宇宙究極の謎− 暗黒物質、暗黒エネルギー、暗黒時代 −

杉山直先生の講演に関する質問

Q1: 通常物質、暗黒物質もエネルギーと考えると暗黒エネルギーとあわせた総和について、過去〜現在〜未来にわたり、エネルギーの保存性は保たれているとお考えですか?
Q2: 今日の話題にはあがっていませんでしたが、ブラックホールとは何か知りたいです。
Q3: COBEやWMAPは137億年先の宇宙の晴れ上がり観測していると思いますが、一方、現在われわれの居るこの場所の宇宙空間も2.7Kの物質(?)で満たされ2.7Kの電波を放射していると考えて良いのでしょうか。または、両者は同一なのでしょうか。ベーシックな質問ですいません。
Q4: ダークエネルギーとは量子論でいう量子真空(ZPF)のエネルギーと関係があると考えられるのでしょうか?
Q5: 宇宙の始まり〜晴れ上がりの38万年、暗黒時代4億年の算出根拠を教えて下さい。
Q6: ビッグバンの前には、何が存在していたのですか。無から有は生じないと思います。
Q7: 超新星の明るさが一定であるということを、観測的にどのように担保するのでしょうか?(標準光源となるのは、おそらくその根拠があると思いますので、それを示していただければ)宜しくお願いします。
Q8: (1)空間の膨張により、素粒子の大きさは変わらない様ですが、何故でしょうか?(2)宇宙の初期は非常に小さい空間に物質がとじこめられていたと思いますが、ブラックホールにならなかったのは何故でしょうか?
Q9: (1)ハッブルの式(V=Hd)は、当時、相当無理な直線がひかれて出された様ですが、その後の観測で疑いもなく直線なのでしょうか?(2)上記の式の時(何故か理由は別として、「ゆらぎ」の仕方etcにより)、いくつかの性質の異なる点が混じっていた(いる)ということはないのでしょうか?
Q10: 加速しながら、膨張している宇宙にどのようなenergyが供給されるかについて、質量が生まれ続け、それが宇宙膨張をひっぱっているという仮説はないでしょうか?
Q11: 暗黒物質が回転運動を支えているとのことだが、銀河の形態によって、暗黒物質の量の多少が推測できるということか?(別紙の質問票に図表あり)
Q12: (a)、(b)で(b)こちらの方が加速しているというのは、どうしてか?加速度は数値を入れないと分からない。少なくとも速さ一定なら(a)の方が速い。(別紙の質問票に図表あり)
Q13: 宇宙の曲率がゼロとの説明がありましたが、(1)現在の宇宙は曲率ゼロで確定なのでしょうか。また、(2)少しのエネルギー密度の変化により曲率ゼロの宇宙から正、負の曲率宇宙へ変化してしまうことは今後あると考えられるのでしょうか。
Q14: 天の川銀河とアンドロメダ銀河が50億年後にぶつかるときには、太陽系や地球はどのようになりますか?また、太陽が燃えつきて、巨大赤星となるタイミングより先ですか。後ですか?
Q15: 暗黒エネルギー、暗黒物質、バリオンの割合が算出されていますが、どのようにして算出したか、詳しく教えて頂けないでしょうか。
Q16: 背景放射スペクトルが2.7Kのプランク放射と理解していますが、宇宙内の光子の断熱膨張の結果ですか。光子集団に熱平衡が成立している必要はないですか。宇宙を充たす有限速度の光子全体にそうした平衡が成り立つのは不思議に思えますが、いかにしてそれが成り立っているのでしょうか。仲介する有限質量の物質は要らないのですか。
Q17: 昔、光の媒体として「エーテル」という物質が考えられたことがあると聞きました。暗黒物質、暗黒エネルギーは、昔のエーテルのような運命をたどることはないのでしょうか。(本日はありがとうございました。)
Q18: 私の同級生にも宇宙物理学教室に進んだ友人が居ましたが様変わりは劇的ですね。宇宙が始めに揺らぎ物質が星や銀河と暗黒物質そして暗黒エネルギーに分かれたそうでうが、前2者が何故4.6%、23%に大きく差が出来たのですか?最初の空間は何だったのですか?是非辿りついて下さい。物質だったとすれば、1:1(1:1:1・・・)に分かれるのではと思いましたので…。理論的発展も必要ですが、観測機器と観測技術の革新的な発展が必要ですね。全ての科学で言えますが…56年前に20才だったら私も違う道を歩いたと思うことが多いこの頃です。原子力をやりましたが、宇宙は素晴らしいですね。夢を果たして下さい。
Q19: 宇宙空間の膨張はどのスケールレベルなのでしょうか?我々の銀河はアンドロメダ銀河と衝突するとの事ですが、数10万光年の範囲では、膨張(暗黒エネルギー)の影響より重力の作用の方が大きいということでしょうか?

