合と同化政策,ならびに研究者と研究対象とされた人びととの権力の非対称性によって可能になったことが示される。また,遺骨は論文,学位,教育,標本交換,大学コレクションの形成に利用され,研究者と研究機関に学術的利益をもたらした。研究目的や科学的成果を示すだけでは,アイヌおよび琉球の人びとの問いへの十分な応答にはならない。こうした歴史を踏まえると,遺骨返還を過去の不適切な収集と長期保管への事後的対応としてのみ捉えることは不十分であり,それだけでは人類学の歴史的・倫理的責任に向き合ったことにはならない。「なぜ祖先の遺骨は収集され,『研究資料』とされたのか」という問いに人類学がどのように向き合い,その歴史をどのように説明すべきかを検討する。

浜郷遺跡より出土した西北九州弥生人の大腿骨のCT画像を用いた形態解析と男女間比較
遠藤大輔、西啓太、佐伯和信、糸瀬賢、牧野まどか、弦本敏行、髙村敬子(長崎大・院医歯薬・肉眼解剖)
Analysis of Morphology and Sexual Difference Using CT Images of Femurs from the Yayoi People of Northwestern Kyushu Excavated at the Hamago Site.
Daisuke ENDO, Keita NISHI, Kazunobu SAIKI, Masaru ITOSE, Madoka Makino Toshiyuki TSURUMOTO, Keiko Ogami-TAKAMURA

大腿骨は立位時に体重を支えるとともに下肢の運動に関わる多くの筋が付着し、その形態は生活環境に大きく影響される。我々はこれまで、現代人のみならず、枌洞穴から出土した縄文人、横隈狐塚遺跡から出土した北部九州弥生人、浜郷遺跡から出土した西北九州弥生人の成人男性大腿骨についてCTによる撮像を行い、その画像に基づく定量的な形態解析を行いその結果を報告してきた。各集団間で皮質骨断面積、皮質骨占拠率、皮質骨の厚さ、粗線の発達、弯曲の程度は異なっており、生活環境を反映していると考えられた。今回、こうした形態的特徴に性差は認められるのか検討するために浜郷遺跡から出土した成人女性大腿骨6側について同様の形態解析を行い、これまでに解析した集団と比較した。その結果、大腿骨全体における骨幹部の断面積は全群のなかで最も小さい値を示した現代人女性と同程度に小さかった。一方で、皮質骨断面積は全体の中では現代人女性に次いで小さいものの、現代人女性より有意に大きかった。そのため、皮質骨断面積を全断面積で除した皮質骨占拠率は、浜郷男性、現代人男性、横隈狐塚出土男性と同程度であった。このことは、浜郷出土の女性大腿骨は一見細く華奢に見えるが、実際には男性大腿骨と変わらない程度に頑健であったことを示唆している。他の特徴としては粗線の発達程度に大きな個人差が認められたこと、骨幹部上部においては皮質骨が強く外側へ偏っていたことが挙げられる。粗線の発達程度については他の形態学的因子との相関から、皮質骨の偏りについては有限要素法を用いた力学的シミュレーション結果との対応からそれぞれその意義を検討していきたい。発表ではこれらの結果を総合し、浜郷遺跡における生活がどのように男女で異なっていたのか議論したい。

成熟相対体重指数(MRWI)の提唱:成熟年齢を加えた幼児期の肥痩識別
早川健太郎(名古屋経済大・人間生活科学部)、田中望(東海学園大・スポーツ健康科学部)、武山祐樹(愛知工業大・経営学部)、可兒勇樹(大阪成蹊大・教育学部)
Proposal of the Mature Relative Weight Index (MRWI): Identifying Underweight and Overweight in Early Childhood by Incorporating Mature Age
Kentaro HAYAKAWA, Nozomi TANAKA, Yuki TAKEYAMA, Yuki KANI

【目的】日本の幼児体格評価に用いられる肥満度は、成熟の個人差(早熟・晩熟)を考慮していない。そこで本研究は、身長年齢における体重パーセンタイルを「成熟相対体重指数(Mature Relative Weight Index:MRWI)」として、①全体の分布、②発育群分布、③ROC分析の3アプローチにより痩せ・肥満傾向閾値を設定し、肥満度との比較を行うことで新たに提唱できるかの検証を目的とした。【方法】A県下の協力園で実施された調査の横断的データ(男児945名・女児901名、計1850名、3.5〜6.0歳)を用いた。2000年厚生労働省乳幼児身体発育調査の月齢別身長50%ile値から身長年齢を算出し、月齢別体重LMS値を用いてMRWIを算出した。閾値設定には上記3アプローチを適用し、統計処理はRを使用した。【結果】 痩せ傾向の閾値は3アプローチからMRWI≒18に収束した(①3th=15.7、②晩熟群5th=16.0、③MRWI<18:感度1000、特異度0.964、AUC=0.9996)。肥満傾向の閾値はMRWI≧92を採用した(①97th=88.6、②早熟群5th=91.1、③MRWI≧92:感度0.759、特異度0.997、AUC=0.9984)。【考察】MRWIはWeight-for-Height Age Percentileとして、痩せ<18・肥満傾向≧92の両側閾値を設定できる新指標である。肥満度では見逃される体重の過不足、特に痩せや早熟群の肥満傾向の識別に有用であることが示された。

腰椎前弯角の変化が腰椎椎体の応力分布に及ぼす影響 ―有限要素解析による検討―
西啓太、遠藤大輔、糸瀬賢、牧野まどか、佐伯和信、弦本敏行、髙村敬子(長崎大・肉眼解剖学)
Effect of Changes in Lumbar Lordosis Angle on Stress Distribution in the Lumbar Vertebrae: A Finite Element Analysis.
Keita NISHI, Daisuke ENDO, Masaru ITOSE, Madoka MAKINO, Kazunobu SAIKI, Toshiyuki TSURUMOTO, Keiko OGAMI-TAKAMURA

【目的】腰椎前弯はヒトの直立二足歩行を支える重要な脊柱形態である。しかし,腰椎前弯角(lumbar lordosis angle:LL)の違いが椎体の力学環境に及ぼす影響は十分に明らかではない。本研究では,LLの異なる有限要素モデルを用いて,LLが腰椎椎体の力学環境に及ぼす影響を検討した。【方法】脊柱に著明な変形を認めない66歳男性遺体の死後CT画像をもとに,皮質骨,海綿骨,椎間板,終板および椎間関節をモデル化したT12~仙骨の有限要素モデルを作成した。立位・椅座位・床座位で報告されているLLを参考に,LL50°,LL30°,LL15°の3種類のモデルを作成した。各モデルに上半身荷重を想定した300 Nの圧縮荷重,および圧縮荷重に5 Nmの屈曲モーメントを付加した2条件で解析した。評価項目は前方皮質骨の平均相当応力,相当応力95%タイル値,最大主応力および最小主応力とした。【結果】LLの減少に伴い,前方皮質骨の相当応力および95%タイル値は増加した。特にLL15°モデルではL5への応力集中が相対的に減少し,L1~L5へより広く応力が分布した。さらに屈曲モーメントを付加すると,全椎体で応力が増加し,腰椎全体へ荷重が及ぶ傾向が認められた。【考察】LLの減少は,椎体前方皮質骨応力の増加と椎体応力分布の変化をもたらした。これらの知見は,腰椎前弯という形態的特徴が脊柱の力学環境に及ぼす影響を理解するための基礎的知見であり,加齢や椎体骨折後に生じる腰椎前弯の減少に伴う力学的変化を考察する上でも有用と考えられる。また,本研究で用いた有限要素解析は,古人骨における腰椎形態の機能的意義を検討するための新たな解析手法として応用できる可能性がある。

ヒトの形態特性と暑熱・寒冷環境下における体温調節反応との関連
名倉尭哉(九州大・院芸術工),西村貴孝(九州大・院芸術工)
Relationship between Human Morphological Characteristics and Thermoregulatory Responses in Hot and Cold Environments
Asaya NAGURA, Takayuki NISHIMURA

恒温動物の形態と気候適応に関するアレン・ベルグマンの法則では,寒冷地に適応した個体ほど体重に対して体表面積が小さく,末梢突出部が短くなることで熱放散を抑制するとされる。ヒトの体温調節能やエネルギー代謝応答においても,これら身長,体重などの形態特性の個人差が,寒冷ストレスに対する耐性や熱産生能に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究は,27℃から36℃に加温する暑熱曝露実験と,27℃から19℃へと冷却する寒冷曝露実験を実施した。曝露中の対象者の体温調節に関わる生理値を取得し,身体の形態特性が暑熱適応能,寒冷適応能に与える影響を明らかにすることを目的とした。

健康な若年成人を対象とし,各条件で80分間曝露した。直腸温,全身10部位の皮膚温・皮膚血流量,鎖骨上窩の組織温,15分毎の血圧・主観申告,呼気ガスなどの生理値を取得し,最後にマルチン式計測器を用いて形態特性を精緻に計測し,円柱モデルで体表面積などを概算した。

暑熱曝露実験では,総発汗量と体表面積/体重の関係に負の相関傾向(r=-0.34, p<0.10)が見られ,先行研究と同様に発汗に依存せず,血流による体温上昇を抑えられる可能性を示唆した。また,総発汗量とBMIの関係には有意な正の相関傾向(r=0.31, p<0.10)が見られ,ヒトの体温調節反応において,大型な体格は水分保持の観点から,暑熱時において不利であることが示唆された。これらはベルグマンの法則に矛盾しない結果であった。寒冷曝露実験の解析も進めており,暑熱時とは逆に体表面積/体重が小さい個体や,断熱層としての皮下脂肪厚が厚い形態特性を持つ個体ほど有利に働くことがわかれば,寒冷環境においても現代人がアレン・ベルグマンの法則と矛盾しないことが証明できる。ただし,これらのデータはあくまでも現代の社会環境における現代人の結果であるため,古人類の形態と温熱環境への適応については慎重な議論が必要であると考える。

医療的ケア児の訪問看護に関する興味・自信の構造と心理的要因の検討:医療的ケア児訪問看護未経験の訪問看護師向け,教材開発における事前調査より
山本直子(長崎県立大学看護栄養学部),水野昌美(鹿児島大学医学部),富田義人(東京保健医療専門職大学リハビリテーション学部),水上諭(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野),有馬和彦(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野)
Psychological Factors Associated with Interest and Confidence in Home Based Nursing Care for Children Requiring Ongoing Medical Care :Implications for Educational Material Development for Inexperienced Home-Visit Nurses
Naoko Yamamoto, Masami Mizuno, Yoshihito Tomita, Satoshi Mizukami, Kazuhiko Arima

医療的ケア児(以下医ケア児)の訪問看護師不足が深刻である。医療専門職の心理的多型性を理解し,より良い医療の提供に貢献することは,公衆衛生の観点から重要である。本研究では,医ケア児の訪問看護が未経験の訪問看護師(以下,未経験訪問看護師)が抱く,医ケア児の看護技術に対する興味と自信とのギャップ,および医ケア児の訪問看護への興味と心理的特性(好奇心)を記述し,心理的特性の群間比較を示す。我々は,2025年11月~2026年4月,未経験訪問看護師85人を対象に無記名の質問紙調査を行った。調査項目は,基本属性,知的好奇心(拡散的・特殊的),5つの看護技術(人工呼吸器等の取り扱い方,気管内吸引,カニューレバンドとガーゼ交換,家族とのコミュニケーション,家族との緊急時の電話対応)および医ケア児の訪問看護への興味と自信である。興味と自信に関しては4件法リッカート尺度を用いて評価検討した(IRB承認番号r6029)。結果1)全体比較:5つの看護技術に対する興味を評価するスケールに,有意な偏りがあった(p<0.001))。個別比較:家族とのコミュニケーション,家族との緊急時の電話対応においてスケールに差を認めた。結果2)群間比較:医ケア児への訪問看護に興味あり群では有意に所属施設が医ケア児の訪問看護を実施又は実施予定である(p=0.002),5つすべての看護技術に興味がある(p<0.001),知的好奇心(拡散的)のスコアが高かった(p=0.007)。以上より,医ケア児の訪問看護への興味を促進するためには,未経験訪問看護師の探求心へのポジティブな働きかけ,自信が低い看護技術に対してスモールステップの学習支援が効果的である可能性がある。本研究に関する利益相反はない。

色覚・世代の違いおよび照明環境を考慮したフロアマップ配色の視認性評価
福田裕美、河野真悟(北九州市立大学・国際環境工学部)
Evaluation of the Visibility of Floor Map Color Schemes Considering Color Vision Differences, Age Differences, and Lighting Conditions
Yumi FUKUDA, Shingo KAWANO

近年、商業施設ではデジタルサイネージによるフロアマップ表示の普及が進んでいる。一方で、照明環境や利用者の色覚特性、加齢に伴う色知覚の変化が視認性に及ぼす影響については十分な検討がなされていない。本研究では、色覚・世代・照明環境を考慮したフロアマップの配色評価を行い、多様な利用者に配慮した配色設計の基礎的知見を得ることを目的とした。色校正ディスプレイ(Adobe RGB色域)を用い、Adobe Illustrator(ver.28.0)の色覚シミュレーション機能およびPokornyらのTwo-Factorモデルを組み合わせることで,一般色覚,P型強度,D型強度について若年者・高齢者を含む計6種類の視覚条件を再現した。照明条件は昼白色および電球色とし,フロアマップ配色の識別しやすさを評価した。さらに,色相差,彩度差,明度差および色面積を説明変数として重回帰分析を行い,評価に寄与する要因を検討した。その結果,高齢者視覚では評価の低い配色ほど電球色照明下で視認性がさらに低下する傾向が認められた。一方,高評価の配色では照明条件による影響は小さかった。また,若年者の全色覚および高齢者の一般色覚では色相差が主要な要因となり,若年者のP型・D型強度では彩度差も評価に寄与した。さらに,高齢者のP型・D型強度では彩度差が最も重要な要因となった。加えて,P型強度を除き明度差が大きいほど評価が向上する傾向がみられ,色面積については,一方の領域が小さい配色ほど評価が高くなる傾向が示された。以上より,色覚特性や加齢によって視認性に寄与する配色要因が異なり,照明環境がその影響を増幅する可能性が示された。本研究により,色覚特性,加齢および照明環境がフロアマップ配色の視認性に及ぼす影響が明らかとなり,多様な視覚特性に配慮した視覚情報提示およびデジタルサイネージの配色設計に有用な基礎的知見が得られた。

沖永良部島イクサィヨー洞穴遺跡第7次発掘調査速報
竹中 正巳(志學館大・人間関係),大西 智和(鹿児島国際大・国際文化),鐘ヶ江 賢二(鹿児島国際大・ミュージアム),中村 直子,寒川 朋枝(鹿児島大・埋文調査センター),仲田眞一郎,森田大樹(知名町教委)
A prompt report of seventh archaeological excavation of Ikusaiyo cave site, Okinoerabu Island, Kagoshim
Firstname LASTNAME, Masami TAKENAKA, Tomokazu ONISHI, Kenji KANEGAE, Naoko NAKAMURA, Tomoe SANGAWA, Shinichiro NAKATA, Daiki MORITA

沖永良部島の新たな先史時代人骨の発見を目指して,イクサィヨー洞穴遺跡(鹿児島県大島郡知名町余多)の発掘調査を2021年度から開始した。墓域は太平洋側と余多川側の洞⼝開⼝部に存在する。洞穴内にも,古人骨が散見される。太平洋側の海食崖側洞口調査区では,2トレンチで再葬墓に加え,石棺墓が存在することが2023 年度(第4次調査)までにわかった。第5次調査(2024年)では,石棺(海食崖側洞口の調査区)内に伸展葬の1体の人骨が埋葬されていることがわかった。この人骨は右手首に貝輪を着装している。余多川側⼊口部の洞口付近でも,2基(2023-1・2号墓)の再葬墓を発見している。2023-1・2号墓は大きな石灰岩間の隙間に人骨を収めた再葬墓である。今回は,第7次調査(2026年8月実施)の成果の一部を速報する。

個別中立気温を基準とした暑熱・高湿度環境における体温調節応答およびその個人差の検討
堀内 扇流(九州大・院芸術工),井上 茂之(PPMV Project),Keneth B. Sedilla (九州大・院芸術工),前田 享史(九州大・院芸術工)
Investigation of Thermoregulatory Responses and Individual Variability in Hot Environments Based on Individually Determined Neutral Temperatures
Senryu HORIUCHI, Shigeyuki INOUE, Keneth B. SEDILLA, Takafumi MAEDA

