開催趣旨

飛鳥・藤原の都城や平城京の発掘調査は、奈良文化財研究所の主たる業務の一つです。1960年代以来、半世紀以上にわたって継続して実施してきたそれらの発掘調査では、膨大な数の土器や瓦が出土しています。そのような資料に基づいて土器や瓦の特徴の変化を詳細に検討するとともに、土器や瓦に伴って出土した紀年銘木簡や初鋳年の明らかな銭貨、正史などの文献資料を参考にして、私たちはより精緻で信頼性の高い古代の土器や瓦のタイムスケールづくりに努めてきました。そして、今では、奈良文化財研究所の作った古代の年代を測るこれらの「ものさし」は、全国各地の古代の遺跡や遺構の年代を測る「ものさし」作りにも活用されています。

また、奈良文化財研究所は、このようにオーソドックスな考古学的方法で精度の高い年代を測る「ものさし」を作り上げる努力を続ける一方で、近年は、木の年輪の成長の程度がそれぞれの年の気候や環境に左右されることに着目した、年輪年代法という自然科学的な年代測定法をわが国で初めて導入し、従来の弥生時代の年代観を大きく書き換えるなどの画期的な成果を上げてきました。

今回の特別講演会では、奈良文化財研究所が古代の遺跡や遺物の年代を測る「ものさし」を作るために、土器・瓦・木簡などの研究が互いにどのように補完しあって研究を進めてきたのかを紹介します。また、年代を測る「ものさし」の目盛りの変遷を振り返るとともに、年代学的研究の限界や問題点、自然科学的な年代測定法との関係などについても考えます。

年代学的研究は、考古学の根幹をなす最も重要な研究課題です。今回の東京講演会では、この古くて新しい問題を、皆さんと一緒に原点に立ち返って考えてみることにしたいと思います。


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