Q1:
通常物質、暗黒物質もエネルギーと考えると暗黒エネルギーとあわせた総和について、過去〜現在〜未来にわたり、エネルギーの保存性は保たれているとお考えですか?

A1:
系全体のエネルギー+仕事は保存しています。物質について考えてみます。物質については、エネルギーの大部分は質量エネルギー(mc^2)の形をしています。膨張によって物質は薄まっていくために、体積当たりの質量、つまり密度は減少していきます。ただし、空間が拡がっていくために、宇宙全体は大きくなります。薄まる効果と空間が拡がる効果がちょうど釣り合っていて、物質のエネルギーは保存しています。一方、暗黒エネルギーは、宇宙全体に拡がっていて、膨張によってほとんど薄まらないと考えられています。膨張で空間の体積が拡がると、宇宙全体の暗黒エネルギー量は増加したように見えます。この増加は、実は、暗黒エネルギーが「負」の圧力を持って、宇宙の膨張に対して仕事をすることと釣り合っています。仕事をすると、通常はエネルギーが減少するのですが、負の圧力で仕事をするために、増加するのです。この仕事を含めれば全体は保存していることになります。
戸谷先生による回答はこちら

Q2:
今日の話題にはあがっていませんでしたが、ブラックホールとは何か知りたいです。

A2:
ブラックホールとは、あまりに大きな質量が小さな場所に詰め込まれているために、そこから光さえも抜け出せなくなった状態を指します。例えば、地球の表面から、重力を振り切って飛び出すためには、毎秒11kmの速度で飛び出す必要があります。地球がもっと重ければ、または、同じ重さでももっと小さければ、この速度はもっと大きくなります。ついに、その速度が毎秒30万kmという光の速度を超えると、何者も抜け出せなくなるのです。光の速度を超えることはできないのですから。そうなるためには、地球の重さであれば、半径8mm程度、つまりお豆程度の大きさに縮める必要があります。そんなことは一見不可能のようですが、大きな恒星がその一生を終えるときには、自分自身の重さで際限なくつぶれていって、ブラックホールになることが理論的に示されています。ブラックホールからは光さえ逃げ出せないのですから、直接見ることはできません。しかし、例えば、普通の恒星と連星となっているブラックホールの場合には、恒星からガスがブラックホールに吸い込まれていく途中で、X線を出すことから、間接的ではありますが、観測することができます。X線によって、すでに20個程のブラックホールが見つかっています。また、銀河系の中心には、太陽の300万倍ほどもある、とてつもなく重いブラックホールが一個見つかっています。このブラックホールの周りを他の恒星が回っている様子が詳しく調べられているのです。
吉田先生による回答はこちら

Q3:
COBEやWMAPは137億年先の宇宙の晴れ上がり観測していると思いますが、一方、現在われわれの居るこの場所の宇宙空間も2.7Kの物質(?)で満たされ2.7Kの電波を放射していると考えて良いのでしょうか。または、両者は同一なのでしょうか。ベーシックな質問ですいません。

A3:
晴れ上がりの時期に宇宙を満たしていたのは、絶対温度3000Kほどの赤から赤外線で輝く放射でした。その時期から137億年かけて、宇宙が膨張する間に、温度が下がり、現在の温度が2.725Kになったのです。現在の宇宙は、この2.725Kの放射(これは波長1mm程度の電波)によって満たされています。COBEやWMAPが直接観測しているのは、この2.725Kの電波です。

Q4:
ダークエネルギーとは量子論でいう量子真空(ZPF)のエネルギーと関係があると考えられるのでしょうか?