近年,地球温暖化の進行に伴い,暑熱環境下における熱中症や作業効率低下のリスクが増大している。ヒトは体格や体組成の違いにより環境に適応するための体温調節反応が異なり,この傾向はアレンおよびベルグマンの法則とも整合する。このため,同一の温熱環境においても生理的熱負荷には個人差が生じると考えられる。しかしながら,従来の暑熱曝露研究では被験者に一律の環境条件を設定することが多く,個人差を十分に考慮した評価は行われていない。そこで本研究では,被験者間の熱的中立状態の差異を考慮するため,被験者ごとに設定した中立気温を基準として暑熱環境を設定し,暑熱曝露時の生理応答を評価することで熱ストレス応答の個人差について検討した。対象は健康な成人男性20名とした。各対象者の体格指標に基づき中立気温を設定し,その気温を基準として高温条件(中立気温+4℃・60%RH,+6℃・60%RH)および高温高湿条件(中立気温+2℃・80%RH,+4℃・80%RH)を設定した。中立気温下で40分間の安静を行った後,各条件下において60分間の座位安静による暑熱曝露を実施した。生理指標として皮膚温,直腸温,耳内温,前腕部局所発汗量を測定し,主観指標として温冷感,快適感を評価した。平均皮膚温変化量は,すべての高温・高温高湿度条件で中立条件より有意に高値を示した。また+4℃60%条件および+6℃60%条件は+2℃80%条件と比較して有意に高値を示した。被験者間のばらつきを評価するために平均皮膚温変化量の変動係数を算出したところ33.9%~51.8%を示し,条件によってばらつきの程度が異なった。以上より,個別中立気温を基準とした場合でも暑熱ストレス応答には依然として個人差が存在し,その程度は環境条件によって変動する可能性が示唆された。今後は,暑熱環境に対する生理応答の個人差を規定する要因について,さらなる検討が必要である。

縄文時代から江戸時代にかけた距骨形態の集団差
萩原康雄(新潟医療福祉大)、中村真由(新潟大学病院)、中原優斗(新潟医療福祉大)
Temporal and Population Variation in Talar Morphology from the Jomon to the Edo Periods in the Japanese Archipelago
Yasuo HAGIHARA, Mayu NAKAMURA, Yuto NAKAHARA

骨形態は様々な要因の影響を受け、その一つに荷重様式や活動負荷などの機械的ストレスがある。足部を構成する距骨は体重支持および足関節の運動に重要な役割を果たすが、狩猟採集や農耕のような活動性や生活様式の異なる集団間での形態差は十分に検討されていない。本研究では日本列島の縄文時代、弥生時代、江戸時代集団および北海道オホーツク文化期集団を対象に、相同モデルを用いた距骨の三次元形態分析を行い、距骨形態の時代・集団間の差異を明らかにすることを目的とした。対象は各時代の遺跡出土人骨男女計412個体の距骨である。これらを3Dスキャナーで計測後、HBM-Rugleを用いて相同モデル化し、主成分分析を行った。結果として、PC1は全体の大きさを、PC2は距骨滑車内側の高さ、距骨滑車の前後長、内果関節面の前後位置を、PC3は距骨頭の内外側の位置と外果関節面弯曲の程度にそれぞれ関連すると解釈した。そして、PC1は弥生時代集団で他集団と比較して低い(距骨が大きい)傾向に、PC2は縄文から弥生・オホーツク、江戸と時代を経るに伴い高く(距骨が相対的に長く、高く、内果関節面が後方へ位置する)なる傾向に、PC3は弥生時代集団で低い(距骨頭と距骨体が直線的)傾向をそれぞれ示した。距骨形態に関する先行研究では、縄文時代集団では距骨が低く、幅広いことなどが示されているが、PC2で認めた縄文集団の傾向はそれと一致する。また、弥生時代集団は縄文・江戸時代集団より高身長であることが報告されており、今回のPC1の傾向もその体格差の傾向と一致する。また、狩猟採集集団では定住集団と比較して距骨頭が内側に偏移し、内果関節面が前方に位置することなどが示されており、PC2やPC3の傾向は先行研究と矛盾しない。本研究でみられた距骨形態の集団差は、祖先集団の違いの影響も考慮されるが、各集団の生業活動も影響した可能性が高い。

エピジェネティッククロックを用いたモンゴル人集団における生物学的老化機構の探索
稲葉勇太(東京大・新領域)、中山一大(東京大・新領域)、西村貴孝(九州大・芸工)、本井碧(九州大・芸工)、有馬弘晃(長崎大・熱医研)、勝村啓史(九州大・芸工)、太田博樹(東京大・院理)、前田享史(九州大・芸工)
Exploring Biological Aging Mechanisms in Mongolians Using Epigenetic Clocks
Yuta INABA, Kazuhiro NAKAYAMA, Takayuki NISHIMURA, Midori MOTOI, Hiroaki ARIMA, Takafumi KATSUMURA, Hiroki OOTA, Takafumi MAEDA

エピジェネティッククロックは,加齢に伴うDNAメチル化変化を用いて生物学的年齢を推定するモデルである。老化は生活環境,食生活,集団史の影響を受けうるため,異なる環境に適応してきた集団でその挙動を比較することは,人類集団における生物学的多様性を理解するうえで重要である。その中でもモンゴル人は,寒冷・乾燥で季節性の強いステップ環境に居住し,遊牧生活を営んできた集団であり,環境史と生物学的老化の関係を検討するうえで有用な対象である。先行研究では,モンゴル人集団では,エネルギー代謝に関わる遺伝子への正の自然選択や,活性酸素種代謝,糖脂質生合成経路に関わる遺伝子群のDNAメチル化の変化が報告されている。本研究では,これらの遺伝的・エピゲノム的特徴がエピジェネティッククロックに反映されるかを検討した。全血DNAメチル化データから,モンゴル人男性23名(50.4±8.8歳),タイ人男性24名(49.5±8.4歳),中国人男性58名(61.1±15.3歳),日本人男性12名(23.8±2.9歳)を対象に,Hannum,Horvath,PhenoAgeを推定した。推定年齢から暦年齢,性別,血液細胞組成の影響を除いた残差をIntrinsic Epigenetic Age Acceleration (IEAA)として算出し,モンゴル人と農耕集団である日本人・中国人・タイ人の比較集団との差を評価した。その結果,モンゴル人ではHannum IAEEが高く,Horvath IAEEが低い傾向を示す一方,PhenoAge IAEEに明確な差はみられなかった。CpGごとの寄与解析では,ELOVL2FHL2NHLRC1などが集団間におけるエピジェネティッククロックの差に関与する候補として検出された。Hannum,Horvath,PhenoAgeで異なる方向性が得られたことは,モンゴル人の生物学的老化が一様に加速または減速しているのではなく,各クロックモデルが捉える老化側面に応じて異なることを示す。本研究は横断的かつ探索的であるが,環境史,食生活,遺伝的背景,エピゲノム制御が交差する集団特異的な老化像を検討する基盤となる。

夜のアルコール摂取が行動抑制課題時の脳活動に与える影響
安田幸太郎(九州大・芸術工学府),申㽋敬,西村英伍,本井碧,西村貴孝,勝村啓史(九州大・芸術工学研究院),豊島秀夫(福岡浦添クリニック),夏亜麗,大橋智昭(株式会社本田技術研究所),栗山斉昭(ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン),宮内友那(株式会社本田技術研究所),元村祐貴,樋口重和(九州大・芸術工学研究院)
Effects of Evening Alcohol Intake on Brain Activity During Behavioral Inhibition Tasks
Yukitaro YASUDA, Shin NAKYEONG, Eigo NISHIMURA, Midori MOTOI, Takayuki NISHIMURA, Takafumi KATSUMURA, Hideo TOYOSHIMA, Yali XIA, Tomoaki OHASHI, Nariaki KURIYAMA, Yuna MIYAUCHI, Yuki MOTOMURA, Shigekazu HIGUCHI

適度な飲酒はリラクゼーション効果をもたらす一方で,中枢神経系を抑制し,行動抑制能を低下させる。抑制機能に関連する脳活動の指標として,事象関連電位(ERP)で抑制に伴う葛藤や刺激評価を反映するN2成分およびP3成分が知られているが,飲酒による経時的な変化に着目した研究は十分ではない。本研究は,アルコール摂取が行動抑制機能に与える影響をGo/Nogo課題中のERPから捉えられる認知処理過程の変化として検討することを目的とした。実験対象者は,先行研究の参加者93名から,アルコール代謝に関与する遺伝子ADH1Bと,ALDH2の遺伝子型に基づき選定された健康な若年成人21名(女性8名,22〜25歳)とした。プラセボ条件と飲酒条件のクロスオーバーデザインを採用した。各条件において,飲酒前から飲酒開始後100分までの複数の時点で呼気中アルコール濃度(BrAC),主観的酩酊度,およびGo/Nogo課題を測定した。課題中の脳波は国際10-20法に基づく前頭(Fz),中心(Cz),頭頂(Pz)の電極から導出し,ERP波形におけるN2およびP3成分の潜時と振幅を算出した。各指標について飲酒前の時点を基準とした変化量を,条件間で比較した。飲酒開始後40分時点では,No-go試行におけるコミッションエラー率は飲酒条件で有意に高かった(p = .014)。ERPについて条件間で比較した結果,反応を正しく抑制できた試行では,飲酒条件でP3振幅が有意に小さかった(p = .009)。一方,抑制に失敗した試行においては,飲酒条件でN2潜時が有意に延長し(p = .007),P3振幅が有意に小さかった(p = .014)。これらの結果から,アルコール摂取によって行動抑制機能が低下しているとき,抑制が成功している場合でも刺激を評価する認知資源の配分が変化していた可能性が示唆された。さらに,刺激提示後約200 msのN2成分が誤反応と関連している可能性が考えられる。今後,これらのERP成分とエラー率や反応時間等の行動指標との関連について,詳細な検証を進める予定である。

近年における幼児の世界的身長分布と環境要因との関係構図
可兒勇樹(大阪成蹊大・教育学部)、田中望(東海学園大・スポーツ健康科学部)、早川健太郎(名古屋経済大・人間生活科学部)、武山祐樹(愛知工業大・経営学部)
Determinants of Early Childhood Height Distribution Worldwide: A Recent Perspective on Environmental Factors
Yuki KANI, Nozomi TANAKA, Kentaro HAYAKAWA, Yuki TAKEYAMA

【目的】可兒・藤井(2024)は、歴史的な身長データにスパン評価チャートを適用し、身長分布に「西高-東低」の経度パターンが存在する可能性を見出し、K&F理論(Kani and Fujii理論)を提唱した。また、世界200カ国を対象とした男女データ(1990年〜2020年)を用いた解析において、ヨーロッパからアジアへ東進するにつれて身長分布が低下する一貫した知見が得られた。成人期に見られるこの構図が、発育の極めて早い段階である幼児でもすでに形成されているか検証することを目的とした。【方法】NCD_Riscから公表されている、200カ国(1990年~2020年)の5歳女児の平均身長のデータを使用する。解析の手続きは、2年刻みの平均値と各年の平均値±0.5SD・±1.5SDの標準偏差値に対してウェーブレット補間モデルを適用し、作成された経年的スパン評価チャートに、国別のデータを当てはめ、実際の評価を行う。【結果】5歳女児の身長の経年スパン評価チャートを構築することができた。ヨーロッパは全体的に他の地域に比べ高い基準を推移する国が多かった。東アジアでは“標準”を推移する国が多く、南・東南アジアは、やや低い・低いを推移する国がほとんどであった。北米では、標準を推移しているのに対して、オセアニアや中南米は、ばらつきが大きく、様々な評価帯を示した。アフリカでは、サハラ以南は、やや低い・低いを推移する国が多かった。【考察】ヨーロッパを基点に東へ移動するほど身長が低くなる「西高―東低」傾向を、極めて発育初期段階である5歳児の段階において、すでに定着しているという本研究の結果は、K&F理論を強く支持する新たな知見を得ることができた。

色覚マイノリティのニシチンパンジーはどこから来たのか?
早川卓志(北海道大・地球環境),平田聡(京都大・野生動物)
The origin of a color-vision minority in western chimpanzees
Takashi Hayakawa, Satoshi Hirata

特定の波長域の光を吸収するLオプシンとMオプシンの遺伝子の片方が欠失するか,あるいは片方の吸収スペクトルが他方に近くなるような変異が,ヒト集団には少なくない頻度であり,その結果,赤緑色覚の個人差が生まれている。一方で赤緑色覚の仕組みを進化的に共有する非ヒト狭鼻猿類では,赤緑色覚変異はほぼ見られず,稀な事例として,日本で飼育されている野生由来のオスのニシチンパンジー(個体名ラッキー)に,Lオプシン変異が見つかっている。ラッキーはアフリカのどこから来たのだろうか? 本研究ではラッキーが持つ全てのエクソンの配列(エクソーム)を決定した。これを先行研究で報告された,西アフリカ各地のニシチンパンジーの糞DNAに由来するエクソーム配列と,ほかの日本の飼育下の野生由来ニシチンパンジー5個体と比較した。糞エクソームは品質がよくないため,十分なマッピング深度が得られたサンプルに絞り,最終的に西アフリカ7か国16地域70個体のデータを揃えた。IBS距離に基づく常染色体エクソンの個体間の遺伝距離行列を計算したところ,サンプル採集地域間の地理距離行列と,有意な相関があった。この既知の遺伝距離行列と地理距離行列の対応関係に基づき,由来地域不明の飼育個体からの遺伝距離を満たす地理的な位置を,最適化アルゴリズムであるL-BFGS-B法によって推定したところ,ラッキーを含むすべての個体で,マリ―ギニア―コートジボワールの3か国の国境周辺である可能性が示された。しかし,この地点から大西洋側にかけての地域はチンパンジーの遺伝調査が十分でなく,西方とはニジェール川で分布が分断されているため,実際の由来地域はもっと南西側かもしれない。「色覚マイノリティ」のチンパンジーが本当にこの地域に由来するのか,またその子孫が今もいるのか,そしてこの地域における選択圧が色覚の進化にどう影響を与えたのか,今後の調査が期待される。

ニホンザル(Macaca fuscata)に対する動物観の多様性~高校生と高齢者の比較から~
赤見理恵((公財)日本モンキーセンター), 松本誠太(中部大学春日丘高校)
Diversity of attitudes toward Japanese macaques (Macaca fuscata) - A Comparison Between High School Students and elderly people-
Rie AKAMI, Seita MATSUMOTO

動物園や地域社会でおこなわれる環境教育では、知識や技能の習得だけでなく認識や態度の変化も重要だとされる。しかし知識や技能に比べ認識や態度は測定が難しい。古くから日本人との関わりが深いニホンザルを題材とする場合、人々が触れる情報源はマスメディアや動物園だけでなく、昔話、野猿公苑、獣害関係など多岐にわたり、動物観も多様であることが予想される。そこで本研究ではニホンザルに対する動物観の多様性、特に世代による違いを明らかにすることを目的に、高校生と高齢者を対象とした自由連想法による調査をおこなった。「ニホンザル」を刺激語として想起された言葉を5つ挙げてもらう方法で、高校生のデータは中部大学春日丘高等学校インターアクトクラブが実施した高校2年生対象の調査結果を用いた(中部大学春日丘高校, 2026)。高齢者のデータは2026年5月に愛知県K市の高齢者教室参加者を対象に、霊長類に関する講演を聞く前に調査を実施した。高校生116件、高齢者321件の有効回答を得た。表記ゆれや類似語統一、複合語分割などの事前処理をおこない、高校生853語、高齢者3,891語を対象としてKH Coder 3で分析した。1人あたりの出現平均語数は高校生7.4語、高齢者12.1語で、回答環境の違いもあろうが高校生において動物観もしくは語彙の多様性が低いことが伺えた。頻出語は高校生で温泉(45.7%)、日本(37.1%)、赤い(36.2%)、高齢者で賢い(38.3%)、かわいい(29.3%)、赤い(24.9%)が上位を占めた。高校生に特徴的な回答として、「絶滅」「希少」が、高齢者に特徴的な回答として「畑」「荒らす」など獣害に関わる言葉や「桃太郎」「猿蟹合戦」などがあった。今後はこれらの中から動物観を特徴づける項目を抽出し、動物園や地域社会でおこなわれる環境教育の効果測定など、多様な場面で使用・比較できる動物観尺度を作成したい。

世界9地域における思春期発育スパート発現様式の比較-グローバルデータを用いた発育速度曲線解析-
田中望(東海学園大学)、早川健太郎(名古屋経済大・人間生活科学部)、武山祐樹(愛知工業大・経営学部)、可兒勇樹(大阪成蹊大・教育学部)
Regional Comparison of the Expression Patterns of the Pubertal Growth Spurt: An Analysis of Growth Velocity Curves Using Global Data
Nozomi TANAKA, Kentaro HAYAKAWA, Yuki TAKEYAMA, Yuki KANI

【目的】世界の各地域における身長発育には,思春期発育スパートの発現様式に類似性と相違性が存在する可能性がある。本研究では,世界9地域の身長発育について,思春期スパートの観点からその地域差と規則性を捉え,あわせて身長との関連を検討することを目的とした。【方法】NCD-RisCウェブサイトに公表された世界9地域の男女平均身長を用い,2019年に19歳となる5~19歳の出生コホートデータセットを作成した。各データセットにウェーブレット補間モデルを適用し,身長の現量値曲線および発育速度曲線を導出し,take-off,MPV,spurt-endに関する年齢,速度,期間,および各時点の身長を思春期ピーク関連指標として特定し,地域間で比較・検討した。【結果】思春期ピークの発来はEast and South East AsiaおよびHigh-income Asia Pacificで早く,South AsiaおよびSub-Saharan Africaで遅い傾向を示した。思春期スパート期間は男子ではCentral Asia and North Africa-Middle East,女子ではSouth Asiaで最も長く,男女ともにHigh-income Asia Pacificで最も短かった。これは男子ではMPV前,女子ではMPV後の期間の長さと関連していた。Sub-Saharan Africaでは思春期スパート期間中の発育量が大きく,同等の発育量を示す他地域より短期間で発育を達成していた。Pearsonの相関係数による検討では,思春期スパートの期間および発育量と身長との間に有意な関連は認められなかった。【考察】思春期スパートの年齢,速度,期間には世界の地域において一定の規則性が認められる一方,それらは身長の高さとは独立していた。このことは,発育過程の時間構造と,環境要因の影響を受けやすい身長とは同一の規定因によって説明されないことを示唆するものと考えられた。

沖縄県具志川島遺跡群出土の焼人骨について
屋比久大翔(沖縄県立埋蔵文化財センター)、土肥直美(元琉球大学医学部)
On the Burnt Human Bones Unearthed from the Gushikawa Island Site Complex, Okinawa Prefecture
Hiroto YABIKU, Naomi DOI

伊平屋島と伊是名島の間に位置する具志川島には、貝塚時代前3期~前4期(縄文時代中期~後期相当)の遺跡群が所在している。当遺跡群の中には、砂丘地の岩陰を利用した崖葬墓も含まれており、1977~1979、1981年、2006~2009年にわたり発掘調査が実施された。発掘調査ではこれまでに、計90体以上の貝塚人が葬られていることが判明している。その多くは風葬によって骨化しているが、中には焼骨や火葬骨が含まれることが当初の調査時より指摘されており、貝塚時代の葬法の多様性を示す資料となっている。貝塚時代の葬墓制として石棺墓や土坑墓などへの埋葬が知られているが、焼骨や火葬骨といった資料は多くなく、遺体を燃焼させるという行為は特殊葬法であるといえる。そこで、焼骨や火葬骨を詳細に検討することで、貝塚時代の葬墓制の一端を明らかにすることを目的として再整理を行った。

今回、改めて具志川島遺跡群出土の人骨を再整理したところ、これまで骨の色調や被熱によるねじれ等から、焼骨と火葬骨とに大きく大別していたもの同士が接合することが判明した。焼骨や火葬骨は小片であったことから詳細な検討を行うことが困難であったが、再整理により多くを復元したことで詳細に焼人骨を観察することができるようになり、いくつかの新知見を得ることができた。

一つは、焼人骨の被熱痕が帯状に広がるという特徴があることが分かり、燃焼方法を検討する材料を得ることができた。また、骨の前面に被熱を強く受けるものと背面に強く受けるものがあり、仰向けでの燃焼とうつ伏せによる燃焼等、遺体の燃焼方法が一様でないことも分かった。その他、燃焼された遺体は成人、未成人問わず年齢による差異も認められないことが判明した。

今後も継続的な整理及び分析によって、火葬のタイミングや遺体を燃焼させることの意味などがより明確になり、貝塚時代の多様な葬法を検討する一材料になることが期待される。

二重構造モデルを背景とした近代日本人地域集団の顔面骨格形態変異:三次元幾何学的形態測定による予備的検討
大野憲五(佐賀大・法医),川久保善智(佐賀大・解剖人類),池田知哉(佐賀大・法医)
Regional Variation in the Facial Skeleton of Modern Japanese Crania in the Context of the Dual Structure Model: A Preliminary Three-Dimensional Geometric Morphometric Study
Kengo OHNO, Yoshinori KAWAKUBO, Tomoya IKEDA

日本列島人の形成過程については,縄文人を基層とし,弥生時代以降に大陸から渡来した集団が加わったとする二重構造モデルが広く議論されてきた。このモデルに基づけば,縄文系集団に対する渡来系集団の影響は地域によって一様ではなく,その違いが近代日本人の形態的地域差にも反映されている可能性がある。頭蓋顔面形態においても,縄文人と北部九州・山口地方弥生人の違いは従来から指摘されてきたが,その多くは二次元的計測値や肉眼的観察に基づくものであった。とくに,縄文人では眉間部・鼻根部の凹凸が強く,幅広い鼻骨や相対的に低い顔面が特徴とされる一方,北部九州・山口地方弥生人では鼻根部が比較的平坦で,上下に高い顔面形態を示すとされてきた。本研究では,縄文人,北部九州・山口地方弥生人,および北部九州・関東・東北の近代日本人男性頭蓋を同一の三次元形態空間上で比較し,二重構造モデルで想定される縄文系集団と渡来系集団の混合過程が,顔面形態の時代的変異および近代日本人内の地域的変異にどのように反映されるかを予備的に検討することを目的とした。取得した三次元座標に一般化プロクラステス解析を適用し,主成分分析により主要な顔面形態変異を検討した。また,鼻根部周辺と顔面主要部をランドマークサブセットとして設定し,PLS解析により共変動を評価した。現時点の解析では,縄文群は弥生群および近代日本人各地域群とは比較的異なる分布傾向を示し,従来指摘されてきた縄文—弥生間の顔面形態差と整合する結果が得られた。一方で,弥生群と近代日本人各地域群の間には広い重なりが認められ,近代日本人内の地域差については,各地域群の分布に一定の偏りが示唆されるにとどまった。また,鼻根部形態と顔面主要部形態の間には有意な共変動が認められた。

新潟県長岡市本行寺に安置されている南北朝頭蓋の復顔
川久保善智(佐賀大・解剖人類),並木修司(東京科学大・法歯学),宇都野創(東京科学大・法歯学),竹下直美(佐賀大・法医学),米田穣(東京大学総合研究博物館),辰巳晃司(新潟医療福祉大・自然人類学研究所),奈良貴史(新潟医療福祉大・自然人類学研究所)
Facial Reconstruction of a Nanbokuchō-Period Human Skull Housed at Hongyōji Temple, Nagaoka, Niigata, Japan
Yoshinori KAWAKUBO, Shuuji NAMIKI, Hajime Utsuno, Naomi TAKESHITA, Minoru YONEDA, Koji TATSUMI and Takashi NARA

1913年,新潟県長岡市で落水川(現・島崎川)の改修工事中に,毛抜形太刀や条切鋏とともに4体分の頭蓋が出土した。このうち2体は現在も本行寺に安置されており,本研究ではそのうちの1体を対象に復顔を行った。炭素年代測定の結果,この個体の死亡年代は西暦1305~1365年と推定され,南北朝時代に相当する。復顔は,レーザースキャナで取得したデータを基に3Dプリンタで作製した頭蓋レプリカに粘土を付加して造形するManchester法を基本としたが,下顎骨が欠損していたため,相同モデルを用いて頭蓋に対応する下顎を推定し,3Dプリンタで造形した後,復顔を進めた。また,相同モデルを用いて顔面骨格から鼻部を中心とする皮膚表面形状を推定し,鼻尖位置や鼻翼幅などを復顔の参考とした。中世人には長頭や低顔などの特徴がみられることが知られているが,本頭蓋では長頭傾向は比較的弱い一方,上顔高が低く,鼻根部が平坦であるという特徴が認められた。これまでにも各時代の人骨を対象とした復顔は行われてきたが,中世人を対象とした事例は少ない。本発表では,復顔の過程とその結果について報告する。

モンゴル高原人骨の安定同位体分析による帝国の興亡が食習慣に与えた影響の考察
板橋悠(筑波大・人文社会系)、吉原愛貴、中村愛美(筑波大・人文学類)、ツェンド・アムガラントクス、バトムンフ・ツォグトバータル(モンゴル科学アカデミー考古学研究所)、白石典之(新潟大・人文学部)
Impact of the rise and fall of the empire on diet based on stable isotope analyses of human bones from Mongolia
Yu ITAHASHI, Manaki YOSHIHAEA, Manami NAKAMUEA, Tsend AMGALANTUGS, Batmunkh TSOGTBAATAR, Noriyuki SHIRAISHI

本発表は,13世紀に広大な領域を版図に収めたモンゴル帝国期を中心に,モンゴル高原に居住した人々の食習慣の復元と帝国の興亡に伴う変化を明らかにすることを目的とする。「モンゴル帝国」は,西暦1206 年にテムジンがチンギス・カンの尊号を得て成立し,一時は中国王朝の「元」として中国の大部分も支配下においた。しかし,1368 年に明朝が成立して中国での支配権を失い、1388 年頃にはモンゴル高原においてもテムジンの系譜による支配は衰退した。従来,モンゴル帝国期の食習慣は家畜の肉や乳製品等、動物性タンパク質を中心とする遊牧民的なものであったとされてきた。しかし近年には,文献史料や考古学的成果によってキビ等のC4植物や水産物の摂取,および帝国の拡大に伴う食文化の多様化が指摘されている。食習慣を復元する方法として,本発表では遺跡出土人骨コラーゲンの炭素・窒素安定同位体分析,およびアミノ酸の窒素同位体分析を実施した。分析の結果,モンゴル帝国期以前には淡水産資源の利用が見られた一方で,帝国期以降は明確な水産資源の寄与は見られなくなった。また,元朝成立に伴う中国文化の流入でキビなどのC4植物の消費が増えることが予想されていた。しかし,モンゴル帝国成立と同時期にはC4植物の寄与の増加は見られない一方で,帝国の解体と気候悪化があったとされる15世紀にはC4植物の寄与が低調になる傾向が見られた。また,この時期には動物性タンパク質の寄与率も減少しており,肉や乳製品の利用も低調になっていたことが明らかとなった。骨の炭素・窒素同位体分析で見える結果は食資源の構成比であり,摂取カロリーの増減を意味していない。しかし,キビなどのC4穀物や家畜由来の動物性食物の減少は,モンゴル帝国解体後にモンゴル高原で食糧難があったとする仮説と関係している可能性がある。

日本モンキーセンターにおける学校連携の20年 ~霊長類学・人類学の裾野を広げる取り組み~
高野智,赤見理恵(日本モンキーセンター)
20 years of museum-school cooperative education programs concerning primatology and anthropology at Japan Monkey Centre
Tomo TAKANO, Rie AKAMI

どのような学問分野にせよ,次代を担う若い世代にその分野の魅力をアピールし,興味をもってもらうことは重要だろう。そのように捉えられているからこそ,多くの学会で中高生ポスター発表などの機会が設けられているのだろう。また,学問の魅力に触れた若者が必ずしも研究の道に進む必要はない。関心をもち続けてくれれば,その分野の支援者だと言えるだろう。学会に限らず,博物館などの社会教育施設も,学問の世界に関心をもってもらう入り口として機能しうる。発表者らは日本モンキーセンターにおいて20年以上にわたり,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,大学生など多様な年代の来園者に対し,霊長類学や人類学の内容に関心を高めてもらえるよう,教育プログラムを開発し,提供してきた。2006年度から2025年度までの20年間に,日本モンキーセンターで何らかの教育プログラムを体験した人は,のべ21万人余りにのぼる。しかし,そのうちのどれくらいの人々が霊長類学や人類学に関心をもち続けてくれているのかを推し量ることは難しい。例えば,愛知県犬山市において2017年度から10年継続している小中学校と連携した取り組み「モンキーワーク」では,小学校4年生の時に理科の学習で来園した児童が,中学生になってもう一度理科の学習で来園する。中学生で来園した生徒に4年生の学習を覚えているか質問すると,概ね過半数の手が上がる。初期のモンキーワーク経験者が犬山市で教壇に立ち,指導者としてスムーズに連携に関わってくれるようになった例もある。あるいは,高校生に対してプログラムを実施した後,教員または本人から,体験の影響を受けて進路を変えたという話を聞くことがたびたびある。こうした事例は実施したプログラムが霊長類学・人類学への関心を高めるのに一定の効果を上げたことを示しているが,具体的な数値などを示すことは困難である。今後は追跡調査ができるような仕組みを検討したい。

小学校における「人類の出現から旧石器時代」に関する歴史学習の必修化を求める声明
日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会
Statement Calling for the introduction of Compulsory History Lessons on ‘The Emergence of Humankind to the Paleolithic Age’ in Elementary Schools

2030年度より全面実施となる次期小学校学習指導要領の改訂に向け,日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会の3学会は,2025年6月11日付で『小学校における「人類の出現から旧石器時代」に関する歴史学習の必修化を求める声明』を共同声明として発出し,文部科学省・中央教育審議会に提出した。声明の趣旨は,教育基本法の教育目標とされる世界の平和を支える豊かな感性を育むために,「国のはじまり」を基点とする現行の小学校学習指導要領(社会科)の前提を見直し,小学校第6学年の段階から人類史としての歴史を学ぶ意義を明確に位置付けることを強く求めたものである。人類学や考古学の研究では,現生人類の歴史として,東アフリカを出発した一握りの集団が世界各地に拡散し,多様な気候・風土に適応しながら,独自の生活習慣や文化を育んできた道筋が明らかにされてきた。すなわち,その学際的な研究成果は,人類の出現と進化,そして旧石器時代から始める歴史学習は,世界の各地で暮らす人類が同じヒトとして尊重すべき仲間であり,多様な環境と向き合い,共に苦難を乗り越えて今日に命を繋いできた先人の生きる力とその知恵を理解する大切な学びとなることを示している。学習指導要領に謳われている現代社会が抱える様々な課題を克服し,平和で豊かな未来を築くためには,まさに,この人類が選択し,形成してきた文化や価値観の多様性を広い角度から理解し,共存の方法を学ぶことが重要である。そして,人格形成に大きな影響を与える社会科教育においては,特に感受性の豊かな子どもの頃から,人類の歴史を通じて人間とは何か,社会とは何かを深く考える教育体系の整備が求められる。

小学校学習指導要領(社会科)の改訂に対する要望
日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会
Recommendations Regarding the Revision of the Elementary School Course of Study (Social Studies)

日本考古学協会,日本人類学会,日本旧石器学会の3学会は,2025年に共同で発出した『小学校における「人類の出現から旧石器時代」に関する歴史学習の必修化を求める声明』に次いで,2026年5月29日付で『小学校学習指導要領(社会科)の改訂に対する要望書』を文部科学省・中央教育審議会に提出した。この要望書では,現行の学習指導要領に基づく歴史学習の改善点として,第1に人類の出現と進化や旧石器時代の生活・文化の特徴について触れ,様々な環境に適応するとともに今日に至る多様な地域文化と生活環境を築いてきた歴史を理解することによって,人類の繋がりや多様性を尊重する感性を育むこと,また,第2に「優れた文化遺産」「代表的な文化遺産」に加えて,全国の子どもたちが等しく触れることのできる「身近な地域にある遺跡・文化財」についても取り扱うことを求め,現行の学習指導要領と同解説について具体的な加筆・修正文案を示した。現在,学習指導要領における小学校6年生の学習対象は「狩猟・採集や農耕の生活」から始めるとある。しかし,その具体的な事例や授業の考え方を示す『小学校学習指導要領解説 社会編』では,この狩猟・採集の生活とは縄文時代からの歴史を指し示している。人類の出現から旧石器時代についての学習を明確に位置づけるためには,学習指導要領と同解説の両者について具体的な提案をすることが重要とされる。要望書の内容については,オンラインによるプレスリリースを試み,広く一般社会に情報を発信した。その結果,歴史学習が人類の歴史の途中から始まるという現状を知らなかったと驚く声が多く,また,人類の出現と旧石器時代から学ぶ意義について共感する大きな反響を得ることができた。3学会としては,今後,授業実践例の提案と共に教科書会社への情報発信についても積極的に取り組んでいく方針である。