A4:
ダークエネルギーは量子論の真空のエネルギーだと考えられています。ただ、ZPFというのは、専門家が使う言葉とは違い疑似科学系の書物に見られるようですね。真空はエネルギーを持ち得ますが、それが生命などと関係はしません。
戸谷先生による回答はこちら

Q5:
宇宙の始まり〜晴れ上がりの38万年、暗黒時代4億年の算出根拠を教えて下さい。

A5:
晴れ上がりが38万年というのは、熱くて密度の高いビッグバンの状態で、陽子と電子が結びついて、水素原子になる過程を、理論的・数値的に計算することで、時期が決められるのです。暗黒時代は、最初の星が誕生するまでの時期です。星が誕生すれば、その星が出す紫外線によって水素が再び陽子と電子に分離して、宇宙が少しだけ不透明になります。この不透明の度合いを、宇宙マイクロ波背景放射にごくわずか含まれる、偏光(偏波)成分を測定することで、見積もります。偏光は、光が反射すると生じることがわかっています。ですので、宇宙マイクロ波背景放射という光がどれだけ電子によって反射されたか(これが不透明の度合いです)を、偏光の度合いによって知ることができるのです。WMAP衛星は、この偏光を測定することに成功しました。そこから、宇宙が星からの光によって10%程度不透明になっていることがわかりました。そのためには、4億年の時代には星が存在し、宇宙全体に電子を供給していなければいけないことがわかるのです。この時期が後になれば、不透明の度合いが下がりますし、もっと早い時代であれば、もっと不透明の度合いが高いはずなのです。

Q6:
ビッグバンの前には、何が存在していたのですか。無から有は生じないと思います。

A6:
宇宙の始まり、というのは、時間・空間が生まれた瞬間です。ですので、それ「以前」という時間を考えることには意味がないのかもしれません。ホーキング博士は、この宇宙の始まりを南極点に例えています。このアナロジーでは、北に向かって移動することを、時間の経過と考えます。南極点からは、どの方向に移動しても必ず北に向かいますので、時間は進行していきます。しかし、南極点より南、を考えることはできません。宇宙の始まりより前は考えられないのです。宇宙という状態が、泡のように突然生じたと考えるのが、無からの宇宙の創生という考え方です。ただし、現代科学では、未だ、宇宙の始まりをちゃんと解き明かすことはできていません。ホーキング博士の考えも、あくまでも一つの仮説にすぎません。例えば、現在の宇宙は、以前の宇宙が、他の宇宙と衝突することで始まった、と考える研究者もいるのです。

Q7:
超新星の明るさが一定であるということを、観測的にどのように担保するのでしょうか?(標準光源となるのは、おそらくその根拠があると思いますので、それを示していただければ)宜しくお願いします。

A7:
実は、すべての超新星(ここではIa型を考えます)が同じ明るさではありません。超新星はいったん明るく輝いたあとに、暗くなっていきますが、ゆっくりと暗くなっていくものは明るく、はやく暗くなっていくものは暗い、ということが明らかにされたのです。この関係は、銀河系の比較的近くで起きた超新星爆発を調べることで明らかになりました。近くなので、他の方法(例えば、ケフェウス型変光星の周期・光度関係)でそこまでの距離が求められています。その距離を用い、超新星の見かけの明るさと比較することで、超新星の本当の明るさがわかります。このような「距離」がわかっていて、本当の明るさがわかる超新星を丹念に調べた結果、暗くなるはやさと、本当の明るさの関係が明らかになったのです。

Q8:
(1)空間の膨張により、素粒子の大きさは変わらない様ですが、何故でしょうか?
(2)宇宙の初期は非常に小さい空間に物質がとじこめられていたと思いますが、ブラックホールにならなかったのは何故でしょうか?