小学校教科書における旧石器時代の記載の変遷と学習指導要領
日本旧石器学会
Changes in the Depiction of the Paleolithic Age’ in Elementary Schools Textbooks and the Course of Study

現在の小学校6年生が授業で使っている社会科の教科書は,2017年の学習指導要領の改訂から編集内容が大きく変わり,歴史のはじまりについて触れる旧石器時代の記述が全ての教科書から姿を消してしまった。このことは,農耕の始まり(弥生時代)から授業を始めるとした1998年の学習指導要領改訂に次いで,今回が2度目となる。過去の教科書では,「日本列島に人間が住みはじめたのはいつ?」という問いかけから,数万年もの昔として旧石器時代に関する記述が認められ,1960年代より野尻湖遺跡の調査事例などが歴史へのいざないとして巻頭頁やコラムで取り扱われていた。しかし,1998年の改訂内容が全面実施となった2001年以降の教科書からは,網羅的な学習にならないよう「国のはじまり」よりも前を簡略化するという方針が示され,前・中期旧石器時代の遺跡捏造事件の影響も加わり,この時代の記述が簡略化の対象とされてきた。そして,2017年の改訂内容が全面実施となった2020年以降の教科書からは,「公民」「歴史」「国際理解」という学習の順序に従って内容が編集され,それまで,歴史学習の魅力を伝える導入部とされていた巻頭頁は,主に課題解決型の学習方法を説明する内容となっている。旧石器時代の研究は戦後の歴史教育を再編する動きの中で,有史以前の歴史のはじまりは世界と共にあったという問題意識の下,日本列島の歴史の起源を探るとして学際的な研究領域のスタートを切った分野でもある。今日では,日本列島の全域に1万ヶ所を超える遺跡の分布を確認し,列島独自の地域文化の変遷と世界との繋がりを,生命や多様な自然との対話と共にある人類史として探求する段階に至っている。学ぶべき内容の削減に注力する一方で,歴史教育が目指した当初の問題意識が忘れ去られ,あたかも,人類の歴史のはじまりを置き去りにしてきてしまったことは,非常に残念と言わざるを得ない。

小・中・高における人類進化の歴史に関する学習の段階的文理融合構想:人類学普及委員会の活動と提言
人類学普及委員会(日本人類学会)
A Progressive Framework for Integrating the Sciences and Humanities in Teaching the History of Human Evolution from Elementary through High School: Activities and Proposals of the Anthropology Outreach Committee

私たちヒトがどのような生物であり、自然界の中でどのような位置にあるのかを理解することは、自分自身と他者、社会、自然との関係を考える基盤となる。日本人類学会人類学普及委員会では、2007年の発足以来、人類の起源や進化、適応、発達に関する知見を広く社会に提供し、小・中・高校の若い世代が人類学に触れる機会を増やすため、教材開発や教育普及活動を進めてきた。これらの活動を踏まえ、自然人類学を理科、社会科、保健体育などの教科や、生物、地学、地理、歴史などに関連する科目を結ぶ、文理横断的な学びの軸として位置づけることを提案する。特に、小学校6年生の社会科で、人類の出現と進化、世界への拡散から旧石器時代の日本列島への到達までを扱うことは、中学校以降の学習に幅とつながりをもたらすことが期待される。人類史を理科で扱う生物の身体や生命の連続性、体育で体験する身体と運動、社会科で学ぶ道具の使用、生活や文化の形成と結びつけることで、生物としてのヒトの理解と自然観・世界観の形成につながる。中学校では、人類進化と地球環境の変動を関連づけることにより、生物と地学を横断する学習へ展開できる。さらに高等学校では、人類の進化・適応・拡散を、生物における進化、地学における地球環境変動、地理における人類の分布と環境適応、歴史における社会・文化の形成と関連づけることで、文理を越えて相互に学びを深めることができる。本発表では、これまでの普及活動を踏まえ、「ヒト」を軸として小・中・高をつなぐ段階的な文理融合・教科科目間連携の履修構想を提示し、次期学習指導要領改訂に向けた具体案を提言する。

若手発表賞対象 ポスター発表
マレーシア・サバ州キナバタンガン下地域におけるテングザルの個体群存続と生息地の分断化:20年間の個体群調査とGIS評価
Muhammad Nur FITRI-SUHAIMI(京都大・野生研)、岡村寛(横浜市大・データサイエンス)、Nicola K. ABRAM (Forever Sabah)、Marc ANCRENAZ (HUTAN)、Benoit GOOSSENS (サバ州・野生生物局・DGFC)、Primus LAMBUT(サバ州・野生生物局)、Joseph TANGAH(サバ州・森林局)、Henry BERNARD(サバ大)、Vijay KUMAR(サバ大)、松田一希(京都大・野生研)
Proboscis Monkey Persistence and Habitat Fragmentation: A 20-Year Population and GIS Assessment in the Lower Kinabatangan, Sabah, Malaysia
Muhammad Nur FITRI-SUHAIMI, Hiroshi OKAMURA, Nicola K. ABRAM, Marc ANCRENAZ, Benoit GOOSSENS, Primus LAMBUT, Joseph TANGAH, Henry BERNARD, Vijay KUMAR, Ikki MATSUDA

Long-term population monitoring is essential for refining conservation strategies, particularly for endangered flagship species like the proboscis monkey (Nasalis larvatus), for which data remain limited across much of its Bornean range. Previous surveys conducted in 2005 and 2014 in the Lower Kinabatangan, Sabah, Malaysian Borneo established baseline information on the species' distribution and population trends. Building on this historical dataset, we reassessed the proboscis monkey population in 2025, 11 years after the prior survey. We conducted boat-based river surveys during late afternoons, a standard monitoring method for this species in Borneo, covering approximately 223 km of the Kinabatangan River and its tributaries over 18 consecutive days. Our findings reveal a higher overall estimated population than previously reported, with a total of 2,420 individuals distributed across 178 groups. Furthermore, analysis of long-term population trends at three established study sites within key forest types over two decades indicates stable populations across all locations. To evaluate forest loss and its potential influence on monkey distribution, we performed GIS-based habitat analyses comparing current vegetation cover with historical data. Within the potential proboscis monkey range, we observed an increase in natural vegetation and minimal land conversion from forest to oil palm between 2005 and 2025, particularly within protected areas. By integrating population trends with habitat change, our study provides critical evidence to support state-level conservation planning in the Kinabatangan region of Sabah, Malaysia, including habitat protection, corridor restoration, and the development of sustainable land-use policies.

ベトナム・ヴァンソン寺院におけるコンソンカニクイザル (Macaca fascicularis condorensis) の個体の社会特性が人間ーマカクザル相互作用に及ぼす影響
Amos CHUA (京大・野生動物研究センター), Vo Thi Bich THUY (ノンラム大), Tran Van BANG (ベトナム科学技術アカデミー), Ikki MATSUDA (京大・野生動物研究センター)
Effects of individual social characteristics on human–macaque interactions in the Con Son long-tailed macaque (Macaca fascicularis condorensis)
Amos CHUA, Vo Thi Bich THUY, Tran Van BANG, Ikki MATSUDA

Environmental change has brought wildlife into closer proximity with people, altering animal behaviour through increased exposure to anthropogenic factors such as anthropogenic environments and human food provisioning. While food provisions by humans offer valuable energetic benefits, obtaining them has significant risks. Individual macaques engaging with humans may depend on social factors such as dominance and social traits. Understanding these inter-individual differences is critical to understanding the behavioural flexibility of primates and the nature of human-macaque interactions. This study investigates how variation in individual social characteristics influences human-macaque interactions in an island population of Con Song long-tailed macaques on Con Dao Island, Vietnam. Fieldwork is conducted on a group of approximately 53 macaques from October 2024 to January 2025 at Van Son Pagoda. 20 adult females and 14 adult males were identified for this study. Ten-minute focal samples were used to record behaviour of pre-identified individuals. Behavioural analyses will focus on dominance relationships, agonistic and affiliative interactions, and human-macaque interactions. The results showed that higher ranking individuals and individuals with more peripheral positions in social networks tend to have higher frequency and diversity of human-macaque interactions. This research will provide preliminary insights on the social structure of the Con Song long-tailed macaque, contribute to understanding behavioural adaptation to anthropogenic environments and inform future conservation and coexistence strategies on Con Dao Island through long-term monitoring and integration of social surveys with local communities and tourists.

霊長類進化における骨化タイミングの異時性とモジュラリティ
富澤佑真(中山大・生態学院),小薮大輔(中山大・生態学院,筑波大・PMC)

種間の形態変異は発生プロセスの改変によりもたらされる。そのため,発生のタイミングと速度の変化である異時性,そして複数の要素間の統合と独立のバランスであるモジュラリティは形態進化の方向と制約を決定づけると考えられている。本研究では,哺乳類および霊長類における骨化開始順位の保存性と多様性を比較解析し,霊長類とヒトにおける形態進化の基盤となる発生プロセスの解明を試みた。霊長類4種(ヒト,カニクイザル,ニシメガネザル,ガーネットガラゴ)を含む有胎盤類47種を対象に各骨における骨化中心の相対的出現タイミングをもとに発生プロセスの異時性およびモジュール性を評価した。有胎盤類全般の傾向として鎖骨が最初期に,手足根骨と胸骨が最後に骨化を開始すること,骨盤では腸骨が初めに骨化しその後に坐骨と恥骨の骨化中心が生じることが確認された。一方,非ヒト霊長類の骨化開始順位では椎骨の早期骨化に加え,上肢骨格のモジュールと腸骨と大腿骨を除く下肢骨格のモジュールがみられた。また手根骨を除く上肢骨格のモジュールは下肢骨格のモジュールに対して早期に骨化中心が出現する傾向がある。さらに非ヒト霊長類と比較したヒト固有の骨化順位として,尾椎の骨化開始の遅延,そして中足骨と趾骨の骨化が腰椎よりも早期に開始することが明らかになった。これらの結果は,有胎盤類全般において保存された強固な発生プロセスが存在する一方,系統固有な発生プロセスの改変が生じていることを示している。特に,非ヒト霊長類における椎骨の早期骨化は霊長類系統における固有のモジュラリティを示唆している。また,ヒトに見られる中足骨および趾骨の骨化中心の出現タイミングの変更は,直立二足歩行に伴う足部機能との関連が考えられ,ヒトにおける下部椎骨の骨化中心出現の遅延は,この強固な脊椎モジュールと発生タイミングの変更を反映している可能性が高い。

機械学習に基づいた3Dヒト顔面形態からの年齢・性別・体重・身長の予測
宮崎晴雅,松平一成,佐藤丈寛(琉球大・医),田嶋敦(金沢大・医),木村亮介(琉球大・医)
Machine learning-based prediction of age, sex, height and weight from 3D human facial morphology
Harumasa MIYAZAKI, Kazunari MATSUDAIRA, Takehiro SATO, Atsushi TAJIMA, Ryosuke KIMURA

ヒトの顔面形態は,遺伝子だけでなく,性別による骨格・軟組織的特徴の差異や加齢変化,さらには栄養状態や健康状態などを色濃く反映する生物学的指標である。本研究の目的は,3D顔表面データから機械学習を用いて年齢・性別・身長・体重を予測するモデルを構築しその精度を評価することである。金沢大学を主体とした志賀町におけるコホート研究において撮影された669名分の3D顔表面形状データ,および身体測定項目を用いた。個々の3D顔表面形状データに対し,Geomagic Wrapを用いて23個のランドマークを手動で打点した後,DHRC-Homologous Body Modelingを用いて2596点のセミランドマークからなるポリゴンモデルへと相同モデル化した。次いで,プロクラステス解析によりサイズ補正おより位置合わせを行った。予測モデル作成には,プロクラステス解析後の座標及び重心サイズをZ変換した値を用いて,①PLS判別/回帰,②線形カーネルを用いたサポートベクトルマシン/回帰(SVM/SVR)を行った。ダブルクロスバリデーションによって,PLS判別/回帰潜在変数の数の最適化とモデルの汎化性能の評価を,SVM/SVRでは,ハイパーパラメーターの最適化とモデルの汎化性能の評価を行った。性別予測モデルはPLS判別/SVMでそれぞれ97%/98%の予測精度を示した。PLS回帰/SVRにおける年齢,身長,体重予測モデルは,平均絶対偏差がそれぞれ4.8歳/4.7歳,4.8cm/4.7cm,5.6kg/5.3kgであり,決定係数(R2)はそれぞれ0.70/0.72,0.60/0.63,0.63/0.65であった。PLS判別/回帰およびSVM/SMRの間で,予測性能に大きな差はみられなかった。今後、非線形モデルによる予測アルゴリズムの構築を試みつつ,遺伝子多型との関連解析への応用を進めていく。

首里城から出土した糞石の古代プロテオーム解析
佐藤 萌加、福原 瑶子(総研大・統合進化科学コース)、西内 巧(金沢大・疾患モデル総合研究センター)、小金渕 佳江(東京大・理学研究科)、蔦谷 匠(九州大・高等研究院)
Paleoproteomic analysis of human coprolites excavated from Shuri Castle site
Moka SATO, Yoko UCHIDA-FUKUHARA, Takumi NISHIUCHI, Kae KOGANEBUCHI, Takumi TSUTAYA

首里城跡の御内原北地区では,17世紀前半のゴミ廃棄抗とされるシーリ遺構の下層からヒトの糞石が出土している。本研究では,琉球時代の人々の食生活の実態を明らかにするために,この糞石について古代プロテオーム解析を実施し,試料中に存在するタンパク質の網羅的な同定を行った。その結果,サバ属やアカハタ属を含む多様な魚類を摂食した痕跡が確認された。さらに,ベラ科魚類の一部については,ミツボシキュウセンやメガネモチノウオといった特定種が含まれる可能性が示された。これは,従来の考古学的手法では識別が困難な魚類についても,古代プロテオーム解析によって種レベルで同定ができる可能性を示唆しており,琉球時代における魚類利用の多様性をより詳細に復元するものである。

木材精油のニオイが中学生の生理面に与える影響:ニオイ知覚の有無に着目した実験的検討
坂口大和(東大・森林総研)、恒次祐子(東大)
The physiological effect of wood essential oil on junior high school students: An experimental study distinguishing between perceived and non-perceived odor conditions
Hirokazu SAKAGUCHI, Yuko TSUNETSUGU

木材のニオイは,成人に対して心身のリラックス効果を与えることが報告されている。一方で,木材のニオイ知覚と心身のリラックス状態との関係はほとんど検討されていない。ここで,特に中学生期は思春期という特徴的な発達段階であるため,ニオイ知覚と生理的影響の関係性の予測が困難である。以上の背景から,本研究では木材精油のニオイ知覚の有無が中学生の生理面に与える影響の違いを検討することを目的とした。中学3年生の男子生徒7名を対象に木材精油のニオイ実験を実施した。精製水,スギ精油,ヒノキ精油をそれぞれ滴下した不織布製シールを活性炭入りマスクに貼り付けて呈示し,精油滴下量は予備調査をもとに0.5 μl と1.0 μl の2条件とした。生徒たちは5分間安静ののちに2分30秒間ニオイを嗅ぎ,アンケートに回答する操作を全条件について繰り返し実施した。個人間でニオイの呈示順を変え,実験中はウェアラブル心拍計で心拍測定を行った。なお,心拍はニオイ呈示開始から2分間のデータを解析した。アンケートでは,6段階臭気強度表示法に基づくニオイ強度,ニオイの印象に関するSD法での両極7段階評価について回答させた。解析の結果,印象評価では個人差が大きかった。ニオイ強度は,スギ1.0 μl条件で「何のにおいかがわかる弱いにおい」よりも低く評価され,スギ0.5 μl条件でニオイを知覚していない生徒が多かった。次に,ニオイ暴露時の心拍変動を周波数解析したところ,スギ0.5 μl条件では副交感神経系指標の値が直前の安静時よりも有意に上昇しており,スギ1.0 μl条件では上昇傾向であった。本研究における条件下では,主観的ニオイ強度が検知閾値付近であっても生理反応には影響が現れた。これは,スギ精油の揮発成分の気中濃度が,知覚限界付近で副交感神経系活動優位の生理状態を誘発する生理活性に適した条件であったことに由来すると考えられる。

千葉市動物公園のニホンザルにおける食物洗い行動の至近要因
吉田彩乃、井上英治(東邦大・理)
Proximate factor of food-washing behavior in Japanese macaques at Chiba Zoological Park
Ayano YOSHIDA, Eiji INOUE

ニホンザルのイモ洗い行動は文化的行動として有名であるが、同様の食物洗い行動は、飼育下霊長類でも報告されている。千葉市動物公園における先行研究において、食物洗い行動は低順位個体やストレスの指標となるセルフスクラッチ頻度が高い個体で頻度が高いことから、緊張状態の高まる採食時に生じる転位行動である可能性が指摘されている。そこで、本研究では、追加データを用いて順位やセルフスクラッチとの関連を再検証するとともに、採食時の社会的状況を解析し、行動の至近要因について検討した。2023年7月から2025年11月にかけて、千葉市動物公園のニホンザル24頭(オトナメス11頭、オトナオス8頭、コドモ5頭)を対象に行動観察を行った。全生起サンプリングで採食時の食物洗い行動を記録し、一般化線形混合モデルを用いて、順位やセルフスクラッチ頻度の影響を解析した。また、オトナメス7頭については給餌後30分間の個体追跡サンプリングを行い、近接個体、攻撃交渉、採餌量の影響を検討した。全生起サンプリングの結果、オトナオスでは順位が低い個体ほど食物洗い行動頻度が高く、オトナメスでは順位が低い個体ほど、セルフスクラッチ頻度が高い個体ほど行動頻度が高かった。この結果から、先行研究同様にストレスを受けやすい個体ほど行動頻度が高いと考えられる。また、個体追跡の結果、採食時に他個体の近接時間が長いとき、採餌量が多いときに行動頻度が高いことが示され、その傾向は低順位個体ほど顕著であることが確認された。採食時における他個体との近接時間や採餌量は餌資源をめぐる潜在的な競争の程度を反映していると考えられ、社会的緊張が高い状況を示していると考えられる。したがって、これらの結果は、食物洗い行動は採食場面における社会的緊張と関連して生起することを示しており、社会的ストレスに対する転位行動として生じている可能性が示唆された。

仏像とヒトの顔貌の地域間多様性に関する学際的研究
西川有理(東海大・医学部)、鴨下真由(東海大・大学院総合理工学研究科)、中分遥(北陸先端科学技術大学院大・データ社会メディア研究領域)、中島悠太(大阪大・産業科学研究所)、藤岡穣(成城大・文芸学部)、松前ひろみ(東海大・医学部)
An interdisciplinary study of regional diversity in the facial morphology of Buddha statues and humans
Yuri NISHIKAWA, Mayu KAMOSHITA, Yo NAKAWAKE, Yuta NAKASHIMA, Yutaka FUJIOKA, Hiromi MATSUMAE

宗教美術は、ヒト社会の文化的アイデンティティを反映すると考えられる。仏像は紀元1世紀頃のインドを発祥とし、アジア各地で多様な様式で製作されるようになった。仏像の顔貌はその地域の住民に似ると指摘されている(Tsuchiya et al., 2007)。そこで本研究では、仏像顔貌の地理的な多様性の要因を明らかにすることを目的として、材質、時代、各地域のヒト集団の顔貌、その遺伝的背景、地理、言語、心理的要因を統合した解析を進めている。まず、日本などアジア7カ国の仏像約200体の顔画像に189点のランドマークを設定し、顔形状間の相違度としてプロクラステス距離を算出した。PERMANOVAの結果、仏像の顔形状は国と時代によって有意に異なり、一方で材質の影響は限定的であった。この結果は、仏像の顔形状の多様性が、国や時代に応じた要因の影響を受けている可能性を示唆する。さらに、仏像顔貌の地域差と比較する基盤として、GeLaToデータベースを用いてアジアのヒト集団間の遺伝・地理・言語について、距離行列に対する重回帰分析(MRM)を行った。その結果、ヒマラヤ山脈による地理的障壁がアジアのヒト集団の遺伝的分化に強い影響を与えていることが示唆された。今後は、このような遺伝・地理・言語的要因が仏像の顔形状の地域差にも影響しているかを検討する。また、本研究では、アジア各地域の人々の顔画像データを収集し、仏像顔貌との比較を行う。「人間は内集団に似た顔をより信頼する」という現象(Sofer et al., 2017)に注目し、仏像においても同様の心理的傾向が見られるかを調査する。本研究では、仏像の顔貌の多様性を、生物学的、地理的、言語的、心理的観点から統合的に解析することで、様々な要因が相互に関わりながら人類の文化が形成される過程を理解するための新たな視点を提示する。

起立時の重力ストレスに対する咀嚼運動の循環補償作用
堀田駿(九州大・院芸術工)、前田享史(九州大・院芸術工)
Circulatory Compensatory Effects of Mastication Against Orthostatic Gravitational Stress
Shun HOTTA, Takafumi MAEDA

ヒトは直立二足歩行を獲得したことで,起立時に血液が下肢へ移動し脳血流が低下しやすいという重力ストレスを抱えている。一方,霊長類の食性とともに進化してきた「咀嚼」は,単なる摂食行動にとどまらず,自律神経活動を亢進させ心血管系を賦活することが先行研究で示されている。そこで本研究では,咀嚼運動が起立時の血圧および脳血流低下を補償し,新たな循環調節の補助機構として機能する可能性について検討した。健康な若年成人男性15名を対象に,10分間の仰臥位安静後,45°のHead-Up Tilt(HUT)を20分間実施した。HUT開始5分前からマウスピースを用いた咀嚼(最大咬合力の60%)を行う条件と,行わない統制条件を設け,血圧,心拍出量,局所ヘモグロビン濃度(前額部・下腿部)等を連続測定し比較を行った。その結果,仰臥位での咀嚼開始直後から,副交感神経活動の抑制とそれに伴う心拍数の増加が確認された。続くHUT中,統制条件では起立に伴う血圧低下がみられたのに対し,咀嚼条件では仰臥位から生じた自律神経応答が持続して心拍出量が高値に維持された。これにより血圧低下が緩衝されるとともに,脳血流量の指標となる前額部総ヘモグロビン濃度の経時的回復が促進された。加えて,起立時の循環調節には心拍数の増加に依存する傾向あるいは末梢血管の収縮に依存する傾向といった個人差が存在することが示され,その調節特性に応じて,咀嚼による脳血流の維持効果にも差異が生じる可能性が示唆された。以上の結果から,咀嚼運動は継続的に心血管系を賦活して心拍出量を増加させることで,起立時の中枢循環を安定させ,脳の血液量低下を回復させることが明らかとなった。これは,下肢筋ポンプ作用などに加え,本来は摂食を目的とする咀嚼器官の活動も,直立姿勢における循環ホメオスタシスの維持に寄与する可能性を示している。

飼育霊長類の水分摂取量について
安達希(京都大・理学研究科)、半谷吾郎(京都大・霊長類フィールド研究センター)
Water intake in captive primates
Mare ADACHI, Goro HANYA

水は,生命維持に必要不可欠なものである。ヒトの祖先が熱帯雨林を出て乾燥地に行動範囲を広げた際,直面した問題の一つが飲み水の確保だったと考えられる。初期人類も直面したであろう水にまつわる苦難を解明するには,様々な環境に住む現生の霊長類をモデルにすることが有効である。本研究は,生態的,系統的に多様な種のデータを収集し,各種の水分摂取量や食物由来の水分量,生息環境による水分要求量の違いを明らかにすることを目的とした。日本モンキーセンターおよび京都大学犬山キャンパスで飼育されている10種(ワオキツネザル,コモンマーモセット,クロミミマーモセット,アカテタマリン,ワタボウシタマリン,ヨザル,カニクイザル,ニホンザル,アジルテナガザル,シロテテナガザル)を対象に,各個体で24時間観察を1-3回行った。目視で減少量を確認できる水皿あるいは給水器で水を与え,飲水量を測定した。さらに,給餌量と残餌量から摂食量を測定し,栄養成分から食物中の水分量と代謝水分量を推定した。飲水量に食物中の水分量と代謝水分量を加算し,水分摂取量とした。体重と水分摂取量のアロメトリー指数は0.7であり,負のアロメトリーが認められた。これは,体重の大きな種ほど体重あたりの水分摂取量が少ないことを示す。この傾きは体表面積のアロメトリー指数2/3との間に有意差が認められず,水分摂取量には体表面からの水分喪失が関与していることが示唆された。また,ワタボウシタマリンとシロテテナガザルは飲水行動が確認されず,多くの種で食物由来の水分が飲水よりも主要な水分供給源となっていた。さらに地上性種は樹上性種に比べて水分摂取量が有意に多かった。これらの結果は,生息環境に生理的に適応していることを示唆する。樹上性種は,地上への水源の接近が制限される環境に対応し,水分要求量を低下させる方向への適応が生じてきた可能性が考えられる。

古代人ゲノムに向けたハプログループ推定法の確立および大規模Y染色体データによる日本列島父系集団の遺伝学的解析
小林龍世(北海道大学大学院・情報科学院)、河合洋介(国立遺伝学研究所)、遠藤俊徳、長田直樹(北海道大学大学院・情報科学研究院)
Establishment of a Haplogroup Estimation Method for Ancient Genomes and Population Genetic Analysis of Japanese Paternal Lineages Using Large-Scale Y-Chromosome Data
Ryusei KOBAYASHI, Yosuke KAWAI, Toshinori ENDO, Naoki OSADA

本研究の目的は,低カバレッジ古代ゲノムにも適用可能な高精度Y染色体ハプログループ(HG)推定法の開発と,日本列島における父系集団形成プロセスの復元である。 HG推定法の開発には,NCBNの現代日本人男性4,817人に公開データ(1000 Genomes等)を加えた計6,843人を用いた。ISOGGで定義されているSNPに,系統樹解析から特定したISOGG未登録のHG特異的SNPを加え,これを参照する新法を構築した。評価として,現代人サンプルのSNPの95%を欠損させた疑似古代人データで検証した。集団形成プロセスの復元には,現代日本人4,817人のデータのみを用い,HGの地域頻度を算出したほか,BEAST2による分岐年代推定で系統が「いつ枝分かれしたのか」を,BSPによる有効集団サイズ(Ne)推定で「過去から現在にかけて次世代に子孫を残せた男性人口規模の増減」を解明した。結果,ISOGG登録SNPのみを用いた場合の推定成功数は1,811サンプルだが,新法では2,915サンプルとなり,推定可能数が約1.6倍へと向上した。 現代日本人の解析では,縄文系(D系統)は中国・四国地方で頻度が最も低く周辺部へ高まる地理的勾配を示し,全ゲノムの先行研究と一致した。Ne推定では,渡来系(O系統)は約3,200年前(縄文後期)のボトルネック後に停滞した一方,縄文系(D系統)は約1,800年前(弥生後期〜古墳移行期)にボトルネックを経験し,約1,750年前からは両系統が同調して急拡大した。 考察として,縄文系(D系統)の地理的勾配は,渡来系(O系統)が中国・四国地方などの西日本に定着した後に,在来の縄文人と融合しながら日本列島の隅々へ広がっていった過程を示している。O系統の約3,200年前のボトルネックは渡来による創始者効果に,D系統の約1,800年前のボトルネックは渡来系との衝突や農耕定着に伴う階層化等の社会構造変化に起因すると考えられる。その後の同調的な集団サイズの増加は,渡来系と縄文系の融合が進み,古墳時代の国家形成とともに「日本列島人」として爆発的に繁栄したシナリオを強く支持する。

交雑個体を含む混群の社会関係―セピロクのカニクイザル・ミナミブタオザル交雑群の事例―
金原蓮太朗、Nur Nabila Binti Sarkawi(サバ州・野生生物局)、Wong Siew Te(BSBCC・CEO)、Vijay Kumar(サバ大・生物工学研究所)、松田一希(京都大,野生動物研究センター)
Social Relationships in Mixed-species Group Including Hybrids: A Case Study of the Long-tailed Macaque and Southern Pig-tailed Macaque Hybrid Group at Sepilok
Rentaro Kimpara, Nur Nabila Binti Sarkawi, Wong Siew Te, Vijay Kumar, Ikki Matsuda

近年,分子系統解析技術の向上の結果,ヒトを含む多数の霊長類が進化の過程において交雑してきたことが明らかになってきた。交雑の痕跡は種間交尾を伴うような異種間の直接的な接触があったことを示唆するものの,交雑個体を含む種間行動の研究は観察の難しさから,大半がヒヒでの研究に限られてきた。本研究は,マカク属のカニクイザル(以下カニクイ)とミナミブタオザル(以下ブオタ)の交雑個体の目撃が以前から報告されているマレーシア・ボルネオ・セピロクの保護施設周辺において,2025年9月から2026年3月(計106日間)にかけて調査を行なった。まず,調査地周辺に生息するマカクの基礎情報を集めた。その後,カニクイ・ブタオ・交雑個体からなる15個体の交雑群(R群)を対象に追跡し,毛づくろい・性行動を中心に全生起サンプリングで観察を行った。調査の結果,調査地にはR群の他に少なくとも1つの群れが確認され,ブタオ161個体と1個体のカニクイからなる大きな群れであった。また,R群を追跡した結果,ブタオのオトナオスは群れから離脱する日が多数ある一方,それ以外の個体が1日中見られないことはなく,メンバーシップは非常に安定していた。さらに,R群ではオトナメス間やオトナメス-コドモ間で多数の種間毛づくろいが観察され,オトナの個体間で安定した順位関係も確認された。また,ハイブリッドを除いた種間交尾は9事例確認され,ブタオ雄―カニクイ雌だけでなく,ブタオ雌―カニクイ雄の組み合わせも確認された。これらの結果は,交雑個体を含む集団において,種間で安定した社会関係が形成されうることを示している。また,このような社会関係が維持される状況下で種間交尾が生じうることも明らかとなった。今後、さらなる行動観察や遺伝解析を行うことで,ヒトを含む霊長類における交雑の要因や複数種が共存できる要因,交雑個体の遺伝的背景の解明等につながることが期待される。

脳血流調節における因果推定について
金城仁(千葉大・融合理工学府)、石橋圭太(千葉大・デザイン・リサーチ・インスティテュート)
On Causality Inference in Cerebral Blood Flow Regulation
Jin KINJO, Keita ISHIBASHI

霊長類のなかでもヒトの脳は機能維持の代謝要求が高く,精緻な血流調節が必要である。脳血流調節には血圧の変動に対して脳の血流を一定に保つ自動能のほか,血中二酸化炭素濃度の変化に対する脳血管反応性があることが知られている。血圧変動に対する自動能については,刺激により惹起された動的な血圧変動に対する脳血流調節を対象とすべきとする主張と,自発的な血圧変動に対する調節を対象とすべきとする主張の間で議論が交わされている。本研究は両者の脳血流調節の違いについて,時系列データ間の移動エントロピーを用いてその因果性から検討することを目的とした。被験者は男性9名で,刺激により惹起された血圧変動を促すために18秒周期の正弦波下半身陰圧負荷(−40 mmHg)を用い,自発的な血圧変動は陰圧負荷を用いない状態でそれぞれ測定した。測定項目は,超音波ドップラー法による中大脳動脈血流速(MCAv),フィナプレス法による平均動脈圧(MAP)及び,呼気炭酸ガスモニタによる終末呼気二酸化炭素濃度(EtCO2)であった(千葉大学西千葉地区理工系生命倫理審査委員会R4-15)。MCAvの変動に対するMAPとEtCO2の移動エントロピーを解析した結果,自発的な血圧変動時と比較して,陰圧負荷時にMCAvに対するMAPの移動エントロピーが有意に高くなったが,EtCO2には有意な変化は認めらなかった。また陰圧負荷時にはMAPの因果性が周期的に変化することが認められたが,EtCO2にはそのような変化は見られなかった。これらの結果より,脳血流調節の自動能を評価する際に,刺激により惹起された動的な血圧変動に対する調節を対象とすることが,因果性の面においては有効であることが示された。血中二酸化炭素濃度の変化に対する脳血管反応性を評価する場合では,18秒周期の正弦波下半身陰圧負荷はその因果性に影響を与えない可能性が示唆された。

野生ニホンザル(Macaca fuscata)における糞中コルチゾール濃度の季節変動
Nabilla Rizky Fitriana1,村松祐莉1,新田春海1,延原利和2,延原久美2,小池敦子2,貝ヶ石優1,清水慶子3, 横山ちひろ1(1. 奈女大・生活環境,2. 一社・淡路ザル観察公苑, 3. 動物内分泌研究所)
Seasonal Variation in Fecal Cortisol Level in Wild Japanese Macaques (Macaca Fuscata)
1Nabilla Rizky FITRIANA, 1Yuri MURAMATSU, 1Harumi ARATA, 2Toshikazu NOBUHARA, 2Hisami NOBUHARA, 2Atsuko KOIKE, 1Yu KAIGAISHI, 3Keiko SHIMIZU, 1Chihiro YOKOYAMA

The Japanese macaque, Macaca fuscata, the only non-human primate species inhabiting Japan, is adapted to an environment characterized by marked seasonal variations. While environmental factors such as temperature and precipitation are known to influence stress responses via the hypothalamic pituitary adrenal cortex (HPA) axis in humans, the relationship between seasonal variations and physiological stress in Japanese macaques has not been sufficiently studied. This study evaluated the effects of seasonal changes on physiological stress in Japanese macaques at the Awaji Monkey Center. Fecal cortisol concentration was measured in 182 fecal samples collected from 137 individuals using enzyme linked immunosorbent assay (ELISA). The collected cortisol values ​​were logarithmically transformed prior to analysis. Season, age group, sex, and social rank were included as explanatory variables, and individual identity was included as a random effect to account for repeated sampling. A linear mixed model was used for statistical analysis, and Tukey's post hoc tests were performed for factors showing significant differences. A significant effect of season on fecal cortisol concentration was detected (p = 0.009). In contrast, age (p = 0.512), sex (p = 0.767), and rank (p = 0.434) showed no significant effects. Post hoc comparisons revealed that cortisol levels were significantly higher in winter compared to summer (p = 0.047). A marginally significant difference was observed between winter and early summer (p=0.056). These results suggest that the physiological stress of Japanese macaques is more strongly influenced by seasonal environmental changes than by age, sex, or social rank. The elevated cortisol levels observed in winter may reflect increased energetic demands associated with seasonal environmental conditions. Future analyses incorporating environmental variables such as ambient temperature will help clarify the mechanisms underlying seasonal variation in cortisol levels. The present study demonstrates the utility of non-invasive endocrine measures assessing stress and provides fundamental information relevant to the welfare, management, and conservation of Japanese macaques.