A8:
(1)空間の膨張は、非常に弱い力しか、近くの距離では及ぼしません。距離が大きくなると、どんどんと強くなる力なのです。素粒子や、原子、私たちの体、地球、などは、電気的な力などが、膨張の力よりもはるかに強く、膨張を感じません。銀河同士の距離になってはじめて、膨張の効果が現れてくるのです。
(2)ブラックホールになるためには、中心があり、外側が真空の空間である必要があります。宇宙には、中心もなく、「外側」があるわけでもないので、ブラックホールにはならないのです。しかし、誤解を恐れずに言えば、ある意味で、私たちの宇宙は、ブラックホールの中身ともいえます。宇宙の始まりでも、現在であっても、光が到達できる限界(現在では137億光年)が、ちょうど宇宙の密度で決まるブラックホールの半径になっています。

Q9:
(1)ハッブルの式(V=Hd)は、当時、相当無理な直線がひかれて出された様ですが、その後の観測で疑いもなく直線なのでしょうか?
(2)上記の式の時(何故か理由は別として、「ゆらぎ」の仕方etcにより)、いくつかの性質の異なる点が混じっていた(いる)ということはないのでしょうか?

A9:
(1)その後の観測が精密に行われ、とくにハッブルの名前を冠したハッブル宇宙望遠鏡が、遠方の銀河までの距離をケフェウス型変光星(周期・光度関係によって最も正確に距離が決められる)によって決めたことによって、直線であることについては疑いがなくなっています。
(2)膨張の速度は距離が離れれば大きくなります。近くの銀河だけを用いていた、ハッブルの頃には、各々の銀河が膨張以外に持っている速度(銀河同士が重力で引き合うことによって生じる)が混じっていて、うまく直線にはのらなかったのです。例えば、一番近い大きな銀河であるアンドロメダ銀河は、遠ざかるどころか、私たちに近づいてきているのです。また、ハッブルの時代には、まだ、距離を決める変光星をうまく分類できず、異なったものも混じっていて、それが問題を起こしたということもあったようです。

Q10:
加速しながら、膨張している宇宙にどのようなenergyが供給されるかについて、質量が生まれ続け、それが宇宙膨張をひっぱっているという仮説はないでしょうか?

A10:
質量ではないのですが、真空のエネルギーが供給され続けている、と考えています。これが暗黒エネルギーの正体だと思われています。

Q11:
暗黒物質が回転運動を支えているとのことだが、銀河の形態によって、暗黒物質の量の多少が推測できるということか?(別紙の質問票に図表あり)

A11:
回転の速度によって、暗黒物質の量の多少は推定できます。どうも大きな銀河ほど、含まれている暗黒物質の割合が通常の物質に対して大きいということがわかっています。銀河の形態が違うもの、例えば、楕円銀河では、回転運動はみられません。その代わりに、銀河の中の星のランダムな運動を測定することができます。ランダムな運動の速度が全体として大きいほどそこに含まれる質量が大きい、ということから、暗黒物質の量を推定できるのです。

Q12:
(a)、(b)で(b)こちらの方が加速しているというのは、どうしてか?加速度は数値を入れないと分からない。少なくとも速さ一定なら(a)の方が速い。(別紙の質問票に図表あり)

A12:
現在の宇宙の膨張速度は、ハッブル定数として、観測的に決定されています。そのため、過去にさかのぼると、加速膨張は現在よりも膨張が遅く(ゆっくり)、減速膨張は現在よりも膨張が速いことになります。車が40kmで走っているときに、加速してその速度になったのだとすると、少し前は、40kmよりは遅かったはずなのです。ですので、お書きになられた図(b)の方が過去からゆっくり膨張してきているのですから、加速膨張、ということになるのです。

Q13:
宇宙の曲率がゼロとの説明がありましたが、(1)現在の宇宙は曲率ゼロで確定なのでしょうか。また、(2)少しのエネルギー密度の変化により曲率ゼロの宇宙から正、負の曲率宇宙へ変化してしまうことは今後あると考えられるのでしょうか。