離合集散を模した飼育形態を利用した,離別時間がチンパンジーの挨拶行動に与える影響の検討
水野慧,徳山奈帆子(中央大・理工)
Dynamics effects of separation duration on greeting behavior in chimpanzees under a captive management system simulating fission–fusion dynamics
Kei MIZUNO, Nahoko TOKUYAMA

挨拶行動は,出会いや再会といった社会場面において相手への接近意図や服従,敵意がないことなどを提示し,個体間の関係性を円滑に維持するためのコミュニケーション行動である。離合集散社会をもち,離別と再会を繰り返すチンパンジーでは,挨拶行動が特に重要な役割を果たしていると考えられている。挨拶行動の重要性は,離別時間が長いほど高まると予測されるが,野生のチンパンジーにおいて離別時間の計測は難しい。多摩動物公園では,3つの放飼場で放飼メンバーを入れ替えることで離合集散を模したチンパンジーの飼育が行われており,個体間の正確な離別時間を把握することができる。本研究では,多摩動物公園のオトナ・ワカモノ個体14頭を対象に,離別時間,性別,血縁関係,群れ内における発情メスの有無が挨拶行動に与える影響を検討した。Nishida(1999)のエソグラムに基づき,出舎から15分間の挨拶行動をビデオ撮影し,各ペア間の挨拶行動の発生確率,一回の再会における挨拶行動回数,挨拶行動の持続時間を分析した。分析の結果,各ペアの離別時間が長くなるほど,挨拶行動の発生確率,回数,持続時間のすべてが有意に増加した。これは,離別時間の増加に伴って再会時に個体間の関係性を再確認・再構築する必要性が高まることを示唆する。また,性別の組み合わせも挨拶行動に有意に影響し,特にメスからオスへの挨拶行動が他の組み合わせよりも多く,長く行われた。血縁個体間では挨拶行動の持続時間が有意に短く,関係の安定性を反映している可能性がある。発情メスが存在すると,挨拶行動の持続時間は有意に短くなり,群れ内の緊張や競争が高まる状況下では,挨拶が簡略化される可能性が示された。これらの結果は,チンパンジーの挨拶行動は再会時の単なる儀礼的,固定的な行動ではなく,離別時間や社会的条件に応じて柔軟に調整される行動であることが示された。

山形県北町遺跡における古代堆積物ゲノム解析の試み
柿沼 恒熙(東京大・院理)、近藤 奈穂(東京大・院理)、藤木 雅(東京大・院理)、脇山 由基(東京大・院理)、片岡 梨沙子(東京大・院理)、長井 謙治(愛知学院大・文)、覚張 隆史(金沢大・文化資源学研究所)、米田 穣(東京大・総合研究博物館)、渡部 裕介(東京大・院理)、小金渕 佳江(東京大・院理)、太田 博樹(東京大・院理)
A Pilot Study of Sedimentary Ancient Genome Analysis at the Kitamachi Site, Yamagata Prefecture
Koki KAKINUMA, Naho KONDO, Miyabi FUJIKI, Yoshiki WAKIYAMA, Risako KATAOKA, Kenji NAGAI, Takashi GAKUHARI, Minoru YONEDA, Yusuke WATANABE, Kae KOGANEBUCHI, Hiroki OOTA

日本の後期旧石器時代や縄文時代草創期は生物遺物の出土例が少なく,今後新たな古人骨の出土がない限り, 古代DNA研究は困難であると考えられてきた。しかし,私たちは新規の遺伝情報源として古代堆積物DNA(sedaDNA)に注目する。欧米の研究グループによる洞窟堆積物での居住痕跡検出や永久凍土での古生態系復元などの先例はあるが,日本列島は北海道を除いて温暖湿潤な気候であり, 火山島であることに起因する酸性土壌の場所も多く,いまだ報告はごくまれである。当研究室では,これまで日本列島の後期旧石器時代を中心とする北海道から鹿児島まで広い地域にまたがる6遺跡の堆積物からDNAを抽出し,植物を対象としたPCR増幅を試みてきた。全試料中, 約23%で増幅に成功し, PCRアンプリコン・シークエンシング(Amplicon-Seq)をおこなった結果, 得られた植物配列は地域の気候帯の特徴を示していた。しかし, この方法は原理的に末端の脱アミノ化を検出できず, それらが真にsedaDNAであるかは不明であった。そこで本研究では,ショットガン・シークエンシング(Shotgun-Seq)による解析を試みた。山形県北町遺跡から採取した縄文時代草創期から前期の堆積物からのDNA抽出液を分析対象とし, これら21サンプルからNGSライブラリを調製し, Shotgun-Seqを実施した。NCBI RefSeqのプラスチドとmtDNAのデータベースに対してマルチヒットを許容してマッピングを行い, metaDMGで分析した。その結果, 両データベースで有意な3’端脱アミノ化が確認できた生物群のうち, イネ科植物に最も多くのリードが割り当てられた。本発表では, 北町遺跡での古代堆積物ゲノム解析を通して, 日本列島・先史時代遺跡における古代ゲノム解析の可能性について議論する。

霊長類における栄養吸収機能の種間比較に向けた、小腸オルガノイド単層培養系の構築
石村有沙(京都大・理)、岩槻健(東京農業大・応用生物科学)、今井啓雄(京都大・EHUB)
Establishment of a Monolayer Culture Platform of Primate Small Intestinal Organoids for Cross-Species Comparison of Nutrient Absorption
Arisa ISHIMURA, Ken IWATSUKI, Hiroo IMAI

霊長類は昆虫食、葉食、樹液食、果実食など多様な食性を示す分類群であり、食性に合わせた形質の進化を調べる上で魅力的な研究対象である。中でも、小腸を介した栄養吸収機能が食性多様化に伴ってどのように進化したかを解明することは、霊長類の生態理解や飼育管理改善を目指す上で重要な手掛かりとなる。しかし、多くの霊長類では腸組織の機能を直接測定することが困難であり、進化の様子は十分に明らかになっていない。近年、腸上皮幹細胞の三次元培養系である腸管オルガノイド培養系や、オルガノイド由来細胞を平面培養した単層培養系が、腸上皮機能を再現する実験系として注目されている。腸管オルガノイドは動物園での自然死個体からも樹立可能であり、広範な動物種への適用が期待される。しかし、非ヒト霊長類への適用例は雑食性のモデル動物数種(マカク類、ヒヒ)に限られており、限られた例を見ても栄養吸収機能測定を目的に吸収上皮細胞を豊富に含む単層培養系を構築した例はほぼ存在しない。よって本研究では、様々な食性の霊長類において栄養吸収機能の種間比較が実施可能な in vitro 研究基盤の構築を目的とした。その第一歩として、樹液食性のコモンマーモセットおよび果実食性のワタボウシタマリンから小腸オルガノイドの樹立を試みるとともに、マーモセットでは栄養吸収機能測定に向けた単層培養系の構築を行った。両種に対して同じ培養方法を適用し、継代維持および凍結保存が可能なオルガノイドを樹立することができた。また、単層培養したマーモセット小腸オルガノイドでは吸収上皮細胞マーカー遺伝子を発現する細胞が高頻度で認められ、栄養吸収機能解析に活用可能であることが示唆された。今後、単層培養法をタマリン小腸オルガノイドにも適用し、遺伝子発現量や栄養輸送効率を種間で比較することで、樹液食適応に伴ってマーモセットが獲得した腸機能の特性を明らかにすることを目指す。

動画再生速度の違いが映像視聴中の瞬目同期に及ぼす影響
安藤裕暉(玉川大学・脳科学研究科)、松田哲也(玉川大学・脳科学研究所)
The Effects of Different Video Playback Speeds on Blink Synchronization During Video Viewing
Yuki Ando, Tetsuya Matsuda

動画の高速再生視聴は日常的に広く利用されているが,再生速度が情報処理に及ぼす影響については十分に明らかではない。これまでの研究では,1.25~1.5倍速程度では学習効果が維持あるいは向上すると報告されている一方,2.0倍速では学習効果が維持されるとの報告と低下するとの報告があり,結果は一貫していない。また,多くの研究は理解度テストや主観評価に基づいており,生理学的指標を用いた検討は少ない。映像視聴時には,ストーリーの文脈上の「暗黙的な切れ目」において観察者間で瞬目タイミングが同期することが知られており,映像理解や情報処理の生理指標として注目されている。そこで本研究では,同一映像の再生速度(1.0倍速,1.5倍速,2.0倍速)が瞬目同期に及ぼす影響を検討するとともに,日常的な高速視聴習慣との関連について検討した。対象は健常成人33名(20.70±1.42歳:内女性15名)とし,先行研究で用いられた海外コメディ番組の一場面を各再生速度条件で提示した。瞬目は眼電図により測定し,動画視聴習慣について質問紙調査を実施した。その結果,各条件間の単位時間当たりの平均瞬目数には有意な差は認められなかった。一方で2.0倍速条件では暗黙的な切れ目における瞬目の頻度の割合が1.0倍速および1.5倍速条件と比較して低下がしていた。また,1.5倍速条件では日常的に高速再生を利用する群で暗黙的な切れ目における瞬目の頻度の割合が高かったが,2.0倍速条件ではその傾向は認められなかった。以上より,2.0倍速では映像の暗黙的な切れ目における瞬目頻度が低下し,映像の文脈処理に関わる認知過程が変化している可能性が示唆された。一方,1.5倍速程度であれば日常的な高速視聴経験による適応が生じ,映像視聴時の情報処理が維持される可能性が考えられた。本研究は,高速化する情報環境に対するヒトの適応特性を,瞬目同期という生理指標から評価できる可能性を示した。

嵐山ニホンザルにおける口使用毛づくろいの広まり
柴田尚輝(京都大・院理)
The prevalence of mouth-use grooming in Arashiyama Japanese macaque
Naoki Shibata

ニホンザルの毛づくろいは,毛をかき分けてシラミ卵を探索し,発見したシラミ卵を毛から引き抜いて食べるという一連の流れから構成される。この過程では,シラミ卵を引き抜く際の指の使い方に個体差があることが知られている。一方,ニホンザルが口を使ってシラミ卵をとること(以下「口使用毛づくろい」)は,記述的な報告はあるものの,群れ内のどのくらいの個体がこの行動を行うのかといった定量的な研究は今まで行われていない。本研究では,京都市の嵐山に生息するニホンザルの群れを対象に,口使用毛づくろいをする個体がどれほどいるのかを4歳以上の全てのメスを対象として調査を行った。シラミ卵をとろうとする動作をピックアップ行動とし,何ピックアップ目で口によるピックアップ行動が見られたかで,口使用毛づくろいを①する,②まれにする,③しない,④確認されなかったがしないとは断定できない,の4つに個体を分類した。調査の結果,嵐山のオトナメス56頭のうち,①と②に分類された個体は45頭,③に分類された個体は4頭だった。①,②の個体がオトナメス全体の80%以上を占めていることから,嵐山群のニホンザルにおいては大多数の個体が毛づくろいで口を使うと考えられる。嵐山群は餌付け群であるため,採食時間が短く,毛づくろいにかける時間を長く取ることができる。嵐山群で頻繁に口使用毛づくろいをする個体がいた場合,他個体がその場面を観察することが多くなり,社会学習によって口使用毛づくろいが広がった可能性が考えられる。一方で,独立して何回も口使用毛づくろいが生じたという可能性も現時点では排除できない。その場合,嵐山では口使用が生じやすい何らかの環境要因があることになる。今後の展望として,本研究と同様の手法で他地域のニホンザル群の口使用毛づくろいの広まりを調査し,地域間で比較することで,毛づくろい行動の地域差を環境的,文化的要因から検討したい。

狩猟採集民の食餌幅と人口動態の数理モデル:食糧生産民との関係性
河西幸子、井原泰雄(東京大・理学系研究科)

ヒトはその誕生以後のほとんどの時期において、狩猟採集民であった。しかし農耕牧畜民のような食糧生産民が登場すると、各狩猟採集民の集団は、存続する場合もあれば、そうではない場合もあった。このような違いが生まれた理由は、完全には解明されていない。本研究は、狩猟採集民と彼らが利用する生物資源、および食糧生産民の個体群動態を微分方程式によりモデル化し、数学的解析を通じて、食糧生産民との出会いが狩猟採集民の長期的な人口動態にどのような影響を及ぼし得るのかについて示唆を得ることを目指す。特に、これまでの研究から導かれる以下の二つの仮説に注目する。(A)狩猟採集民は、今日彼らの多くが暮らす厳しい環境においては、食糧生産民との共生によってのみ存続が可能である(e.g. Headland 1987)。(B)狩猟採集民の一部は、食糧生産民との出会いを経て、食餌幅を変化させて存続した(e.g. Bollongino et al. 2013)。Winterhalder et al. (1988)は、計算機シミュレーションを用いて、狩猟採集民の意思決定(民族学的タイムスケール)と、彼らの人口動態(考古学的タイムスケール)の橋渡しを試みた。本研究は、このアイディアを拡張するものである。モデル化の第一段階として、行動生態学で用いられる食餌幅モデルを組み込むことにより、狩猟採集民の採食戦略が、彼らの人口動態に与える影響を検討する。次に第二段階として、モデルに食糧生産民を導入し、狩猟採集民の食餌幅や人口動態に生じる変化を解析する。現在までのモデルの解析から、食糧生産民との出会いが狩猟採集民の人口動態に導き得る帰結を、いくつかの定性的に異なるパターンに分類し、それらが生起する環境条件を特定することができた。また、仮説(A)(B)が成立するための条件についても検討を行った。

古代ゲノムからみる 日本列島のイノシシ属の利用の歴史
糸井梨香子(総研大・先端学術院)、上奈穂美(歴博)、加藤博文(北大・アイヌ先住民研)、佐藤孝雄(慶應大・民族学考古学)、浜田晋介(日大・史学)、佐藤雅彦(利尻町立博物館)、鹿又喜隆(東北大・考古学)、澤田純明(新潟医療福祉大・人類研)、藤田三郎(田原本町埋文センター)、丸山真史(東海大・人文学)、森田義史(松島町教委)、西田巌(佐賀市文化財課)、寺井洋平(総研大・統合進化)、五條堀淳(総研大・統合進化)
Ancient Genomes Reveal the History of Boars and Pigs in the Japanese Archipelago
Rikako ITOI, Naomi KAMI, Hirofumi KATO, Takao SATO, Shinsuke HAMADA, Masahiko SATO, Yoshitaka KANOMATA, Junmei SAWADA, Saburo FUJITA, Masashi MARUYAMA, Yoshifumi MORITA, Iwao NISHIDA, Yohey TERAI, Jun GOJOBORI

日本列島の本州・四国・九州の各島では、では、縄文時代以降の遺跡からイノシシ属(野生イノシシ・家畜ブタの総称)の遺体が数多く出土しており、人々が野生のイノシシを狩猟し利用していたことが知られている。しかし、縄文時代の日本列島に生息していたイノシシが現代のニホンイノシシと同一系統であるかは明らかになっていない等、日本列島におけるイノシシの進化史には未解明な点が多い。また、弥生時代の数カ所の遺跡からは、野生のイノシシとは異なる骨形態を示すイノシシ属が出土していおり、それらについても飼育の進んだ野生イノシシ、大陸から持ち込まれた家畜ブタいずれに由来するものかを巡って議論が続いている。加えて、野生のイノシシ分布域から外れる北海道島についても、オホーツク文化期の遺跡からはイノシシ属の遺体が多数出土しており、「カラフトブタ」と呼ばれている。「カラフトブタ」は外部から人為的に持ち込まれた可能性が高く、形態学的研究から家畜化の痕跡を有することが示されているものの、未だその由来や、オホーツク文化期以降に出土しなくなる理由については明らかになっていない。そこで、本研究では、古代日本列島におけるイノシシ属の進化と家畜ブタ利用の実態を明らかにするため、縄文時代以降の日本列島周辺地域のイノシシ属資料を対象とした古代ゲノム解析を行った。本発表では、これまでに全ゲノム塩基配列を決定した東名遺跡(縄文早期)、西の浜貝塚(縄文晩期)、唐古・鍵遺跡(弥生中期)出土のイノシシ属、「カラフトブタ」と、日本を含めた世界各地の古代・現代のイノシシ属との比較解析を行った結果を中心に報告する。

人骨表面のタフォノミー痕跡からみた中世日本の埋葬行為
皆川真莉母(東京都立大・人文社会)
Mortuary Practices in Medieval Japan as Revealed by Taphonomic Modifications on Human Skeletal Remains
Marimo MINAGAWA

中世日本における埋葬行為の実態の解明は,当時の遺体の取り扱い方を知る上で重要である。日本の人骨出土例に対する過去の人びとの埋葬行為については,発掘時の人骨出土状況に依拠して考古学的に,また文献史料に基づいて歴史学的に議論されてきた。一方,海外では骨表面に残されたタフォノミー痕跡(taphonomic modification)に着目した研究が多数行われてきた。タフォノミー痕跡とは,埋葬過程や埋葬環境の影響によって生じた骨表面の形態的変化を指し,骨表面の摩耗や損傷(齧歯類など動物による咬痕,植物根の圧痕,砂や石との接触による損傷など)が含まれる。これらの痕跡は,遺体が置かれた環境や遺体の取り扱い方を検討するための重要な手掛かりとなる。中世は火葬や遺棄葬が広まった時代とされ,未報告の人骨資料も多いことから,これらの考古学的仮説や文献史料の記述を人骨資料から検討した研究は不十分であった。本研究では,中世日本における埋葬行為の実態に迫ることを目的として,鎌倉時代の神奈川県極楽寺遺跡,室町時代の神奈川県松輪遺跡・静岡県千本浜首塚・愛知県市来嶋神社古墓群・山口県吉母浜遺跡出土人骨を対象に,骨表面のタフォノミー痕跡および火葬骨の有無を調査した。その結果,遺跡間で認められたタフォノミー痕跡の種類や頻度,および火葬骨の有無には差異がみられた。本発表では,各遺跡に認められたタフォノミー痕跡の特徴を比較し,その傾向について報告する。また,人為損傷や骨病変,ならびに人骨出土状況や遺構,副葬品などの考古学的情報が確認できる事例については,それらを踏まえて埋葬環境および遺体の取り扱い方について考察する。本研究は,中世の人骨出土例に残されたタフォノミー痕跡から埋葬環境や遺体の取り扱い方を検討し,火葬骨の調査結果と併せて,中世日本における埋葬行為の実態に迫るものである。

ニホンザル嵐山群のオトナオスによる他個体同士の喧嘩への介入行動が起こる条件
奥田雪乃(京都大・院理)
Conditions for Fight Intervention by Adult Male Japanese Macaques (Macaca fuscata) in the Arashiyama Troop
Yukino OKUDA

喧嘩に第三者が介入する行動は多くの霊長類で見られる。介入行動には群内の攻撃を抑制することで群れの安定に寄与する側面もある。餌付け群では,個体数が多く食物が集中することから,野生群に比べて喧嘩が頻発する傾向にあるため,攻撃抑制の重要性は高い。介入が生じた事例の介入者と援助対象を調べた先行研究から,ニホンザルにおいて攻撃抑制効果があるのは高順位のオスが介入した場合に限定されると考えられてきた。一方,オスが周囲で起こる全ての喧嘩の中からどのようなものを選択してより強く介入するかを調べることで,オスの介入が群内の攻撃全体に与える影響をより詳細に理解できる。そこで本研究では,オスを個体追跡して他個体同士の喧嘩を可能な限り記録し,それに対するオスの反応の強さを四段階に分けて評価することで,オスの介入が強くなる喧嘩の条件を検討した。調査は嵐山モンキーパークで餌付けニホンザル群の9才以上のオトナオス全4頭を対象に実施した。調査の結果,第一位オスに限らず全てのオスで,物理的攻撃を伴う激しい喧嘩や,他のオス・メス間の喧嘩に対する介入では反応が強くなる傾向が認められた。また援助の約6割は被攻撃者への援助であった。第二位と第三位オスのみ直接的な介入は第一位オスより少ないものの,遠方から威嚇声を発する弱い介入は同程度行っていた。物理的攻撃を伴う喧嘩やオス・メス間の喧嘩といった当事者が負傷に至るリスクが高い喧嘩に選択的に介入し,被攻撃者を多く援助していたことから,嵐山群では第一位オスだけでなく第二位と第三位オスも群内の攻撃抑制に寄与していると推測できる。また第一位オスは高コストな強い介入を多く行っていたことから,攻撃抑制効果が最も大きいと考えられる。以上よりニホンザルのオスは,順位によって程度は異なるものの,介入によって群内の激しい攻撃を抑制することで群れの安定に貢献していることが示唆される。

野生二ホンザルにおける視線依存行動とコルチゾール値との季節特異的関連
村松祐莉1,新田春海1,Nabilla Rizky Fitriana1,萩原佑紀1,延原利和2,延原久美2,小池敦子2,貝ヶ石優1,清水慶子3,横山ちひろ1(1. 奈女大・生活環境,2. 一社・淡路ザル観察公苑,3. 動物内分泌研究所)
Season-specific association between gaze-dependent behavior and cortisol levels in wild monkeys
Yuri MURAMATSU, Nabilla Rizky FITRIANA, Harumi ARATA, Yuki HAGIWARA, Toshikazu NOBUHARA, Hisami NOBUHARA, Atsuko KOIKE, Yu KAIGAISHI, Keiko SHIMIZU, Chihiro YOKOYAMA

他者の視線や注意状態を適切に読み取る能力は、霊長類の社会行動において重要である。自然環境下の霊長類では、視線追従や視線交替などの社会的注意行動について広く研究されてきた。しかし、これらの研究は特定の行動の出現に着目したものが多く、他者の注意状態に対する感受性そのものの個体差を定量的に評価した研究は少ない。そこで本研究では、社会的注意に対する感受性の個体差を定量化する指標として、視線依存行動(Gaze-dependent behavior; GDB)を算出した。さらに、GDBと各季節に採取した糞便中コルチゾール濃度との関連を検討した。淡路島モンキーセンターに生息する餌付け野生ニホンザル29頭(成獣メス)を対象に、実験者が被験体に対して開眼条件および閉眼条件を提示し、各条件中の行動を記録した(2024年5–9月実施)。各条件における見返す時間(looking-back duration)を測定し、開眼条件と閉眼条件の見返し時間の対数比をGDBとした。コルチゾール濃度は複数季節に採取した糞便試料から酵素免疫測定法(ELISA)により測定し、GDBとの関連を解析した。その結果、GDBは初夏におけるコルチゾール値と有意な負の関連を示した。また、GDBとコルチゾール値との関連は冬では認められなかった。本研究は、野生ニホンザルにおける社会的注意に対する感受性の個体差と生理状態との関連を検討する上で、GDBが有用な指標となる可能性を示唆する。

古代ゲノム解析による保美貝塚盤状集積埋葬人骨の血縁解析
脇山由基(東京大・院理)、渡部裕介(東京大・院理)、小金渕佳江(東京大・院理)、増山禎之(田原市教育委員会)、米田穣(東京大・総合研究博物館)、山田康弘(東京都立大・人文科学)、太田博樹(東京大・院理)
Ancient genomic analysis of kinship among individuals from banjo-shuseki-bo (square-shaped bone-pile burial) at the Hobi shell-mound site, Aichi Prefecture, Japan
Yoshiki WAKIYAMA, Yusuke WATANABE, Kae KOGANEBUCHI, Tadayuki MASUYAMA, Minoru YONEDA, Yasuhiro YAMADA, Hiroki OOTA

愛知県田原市に所在する保美貝塚は,縄文時代晩期(ca. 3000–2400 BP)を中心に形成された貝塚遺跡で,盤状集積と呼ばれる独特な再葬が見られる。盤状集積墓は,四肢骨を四角形に組み上げて枠を作り,内部に断片骨を納め,四隅に頭蓋骨を割り置くのが特徴である。この葬制は三河地方の縄文時代晩期に集中して分布し,保美貝塚では3例(1号集積・B集積・2010集積)が確認されている。盤状集積は見られる地域・時代が限られており,集積を構成する骨は下肢骨の占める割合が高いことから意図的な再葬と考えられているが,どのような基準で埋葬対象者を選んだのか(特定の社会的地位,生業集団,あるいは血縁集団なのか)は未だ明らかでない。本研究では,埋葬人骨の血縁関係を明らかにするため,2010集積埋葬人骨のゲノム解析を実施した。側頭骨6点からDNAを抽出し,うち5点からゲノムデータを得た。性染色体にマッピングされるリード数比から性別を判定し,pairwise mismatch rateに基づく方法およびidentity-by-descentに基づく方法を用いて血縁関係を推定した。性別判定の結果,4個体が男性,1個体が女性と判定された。大腿骨の形態から判定されていた男性に偏った性比の傾向が側頭骨でも確認された。血縁解析では,親子(父・息子)1組,第二度近親(おじ・甥,祖父・孫,半兄弟など)1組,第三度近親(いとこなど)1組など,近い血縁関係が複数検出された。他の盤状集積例でも同様の傾向が見られるかさらなる分析が必要ではあるが,血縁集団を選択的に埋葬していた可能性が示唆された。また,一部の大腿骨ではカットマークが見つかっており,最初の埋葬の後比較的早い時期に人骨を掘り起こした可能性が指摘されている。被葬者の血縁関係を知る者(直近の子孫など)が盤状集積葬を行った可能性が考えられる。

縄文人型のFADS1ハプロタイプは狩猟採集民にみられる遺伝子発現量低下と相関する
鈴木飛翔(京都大・院理)、渡部裕介(東京大・院理)、今村公紀(金沢大・医学系)、太田博樹(東京大・院理)、井上詞貴(京都大・ASHBi)
A FADS1 haplotype derived from Jomon population is associated with the transcriptional reduction, characteristic of hunter-gatherers
Tsubasa SUZUKI, Yusuke WATANABE, Masanori IMAMURA, Hiroki OOTA, Fumitaka INOUE

縄文人の研究において、代謝機能といった生理的な特性を解明するため、縄文人由来ゲノムと個体表現型の関連が研究されてきた。その結果、縄文人由来ゲノム保有度が高BMIと正に相関することなどが知られる。しかし、縄文人由来ゲノムが特有の表現型をもたらす分子機序については全く不明だ。一方、ゲノム進化生物学の研究では、表現型の違いの多くが遺伝子発現制御の違いによることが示されている。そこで私たちは、縄文型ゲノムと渡来型ゲノムの間で異なる遺伝子発現について研究し、高解像度に縄文人の生理学的な形質へ迫ることを目的とした。まず、縄文人由来ゲノムを多く保有する現代日本人集団(先島諸島民)の全ゲノム情報を取得し、local ancestry inferenceに基づき、個体ごとに縄文型/渡来型のヘテロ接合ハプロタイプを検出した。これらの解析には42検体の縄文人と103検体の現代漢民族の全ゲノム情報を参照として活用した。さらに、先島諸島民の不死化リンパ球と人工多能性幹(iPS)細胞についてトランスクリプトーム解析を行った。その結果、FADS1遺伝子の転写量は不死化リンパ球とiPS細胞のどちらも、縄文型ハプロタイプで有意に発現量が低いことがわかった。さらに、FADS1の発現量を抑えるSNP(rs509360)のGアレルの頻度は、現代漢民族で35%である一方で、縄文人では42個体全てがGアリルをホモ接合で保有していた。このGアレルはイヌイットなど複数の狩猟採集民で正の自然選択の痕跡が検出されている。さらに、動物性の栄養素が多く摂取される場合にFADS1の発現量が低いことが有利となるとの報告もある。この結果は、縄文人の転写調節機構の多型機能が狩猟採集型の特性を持つ可能性を示唆する。本発表では、考古学的に明らかにされてきた縄文人の生活様式について、その背景にある生理的な特性を転写機能の観点から議論する。

高齢者における日常生活習慣が暑熱曝露時の体温調節反応に及ぼす影響
松井純平(九州大・芸術工)、松尾沙也加、三浦凜風、大神仁美(九州大・院芸術工)、樋口恒介(北海道大・院工学)、若林斉(北海道大・院工学)、高倉潤也(国立環境研究所社会システム領域)、岡和孝(国立環境研究所気候変動適応センター)、西村貴孝(九州大・院芸術工)
Effects of Daily Lifestyle Habits on Thermoregulatory Responses during Heat Exposure in Elderly
Jumpei MATSUI, Sayaka MATSUO, Rinka MIURA, Hitomi OGAMI, Kousuke HIGUCHI, Hitoshi WAKABAYASHI, Junya TAKAKURA, Kazutaka OKA, Takayuki NISHIMURA

高齢者は発汗機能や皮膚血流量といった体温調節機能の低下により,暑熱適応能が若年成人より低いとされる。さらに,日常生活習慣や生活環境の違いも暑熱適応能に影響を及ぼす可能性が指摘されている。これまで,運動や入浴を統制した暑熱適応能に関する研究は行われてきたが,日常生活習慣の差異が実際の暑熱適応能に及ぼす影響については十分に研究されていない。そこで,本研究では,高齢者の日常生活習慣と暑熱適応能との関連について検討した。60~74歳の高齢者44名(男性30名,女性14名)を対象とし,空調使用状況や日常生活習慣の聴取,および生理学的測定を行った。生理学的測定では,前室(28℃,50%RH)で7分間の座位安静の後,3分間で本室(36℃,50%RH)へ移動し,座位安静にて30分間の暑熱曝露を行った。その結果,暑熱曝露中の総発汗量と耳内温上昇量との間には有意な負の相関が認められ(r=-0.319,p<0.05),高齢者においても発汗反応は体温上昇を抑えるうえで有効であることが確認された。一方,運動頻度と総発汗量との間には,有意な関連は認められなかった(r=-0.205,p=0.212)。さらに,喫煙習慣の有無と発汗開始時における耳内温上昇量との関連を検証したところ,喫煙群は非喫煙群と比較して,発汗開始時により高い耳内温上昇を必要とする有意傾向が見られた(p=0.058)。若年成人において,日常的な運動習慣は発汗機能の向上に寄与すると知られているが,この結果から,高齢者においては発汗促進が期待される生活習慣であっても有効でない可能性が示唆された。また,若年成人を対象とした先行研究により,喫煙者は非喫煙者より低い体温上昇量で発汗が開始されることが報告されており,高齢者と若年成人では同様の日常生活習慣であっても異なる影響を与える可能性が示唆された。引き続き,特に高齢者の体温上昇に対する発汗閾値に関する要因や,高齢者の発汗機能維持に関する要因を検証し,報告する。