A13:
(1)宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎのパターンを測定することで、曲率がゼロか、ゼロに近い、ということは明らかになっています。曲率が正であれば、空間が凸レンズとして働き、パターンが拡大されて見えます。また負であれば、凹レンズとして働きパターンは縮小するのです。この温度揺らぎパターンについて、WMAP衛星の観測結果と理論計算を比較したところ、現在の宇宙の曲率は0か0に近いことがわかったのです。ただし、ゼロに近くても、ごくわずか正、ないし、負である可能性は残されています。
(2)空間の曲率の正・負は、宇宙の進化の途中で入れ替わることはありません。エネルギー密度が増加すると、一見空間の曲率を正の方向に強める効果があるように思われますが、膨張の速度を速める効果として現れるだけなのです。空間が膨張すると、曲率は、正であれ、負であれ、その値(曲がり具合)は小さくなりますが、入れ替わりはしないのです。

Q14:
天の川銀河とアンドロメダ銀河が50億年後にぶつかるときには、太陽系や地球はどのようになりますか?また、太陽が燃えつきて、巨大赤星となるタイミングより先ですか。後ですか?

A14:
天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突しても、星同士がぶつかる確率は非常に小さいです。つまり、太陽や地球が他の星に直接ぶつかることはないでしょう。たまたま、近くを大きな星が通過すると、軌道が乱されることはあるかもしれませんが。50億年後といのは、ちょうど太陽が巨星になり膨らむころと同じと考えられています。少しこの数字には不確定性もあり、70億年後と考えている研究者もいます。

Q15:
暗黒エネルギー、暗黒物質、バリオンの割合が算出されていますが、どのようにして算出したか、詳しく教えて頂けないでしょうか。

A15:
宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの空間パターンを詳細に調べることでこれらの割合は得られます。温度揺らぎは、宇宙が38万年の時代の音波です。というのは、この時代までは、宇宙空間が、光・陽子・電子が混じり合ったプラズマ状態になっていたからです。プラズマは空気のような圧縮できる流体です。圧縮性の流体に生じる密度の粗密の伝播こそ、音なのです。この音は、その圧縮性流体の成分(陽子、つまりバリオンの量)によって音程を変えます。ちょうどヘリウム入りの空気で声が変わるのと同じです。また、宇宙の大きさによっても音程がかわります。ちょうど楽器と同じです。この大きさは、宇宙の物質の量によって決まるものです。このようにして、物質の量(暗黒物質の量)、バリオンの量が、温度揺らぎの空間パターンと関係してくるのです。また、空間の曲がり具合(曲率)によっても、空間パターンが拡大したり縮小したりします。空間の曲がり、暗黒物質、バリオンの量がわかると、暗黒エネルギーの量も決定できます。暗黒物質+バリオン+暗黒エネルギーが、空間の曲がりを決めるからです。もしこれ以上の詳しい説明が必要でしたら、拙著、「ビッグバンと膨張宇宙の物理(岩波書店)」、ないしは、「宇宙 その始まりから終わりへ」を参照ください。

Q16:
背景放射スペクトルが2.7Kのプランク放射と理解していますが、宇宙内の光子の断熱膨張の結果ですか。光子集団に熱平衡が成立している必要はないですか。宇宙を充たす有限速度の光子全体にそうした平衡が成り立つのは不思議に思えますが、いかにしてそれが成り立っているのでしょうか。仲介する有限質量の物質は要らないのですか。

A16:
宇宙初期には、熱平衡が成立していました。この平衡は、光子と電子との間に絶えず起こる散乱によって成り立っていたのです。光子、電子の間でエネルギーをやり取りする結果です。光子だけでは、熱平衡にはなれません。やがで、宇宙が膨張し、冷えてくると、光子や電子の数が減り、反応が起きにくくなります。宇宙の温度が1千万度程度まで下がったときに、熱平衡はもはや成り立たなくなります。この後は、熱力学的な温度、というよりは、空間の膨張に伴って、光子が波長を伸ばす結果、かつて成立していた熱平衡が実現していたプランク放射を「凍結」したまま、長い波長の方に分布がずれていきます。その形はまさに、低温のプランク分布なのです。現在の宇宙では熱平衡は成り立っていませんが、かつての熱平衡の名残として、プランク分布が凍結されているのです。

Q17:
昔、光の媒体として「エーテル」という物質が考えられたことがあると聞きました。暗黒物質、暗黒エネルギーは、昔のエーテルのような運命をたどることはないのでしょうか。(本日はありがとうございました。)