中等度の冷水負荷におけるCIVD反応とその個人差に関する研究
大神仁美(九州大・院芸術工)、松尾沙也加(九州大・院芸術工)、三浦凜風(九州大・院芸術工)、宮﨑ひなた(九州大・芸術工)、前田享史(九州大・院芸術工)、西村貴孝(九州大・院芸術工)
CIVD Responses and Individual Variability at Moderate Cold-Water Exposure
Hitomi OGAMI, Sayaka MATSUO, Rinka MIURA, Hinata MIYAZAKI, Takafumi MAEDA, Takayuki NISHIMURA

末梢の耐寒性はヒトの体温調節において重要な役割を果たしており,寒冷誘発性血管拡張反応(Cold-Induced Vasodilation: CIVD)もその一つである。これは,極度の寒冷刺激によって末梢に凍傷が引き起こされるのを防ぐための反応であり,寒冷刺激に対する血管収縮後に周期的に血管拡張が起こるのが特徴である。先行研究では寒冷地域住民や寒冷環境で働く者(漁師等)でCIVD反応が顕著であると報告されているが,現代のヒトにおける個人差については不明である。このような個人差について検討する場合,ヒトがこれまでにより多く経験してきた寒冷環境を考慮すると,中等度の冷水温度を用いるのが適当であると考えられる。本研究では,性差や体格といった個人的要因がCIVD反応に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,健康な若年男女31名を対象に冷水負荷試験を実施した。実験前に身体測定とInbodyによる体成分分析を行い,実験では10分の座位安静後,非利き手に対する冷水負荷(15℃)と回復観察を15分ずつ行った。冷水負荷中のCIVDが1回以上見られた者をCIVD群,見られなかった者をNon-CIVD群として群分けを行った。結果として,男女ともにCIVD群に比べNon-CIVD群の第2指・手背皮膚温は冷水負荷中に大きく低下し,その後の皮膚温の回復も緩やかであった。また,CIVDの発現頻度と第2指皮膚温の回復率について相関分析を行った結果,男性では負荷終了から5分後の回復率,女性では10分後の回復率にそれぞれ正の相関が見られた。しかしながら,BMI等の体格の指標については,CIVD群とNon-CIVD群の間に有意差は見られなかった。また,運動や入浴,朝食頻度といった生活習慣についても,2群の間に有意差が見られた項目はなかった。以上から,CIVD反応は末梢の耐寒性に寄与していると考えられるものの,その個人差については体格や生活習慣から十分に説明することができないため,今後,遺伝要因を含めた進化的意義の検討も必要であると考えられる。

ヒトにおける歩行姿勢による歩行と呼吸リズムの同期の変化
南円香、設樂哲弥、安富祐人、島倉華純、岡響輝、山本倫生、西村剛(大阪大学・人間科学部)
Changing rhythm of coupling between locomotion and respiration relies on posture
Madoka MINAMI, Tetsuya SHITARA, Yuto ADOMI, Kasumi SHIMAKURA, Hibiki OKA, Michio YAMAMOTO, Takeshi NISHIMURA

直立二足歩行を行うようになった人類では, 下肢は移動に特化し, 上肢は移動以外の機能も担うようになった。直立二足歩行への進化によって、歩行による呼吸リズムへの拘束をやわらげたと考えられる。ヒトでは、ランニング等の走行時には,呼吸と歩行のリズムがある一定の割合で同期する(LRC, locomotor-respiratory-coupling)。四足性哺乳類における走行でも、同様にLRCが観測されてきた。それらのLRCの発生の要因の一つとして,足の接地と体幹の屈曲により胸郭が圧縮されて呼気が誘発されることが考えられる。ヒトでも,走行時には同様のメカニズムが働いていると考えられているが, 快適速度での二足歩行条件でのLRCを観測する試みは少ない。また, ヒトでも四足歩行(四つ這い)はLRCが観測できる可能性があるが, 肩帯の形態学的特徴により, 前肢と胸郭の力学的相互作用の影響も考えられる。

本研究は, ヒト被験者を対象に, 快適速度での二足歩行と歩行条件で, LRCの程度を比較し, 歩行が与える呼吸への影響を明らかにする。被験者には, 胸部周長計測ベルトをとりつけて, その伸縮によって呼吸のリズムを計測した。併せて, 鼻孔に小型のサーミスター(温度センサー)をとりつけて, 温度の上下により呼吸リズムを計測した。同時に, 圧力センサーを用いて歩行リズムを計測した。二足歩行条件では片側の踵と拇指丘に, 四足条件では片側の膝と手掌にセンサーを取り付けて, それぞれ接地のタイミングを計測した。それらのデータを, 実験を記録した動画と照合しながら解析を行った。その結果, 四足歩行条件では, 手が接地するのに同期して吸気が起こり, かつ歩行リズムの正数倍で呼吸リズムが同期した。また, 二足歩行条件に比べて, 吸気にかかる時間は短かった。ヒトでは, 二足歩行より四足歩行で, 前肢と胸郭の力学的相互作用によりLRCが促進されると考えられる。

若年者における連続的な入浴介入が暑熱曝露時の生理反応に及ぼす影響
瀧亮太(九州大・院芸術工),曽我浩二(リンナイ株式会社・イノベーションセンター),伊藤貴士(リンナイ株式会社・イノベーションセンター),西村貴孝(九州大・院芸術工)
Effects of consecutive bathing intervention on physiological responses during heat exposure in young adults
Ryota TAKI, Koji SOGA, Takashi ITO, Takayuki NISHIMURA

日本では浴槽入浴が日常的に行われてきたが,近年の冷房環境の普及や,若年層におけるシャワー浴の増加に伴い,現代人の暑熱適応能の低下が懸念されている。しかし,日常生活における浴槽入浴習慣がこれらに与える影響については,十分に明らかでない。そこで本研究は,シャワー浴習慣を持つ若年者に対して浴槽入浴の介入を行い,暑熱曝露時における生理反応の変化を捉えることで,入浴習慣が暑熱適応能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

被験者は,健康な若年男性20名(22.42 ± 0.86歳)とし,浴槽に入浴する浴槽浴群10名,およびシャワーのみを浴びるシャワー浴群10名の2群に分類し,群間比較を行った。入浴介入は5日間の連続介入とし,湯温は40℃に設定した。浴槽浴群は20分間の全身浴,シャワー浴群は15分間のシャワー浴を実施した。介入の前後には暑熱曝露実験を行った。暑熱曝露実験では,60% RHの環境下において,室温を28℃から36℃まで60分間かけて昇温させた。体温や汗、血流等の生理値を取得した。

5日間の介入期間の前後における,暑熱曝露実験の測定結果の比較を以下に示す。浴槽浴群において、前腕血流量および発汗量は、ともに介入の主効果があり(p < 0.001)、介入後に増加した。一方、シャワー浴群において前腕発汗量は介入前後で有意な変化は認められず、血流量は介入の主効果があり(p=0.0065)、介入後に低下した。

本結果から日常の入浴習慣が、暑熱曝露時における発汗応答を選択的に増強し,実際の暑熱環境下での放熱機能を強化している可能性が示唆された。これはヒトの体温調節機能が可塑性を有し、柔軟に環境に適応することを意味する。日常的な浴槽入浴の習慣化は,熱中症リスクの低減や夏期の身体適応に有効なアプローチとなり得ることが考えられる。

交尾期のニホンザル雄における陰茎勃起の動態
油目直己(京都大・院理)
Penile erection dynamics in Japanese macaque males during the mating season
Naoki ABURAME

陰茎の勃起は雄の交尾を可能にする生理反応であり,通常は性的刺激と関連して生じると理解される。一方,霊長類において,睡眠時の勃起や薬物に誘発される勃起など,性的興奮とは必ずしも対応しない勃起も生じうる。ニホンザル(Macaca fuscata)でも,交尾以外の文脈で勃起が観察されることがあるが,野外で勃起状態を継続的に記録することは難しく,どのような行動文脈で生じるのかについての量的記述は限られている。本研究では,交尾期のニホンザルの雄を対象に,勃起が生じる文脈と勃起度合の変化を探索的に調べることを目的とした。調査は京都市の嵐山モンキーパークで行い,7歳以上の雄5個体を対象に個体追跡を実施した。15秒を1観察単位として,追跡個体の陰茎の勃起度合を3段階で記録した。また,発情雌への0.5m以内接近時およびグルーミング,マウンティング場面では,動画撮影を併用して,より詳細な勃起度合を記録した。その結果,発情雌と近接していない時には,勃起が確認できた269観察単位のうち,73単位は採食中,77単位は休息・移動中であり,その出現には個体差がみられた。グルーミング場面では,他個体からグルーミングを受けていた32事例のうち17事例で勃起が確認され,他個体をグルーミングしていた50事例のうち33事例でも勃起が確認された。交尾場面では,マウンティング・シリーズの開始時から常に完全な勃起がみられるわけではなく,シリーズが進むにつれて各マウンティング直前の勃起度合が高まる傾向がみられた。以上より,交尾場面の勃起は性的刺激と対応する一方で,交尾以外の文脈でも勃起は生じ,その出現は採食やグルーミングなど,特定の行動と結びついている可能性が示された。今後、これらの行動と勃起が結びつく要因を検討することで、ニホンザルにおける勃起の生起背景をより詳細に理解できると考えられる。

東南アジアの多様な生業形態を示す集団における比較トランスクリプトーム解析
木曽菜穂(東京大・院理)、吉田光希(東京大・院理)、中村友香(東京大・院理)、渡部裕介(東京大・院理)、小金渕佳江(東京大・院理)、木村亮介(琉球大・院医)、Danai Tiwawech(National Cancer Institute、 Bangkok)、Surin Pookajorn(Silpakorn University・Archaeology)、Wannapa Settheetham-Ishida(Khon Kaen University・Medicine)、石田貴文(東京大・院理)、太田博樹(東京大・院理)
Comparative Transcriptome Analysis in Southeast Asian Populations with Diverse Subsistence Strategies
Nao KISO, Koki YOSHIDA, Yuka NAKAMURA, Yusuke WATANABE, Kae KOGANEBUCHI, Ryousuke KIMURA, Danai Tiwawech, Surin Pookajorn, Wannapa Settheetham-Ishida, Takafumi, ISHIDA, Hiroki OOTA

生業形態の違いは,集団の移動性,居住様式,食性,病原体曝露を変化させ,免疫機能や疾患リスクに影響を与える可能性がある。近年,定住化や農耕化が感染症曝露と生殖・健康のトレードオフをもたらすこと,また東南アジア島嶼部では遺伝的祖先と環境差が免疫関連遺伝子の発現やDNAメチル化に反映されることが報告されている。本研究では,東南アジアにおいて異なる生業形態を示す集団を対象に,ゲノム情報とトランスクリプトーム情報を統合し,生業形態の違いに伴う免疫適応の検証を目的とした。まず,東南アジアの農耕民195個体と,狩猟採集を行う東ユーラシア基層集団24個体のゲノム情報を用い,免疫機能、血液組成、代謝機能に関連する表現型について,ゲノム網羅的関連解析(Genome-wide Association Study:GWAS)要約統計量にもとづく多遺伝子スコア(Polygenic Score:PGS)を算出し,生業形態間の表現型を定量的に評価した。次に,狩猟採集民ムラブリ,漁労民モーケン,農耕民カレンの3集団について,各集団6株ずつ,計18株のリンパ芽球様細胞株(Lymphoblastoid cell line:LCL)を用いた。なお、カレンはPGSを算出した農耕民集団に含まれるが,ムラブリとモーケンは本細胞実験においてのみ対象とした。これらのLCLのRNA-seq解析を行い,主成分分析(PCA)および発現変動遺伝子解析により,集団間で発現量の違いを評価した。その結果,ゲノム情報にもとづく解析では,農耕民は狩猟採集を行う集団に比べ,免疫細胞数(p < 0.01)や自己免疫疾患関連(p < 0.01)のPGSが有意に高かった。本発表では,このPGS解析に加え,LCLトランスクリプトーム解析から得られた集団間の遺伝子発現量の差を報告し,生業形態の違いが免疫機能の適応に及ぼす影響を考察する。

更新履歴

第2版 2026年9月2日

大会本部・クローク・企業ブース・大会受付の場所が、第1版から変わりました。

・大会本部を 3号館 113教室 に変更しました(全日程)。Primates 編集会議は 3号館 114教室 に移ります。
・クロークは、9月10日(木)=21 KOMCEE West 3階 K301、9月11日(金)以降=13号館 1312教室 に変更しました。
・企業ブースを 21 KOMCEE West B1階 K003(MMホール/ポスター会場内)に変更しました。
・大会受付は、9月10日(木)=21 KOMCEE West B1階 MMホール前、9月11日(金)以降=13号館 1階の休憩室前 です。
・9月11日(金)以降、21 KOMCEE West 3階 K301 を休憩室として開放します(簡単な打ち合わせ・会議にもお使いいただけます)。
・キャンパス案内図・13号館・21 KOMCEE West の会場図を、上記に合わせて描き直しました。大会受付の位置と、13号館から大会本部(3号館)への道すじも入れました。
・託児室に、当日の申込用紙・お迎えの確認(お預けになったご本人がお迎えください)・対象年齢(0歳〜12歳)を追記しました。
・クロークについて、「お荷物はその日のうちに必ずお受け取りください」を赤枠で目立つように掲載しました。日をまたいでのお預かりはできません。
・公開シンポジウムに後援(東京大学 進化認知科学研究センター/東京大学 心の多様性と適応の連携研究機構)を明記しました。
・インターネット接続に、eduroam をお使いになれない方向けの UTokyo-Guest を追記しました。
・「独自企画・特別企画にご参加の皆様へ」を新設しました。
・「参加者の皆様へ」「口頭発表者の方へ」「ポスター発表者の方へ」を、発表者にお送りしたご案内に合わせて更新しました。
・中高生ポスター HP-6 の発表者に、ふりがなを補記しました。
・奥付に「駒場会場担当」を追加しました。

奥付

大会イラスト

実行委員会

大会長
河村 正二 (東京大学、日本霊長類学会会長)
副大会長
海部 陽介 (東京大学、日本人類学会会長)
樋口 重和 (九州大学、日本生理人類学会会長)
実行委員長
香田 啓貴 (東京大学大学院総合文化研究科)
副実行委員長
太田 博樹 (東京大学大学院理学系研究科)
実行委員
井上 英治 (東邦大学理学部生物学科)
岡本 暁子 (早稲田大学政治経済学術院 政治経済学部)
齋藤 慈子 (上智大学総合人間科学部 心理学科)
徳山 奈帆子 (中央大学理工学部生命科学科)
田島 知之 (玉川大学リベラルアーツ学部)
関澤 麻伊沙 (防衛医科大学校 医学教育部医学科)
神澤 秀明 (国立科学博物館生命史研究部)
中山 一大 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
蔦谷 匠 (九州大学高等研究院)
河野 礼子 (慶應義塾大学)
荻原 直道 (東京大学大学院理学系研究科)
井原 泰雄 (東京大学大学院理学系研究科)
奈良 貴史 (新潟医療福祉大学)
石橋 圭太 (千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート)
江頭 優佳 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
西村 貴孝 (九州大学大学院芸術工学研究院)
富田 義人 (東京保健医療専門職大学)
山内 太郎 (北海道大学大学院保健科学研究院)
西村 悠貴 (労働安全衛生総合研究所)
北村 真吾 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
駒場会場担当
近藤 紀子 (東京大学大学院総合文化研究科)
幸本 紗奈 (東京大学大学院総合文化研究科)
鈴木 祐佳 (東京大学大学院総合文化研究科)
和田 玲央 (東京大学大学院総合文化研究科)
金 美玲 (東京大学大学院総合文化研究科)
松尾 花 (東京大学大学院総合文化研究科)
堤 智也 (東京大学大学院総合文化研究科)
奥村 翼 (東京大学教養学部)

※ 実行委員は大会Web(お問い合わせページ)の掲載順によります。駒場会場担当は、会場の設営・運営にあたった皆さんです。

大会名称第42回日本霊長類学会大会・第80回日本人類学会大会・第88回日本生理人類学会大会 連合大会
会期2026年9月10日(木)〜9月13日(日)
会場東京大学 駒場Iキャンパス
主催日本霊長類学会・日本人類学会・日本生理人類学会
表紙イラスト松尾 花(東京大学大学院総合文化研究科)
奥付イラスト福原 瑶子(総合研究大学院大学先端学術院統合進化科学コース)
編集責任連合大会実行委員会 プログラム担当
運営事務局株式会社クバプロ E-mail: psj-asn-jspa-2026@kuba.jp
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