A17:
可能性はありうると思います。特に暗黒エネルギーについては、私たちの考えている理論の方に限界があってこのような不思議なものを考えなければいけなくて、もっとよりよい宇宙を説明する理論が出来上がれば、その中に組み込まれるべきもの、と考えている研究者は多いです。シカゴ大学の教授は、「天動説で天体の運動を説明するために周転円というものを考えていた。しかし、地動説ではそのようなものは必要がなくなった。暗黒エネルギーもそのようなものであるかもしれない。」と言っています。暗黒物質の方は、見えていない物質、というだけですから、これまで見つかっていない新しい粒子等が大量にあればよいのですから、エーテルや周転円ほどの「ごまかし」ではないと考えています。ただ、近い将来の加速器実験などで見つかってこなければ、謎は深まることは確かです。

Q18:
私の同級生にも宇宙物理学教室に進んだ友人が居ましたが様変わりは劇的ですね。宇宙が始めに揺らぎ物質が星や銀河と暗黒物質そして暗黒エネルギーに分かれたそうでうが、前2者が何故4.6%、23%に大きく差が出来たのですか?最初の空間は何だったのですか?是非辿りついて下さい。物質だったとすれば、1:1(1:1:1・・・)に分かれるのではと思いましたので…。理論的発展も必要ですが、観測機器と観測技術の革新的な発展が必要ですね。全ての科学で言えますが…56年前に20才だったら私も違う道を歩いたと思うことが多いこの頃です。原子力をやりましたが、宇宙は素晴らしいですね。夢を果たして下さい。

A18:
激励、ありがとうございます。宇宙の最初に物質などが同じ量、出来上がったと思っていた、とのことですが、どのように物質が生成されるのか、その過程によって、生成量には差ができます。例えば、陽子(バリオン)、電子、光は、宇宙の始めには互いに繰り返し衝突をすることで、強く結びついていました。これらの数はほとんど同じであったと考えられます。ところが、現在は、光(光子)の数(宇宙マイクロ波背景放射)は、陽子や電子の数の10億倍ほどもあります。これは、宇宙初期には、陽子や電子とほぼ同数あった反粒子、つまり反陽子や陽電子といったものが、宇宙が膨張するにつれて、陽子や電子と衝突し、互いに消滅していった結果、反粒子はすべて消えて、陽子や電子も10億個に1だけしか残らなかったためと考えられています。粒子と反粒子をつくる反応の対称性が破れているために、わずかに数に差があり、粒子だけが残ったというわけです。一方、暗黒物質は、粒子であるとすれば、ビッグバンの始まりに作られます。そのときの温度、また暗黒物質粒子の質量などによって、その存在量は決定されます。存在量がバリオンの5倍ほどある、というのはある種、偶然であり、10倍でも0.1倍であった可能性もあると考えられます。暗黒エネルギーがなぜ、これだけたくさん現在の宇宙にあるのかは、今のところ全くわかっていません。

Q19:
宇宙空間の膨張はどのスケールレベルなのでしょうか?我々の銀河はアンドロメダ銀河と衝突するとの事ですが、数10万光年の範囲では、膨張(暗黒エネルギー)の影響より重力の作用の方が大きいということでしょうか?

A19:
膨張を「力」によって引き起こされると考えると、この力は、距離に比例して大きくなっていきます。距離が大きくなると、どんどんと大きくなっていくのです。例えば私たちの体は膨張では大きくなりません。1mぐらいのスケールでは、膨張をさせる力は、体を結びつけている電気的な力に比べてはるかに小さいのです。太陽系の軌道も大きくはなりません。銀河系も、自身の重力に比べて、膨張によって引き延ばされる力は小さいので、膨張で大きくはなりません。膨張させる力は、銀河同士ぐらいの距離になると、はじめて効くようになるのです。アンドロメダ銀河と銀河系は、互いにとても重く、また距離も比較的近い(250万光年)ため、互いの間に働く重力が空間を膨張させる力に打ち勝って、近づいているのです。およそ1000万光年よりも離れると、膨張が支配するようになります。